表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/181

異世界出血熱 ‐ ウィキパディア

ウィキパディア-フリー百科事典

ページ/ノート

―――――――――――――――――――


異世界出血熱

―――――――――――――――――――――――――――


異世界出血熱( いせかいしゅっけつねつ )又は、アマール出血熱( アマールしゅっけつねつ )外地出血熱( がいちしゅっけつねつ )は、フィロウイルス科アマールウイルス属ウイルスを病原体とする急性ウイルス性感染症。エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、マールブルグ病と並ぶ、ウイルス性出血熱の一つ。


飛沫感染の他、エアロゾル感染、患者の血液、分泌物、排泄物や唾液などの飛沫感染が主な感染経路が確認されており、致死率は80‐90%に上る。また、仮に救命できたとしても重篤な後遺症を残すことが確認されており、リスクグループレベル4ウイルスに分類されている。


2018年に東京都で初めて感染が確認され、その後、日本全国に感染が拡大しパンデミックを引き起こした。

――――――――――――――――――――――――――

目次


1.分類と名称

 1.1名称

 1.2分類と系統

2.概要

3.感染源

4.消毒

5.検査

6.症状

7.治療

8.発見と拡大

9.死者

10.予防

 10.1ワクチン開発

 10.2治療薬の開発

 10.3パンデミックリズム

11.遺体の葬送

12.社会的影響

 12.1パンデミックリズムの一般化

 12.2地域社会の分断と治安の悪化

 12.3経済格差

 12.4外地住民へのヘイトクライム


――――――――――――――――――――――――――

分類と名称


・名称

「公称」および「学術的名称」については、以下の通りである。


2018年3月18日、日本国厚生労働省ウイルス分類委員会が発生地にちなんでアマール出血熱と命名した。


しかし、日本のインターネットやソーシャルメディアでは異世界出血熱や外地出血熱という単語が使われこれが一般的に定着した。日本政府は異世界出血熱や外地出血熱という単語は外地出身者に対する無用な差別を生む可能性があるとして、この様な名称を利用しないように当初は訴えていた。


・分類と系統

当初はウイルスの構造がエボラウイルス属の病原体と似ていた事から、エボラウイルス属に分類されていた。しかし、その後、2018年6月2日にフィロウイルス科アマールウイルス属に再定義された。


――――――――――――――――――――――――――

概要


アマールウイルスは、大きさが80‐800nmの細長いRNAウイルスである。ひも状とU字型の形状が確認されている。


このウイルスが初めて発見されたのは2018年3月11日、東京都練馬区春日町の飲食店で、海上自衛隊の男性隊員が、突然、39度の高熱、激しい頭痛、腹部の痛みを訴えた後、その場で倒れ、飲食店の従業員によって消防に通報がされ、搬送先の病院に緊急入院した後、消化器や鼻から激しく出血して死亡した。その後、1ヶ月以内に飲食店で男性と居合わせた客3名と従業員2名、飲食店に向かう際に男性が利用したタクシーの運転手1名、職場内での同僚38名、治療に当たった医療関係者8名も発症が確認された。


その後、この男性自衛官以外にも感染者が外務省や防衛省を中心に多数確認され、最終的には感染は日本全国に拡大し死者295万人という日本の記録に残る感染症史上、最悪の甚大な被害を引き起こした。


アマールウイルスにはエボラウイルスと同じ様に免疫系を攪乱するデコイを放ち、生体の防御機構をほぼ完全にすり抜けるという特徴がある。また、これもエボラウイルスと同じ様に体細胞のタンパク質を分解することで驚異的な毒性を発する特徴を持つ。高い確立で免疫系を操作し血管を攻撃し破壊し、全身の臓器を冒して発症者を死に至らしめる。


しかし、アマールウイルスの最大の特徴として、潜伏期間の長さと感染力の強さがある。通常のエボラウイルスは潜伏期間が一般的には平均2日から7日程度(※遅くとも21日)であるのに対してアマールウイルスの潜伏期間は平均1日から14日程度であり、感染から発症するまでの期間は平均5日から6日程とされる。さらに発症するまで、感染者は症状を感じない事が多いが、この無症状の期間も飛沫感染やエアロゾル感染などで周囲に感染を広げる傾向がある。この無症状期間の感染力の高さがエボラウイルスとは異なる点である。


