ナザレ ‐ ウィキパディア
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ナザレの災厄
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何もない空から老若男女の裸の死体が落ちて来る「死体の雨」の異常現象。2019年8月、北大西洋上空の巨大な発光現象のあと、目撃現場の真東・イベリア半島のナザレの街に身元不明の死体7,069体が落下したのがはじまり。世界各国で繰り返し発生し、2020年7月現在までに約20万体が地上に落ちた。
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目次
1.概要
2.前兆
3.ナザレ事件
4.呼称
5.異人
6.災厄の特徴
6.1 前兆現象
6.2 死者の雨
6.3 地上の被害
6.4 有名な事例
7.新しい動き
7.1 終末論
7.1.1冬時計号事件
7.2 亜人
7.3 月
7.4 月の獣
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概要
ナザレの災厄(英名:ナザレ・フェノメノン) は、2019年8月から起こりはじめた異常現象で、世界各地で一度に数百~数千、時として二万体もの身元不明の裸の死体が地上へ落下した。魚の雨、カエルの雨といった怪現象と異なり命あるものが落下したことはなく、謎の死体の体格や容貌、年齢性別はさまざま。「亜人」と総称される異形異種も確認されている。
ほとんどの死体が地上激突で損壊し、凄惨なすがたで現場に散乱することから物理的損害以上に社会に動揺が広がった。パニックを起こした住民が集団脱出をはじめたり、風評被害で地元社会が危機に陥ることも珍しくない。イタリア(バチカン市国)を襲った事例では、ローマ・カソリックの中心地に15,000体もの死体が落下して世界に衝撃が走った。2020年7月現在までの約1年で、死体の雨は世界各国で21回発生し確認された死体は19万7,522体に達した。異常現象が治まる気配は無く、国際的な「ナザレの災厄」の専門調査組織が発足した後も、謎の解明につながる手がかりは見つかっていない。
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前兆
2019年8月の深夜、北大西洋のアゾレス諸島の北方の海の上空で巨大な渦巻く光が起こり、およそ12分間に渡って輝きつづけた。目撃者は複数の民間航空機と貨物船の乗組員たちで、夜空が一瞬で変転して気がつくと白い光の渦が視界に広がっていたと述べた(ただしレーダー等の機器には映らず、何も記録に残らなかった)。また、ある部分では、目撃者たちの証言に大きなズレがあり「渦巻く光」を核爆発の閃光や太陽に例えるものもいれば、薄い霧のようで星明かりが透けて見えたというものもいた。禍々しさを感じ、悪寒が止まらなかったという証人も複数おり、赤い文字列や魔法陣が何重にも見えたと訴える者さえいた。
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ナザレ事件
死体の大量落下現象は、ヨーロッパのイベリア半島のポルトガルで世界ではじめて発生した。現場の「ナザレ」は大西洋に面した海辺のリゾートの街で、その後アジア諸国などで中東のナザレとしばしば混同された。
大西洋上の怪光現象の終息から6時間後、ナザレの晴れた朝空から全裸の死体が落下し始めた。全裸の死体は落下時、市街地の路面や建物の屋根に激しく叩きつけられた。謎の死体は断続的におよそ12分間に渡って街の5kmの範囲の陸地に落下し、その数は7,069体にも達した。この時、雨や雹、ほかの動植物や器物の落下はなかったとされる。
