茶色い星 ‐ ウィキパディア
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茶色い星
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茶色い星(英:Brown Earth)とは、2400年代以降に、地球に対して言われる様になった蔑称である。
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概要
地球はかつて豊かな自然も持ち、青い星と呼ばれていた。しかし、2150年代以降に急速に進んだ原因不明の全地球規模的災害である環境崩壊(英:Environmental Collapse)によって、地球上の環境は90%以上の地域が荒廃し砂漠化。砂嵐が吹き荒れる荒れ果てた状態に変貌してしまった。
この状態の地球は宇宙空間から見ると茶色い星に見えた。この事から、この様な状態になった地球の事を茶色い星(英:Brown Earth)と呼ぶ様になった。
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別称から蔑称への経緯
茶色い星(英:Brown Earth)は、当初こそは単に地球に対する別称として使われていた。しかし、2400年代以降に茶色い星の意味は、別称から徐々に蔑称へと変わっていった。これは主に政治的、社会的な要因によって変わったとされる。
環境崩壊が始まった当初、地球各国の政府は急速に崩壊を始める地球環境からの脱出を図った。これによって地球の静止衛星軌道上に建造されたのが、地球管制センターEVE( イヴ )である。
EVEは地球の静止衛星軌道上に土星の輪の様に地球を一周する様な構造のステーションに最終的にはなる設計がされ、2302年に凡そ100年の歳月をかけて全体の18分の3から4が完成し、当初の建造スケジュール目標を達成した事で、地球からの移住者受け入れを実施した。
移住計画は第1次から第5次計画が行われ、地球上からは次々と脱出船が飛び立ちEVEに人々を避難させる事になった。避難民の数は最終的には5億人にまで達した。各国政府も自国民と共にEVEに移転される事となり、地球は各国政府の行政圏(行政権が及ぶ範囲)からも放棄された(※この時点においては、まだ完全には放棄された訳ではない)。
しかし、この時、地球上のすべての人々がEVEに脱出できた訳ではなかった。当時、世界各国は大混乱の状態にあり、EVEへの脱出は希望者であれば、誰もが脱出する事ができたが、ソーシャルメディアを中心に ”EVEには行ってはいけない。EVEは人間を奴隷の様に扱う地球以上に危険な場所” だとするフェイクニュースや陰謀論が拡散され、これに多くの人々が感化された状態となっていた。その結果、地球上において30億人近くの人々が自らの意思で地球に残留していた。
各国政府はこうしたフェイクニュースや陰謀論の払拭に努めたものの、当時の社会的混乱は深刻であり、完全な払拭はできなかった。そして、それは、地球が各国の行政圏から放棄された事により、さらにより悪化してしまった。
各国政府は自国の領土は保持しているものの、行政機関の多くが引き上げてしまった形である。
地球上の混乱は深刻であった。
この結果、生じたのが残留2世以降で生じた無国籍者問題であった。残留2世以降の人々は行政機関が無かった事で国籍を取得できなかった事から多くの人々が無国籍の状態となった。各国の政府はこの無国籍者の扱いに苦慮した。行政的な管理や保護に深刻な問題が生じた。
EVEは当初はこれまで通り希望者であれば、国籍所持者や無国籍者に関係なく移住を許可していた。しかし、EVE内部において陰謀論者による爆弾テロ事件があった事をきっかけにEVEへの移住者の受け入れが一時停止される事となると、無国籍者問題は解決の道筋が立たなくなった。それまではEVEへ移住さえすれば無国籍者であっても市民権の付与の為に国籍が与えられ適切な管理や保護ができていたが、行政の能力が著しく低下した地球においては、それは困難であった。
2360年には、地球上において未知の伝染病であるポポロウイルスが蔓延した。ポポロウイルスによる影響から、ライフガード手術を受けない幼児の死亡率が99.973%に達した事で、EVEは既存のEVE市民への感染を懸念し、各国の政府は地球からEVEへの移住者の受け入れを断念せざるを得ない状況となってしまった(※なお、この規制処置は2505年に一部が緩和がされ、EVEより承認を受けた企業による許可証が発行された場合においてのみはEVEへの移住が許可される様になった)。ポポロウイルスへの唯一の対応策であるライフガード手術は各国政府の努力もあり、無償で地球に残った全ての人々へと届けられる様になったものの、地球における社会的混乱は継続し、さらに混沌化の様相を見せた。
各国の政府が地球で発生する問題に有効な対応策をとれない中、その一方で地球では現在の地球情勢に繋がる社会の布石が、この頃に形成されはじめた。
環境崩壊によって、地球上の環境は、ありとあらゆる地球生命にとって過酷過ぎるものへと変化していた。それ故に地球人類は2202年の時点において、人類の総意としてEVEを建造し、そこに地球全生命を移住させる事を決定していた。しかし、EVEが完成するまでは、当然、地球人類は地球で生活をせねばならなかった。この間、人類は皮肉にも、将来的に捨て去る予定の星での環境に耐える方法を模索した。
その結果、人類は社会インフラや生活インフラの見直しや、その再構築もそうであったが、強靭な心肺機能や免疫機構を手に入れる為に、自らの体をゲノム編集によって改造し、さらには各地で多発する絶望的な砂嵐に対応する為に屋外においては防塵マスクや防塵用具等の着用の徹底を行った。
