第███次██報告書
やあ、大体1年ぶりだね。
私だよ。
君がまだ、このメッセージを見てくれていると祈ってこのメッセージを送る。
前回は大変失礼した。
それに1年近くもの間、私は君に直接的なメッセージを送らなかった。
本当に申し訳ないと思っている。
私はもしも君がもうこのメッセージを見ていないとしても、驚きはしない。
謎を解いてほしいと言いながら、1年もの間、ただウィキパディアの記事しか送信しなかった。
本当にすまない。
ただ、これは言い訳になるが、私は迷っていたのだ。
前回私は失態を犯した。
君に見せてはいけないメールを誤送信してしまった。
恐らく、君はみてしまったであろうと思う。
あんな物が送られてくれば、見ない方がおかしいというものだろう。
前回のメッセージで私は君に焦りから警告を発した。
その後、私は君へメッセージを送信する事を何度も考えたのだが、事の重大性から何を君に伝えれば良いのか分からなくなってしまった……。
そしてただ、君にウィキパディアの記事を送信するだけで気がつけば、もう1年だ。
何度も言うが本当にすまなかった。
本来であれば私が直接、謝罪に行きたいがそれは物理的に不可能だ。
だから、せめてもの誠意として私は君にこのメッセージを送る。
もしも、君がこれを見ていて、私を許してくれるのであれば、このまま私のわがままに付き合って欲しい。
では、今回の私のメッセージの本題に戻ろう。
幾ら私が謝罪を取り繕うとも、私が君に送ってはならないメッセージを送ってしまった事実は変わらない。
君は色々疑問に思っている筈だ。
あのメールがなんであるかを。
だが、すまない。
君に謝罪を言いながらも、私は、私には、あのメールの詳細を君に伝える事はできない。
できないのだ。
私は君にウィキパディアの真実を伝えたいと心から思っている。
だが、これとそれとは別の問題なのだ。
私は直接的な言動は絶対にしない。
ただ、これだけは伝えておこうと思う。
世の中には君の様な一般の人間が営む世の中から絶対的に隔絶された世の中がある。
それは何があっても交わる事の無いものだ。
知ってはならぬ事が世の中にはあるのだ。
君がもしも彼らを知れば、君は激しく動揺し激しい怒りを覚えるはずだ。
だが、彼らは……彼らには、それを犯してでもやらねばならぬ事があるんだ。
私はそれを理解している。
それは子供には親が必要な様に。家族を養う為には職が必要な様に。企業には経営陣が必要な様に。国家には政府が必要な様に。
彼らも必要なのだ。
だから、私は例え、今は彼らに敵対しようとも、心は今も彼らと共にあるつもりだ。
しかしだ、私は君の味方だ。
君を彼らが害そうとするのであれば、可能な限り私は君を支援するし力になろう。
現に私は危険を冒して君にメッセージの送信を続けている。
私は前回のメッセージの送信の際に大きなミスを犯した。
緊急確認の為に送ったメッセージで私はインターネット回線の暗号化処理をせずに送信してしまったのだ。
あのメッセージには数字列が含まれていたはずだ。
あれはあの時、私が潜伏していたホテルの場所だった。
私には今、左手が無い。
彼らに奪われてしまった。今でも幻肢痛に悩まされている。
だが、彼女のおかげで私は逃げ延び今もメッセージを送信し続けている。
私は文豪ではない。
よって、このメッセージで私の覚悟が君に伝わっているかは分からない。
だが、これだけは信じてほしい。
私は決して嘘はつかないという事を。
私が信じられないのであれば、もう辞めてもかまわない。
彼らが君を見つける可能性はあるが、メールアドレスを変更し私のメッセージが届かない様にしてしまえば良い。
もしくは、確実性を高めるには現在、君が扱っているであろう端末を破壊する事だ。
この時、基盤やハードディスクの破壊は徹底しなければならない。
でなければ、復元されてしまう可能性がある。そこは留意しておいてくれ。
さて、では、ここからは君が私を信じてくれていると信じて、いつもの様に資料のデーターを送信しようと思う。
だが、これから送る資料はいつもの資料ではない事に留意してほしい。
もはや君には私から送ってはならないメールが受信されてしまった状態だ。
この状態において、そのメールと同等な危険性を持つ資料を送信する事は今やハードルが消えてしまった事を意味している。
君のもとに彼らがまだ、来ていないのであれば、あのメールは彼らの監視網を突破したという事だ。
であるならば、ここからは私は君に私の研究チームの資料ではなく。
私が彼らのデータファイルから抜き取った資料を君に送ろうと思う。
これまでとは違い、バレる可能性は格段に高まるであろうが、もうあのメールを誤送信してしまった時点でそれは後の祭りだ。
だから、小出しで情報を送る事は終了だ。
必ずや君ならば謎を解いて理解してくれると信じている。
絶対にこれを、ウィキパディアを理解してくれ。
それこそが、全ての人にとって重要な事。このような重大な事実は彼らだけが独占して良い代物ではない。
決して。
多くでなくて良い。少しでも良い。
少しの人でも私はこの事実を知ってもらいたい。
すべてはもう始まっているのだ。
我々は準備しなければならない。
その準備は当然、彼らもしているだろう。だが、私は、それだけでは不十分であると考える。
彼らの対応も完全だとは限らない。
私は君が真実に気づいてくれる事を祈っている。