さいわい人通りや車両の行き来が比較的少ない時間帯で、直撃した市民や観光客はいなかったが、死体は地上への激突で無残に損傷した上、建物の屋根や道路、庭先などで人目にさらされたため、ナザレ市街全域がパニック状態となった。交通事故や小火、転倒転落など大小さまざまな事故が短時間に一万件以上発生し、混乱した市民や観光客が市を脱出しようとした為、主要な道路は大渋滞に陥った。ポルトガル政府は、前代未聞の異常事態に対して陸軍と国家憲兵隊をナザレへ急派し、近隣の警察、消防を素早く動員した。この時の対応は、およそ現実とは思えない異常現象に臨んできわめて迅速で効果的であったと後に評価され、多くの被災地で避難誘導や治安回復、復旧の手本にされた。
その後の調査で、謎の落下死体に身元を知る手がかりは一切見つからなかった。カルト教団の集団自殺などの事件性が一時は疑われたが、事件当時ナザレ上空に航空機等が存在しなかったことから事件はオカルトじみた様相を見せた。調査が進展しない中、最初の事件から僅か半月後、ポルトガル領アゾレス諸島北方の海域で再び怪光現象が起こった。しかし、この時ナザレに死体は落下せず、遠く離れたアメリカ合衆国の都市デンバーの中心地で第二の死者の雨が発生。異変はその後、世界各地に広がった。
なお、初めの頃、アゾレス諸島の怪光現象と死者の雨との関係には疑いの目が向けられ、目撃された怪光は雷などの自然現象や集団幻覚とする否定的意見が有力だった。理由は、怪光現象が写真やレーダーの記録に残らず、ふたつを関連づける具体的証拠や説明がないことで、『怪光が目撃された6時間後に死者がふる』という前後関係は、十件近い事例が積み重なってようやく多くの人に認められた。
議論が長引いた結果、およそ三ヶ月間、アゾレス諸島の問題の海域はポルトガル軍と一部の民間人が限られた範囲を監視した。のちに観測の重要性が認められて米英仏露などから航空機や船舶が派遣されるまで、24時間体制の海域への艦艇の常駐や、怪光現象に対する全方位からの隙のない観測調査(遺留物の捜索含む)は存在せず、通称・空白期間に問題の海域は民間のヨットや漁船、ジャーナリストのチャーター機が自由に行き来できた。世界を驚かせたローマの事件(後述)も空白時期の出来事で、落下した死体数も社会的影響の大きさも五指に入る大事件だったが、怪光現象の観測は折からの悪天候のために行われず、発生海域に近い船上から明滅を遠望するにとどまった。 このため、空白期間に重大な異変が見逃されたと噂され、漂流者が当該海域で漁船に拾われてリスボン港で姿を消した。あるいは、怪光の中から「光るヒトガタ」があらわれて飛び去った、など真偽不明の情報が流れている。
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呼称
死体の雨の怪現象は世界各地で繰り返し発生した。ポルトガルのナザレの事件は、ファーストケースとしてたびたび取り上げられることとなり、やがて国際的に異常現象そのものを指す言葉として「ナザレの災厄」「ナザレ・フェノメノン」の呼称が広まった。
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異人(フランス名:エトランゼ)
空から落ちてくる謎の死体の呼称。2020年7月現在までの約一年間で世界11ヶ国、21箇所に落下した死体の数は、確認出来るものだけで19万7,522体に達した。海へ流亡したもの、火災や列車の轢断などで判別不能になったもの、少数だが人間や動物に持ち去られた死体もあり、確認もれは約3,000~6,000体に上るとみられている。異人と呼ばれる死体の総数は小国家の人口規模に達して今後さらに増えると予想されるが、彼らの生まれや育ち、死因、落下現場上空へ運ばれた経緯など重要な事実は何もわかっていない。落下した異人の共通点は裸であることで、年齢性別、栄養状態、容貌はさまざま。「漆黒の肌の北欧人」「銀髪のアラブ人」と形容されるような人々も百人千人単位で見つかった。亜人(後述)が確認されたこともあり、かれらの人種的な分類は棚上げにされている。
死体は衣類、はき物、装身具を身につけず髪をゆうものもなかった。消化器官は空で、生前の怪我や内臓疾患は確認されなかった。非常に特徴的な点はうすく目を開いた穏やかな表情をしている事で、かすかに笑みをうかべている者さえいて、例外の無い穏やかな表情は見る者にかえって異様な印象を与えた。