日本の厚生労働省は、このアマールウイルス特有の特徴が日本における感染拡大を招いた最大の原因であると指摘している。


――――――――――――――――――――――――――

感染源


アマールウイルスは現状、日本感染研究所と理化学研究所の調査により、日本が接触に成功したほぼ全ての外地人の体内から発見されている事から、外地人が自然宿主となっていると推定される。


また、2019年、北海道大学の研究チームが、日本列島に生息する犬科と猫科の動物が、初めて地球生物でアマールウイルスのヒトへの感染を媒介する媒介動物となる事を確認した。この研究結果を受けて2020年に厚生労働省が行った全国の野良猫犬に対する捕獲調査では、調査を行った日本全国の100地点中、35地点において、アマールウイルスを体内に保持した野良の犬科、猫科の動物が確認され、四国と沖縄県以外の日本列島全域で野生の犬科、猫科の動物にも感染が拡大している実体が判明している。


――――――――――――――――――――――――――

消毒


エボラウイルスへの対応同様に、消毒には次亜塩素酸ナトリウムやジクロルイソシアヌール酸ナトリウム顆粒が推奨される。アルコールも消毒薬としての効果があり使用可能。金属製小物にはグルタラールが適している。一般的には入手が用意なアルコール消毒液が使用されている傾向にある。


加熱消毒は安全マージンを加えた60℃、60分間の加熱が使われる。煮沸消毒でも、沸騰時間5分が必要。


放射線による消毒はガンマ線照射12~12.7KGy(1.2~1.27×106rad)や紫外線照射でも消毒可能だが、紫外線照射の場合、有機物に取り込まれている場合のアマールウイルスを不活性化させる事はできない。


――――――――――――――――――――――――――

検査


パンデミック当初は専用の検査設備においてのみウイルスの検出が可能であったが、現在は国立感染症研究所、デンカ生研が共同開発した検査キットが実用化されており、バイオセイフティーレベル3の施設でも血液検査が可能である。PCR検査装置を使用した検査も可能だが、エボラウイルスと同様にアマールウイルスの変異確認、治療薬の効果確認、患者の退院可能かの確認は不可能である。


また、京都大学により簡易検査キットも開発されている。アマールウイルスのバイオセイフティーレベルは最高レベルのレベル4に指定されているが、パンデミックの際に検査施設が足りなくなった事からアマールウイルスに関しては特例処置がとられ、現在では全国の一般診療所でも検査が可能である。


――――――――――――――――――――――――――

症状


潜伏期間は平均1~14日程。厚生労働省および国立感染症研究所の発表によると、通常のエボラウイルスとは違い潜伏期間中にも強い感染力を有する。発病は突発的に発熱、全身の倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛、咳などを生じる。腹痛、嘔吐、下痢、結膜炎などの症状が継続する。咳の症状があるのがアマールウイルス患者の最大の特徴であり、通常のエボラウイルス患者には見られない症状である。その為、エボラウイルスよりもウイルスの飛散が起きやすく感染を拡大させる大きな要因の一つとなっている。咳の症状は深刻化すると重度の肺炎を起こす事がある。


患者の多くは脱水症状や播種性血管内凝固症候群による多臓器不全が原因で死亡する。発病後の致死率は80‐90%にも達し、非常に高い致死率を有している。


また、完治した場合でも、重篤な後遺症が報告されており、体内のウイルスが皆無になったにも関わらず、発熱、全身の倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛、下痢、咳などの症状の持続が確認されている。


――――――――――――――――――――――――――

治療


アマールウイルスの治療法に関して、有効な治療薬の開発は確立されていない。複数の試験薬の研究が行われているが、2029年現在、有効が認められる治療薬は無い。当初はエボラ出血熱患者への治療法である元患者の血液や血清の投与の試みもされたが、アマールウイルスの治療法としては有効性が確認できなかった。その為、治療は対処療法が基準となっており、患者の症状に応じて脱水に対する点滴や、鎮痛剤、ビタミン剤の投与、播種性血管内凝固症候群に対する抗凝固薬等の投与が行われている。