これによってEVEへの移住が始まった2302年の段階において、人類はある種、環境崩壊によって崩壊した地球環境で生きて行く事が可能な社会を既に手に入れていた状態だった。
つまり、地球から政府及び5億人が、EVEが完成した事で30億人の地球社会と分離し、地球社会はその後、それまでの混乱よりも、さらに混沌とした状態となったが、環境崩壊の開始後に築かれた地球で生活する術、自体は地球に引き続き残っていた状態である。
EVEへと移住した政府と5億人の人々以外の社会を構成する物の多くは地球上に引き続き残された。その大きな物のひとつが、企業による経済活動である。世界各国の企業はEVEへの移住開始後に、その本社機能の多くをEVEへと移転させたが、地球における業務活動の多くは引き続き維持された。
この地球に残った企業群の経済活動によって地球に住む人々の社会インフラや生活インフラは引き続き維持された。
しかし、生存に必要な充分なシステムの多くが残った地球ではあったが、行政機能の大幅な低下に伴う深刻な社会混乱によって、ありとあらゆる犯罪が多発し増加傾向となった。窃盗、強盗、殺人、薬物など。さらには反社会勢力や反政府勢力が闊歩し、テロや攻撃等が頻発する事となった。
こうした混乱は、EVEにも影響を与えた。
EVEは当初、地球に残った人々への支援を継続していた。しかし、EVEが地球へと送った支援物資に対して、陰謀論者による武装勢力や、反EVE武装勢力による破壊行為や襲撃が相次ぐと、EVE市民の間で、地球に残った人々に対する反発感情が噴出する様になった。
”陰謀論者を支援する必要はない!” ”地球に残りたいなら勝手にしろ!” ”地球の為に税金を無駄にするな!” この様な声がEVE市民の間で相次いだ。この様な市民の声を各国政府は無視できなくなった。その結果、2390年8月2日、EVEの各国政府は全会一致で、地球への人道支援の大幅削減を宣言(通称:決別宣言)。ライフガード手術の無償提供以外のその他、全民間向けの人道支援を停止した。また、予算削減策として地球における各国行政機関の大幅縮小と統一化も決定。
これによって、地球全土において、行政の統廃合が進められ、各国の国境線に左右されない新しい行政体制が構築された。これによって形成された新たな地球における行政は、警察権のみを新設のEVEの組織である国際警察機構が有し、それ以外の行政業務は地球より撤収するというものとなった。この国際警察機構は、名目上は各国の警察権を統合する事で効率的な犯罪の取り締まりを実現するとされたが、実際は警察予算や人員が大幅に削減された事で、その能力は限定的だった。
あまりにも警察権が弱かった事から、地球上で事業を展開する各企業は自身の組織を守る為の独自の警察機構(捜査部門)、私設軍隊(警備隊、PMC等)なども所有する様にもなった。そして地球に予算を投じたくなかったEVEの各国政府もそれを後押しする政策を行った。
企業の保有する警察機構は、国際警察機構が関わる形でなら一緒に捜査活動をする事もできる様にされた。国際警察機構は企業から捜査協力をされれば断る事は殆どできない実質的な企業の代弁機関と徐々に変化した。企業の武装化は、社会秩序が崩壊していた地球においては、一定の社会バランスをもたらした。しかし、企業同士による陰謀や対立、武力による企業間紛争、企業間戦争が発生する様にもなった。こうした企業同士の対立をいさめる為に企業によって国際企業裁判所(2501年設立)も作られた。
この様に地球の情勢はあらゆる犯罪、反社会勢力、企業が複雑に絡み合う状態となった。
この様な情勢の様子はEVE市民からも見られていたが、この様な状況下にてEVE市民の間では2400年代後半以降に地球や地球に住まう人々に対する軽蔑的な視線や差別的な認識が形成されていった。EVE市民は地球に住む人々の事を地球人と呼ぶ様になり、そして地球の事を茶色い星と呼び始めた。
地球人や茶色い星というワードは地球に対する蔑称として定着した。EVEにおいて地球人や茶色い星は、野蛮であったり野蛮人と同義的な意味を持つ。一方でEVEの市民は自分たちの事を市民やEVE市民と呼ぶ様になり、地球とは明確な線引きを始めた。
こうして、地球への差別的な認識は拡大し、EVEの人々は決別宣言以降、急速に地球への関心を失っていく事となった。
EVEの人々が地球の問題に対して無関心となった事が、最も良く分かる顕著な例が無国籍者問題である。無国籍者問題は当初こそは、単に国籍の判別ができなくなり、行政の管理や保護ができない人々が増加した問題であったはずが、EVEの各国政府は、無国籍者を無国籍なのだから、EVEが保護する義務はないと次第にその考えを改める様になった。
地球の人々はその後、2440年代から2450年代にかけて一連のフェイクニュースや陰謀論の混乱から脱却しEVEへの移住を求める声が大半となったが、EVEは現在に至るまで地球への関心を失っている状態である。
現在ではEVEが地球に対して行う関与は非常に少なく、人道的関与もライフガード手術の無償提供のみである。こうした状況はEVEの市民による一部の人権団体などから、是正されるべきとの声も出ているが、EVE市民の間では非常に少数派なのが現状である。
茶色い星や地球人といった言葉は、こうしたEVE市民の地球に対する差別感情が強固になった事で、今日も蔑称としての意味合いの意味の地位を完全なる不動な物として確立している。
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