ポルトガル政府は、ナザレの事件において異人一人一人の発見状況を記録し、可能な限り検死解剖して埋葬しようとしたが 、死体はあまりに多く、労力と費用の負担、専門家や器材・施設の不足が問題化した。夏の気候の下、損傷した死体の腐敗は早く、伝染病の発生が危惧される事態となったため、大型トラックや土木機械で死体を瓦礫のように集め、大穴へまとめて投棄して埋め立てる方法が最後に選択された。
その後、国連の専門調査機関の提唱で異人のデータ採取の手順は標準化され、死体発見地点のGPS情報が添付されたデジタル写真記録(現場作業者の実施可)を基本に、可能な限り個体ごとの顔写真や指紋、毛髪・血液の採取が求められ、民間でスマホのアプリや、安価で簡易なサンプル採取キットがつくられた。
被災地では簡易チェックでさえ「煩雑だ」と疎まれたが、複数の現場で立て続けに事件性の高い変死体がどこからか運び込まれ、異人に紛れ込ませる事件が発覚したことから、先進国では周知徹底された。しかし、途上国の混乱した現場では思わぬトラブルが起こりやすく、アジアのあるケースでは、伝達ミスで死体処理作業に当たった現地の軍隊が異人の右手そのものを斧や鉈で切り落とし、国連の調査チームに手のひらのつまった冷凍コンテナを引き渡している。
集められたサンプルの分析によって、未知の指紋パターンや新しい血液型が発見され、異人と既存の人種との関連づけの難しさが確認されている。また、重金属や人工化合物、放射性物質をさがして毛髪や血液、骨、一部の臓器が分析されたが、生まれや生活歴の判断材料は得られなかった。
・遺伝子破壊現象
当初、異人のDNA・RNAの解析に大きな期待が寄せられたが、どの現場の死体のどの部分のサンプルも損壊がはげしく解析不能という異常な結果に終わった。一時は有害な化学物質や放射線、ウイルスの作用が疑われたが危険な要素は確認されず、異人の体奥の細胞まで例外無く見られる「遺伝子破壊」のメカニズムは解明できていない。
この件に関して2020年1月、米英の関係者のメールとされるものが大量にネットに流出して話題となった。政府高官と科学者とされる人物たちのオカルト、SFめいたやり取りで、異人を「取り替え子」「追放者」「神隠し」などと呼び、裸体での出現や遺伝子破壊を「極微のレベルにバラバラにして『彼方』から運んで来たさい、運べなかったか運ぶわけにいかなかった要素が除かれて組み立て直された」と意見している。このメールの真偽は不明で、公には素人作家の創作物とみなされている。
・死因
異人は例外なく落下時にすでに死亡していた。死因は不明で、外傷や病気、中毒症状はみられず、老若男女を問わず良好な健康状態で突然死した様に見えた。アメリカのある法医学者は、異人に関する詳細で信頼性の高い検死報告6,000例を世界から集めて分析したが、死因を特定できなかった。「異人の全身の遺伝子破壊」は、組織・器官に病的な変色や変質がみられないことから、生命活動が停止した後におきた死因と関係無い別の現象と推測した。また、この研究者は 異人の死体の穏やかな表情、生前のかすり傷や疾患が一例も見つからないことを挙げて「病的人為的変異がみつかるより、はるかに不気味で異様な共通点」と述べた。
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災厄の特徴
・ 前兆現象
空に渦巻く怪光は、その後も不定期に北大西洋のほぼ同一の海域で発生した。その度、6時間後に世界のどこかで死者の雨が必ず発生したことから何らかの関連があるとみられるが、科学的解析を進めようにも怪光はレーダーや撮影装置にうまく捉えられず、最初の発生から一年が経とうとしているがメカニズムの解明、死体の落下予測につながる手がかりは得られていない。
・死者の雨
ナザレの災厄の死体落下(死者の雨)は、一度におよそ6,000~8,000体だが、最小の事例では112体。最大の事例で25,000体以上と極端な幅がある。発生地点は全世界に散らばり、法則性はつかめていない。北大西洋の怪光が前兆現象(メカニズムは不明)だが、警報に利用できた事例は無く毎回被災地は混乱にみまわれている。