ただし、地球人に対しての効果は見られなかったが、アストラゼネカ日本法人とグラクソ・スミスクライン日本法人が共同開発したウイルス不活性剤は外地人に投与する事によって外地人体内のウイルスをほぼ完全に不活性化させ地球人へのアマールウイルスの感染を防ぐ効果が確認されている。このウイルス不活性剤の投与は現在では日本に入国を希望する外地人の入国必要条件の一つとなっている。


――――――――――――――――――――――――――

発見と拡大


アマールウイルスが日本に持ち込まれた最大の原因は平成30年2月22日日本周辺地理変貌災(又は異世界事件とも言う)後に、日本政府が外務省と海上自衛隊の共同で行った転移国家(※アマール伯国)へのファーストコンタクトであるとされる。


2018年2月22日、日本国の周囲地理は日付変更とほぼ同時に発生した原因不明の災害によって別世界( エムル・ミト )より転移してきた陸地群と入れ替わり変貌しそれまでの既存の地球国家群と全ての連絡が途絶えた。この事態に、日本政府は自衛隊や海上保安庁による周辺地域の偵察を実施し、2月25日、日本国の東部沖合い3,450kmに未知の陸地と未知の文明を発見した。この報告を受けて日本政府は早急な外部との接触を図るべく2月27日、護衛艦ひゅうがに外交官を乗せて派遣。現地にて、アマール伯国の外交担当者との会談を実施した。


アマール伯国において、護衛艦ひゅうがはアマール伯国軍による臨検を受けその際に、アマール伯国側に交渉の場を設ける事を要請していた。その後、日本の外交担当者はアマール伯国の首都ネスターミに上陸し、アマール伯国側の外交担当者と会談した。


この際、日本国側は殆どの感染症対策をしていなかったとされており、アマール伯国側の臨検や外交担当者との会談の際、通常の手洗いと、うがいはしていたものの、マスクやゴーグルなど、基本的な感染体策はされていなかった。この際にアマール伯国人から外交官と自衛隊員に感染が発生し、さらにその後、ひゅうが艦内で感染が拡大したものと、その後の厚生労働省と防衛省の合同感染状況調査委員会は結論づけている。


護衛艦ひゅうがでは、最終的にこの時の任務の関係者の内、外交担当者の他、自衛隊員を含めて当時の乗員980名中、324名が感染。312名が死亡した。


しかし、護衛艦ひゅうがの日本帰国時には症状が出ていた感染者はまだ皆無の状況であり、誰もアマールウイルスに感染した事に気づいていなかった。帰国後、乗員は適切な隔離処置等は行われずに普段の業務や生活に復帰。これが日本におけるアマールウイルスの深刻な市中感染を引き起こす最大の要因となった。


このファーストコンタクト後、この時の任務参加者から感染者が続々と確認され、その後には護衛艦ひゅうがの母港である横須賀港の自衛隊関連施設や外務省、感染者の受け入れていた東京都や神奈川県内の病院関係者を中心に、任務参加者以外からも感染者が続々と確認された。さらに時間が経過すると市中からも感染例が相次いで報告される様になり感染者数と死者数は日々に増大していった。最終的には日本全国で295万人もの死者を出す最悪の結果となった。


厚生労働省はパンデミックを招いた原因について、初動の感染を把握できなかった事が、その後の感染拡大を招いた最大の要因であるとしている。


感染拡大の原因であるファーストコンタクトについて、当初、厚生労働省の新型エボラウイルス感染症対策専門家会議の参加メンバーだった東京大学の感染症学の専門家、渡辺信也教授は、感染が拡大しつつあった3月20日に明治新聞社の取材に対して以下のように答えている。


「政府が目先の食料や燃料問題に気をとられ感染症対策を蔑ろにした結果です。この事態は起こるべくして起こった人災なんです。感染症対策をしっかりととっていれば、この様な悲惨な事態にはならなかったしょう。この様な事態だからこそ政府には科学的な見地から感染症対策をしっかりとして欲しかった。この異世界騒動が起きた時、アマールと接触した当初は政府やテレビはドラゴンだとか魔法だとかで騒いでいたが、私にすればおかしな話です。私達はファンタジー小説や御伽話の登場人物ではないんですよ?私達はこの事態が起こった時、異世界だとかファンタジーだとか妙な先入観をきっぱりと全て捨てて科学的な視点に立ち戻るべきだったんです。現在の日本は防護服無しで無数の未知の細菌が散りばめられた部屋に閉じ込められた様なものです。異世界とはつまり、未知の惑星なんですよ。未知の惑星には、どんな危険があるか分からない。それは目に見える危険だけだとは限らない訳です。日本の外の世界は今、そんな世界なんですよ。我々が慣れしたんだ地球ではもはやないんです。未知の惑星に宇宙服を着ずに行く様な愚か者はいないでしょう?常識的には。しかし、我々日本人は未知の惑星に宇宙服無しで降り立ってしまったんですよ」


