34話 褐色の少年
私は今日、死ぬかもしれない。
目の前には海斗君がナイフを持って迫って来ている。
出来れば死にたくは無いのだけど、私はこの子からどうしても逃げる訳にはいかない。
何故なら北見海斗は孤独だから。
きっともう、誰も味方はいないと思うから。
私にはナハトやお姉ちゃん、スカイブルータウンのみんながいるけど、昔はずっと孤独だった記憶が病院から目覚めた時にあるのだ。
大切な人を亡くして、死んでるみたいに世界中を彷徨った記憶だ。
この子がとても悪い事をしたという事は分かってる。
だけどーー。
あの時海斗君が言ったお姉さんになって欲しいという言葉は本当だと思うんだ。
私は元猫だから、君のお姉さんにはなれないけれど、 君を抱きしめるくらいは、出来るから。
目を閉じる。
そしてナハトの事を考えた。
最後には、貴方の事を想った。
貴方の事だけ想いたかった。
「……次は猫に生まれたいなぁ」
神様にお願いする様に、私は呟いた。
「やれやれ、貴方少し、優しすぎるよ」
「え......」
目を見開く。
目の前には、褐色肌の少年の姿があった。黒い少年は右足で海人君の持つナイフをはじき飛ばしていた。
「だけど、貴方はそれでいい。貴方の道を歩くんだ。その道を照らすのは、僕の役目なのだから」
月の光を吸い取ったように輝く瞳は、まるで夜が少年の形を作り出した様に見えた。
「なんだ、お前……どこの組織だ」
海人君は呆気に取られている。黒い少年は不敵に笑った。
「名乗るほどの者じゃ無いが、これも礼儀だ。名はカルテス・リヒト。その人には、手を出させない」
「……ふざけるな!」
海人君は見えないくらいの早さで懐からもう一つのナイフを取り出した。そのまま黒い少年の心臓を目掛け。突撃する。
「危ない!」
私は咄嗟に叫んでいた。初めて会うのに、彼の事を私は心から心配している事に気がついた。
あの瞳を、冷たい灯りと名乗った少年を、私は知っている……?
頭の中で、知らない映像が一瞬過る。
黒い少年は少ない動作でナイフを躱しきる。海人君は素早く正確にナイフを振るけれど、どれも黒い少年には掠りもしなかった。まるで影を斬るように当たらない。
「悪いが、暗殺者との戦いには慣れているんでね」
黒い少年はそう言い、見えなくなったと思うと、海人君が持つナイフを奪い、驚く彼にそのまま足払い。海人君はその場に倒れてしまう。黒い少年はナイフを倒れた海人君に向けた。私はただ、黒い男の子に目を奪われていた。
遠くで、サイレンの音が聞こえた。パトカーの音だ。
お姉ちゃんが用意してたのだ。
やっぱり私のお姉ちゃんは、頼れる人だ。
褐色の少年は呼吸を全く乱さず言葉を発した。
「チェックメイト。このまま君を拘束し、警察に突き出す。もう、終わりにしよう」




