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恐怖! うっサギ男! (5)

 カシムがヒャッハーな若者たちを撃退したのを見届けた後、ザックたちはさらに街を歩いた。暗黒竜メディッチ・ブンドルの居場所を突き止めるためである。とりあえずは、街のあちこちにいる目撃者から話を聞き、情報収集に努めていたのだ。


 しかし、聞けば聞くほどメディッチの所業は理解不能であった。

「おい、メディッチとは何者なのだ? 本当に暗黒竜なのか?」

 言いながら、首を傾げるザック。

 そうなのだ。メディッチはあちこちに現れているものの、大した悪さはしていない。大音量で狂気めいたメロディーの音楽を鳴らしながら登場し、「美しくない」という一言ととも手からビームを放ち、街のゴミを消し去るだけ。暗黒竜らしき動きは一切していないのだ。もっとも、暗黒竜らしき動きとは? と聞かれても困ってしまうが。

「本当だな。こりゃ、放っといてもいいかも知れないな」

 ジャンは、完全にやる気のない表情で言った。だが、その言葉を聞いたカシムの表情が一変する。

「それは、非常に良くないであろー。前の世界では、メディッチは世界を征服するために、あちこちの国に攻めこんでいたのであろー。この世界でも、今はおとなしくしているだけかもしれないであろー」

 真剣な表情で、二人に訴えるカシム……だが、ザックとジャンにはやる気がない。そもそも、騒音以外に大した悪さをしていないのだから仕方ないのだが。

「なあカシム、今日のところは引き上げようではないか。ひとまず帰って、続きは明日だ」

 声をかけるザック。これ以上、そのメディッチとやらを捜すのは面倒くさい。今日はさっさと帰って、にゃんころもち食べて眠りたいところだ。

「ううう、では仕方ないであろー。メディッチの捜索は、明日にするであろー」

 ガックリと肩を落として、とぼとぼ歩き出したカシム。先ほどまでの勢いが嘘のようだ。ザックは、さすがに気の毒になった。

「カシム、何も急ぐことはあるまい。急いては事を仕損じる。今は慎重に動こうではないか。まずは、わが屋敷に帰って作戦を練り直そう」

 そう言って、カシムの肩を叩いた。


 ところが、ザックたちが屋敷に戻ると……そこには、奇妙な青年が待っていたのであった。

 青年は派手な衣装を身に纏い、落ち着いた風情でソファーに座っている。長い金髪は美しく、顔はまるで昔話に登場する王公貴族のような気品を感じさせる。どこか憂いを帯びた表情で、ザック邸のソファーに座っていた。

 すると、カシムが飛び上がる。

「お、お前は! 暗黒竜メディッチ・ブンドルであろー!」

「えっ?」

 ザックとジャンが顔を見合わせた。一方、カシムはプルプルと体を震わせる。

「おおお、ここで会ったが百年目であろー。覚悟するであろー!」

 カシムは怒鳴り、弓を構える。だが、メディッチは冷静な表情だ。

「やめないか。私は争いに来たのではない。誤解を解くために来た」

「誤解!? 何が誤解であろー! お前は破壊の限りを尽くす暗黒竜であろー! 僕はお前を許さないであろー!」

 地団駄を踏みながら叫ぶカシム。だが、ザックとジャンが間に入った。

「待つのだ! 貴様ら、ここは私の屋敷だぞ! まずは話し合え!」

 怒鳴りつけ、両者を睨み付けるザック。カシムはしぶしぶ弓矢を収めた。

 すると、メディッチが口を開く。

「まず、一つ言っておきたいのだが……私は今さら、この世界で悪さをする気はない」

「嘘をつくなであろー! お前は、あちこちで物を壊していたであろー!」

 カシムは、メディッチを指差しながら叫ぶ。しかし、メディッチは苦笑するだけだった。

「私は、巨大なゴミを消し去っただけだ。そもそも、あの世界で何ゆえに侵略戦争をしていたのか、今になって見ると理解不能だよ。一つ確かなのは、この世界で侵略戦争を起こす気などない」

「えっ……」

 呆然となるカシム。だが、メディッチは言葉を続ける。

「私は、こんなのどかな世界を征服しようなどとは思わん。この世界は、実に美しい。特に、この屋敷の者たちを見よ」

 そう言うと、メディッチは立ち上がった。優雅な姿勢で、屋敷の面々を指し示していく。

「可憐なる少女、野性的な猫娘、筋肉の塊のような勇敢なる双子、家族に忠実な犬、それらを束ねる異世界からの美女。こんな均整の取れた見事なチームを、私は見たことがない。この奇跡のコラボレーションが、お前には理解出来んのか? カシム?」

 芝居がかった仕草で、カシムに迫るメディッチ。だがヒロコやシェーラたちは、この会話の訳のわからなさに困惑していた。

 しかし、カシムは負けていない。

「嘘をつくなであろー! お前みたいな邪悪な暗黒竜が、簡単に改心するはずがなかろー! お前は嘘をついているであろー!」

 カシムの言葉に、メディッチは呆れたような様子で首を振る。

「カシム……私を嘘つきだと言うが、嘘つきに関しては、お前の方が上だぞ。お前は前の世界では、ダリスのサギ師と言われていたではないか」

 メディッチの言葉に、思わず顔を見合せるザックとジャン。すると、カシムの顔が真っ赤になった。

「な、何を言っているであろー! 僕はサギ師ではないであろー!」

 地団駄を踏みながら叫ぶカシム。だが、メディッチは容赦しない。

「お前はアルスやシーラから、母が病気で……などと言って金をせびっていたそうではないか。だが、お前の母はピンピンしていたはずだ」

 メディッチの言葉に、カシムはついにぶちギレたらしい。その場でワナワナと震え出した。

 そして、メディッチを睨む。

「お、覚えてやがれ、であろー!」

 叫ぶと同時に、外に走って行ったカシム。一方、メディッチは落ち着きはらっていた。堂々とした態度で、ザックとジャンの方を向く。

「私は、君たちと争うつもりはない。そもそも、侵略だの征服だのは、前世でやり尽くした。ここでは、静かに暮らしたいのだ。今回は、そのことを伝えに来た。では、失礼する」

 そう言うと、メディッチは何事も無かったかのように去って行った。

 一方、ザックとジャンは顔を見合わせる。

「そういえば、聞いたことあるぜ。転生者の中には、性格が変わっちまう奴がいるってさ。あのメディッチも、転生を期に変わったのかもしれねえな」

 ジャンの言葉に、ザックは頷いた。確かに、転生者には傍若無人に振る舞う者が多い。前世では無職であったり童貞であったり苛められっ子であったりしたような者が、転生したとたんに町のチンピラのごとき振る舞いをする……あり得る話だ。

「なるほどな。そうかもしれんな」







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