表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/42

27話 煙草の獣医

「ナハト、起きて」

僕を呼ぶ声が聞こえる。瞼を開けると、ご主人が頬笑んでいた。

「どうしたの? なんだかうなされていた様に見えたけれど……」

「僕は……大丈夫だ」

「僕?」

 ご主人は不思議そうに首を傾げる。僕――私は慌てて首を振る。私は今、猫と人間の記憶があり、さらに言うと猫の私は大人だが、人間の時はまだ子供だったのだ。

 どうにも混乱してしまう。

「い、いや、それよりご主人、似顔絵の方は完成したのか?」

「バッチリだよ!」ご主人は得意そうにスケッチブックを広げた。

「これは……すごいな」彼女が描いた絵は、あのホームレスと瓜二つだった。彼女はあの男を見たことが無いというのに、この完成度は圧巻だ。

 「えっへん、私は今注目の画家だからね」ご主人は自信ありげに笑う。「これを持って、紗綾さんの所に行くよ」


「紗綾とは、あの煙草好きの獣医か?」

 そう、確か彼女は牧野沙綾という名前だった。私はハッと思い出した。

「そうか、彼女はトラ達の供養を担当していて、事件当日現場にいた」

私の声に、ご主人は真剣な眼差しで頷く。

「うん、この近くの獣医さんは沙綾さんしかいないから。それにあの人はきっと、現場向かったと思うの」

「? どうして?」


「あの人は特に猫を大事にしている。前に、猫に返しきれない恩があるって言ってたから」ご主人は笑みを浮かべた。少しだけ悲しい笑い方だった。

「多分、私と凄く似ているの」

「それは……彼女が元猫だったりとか?」

 考えて見れば、ご主人といい、私といい、前世が違う種族なのは、特別な事では無いのかも知れない。

 例えばあの妖しい女神がそう仕向けているのかもしれない。


 いくつもの予想が、私の頭の中を過ぎった。

 「さ、ナハト行こ。私お金払ってくるね」

 そう言ってご主人はレジカウンターの方へ駆けていく。先ほどの男性店員が少し戸惑う様に金額を告げた。「ありがとう、また来るね」ご主人は魅惑的な微笑みを送り外に出ても、彼はまだご主人を目で追っていた。


 むぅ、まったく……。

「ご主人、さっきも言ったが異性を誘惑しないでくれ。付きまとわれたらどうするのだ」

 私は彼女の隣で少し怒る。ご主人はまたもやキョトンとした表情で、「そうだった?」と言う。

「でも、大丈夫」彼女は屈託無く笑う。「もしそうなったら、君が守ってくれるんでしょう?」

 私は虚を突かれた。……やれやれ。

「こうも不安ごとが増えると、私は休めないな」









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