なお、この一連の日本国内での感染拡大状況について、最も感染体策に成功したのが日本に駐留する在日米軍である。在日米軍は、護衛艦ひゅうがの帰還2日後に、すべての在日米軍基地に対して基地の出入りを全面的に禁止する処置をとり、基地内への感染拡大の防止をする事に成功した。在日米軍が基地内へのウイルスの流入を防止する事に成功したのには、日本周辺地理変貌災に対する現状認識の差にあったとされており、在日米軍司令部は日本外部の環境を自衛隊による偵察情報を元に地球では無い未知の惑星と想定した上で行動していた。当初、在日米軍は日本政府が自分達と同じ認識を持ち、充分な感染体策と隔離をした上で、ファーストコンタクトを行ったものと考えていた。しかし、帰還2日後に自衛隊が充分な対策をしていない事が発覚すると、当時の在日米軍司令官であったハワード・シュナイダー中将が独断で急遽、方針を転換し、基地の全面封鎖を決断した。決断した時には、まだアマールウイルスの存在は確認されていなかったが、その後、この決断が結果的には功を相し基地内にウイルスが持ち込まれる事を未然に防ぐ事に成功した。パンデミック期間において、在日米軍は被害を最小限に抑える事に成功し、在日米軍管内でのアマール出血熱患者は2018年から2029年現在までに、僅か221人にまで抑えられている。


――――――――――――――――――――――――――

死者


日本全国でアマール出血熱により死亡した患者数は全国で日本人、外国人を合わせて、295万人に達している。この内訳は295万人中、254万人が都市部。42万人が地方となっている。東京都、神奈川県、千葉県、愛知県、大阪府の大都市圏に死者数が集中傾向にある。これは、大都市圏を中心に感染拡大が起こった為であり、地方でも、人口密集地での死亡者が多い傾向にある。


最も多い1週間当たりの死亡者数は2018年9月第2週の9万1654人。パンデミックによる死者数は2018年と2019年がピークであり、それ以降は減少傾向に転じ、2022年には死亡者数は1ヶ月当たり、平均で200人以下にまで減少した。


厚生労働省による流行終息宣言後の死亡者数は1ヶ月当たり、平均で20人以下で推移している。死亡者数0人の時も少なくはない状況で安定している。


年代別に見ると、20代、30代の若い世代の死亡者数が最も多く、全体の死亡者の約5割を占めている。次いで40代、50代の中高年世代、10代、60代、70代以降の若年層から高齢者世代の年齢層の順である。この死亡者世代の内訳について厚生労働省の新型アマールウイルス感染症対策分科会は、社会経済活動の活発な世代を中心に感染が広がってしまった結果との見方を示している。


なお、多くの死亡者が発生しているが、中でも日本社会に非常に大きな衝撃を与えた事例として2018年5月17日に発覚した神奈川県横浜市立左近山第五小学校での集団感染の例が上げられる。この感染例は初の学校機関での大規模集団感染の例であり、小学1年生の児童117名がアマール出血熱に感染している事が確認された。児童は感染の発覚後、病院に緊急搬送されたが、後に全員が死亡した。当時の日本の感染状況は3月の感染の初確認後、拡大傾向となり、日本政府は首都圏を中心に外出や営業の自粛等を要請。しかし、その後、4月に一旦、感染状況が落ち着いた事から、日本政府は5月から自粛の要請を解除し、社会経済活動を再開させたばかりの矢先の事であった。この横浜市立左近山第五小学校での集団感染の発生までは、感染例は1日当たり平均で1桁台から20人以下(※突出して多い日でも最大27人)の人数で推移していた。この大規模な集団感染の発覚後、首都圏各地でも相次いで感染の確認がされる様になった。