死体の落下範囲は直径3~5kmの範囲内で、住宅地や学校、商業施設、観光地のほか宗教施設、軍事基地にも無差別に落下した。落下点は必ず陸地(海上では船の上)で、第一事件のナザレの場合、死体は波打ち際を境に市街だけに落ちた。また人のいない高山や森、砂漠、極地、海上に発生したことはなく、かならず人里を狙う様に見えて意図的、作為的の様だと一部の学者は言明している。根拠とされるカリブ海の事例(後述)では、死者の雨は巨大客船の後を10kmにも渡って追跡した。
・地上の被害
死体の地上激突は凄惨な光景を生むが、物理的被害は比較的軽微である。人間への被害は運悪く直撃しない限り、建造物の中や樹木の下、大型車両の中などに避難すればほぼ回避できる。一部の有識者は(極論であるが)鉄くぎ入りの自家製爆弾や、家畜の暴走の方がよほど危険とのべている。ただし、ナザレの死体は通常死角となる上から落ちてくるため、交通機関と衝突事故が起こりやすく、日本国で発生したシズオカ事件(後述)では高速鉄道の大惨事につながった。航空分野では幸い重大事故は起きていないが、グアダラハラ(メキシコ)のケースでは落下する死体の雨へ中型旅客機が突っ込み、ジェットエンジンをはじめとして機体の14ヶ所を損傷する緊急事態となった。
また、おびただしい死体は、適正な処理が遅れると伝染病の発生など公衆衛生上の問題が起きる。アフリカやインドのケースでは、野犬の群れやヒョウ、ライオンが死肉を目当てに被災地に集まり、現地の住民や援助要員の安全を脅かした。
ナザレの災厄のもっとも重大で広範な被害は、社会不安だとされる。被災地は無残な死体が散乱し、自宅の庭や屋根、近所の道端、職場にまで死臭がたちこめ、多くの場合死体を撤去しても日常生活の再開は困難である。心的外傷は毎回数百例発生し、住民の大量流出も起きた。不吉、死臭がするなどの風評被害から農業や観光産業が立ち行かなくなり、被災地の地元経済が危機に陥ることもあった。
・有名な事例
・ローマ(バチカン)の死の水曜日事件
イタリアの首都ローマをナザレの災厄が襲った事件で、ローマ・カソリック教会の中心、バチカン市国も巻き込まれた。教会や遺跡、街路に異人の死体が散乱し、サン・ピエトロ広場の変わり果てた光景が大きく報じられた。イタリア政府はおよそ16,000体の死体の数(二番目の規模)に対して、軍や憲兵隊、警察を動員して現場処理を急いだが、世界的に有名な宗教施設や歴史的建造物の高所に多くの死体が落ちたため、収容は難航して混乱が長引いた。ローマ・カソリック教会が事件で受けた衝撃ははげしく、枢機卿の突然の退任、バチカンの歴史資料紛失の噂、ローマ市内の被害の大きかった教会の閉鎖などの混乱が伝えられている。
・余波
イスラエル政府はローマの事件の後、「ナザレの災厄」からのエルサレム防衛に乗り出した。ローマの惨状はキリスト教世界に衝撃を与えたが、さらに聖地エルサレムが異人の死体で汚されることになれば、宗教界への影響は破滅的と予想され、聖地を実効支配しているイスラエルに憤激が向けられる可能性があった。現時点で「ナザレの災厄」を国家の安全保障上の深刻な脅威とみなしているのはイスラエルだけだが、エルサレムの要所へのエアドーム建設計画は、実行までに大きな困難が予想されている。
・エメラルドグリーンヒル号事件
カリブ海を航行中の大型豪華客船が死者の雨にみまわれた珍しい事件。このとき船は変針・加速してやり過ごそうとしたが、死体の雨は10キロ近く後を追い続けた。死体は巨船の上へ狙いすましたように落下し続けて、サンデッキやプールサイドデッキ、艦上構造物の屋根などに高く積み上がった。三千人もの観光客がいた船内は「ナザレの災厄」が終息した後も混乱がおさまらず、呪われた船から何としても離れようと船員に懇願したり、勝手に救助ボートを出そうとする者さえあらわれた。このため船上の異人の死体は、記録作業もそこそこにすべて海に投棄された。この事件は、死体の落下数自体はほかの事件と比べて多くなく、災厄の最中に船外へこぼれ落ちて「集計もれ」したものを最大に見積もっても5,000体に届かないとされる。だが、カリブ海に広く流亡したことからアメリカ、キューバ、メキシコなど9ヶ国が異人の処理に関わる広域事件となった。
