シェーラは電気うさぎの夢を見るかもです そのよん
ザックは腑に落ちない表情で、ロドリゲス兄弟そしてシェーラを連れて家に戻る。
すると、猫娘のミャアが四人を出迎えた。そしてニコニコしながらシェーラの手を握る――
「待ってたにゃシェーラ。一緒に行こうにゃ」
「え、ええと……あの、ミャアさん、何の御用でしょうか……」
「いいから来るにゃ。シェーラはミャアと一緒にお外で遊ぶにゃ。ついでに、街を案内してやるにゃ。ほら、デュークも来いにゃ。一緒に散歩するにゃ」
きょとんとするシェーラの手を、強引に引っ張るミャア。その後を、何やら重大な任務に赴くような様子で付いて行くパグ犬のデューク。そして帰ると同時に昼寝を始めるロドリゲス兄弟。ヒロコは上の階を掃除しているのか、あるいは外で買い物をしているのか、姿が見えない。
そしてザックは一人、事務所兼応接間として使っている部屋で悩んでいた――
「ううう……何がどうなっているのだ……」
この事態は、ザックの頭の情報処理能力を超えていた。どうすればいいのかわからない。いや、それ以前に現状が把握できていないのだ。
一体、どうなっているのだ……両親はいない上に指紋がないだと? 指紋……そういえば昔、シモンという伝説の勇者がいたらしいな……穴を掘るのが得意な……何の意味もない!
「どうしたんですか、ザックさん?」
部屋に入って来たヒロコが尋ねる。するとザックは――
「なあヒロコ……私はどうしたらいいのだ……」
「え、ええと……どうしました?」
「聞いてくれるか……実はな……」
「そうだったんですか……しかし、不思議な話もあったものですね……両親がいない上に、指紋もない。でも記憶はあるんですよね……」
そう言いながら、ヒロコは思案げな表情になる。ザックもまた考えていた。私はどうすればいいと言うのだ? これでは全然、儲からないではないか! クソ、腹が立つ……そうだ、腹立つからウォーリアーズのボスであるヒューマンガスと会ってみるか……ついでに、奴から寄付もいただこう。最近、儲かっているらしいからな。
ザックは立ち上がる。考え過ぎてじんましんが出そうだ。
「ヒロコ、私は出かけるぞ――」
「ちょっと……待ってください」
ヒロコに呼び止められ、ザックは立ち止まった。ヒロコが呼び止める……珍しいこともあるものだ。どういうことだろう。
「まずはシェーラちゃんから、もう一度詳しい話を聞かないと。ところで……両親がいないってことは、シェーラちゃんに言ったんですか?」
「いや……そう言えば、まだ言ってないな。後で早速――」
「言わなくていいです! 黙っててください!」
ヒロコの鋭い声。ザックはビクッとして、身をすくめる。何か知らんが、ヒロコ怖い……ヒロコはニートと呼ばれる者だったそうだが、この恐ろしい度胸はニートをしていて培われたのだろうか。となると……ニートとは、さぞかし恐ろしい仕事なのだろう。
「とにかく、シェーラちゃんが帰って来たら、あたしが詳しく聞いてみます。呼び止めちゃってすみませんでした。お仕事、頑張ってください」
ヒロコはにっこり微笑んだ。
そして……ザックは一人、道を行く。ザックは一人で行くものさ……などとワケわからんことを呟きながら歩いていた。目指すはウォーリアーズのアジトである。ロドリゲス兄弟はあまりに平和そうな顔で眠っていたので、起こすのが面倒くさくて置いてきたのだ。ロドリゲス兄弟抜きでも、特に問題はない。
そして今、ザックはウォーリアーズのアジト――表向きは革の縫製工場だが――にいた。
「てめえがザック・シモンズか……何の用だ?」
ドスの利いた声を出したのは、ウォーリアーズの幹部、モヒカン刈りの大男ウエズだ。ロドリゲス兄弟ほどではないにしろ、ザックを見下ろすほどに背は高く、体は筋肉質だ。さらに、ザックの周りを取り囲むモヒカン軍団……その時、ザックの頭に疑問が浮かぶ。
「貴様らは、揃いも揃ってなぜその髪型にしているのだ?」
ザックが疑問を口にしたとたん――
「んだとゴラア!」
「殺すぞ!」
「死なすぞ!」
ザックに浴びせかけられる、知性の欠片もなく、そして何の捻りもない言葉の数々……ザックはため息をついた。エンジェルスの連中はザックの強さをよく知っていた。リーダーであるダミアンの教育が、末端まで行き届いていたのだ。だからこそ、ダミアンには何の障害もなく会うことができた。しかし、こいつらは……何もわかっていないらしい。
仕方なくザックは手を伸ばし、手近にいる男のモヒカンを掴んだ。
次の瞬間、燃え上がるモヒカン頭――
悲鳴を上げ、自らの頭をはたくモヒカン……いや、スキンヘッド。
「て、てめえがやったのか! 殺すぞ!」
今度は、別のモヒカンがザックに掴みかかった。
しかし……。
またしても、髪の毛を燃やされたモヒカン……悲鳴を上げながら自分の頭を叩き、必死の形相で火を消そうと試みる。
そして……怯えた顔でザックから離れていくモヒカンたち。その時になってようやく、ザックの得体の知れない力と圧倒的な強さとを理解したのだ。




