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運命の赤い糸を信じる彼女曰く  作者: 青空のら


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第5話 可愛い猫にマーキングされている!?

「うふふ」


 僕の左隣に座ってから、まだビールの一本も空けてもいないのに、咲良はすでに出来上がっていた。咲良は僕の身体にしなだれかかり頬をこすり付け、一人でニコニコして上機嫌だ。


「えへへ、駿河だ」


 不満を口にしながらしかめっ面で愚痴をこぼす姿に比べれば断然こちらがいい。

 しかし、猫だと思っていたら犬のように懐かれて戸惑っている。それが僕の正直な気持ち。


 普段、僕の前では見せることのない咲良の言動に改めてお酒は怖いと実感させられた。咲良には酔いが覚めたら外で酒を飲まないように釘を刺しておこう。

 しかし、これだけ豹変するなら『酒に飲まれた事はない』という咲良の言葉は事実なのかもしれない。


「何難しい顔をしてるのよ? 私といて楽しくないの? 私は楽しいわよ、えへへ」

「そりゃあ、僕だって楽しいよ。咲良がこんなすぐ隣にいて、こんなに素敵な笑顔が見れて最高だ」

「そうでしょう、そうでしょう、えへへ。正直な子にはご褒美をあげましょう。いい子いい子」


 咲良は一度身体を起こすと両腕を伸ばし、僕の頭の後ろに回すとそのまま自分の方に抱き寄せ、僕の頭を撫でた。

 むにゅむにゅした感触の柔らかな物体に、鼻まで圧迫され、幸福感に包まれたものの、まともに息ができず、僕は興奮しているわけでもないのに鼻息が荒くなっていた。


 さらに咲良はそこから僕の髪に頬をすり付けてくる。柔らかな感触のサンドウィッチ状態。酒臭くさえなければここが天国だ。


「うふふ、捕まえた。逃がさないからね。覚悟しておいて」

「ふごぶご。と、と、取りあえず呼吸させて。そんなに強く抱きつかれると息できないよ」

「あら、そうかしら? 本当に嫌ならもっと本気であばれてるでしょう? でも、しかたないから、少しは力加減を緩めてあげる」

「そりゃどうも、ありがとう。ふう。ところでいつまで撫でてるつもり?」

「あら、逃げるつもり? 私、ちゃんと逃さないって言ったわよ。駿河も観念してあきらめなさい」

 

 せっかくの状況、素直に甘える気は満々。小学校六年生の時に生意気にも多感で思春期、さらに受験生の咲良に告白して玉砕して以来、年下で甘ったれな存在から卒業しようと足掻いてきた。

 振り返るとあの咲良に抱いていた気持ちは好意ではなくて憧れだったのかもしれないと考えるようになったのは、一緒の家で暮らすようになり素の咲良と接するようになったからだろうか?


「そう言う意味じゃなくて、疲れないかい? 疲れたら交代で今度は僕が撫でてあげるよ」

「いいの! したくてしてるんだから、素直に撫でられてなさい」


 気づかうふりをして咲良にさわる作戦はあっさりと却下されてしまった。これだけガードが固いなら、お持ち帰りなんてされてない?

 お酒も入っていないのに少し不謹慎な考えが頭をよぎる。仕方ない、僕も男だ。


「それなら、もう少し楽な体勢に変えてもらっても良いかな? このままだと気を抜く咲良を押し倒しちゃいそうだよ」


 前かがみで重心を咲良の方に持って行かれている為に油断すると前に倒れそうになっているのは事実だった。


「ふふふ。私を押し倒しちゃうの? 嬉しい事言ってくれるのね。そんな度胸もないくせに。しょうがないわね、はいどうぞ!」


 咲良は僕を拘束していた手を放すと、今度は自分の膝の上をポンポンと二度叩いた。


「何をぼーっとしているの? 早くゴロンしちゃいなさい。膝枕してあげるわ」


 気恥ずかしさで少し躊躇していると、咲良が僕の分だと持ってきていた2本目のビールを飲みだしたので、慌てて僕は咲良の膝に頭を乗せた。

 咲良は間が持たないと酒に逃げる癖があるようだ。要注意。


「ふふふ、素直が一番よ。小さい頃のように耳掃除してあげようか?」

「また、ずいぶんと懐かしい事を言い出すんだね。でも出来ればお酒を飲んでない時にお願いしたいかな。あの時も結構痛かったんだ。酔っ払ってる状態で力加減を間違われると、ね」

「まあ、失礼ね。ぐび、ぐび。ぷふぁあ。うぃくっ。いいからジッとしていなさい。耳かき、どこに置いたかしら?」


 どうやら僕は受け答えを間違えたようだ。咲良は残っていたビールを一気に飲み干すとゆっくりと僕の頭を持ち上げ、膝を抜くと立ち上がり自分の部屋に戻って行った。



「お待たせ。さあさあ、私の耳かきの腕前を披露しちゃうからね」


 5分後に戻ってきた咲良の顔色は先ほどよりも赤くなっていた。お酒を飲んですぐに動き回った為に酔いが回ったようだ。


「耳かきは後でもできるから取り敢えずここで横になって休んだらどう? 顔色悪いよ」

「心配してくれるなんて優しい。でも大丈夫よ。はい、ここに寝転んで。さあさあ、早くして」


 僕の心配をよそに床に腰を下ろした咲良はひざを叩いて僕の頭を催促する。酔っ払った咲良がいつも以上に頑固になる事を学んでいる僕は素直に咲良のひざの上に頭を乗せた。


「あら、変ね? おかしいわ」

「どうかしたの?」

「駿河の耳の穴が見つからないのよ。どこに隠したの?」


 通常なら聞くことのない不思議な発言が咲良の口から漏れた。あきらかに酔っ払いの発言だ。


「隠すわけないだろ。咲良が飲み過ぎただけだよ。耳の穴が見つからないのなら仕方ないから、耳かきは今度にしよう。楽しみに待ってるよ」

「絶対に耳かきするの! うっ、気持ち悪い――」


 僕の頭に添えられていた手が咲良の口元に当てられた。そして、不穏な咲良の言葉と共に僕はすっぱい匂いのする生温かいものに頭から包まれた。

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