――――――――――――――――――――――――――

予防


厚生労働省はパンデミックを受けて予防策として、国民に外出時のマスク、ゴーグル、手袋の徹底着用と厚生労働省指定消毒薬による徹底消毒を呼びかけている。傷口や粘膜にウイルスが入らない様に徹底した注意をする必要がある。特に、目口鼻を人は無意識に触りがちであるため、極力触らないよう注意が必要である。人の触る物、ドアノブ、照明のスイッチ、ハンドルなどはウイルスが付着しやすいため、消毒をする必要がある。厚生労働省は家族以外の他人の居住スペースにむやみに立ち入らない事を推奨している。また、ワクチン接種をしていない野生の犬科、猫科の動物に対しても、むやみな接触をしない様にと呼びかけている。


・ワクチン開発

2020年、東京医科歯科大学と神奈川医科大学の共同研究グループが開発したワクチンが動物実験で一定の成功を収めた。共同研究グループはアマールウイルスに感染したマウス30匹を使った実験を行った。実験はマウスを15匹づつに分け、ワクチンを接種したグループと摂取しなかったグループの2グループに分けて行われた。ワクチンを接種しなかったマウスは10日後には全て死亡したが、ワクチン接種をした14日以降も生存した。共同研究グループはこれを受けてサルによる動物実験を実施し、この実験でも、ワクチンの有効性を示した。


2021年、厚生労働省は共同グループが開発したウイルスワクチンを緊急で認可した。ワクチン接種は日本全国で一律に行われ、2022年、厚生労働省はワクチンがアマールウイルスに対して有効である事を確認したと発表した。


2026年、厚生労働省は日本国内におけるアマールウイルスの流行終息を宣言した。


・治療薬の開発

2029年現在、有効が認められる治療薬は開発に成功していないが、現在でも日本国内の大学や研究機関での開発が進められている。


・パンデミックリズム

アマール出血熱患者が次々と病院に運ばれ、目覆いたくなるような悲惨な症状に見舞われた様子や、次々と遺体がトラックに担ぎ運ばれる光景、火葬場不足から広い空き地等で遺体が山済みにされてから燃料をかけて直焼にされる光景は、一般報道を通じて多くの日本人の心境に大きな影響を与えた。その結果、半ば自然発生的に誕生したのがパンデミックリズム。感染予防に生活の主軸を置いた日本の新しい生活スタイルである。


当初こそは予防にのみ観点が当てられていたが、パンデミックリズムはパンデミックが1年を超える長期化の様相を見せた事で、それに伴う経済状況の悪化から、次第に感染予防だけでなく、感染者が身近に居たとしても自己防衛自己管理を鉄則として社会経済活動を安定して継続できる新たな生活スタイルとして目的が変化していった。


パンデミックリズムによって変化した生活スタイルは主に以下の内容である。


外出時には飛沫感染を防ぐ為にマスク(現在は防塵マスクが一般的)とゴーグル(もしくは、全面防護マスク)の着用が一般的になり、服装は夏でも、接触感染を防ぐ為に防護服もしくは、フードの付いた長袖、長ズボン等の衣服を着用し、手には手袋などを着用する事が一般的となった。


飲食店では感染予防の為に、ベニヤ板やダンボールなどで仕切った個別席や野外席、テイクアウト、宅配が一般的となり、2018年以前は当たり前であった複数客が同じ食事の席で食事をするという行為が一般的ではなくなった。


職業に関しても、感染が都市部で多発した事から、地方の自宅から都市部の職場に行って仕事をする様な行為は避けられる様になり、自宅のある地域内での仕事にシフトした。


――――――――――――――――――――――――――

遺体の葬送


死亡した感染者の遺骸は原則火葬することが感染症予防法により定められている。現行の感染症予防法ではアマールウイルスに関して火葬以外の例外は認められていない。また、火葬場に関しては厚生労働省指定の火葬場での火葬が原則であるが、パンデミック時に死亡者数が火葬場の処理能力をオーバーし、空き地等で遺体を山済みにしてからガソリンや灯油等をかけて火葬する野焼の処理が行われた事から、感染が流行し火葬場の処理能力を超えた場合にのみに限り一定の面積以上の空き地等での野焼が認められている。