・シズオカ事件
日本の静岡県沼津市で起き、最大級の死傷者が出た事件。高速鉄道が線路をおおった落下死体に乗り上げて多重衝突事故を起こしたばかりか、一部車両が敷地外にはじき出されたことで近隣市街にも被害が発生した。日本の高速鉄道・新幹線は高い安全性を誇り、フェンスに守られた専用線路、高度な警報監視体制、緊急停止システムが完備されていた。だが「ナザレの災厄」は発生後、二分余で500体を超える落下死体で線路上をおおった。疾走する高速鉄道は異人の死体に乗り上げ、一部脱線しながらかろうじて停止しかけたが、偶然にも逆方向から別の列車が事故現場に進入。最初の脱線車両の一部に接触したことから、原型をとどめぬまで上下線がねじれて絡み合う凄惨な二重事故となった。 衝突現場とその周囲の市街地の死傷者は5,445人に達し、衝突現場の中心部の死体は損傷がきわめて激しかったため異人、事故被害者ともに正確な人数を集計できなかった。
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新たな動き
・終末論
「ナザレの災厄」はある意味わかりやすく終末思想を刺激した。名も知らぬ死者が空から落ちてくる光景を、神の怒り、終末の始まりと主張する個人や団体が無数にあらわれ、世界各地でさまざまな活動を行った。公式に確認された「ナザレ」に関連した宗教や疑似科学、神秘主義的な講演会や集会、行進といった集団活動はアメリカ合衆国だけで2万件以上記録された。ナザレの災厄の被災地支援に尽力した運動もあったが、詐欺まがいの献金、教祖を盲信した閉鎖的なコミュニティの建設など反社会的な動きが目立った。なかにはきわめて過激な活動に走る集団もあらわれた。
・冬時計号事件
2019年12月22日、ポルトガル領アゾレス諸島のポンタ・デルガダ空港で起きた騒乱。フロリダに拠点をおく神秘主義思想のカルト集団が爆薬を満載したプライペートジェット機に空港に乗り込み、武装した信者たちとポルトガル警察・国家憲兵隊が衝突した。
かねてから教団は『終末を呼ぶ悪魔の巣穴』と北大西洋の空に現れる光の渦を呼称し、アメリカ政府に水爆攻撃を執拗に要請していた。事件当時、教団は独自の自爆攻撃を計画し、アゾレス諸島に飛来したジェット機には教祖が「聖別」した自家製爆薬が満載されていた。ポルトガル当局は、地上でのプライベートジェット機の奇襲制圧を試みたが、教団側はひそかに空港内に別働隊を送り込んでいて(ジェット機のグループ4人をしのぐ17人)、かれらを蜂起させて対抗。空港施設内で4時間もの戦闘を繰り広げた。多くの観光客や空港の一般職員も巻き込まれ、事件の犠牲者は死者32名(内、教団信者19名)、重軽傷者62人に達した。プライベートジェット機の強行発進や自爆は阻止されたが、多くの犠牲が問題視された。なお、事件を起こした教祖と教団幹部たちは現在も逃走中で、熱心な信者から手厚い支援を受けているとされる。
・亜人
「ナザレの災厄」が半年を超える頃、新たに見つかりはじめた異形異種の死体。人間とかけ離れたすがたをして、当初は先天的奇形や病的変異(ホルモンバランスの異常など)の人間の死体とみなされた。その後、毎回4,5体~50体前後(異人の総数により変動)みつかり年齢・性別・体格の異なる個体が確認されたことから、固有の種族(生物集団)と判断は修正され、解剖調査で人間と異なる骨格(とくに頭蓋骨)や関節構造、内臓が確認された。一部の亜人からは機能のわからない未知の脳葉や角や耳に似た感覚器官がみつかっている。なお、DNA解析は遺伝子破壊現象のために失敗に終わっている。
