---Re:1---
私には双子のお兄ちゃんがいた。
いつも一緒だった。
小さい頃は二人でお庭や公園、そこかしこで走り回って遊んでた。
というか男の子のお兄ちゃんより女の子の私の方がお転婆で、そんな私をいつもママが困った顔して見てるのがまた楽しかった。
お兄ちゃんはそんな私を抑える役目。
なんでも一生懸命やってくれるお兄ちゃんを見て、うれしくて半ばわざとやってたところもある。みとめる。
こんな意地悪なとこがあった私だけど、やさしいお兄ちゃんはいつでも、どんな時でも私の味方。
だから一緒じゃない……、離れ離れになるだなんて想像もしてなかった。
幸せ。
とっても幸せだった。
でも――、そんなのは幻だった。
儚い夢だったの……。
夢は少しづつ崩れていった。
きっかけは私の病気。
原因不明の心臓の病だった。
この病気のせいで私は、街のおっきな病院に入院することになってしまった。いつ退院できるかもわからない……。
生まれたからずっと一緒だったお兄ちゃんとも離れ離れになってしまった。
私は拗ねて、ふてくされて、ママと一緒にお見舞いに来てくれるお兄ちゃんに八つ当たりしてしまうこともあったけど、それでもお兄ちゃんはそんな私のこと怒ることもせず、いつも笑顔を私に見せてくれてた。
中学に入る歳になっても私の病気は全然良くならなかった。
それどころか悪化してきているような気がして、とても怖かった。
お兄ちゃんに泣きごと言って甘えまくるなんて、しょっちゅうだった。
中学の帰りには毎日私に会いに来てくれて、そんな私の気が少しでもまぎれるよう……、いろんなお話とかしてくれた。ママたちは毎日は来ることが出来ないから、私にとってお兄ちゃんが全てといってもいいくらいだった。
そもそも小学生の途中からずっと入院してるからお友だちと呼べる子もほとんどいなかったし、中学生になって(学校に行ったかとは一度もないけど)、ただでさえ少なかったお友だちとは、更に疎遠になって、本当に私にはお兄ちゃんしかいない。
お兄ちゃんにべったりだった私。ブラコンっていってもいい。みとめる。
だのに。
ある日唐突、お兄ちゃんは居なくなった。
居なくなってしまった――。
あの日。
いつも来る時間になっても現れなかったお兄ちゃん。
学校が忙しいのかな?って思った。
ママが来ても――、そこにお兄ちゃんの姿は無かった。
表情が抜けて、真っ青になったお顔を私に向け……、あの言葉を口から……。
いや!
聞きたくない! 聞きたくないよっ!
私の心が悲鳴をあげた――。
白い棺の中でやさしいお顔をして目を閉じてるお兄ちゃん。
二卵性だけどほんと、私とそっくりな……、女の子の私と間違われることも多かったそのお顔。
冷たくなって……二度と再び、動き出すことはないんだ――。
違うっ、違うよ!
お兄ちゃんが居る場所はそこじゃない!
私がどんなに叫んだって、泣いたって……、もうお兄ちゃんは帰って来ない。
この世の中に、神も仏もいないんだって思う……。
なんでお兄ちゃんを奪っちゃうの。心臓だけじゃものたりないの?
世の中を恨んでしまいそうになった。
けど、お兄ちゃんはそんな私を望んでなんかいないよね? わかってる。
けど!
あまりにこの世は私に冷たい。
優しいママの声ですら……、どこか遠くから聞こえて来る。
こんな世界知らない。
私はひとりぽっちだ。
私はこの日を境に人と話すことさえ億劫になり……、
いつしか言葉すら出なくなってしまった――。
満月の夜だった。
あの日を境に……、心にぽっかりと穴が開いてしまった私は、病院のベッドでほとんど寝たきりの生活を送っていた。
もうどうでもよくなっていたんだと思う。
にもかかわらず、その日の夜はなぜか気持ちがざわめいた。
いつもならとっくに寝てる時間。
でもなぜか全然眠くならない。
私は病室の窓を開け、秋の夜空を見つめる。
肌寒さに少し体がふるえる。
そこにはぽっかりと浮かぶ、きれいな満月の姿――。
私はしばしその姿に目を奪われ、
そして――、
忘れていた言葉を思い出す……
一生忘れることはないだろう光景、忘れられない不思議な出来事……を、
目の当たりにした――。
ちょっと鬱っぽいですが、次回からはたぶんそんなことも……
読んでいただきありがとうござます!