――――――――――――――――――――――――――

社会的影響


・パンデミックリズムの一般化

パンデミックの発生後、この期間中に誕生したパンデミックリズムは流行が終息した後も2029年現在まで、継続して続けられている。パンデミックリズムに準じる服装や生活スタイルが一般の生活スタイルとなっており、パンデミック以前の日本の生活スタイルには戻っていない。感染予防の意識が非常に高くなっており、マスクやゴーグルをせずに外出をすると店舗等への入店を拒否される例がある他、嫌がらせや暴行等にまで発展する事件が起きる場合があるなど、実生活への支障も出ている。ただし、地方部の人口が少ない集落等ではパンデミック以前の生活スタイルに戻っている所もある。


・地域社会の分断と治安の悪化

パンデミックが発生した当初、感染者が多発した都市部とは違い、地方では感染者の数は少なかった。その結果、地方の県では、県外ナンバーの自動車等の排斥運動が起きた。また、県外からの越境者に対する嫌がらせや暴行などの事件も多発し、東京近郊の県では「東京都民お断り」の張り紙がされた店等が現れはじめ大きな問題となった。感染状況が地方にまで広がってくると、感染者の少ない市町村では独自に自警団等が組織され、自治体に繋がる道路を封鎖する等の実力行使に出る自治体が現れ始め、これに関連した暴力事件や殺人事件も多発した。日本政府はこういった自警団等の過度な感染体策について、地域の分断を煽りなおかつ治安を悪化させるとして認めていなかったが、日本周辺地理変貌災による石油不足や外国人旅行客難民化問題等の様々な問題とパンデミックの影響により、国の行政機関が満足な取り締まりや対処ができなかった為に、この様な自警団が組織される運動は日本全国に拡大した。また、当時の日本政府が、感染拡大に対する対策が、外出禁止等の強制処置を実施せずに、あくまで個人の協力を要請するという所謂、自粛スタイルだった事も国民から政府への信頼感を失わせ、自警団等を組織し自衛しようという動きに繋がったとされる。


2029年現在、これらの自警団は、日本周辺地理変貌災とパンデミックに伴う日本経済の深刻な悪化によって全国的に悪化した治安や社会情勢を受けて、各地域では治安維持を目的に一部が違法な銃器、猟銃、ボウガン、アーチェリー、鉄パイプ等で武装する例が相次いでいる。政府はこれらの自警団を違法な団体と位置づけているが、これらの組織は日本の半数以上の自治体で組織されている事が確認されており、さらに何らかの組織の影響下にある自治体の数は日本の全自治体の内9割以上にも上っている事から、本格的な取締りが困難な状況となっている。防衛省は2028年度の予算委員会で、野党議員から自警団の取り締まり状況を質問され、それに対して、現在の日本の警察と自衛隊にはこれらを完全に取り締まるだけの能力は既に国力の大幅な低下から失われていると答弁した。


また、自警団の問題はこれだけでは留まらず、自警団が暴力団、ヤクザ、マフィア、ギャング、ギルド(※外地人による違法団体)、違法な外国人団体、傭兵(※この場合における傭兵とは日本国内の各勢力に雇われる事を目的としている傭兵。日本政府は国内における傭兵業の存在を認めていない)等の様々な反社会勢力との関わりが指摘されている問題や、一部の自警団や自治体が在日米軍との、日本政府の許可なく協力関係を構築した問題、所謂、米連(正式名称:アメリカ合衆国及び日本諸地域連合)問題や、またはその全ての関わりが指摘されている問題も複雑に絡んでいる為に、この状況が改善するには相当の時間が必要であると見られている。


放送大学の中東政治学者、加藤五十鈴教授は現在の日本国内の状況に関して「すでに日本における自警団の問題は、ただの自警団問題に留まらず、事実上、日本政府が介入できない"聖域"が生まれつつある状況であり、自警団問題は、次第に紛争国の構図と似た情勢になりつつある」と警鐘を鳴らしている。