「人間ではない何か」として存在が知られると「亜人」「スペクター」「空鬼」「ヒトモドキ」などと世界各地でさまざまな呼び方が生まれ、仔細な分類が試みられた。エルフ、ドワーフ、キャットピープル、サイクロプス、ニンファ、レムレース、鬼族、天人などさまざまな命名が行われたが、命名者によって分類の基準がまちまちでグループのまとめ方も異なった。サンプル数の少なさに加えて、解剖学的な新発見が続くことが学術的な結論を困難にしており「亜人」を国際的な総称に決めたあと国際機関、学術組織、著名な学者たちは論争から距離をおいている。「ナザレの災い」の対処として亜人の命名分類論争は緊急性が低く、興味本位の論議が激しいため時間と人材の浪費とされたためだが、民間の議論は一部が熱狂し、ネット上の名誉毀損や脅迫、著作権問題すら発生している。
一方、亜人の死体落下は「ナザレの災い」の被災地の不安と緊張を著しく高めた。しばしば「人間ではない何か」から疫病や有毒物質が広がるという噂が流れ、呪いや死体の蘇りさえささやかれた。被災地の避難誘導や収容作業への悪影響は大きく、アフリカ・ウガンダでは地元のキリスト教系カルト集団が「悪魔に穢された土地」と呼んで「ナザレ」の被災地を焼き討ちする事件さえ起きた。このとき、収容されていなかった亜人の落下死体13体が火炙りにされて、その映像がインターネット上で公開された(暴動には周辺住民と一部の被災者も参加した)。また、これとは反対にアンモラルな好事家が亜人の死体写真を高値で買い集めたり、よい状態の亜人死体が被災地から持ち去られるなど、これまで無かったトラブルも増えつつある。
・月
2020年7月1日、月の豊かの海で不可解な発光現象が観測された。はじめに気づいたアマチュア天文家がSNSで発信したことからプロ、アマを問わず多くの人間が関心を持ち全世界で月の現象が観測された。その結果「人によって認識される輝きの強さ、パターンが異なる」という、アゾレス諸島近海の「ナザレの災厄」の前兆現象と類似した特徴が確認された。同時に月の発光は「ナザレ」の百倍以上の大きさで、一時間近く連続した点など相違点も指摘された。今のところ「ナザレの災厄」との関連は不明で地球への影響は確認されていないが、多くの研究者は月でも死体の雨が発生した可能性があるとみていて、月面の詳細な観測を行っている。
・月の獣
2020年7月7日、月の怪光現象の話題が落ち着き始めた時期、「月の上空を巨大で異様な影(翼ある多頭蛇・多腕の巨人)の群れが漂流している」として、匿名のアマチュア天文家が不鮮明な観測写真をネット上で公表した。地球に接近しつつあると示唆されたことから話題になったが、NASAと国際天文学連合の専門委員会は情報を否定し『一部で流布されている通称・獣の群れに関して、綿密な観測を行なったところ、該当する物体は一体も確認されなかった』と発表した。また『獣の群れ』の観測写真について、調査中としながらも専門技術者による悪意ある捏造との見解を示した。
公式発表の直後、匿名発見者とみられる人物はインターネット上ではげしく反論し『獣の群れ』は漂流状態から突然不自然な加速をしたため、NASAなどの予測位置から大きく離れて観測から漏れたと述べた。だが、二度目の発表は突然中断されて再開されなかった。のちに明らかになった発信源は大西洋に臨む西アフリカのセネガルの首都ダカール近郊の街で、この日に起きた「ナザレの災厄」の被災地だった。同地はかねてから治安の悪化が深刻で、このときの「災厄」がきっかけで二日にわたる大規模な暴動が勃発、外国人も巻き込んで多数の死傷者が出ていた。匿名発表者の正体と消息はつかめず、『月の獣(の群れ)』の情報も途絶えた。現時点(2020年7月)で『月の獣』は再発見されておらず、捏造・錯覚とささやかれて都市伝説となりつつある。なお、匿名発表者は「ナザレの災厄」に巻き込まれる直前、『月の獣』の地球落着の予測のため「観測データらしき数列」「不可思議な記号」「手書きの円陣」の三つを示した(現在もネット上で閲覧可能)。この月の獣の実在を信じる研究家たちは熱心に議論を重ねているが、これらの扱い方は現在も不明のままである。
このナザレの記事の執筆はK John・Smithとボイジャーによる共同執筆によって行われました。
【原案:K John・Smith 編集:ボイジャー】