パンデミックは日本周辺地理変貌災と合わせて日本の国力を大きく削ぎ落とした。本来は、日本周辺地理変貌災に集中的な対処をするべきだったが、致死性と感染力の高いウイルスパンデミックが発生した為にそちらを集中的に対処せざるを得なくなった。その結果、日本の国力は大きく低下しさらに、パンデミックによる地域社会の分断が進んだ事で、その後の経済の停滞と鈍化を招いた。さらに地域の分断と経済の悪化は、日本国内の治安や社会情勢の深刻化を招いた。2029年現在、日本の殺人事件の発生数は警察により認知された件数だけでも2017年の殺人事件数の20倍にも跳ね上がっている。また、各種犯罪の事件数も2017年に比べてあらゆる統計データが激増を示している。国内の様々な勢力による抗争と見られる武力衝突事件も起きており、日本の現在の治安情勢はかつてのブラジルと同等にまで深刻に悪化している。


2025年、帝国ジェネラル証券の日本国際戦略研究所は、日本経済新聞に寄稿した記事で、パンデミックさえ、起こさなければ、日本は日本周辺地理変貌災の被害を現在よりも遥かに抑える事ができたと筈であるとシュミレーション結果を寄稿した。


この様な日本の不安定な治安情勢や社会情勢は日本の周辺諸国にも影響を与えており、日本政府は周辺諸国の政府から海外にまで勢力圏を広げつつある日本の犯罪組織や様々な勢力に関して、厳格な取締りをする様にとの要請を受けている。2029年には13の列島王国からなる西方諸国連合の全加盟国が連名で日本政府に対し名指しの非難決議を採択し、違法な薬物の密輸、奴隷ビジネス、違法採掘、違法プランテーション、武器の密輸等の犯罪行為に対する対策を早期に実施する様に訴えられた。


一方で日本国内の治安や社会情勢に関しては、政府や国会内で政治的に複数の意見の対立が起きており、2027年、当時の警察庁長官の斎藤和義氏が、テレビ夕日の報道特番に出演し「日本は犯罪の坩堝と化した」と発言し、斎藤和義氏はその後、この発言について与野党から激しいバッシングを受け、後に発言を取り消し、辞任をする事態が起きたが、日本のネット上では斎藤和義長官の発言は正しいとの多くの声が上がり、辞任に追い込んだ与野党に対して激しい抗議の声がよせられる政治問題も起きている。


・経済格差

日本周辺地理変貌災とパンデミックは日本の経済を大幅に衰退させた。それでも、既存の油田やガス田の増産や、北方領土ガス田、五浦海岸油田の開発、石炭採掘が本格再開し、国内のエネルギー問題が若干の解消傾向に向かうと、落ち込んでいた日本経済は回復傾向に転じた。さらに、パンデミックが終息傾向に入り海外との貿易が行われる様になった事も経済の回復を後押しした。しかし、全国的な経済回復とはなっておらず、各地で深刻な経済格差が生まれ、貧富の格差が急激に広まった。


・外地住民へのヘイトクライム

日本周辺地理変貌災によって地球上に転移してきた人々(外地人)との経済交流がパンデミックが終息ぎみになっていた2020年以降、日本政府や米連を通じて本格的に行われる様になり、ワクチンやウイルス不活性剤が開発された事で日本にも外地人が訪れる様になった。しかし、多くの日本人は外地人に対して良い感情を抱いておらず、日本データーバンクが行った世論調査でも約7割の人が外地人は日本に居るべきではないと答えている。これは外地人が未知のウイルスや細菌を持っている事への恐れであるとされ、日本に訪れた外地人の中には暴言や嫌がらせの他、最悪の場合は暴行等によって殺害されてしまったケースも存在する。


日本政府はこの様な外地人への行為について、外地人は入国審査の時点で入国審査所で2ヶ月の待機期間を設け、人類に有害なウイルスや細菌を持っていないかの有無を調べる徹底した検査を行っており、入国が許可された外地人はこの厳格な検査をクリアした者達であり、さらにその様な者達は、日本の生活リズムに合わせて、パンデミックリズムに沿った厳格な予防策をとっている為、この様な外地人への行為は全てヘイトクライムに当たると、即刻やめる様にと呼びかけを行っている。


2028年、警視庁が発表したヘイトクライムに関連する事件は3,322件。内、殺人事件が102件だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 異世界出血熱 、これも嫌な病気ですね。死者を多いけどそれ以上にコロナの同じく過剰な差別や犯罪を生み出している点は大きいですな。自警団や犯罪組織を政府が取り締まらなくてというのはブラジルやメキ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