怪奇! サタングロス! (3)
サタングロスは転生者である。転生前は『ドラの穴』という、プロレスによる世界征服を企む悪の秘密結社に所属していた。赤き死の仮面と名乗り、世界各国のリングで悪さをしていたのだ。
しかし、獣神ライガーマスクという正義のプロレスラーの前に敗れ、リング上で死亡した……のだが、神はなぜか、この男を超人として転生させてしまったのである。
そして転生した後、男は神にサタングロスという名前を与えられたのだ。男は首を傾げながらも、ありがたくその名を頂戴する。
そして今、サタングロスは……とりあえず、あちこちのショーをぶち壊しているのだ。前世でプロレスラーだった時、サタングロスはあちこちのプロレスの試合に乱入しては、レスラーを叩きのめして去って行った……もっとも、それら全てはドラの穴の上司の命令である。
しかし、幼い頃からドラの穴で育てられ、エリート悪役レスラーとしての教育のみを受けてきたサタングロスは……こんな異世界にいきなり放り出されても、何をすればいいのか分からない。基本的に、彼はプロレス以外のことは何も出来ない男なのである。
サタングロスは考えに考えた挙げ句、今まで通りの生活をする事にした。
ショーに乱入して、ぶち壊すことにしたのだ。
そして今、サタングロスの目の前では……奇怪なショーが開催されている。リングの上で、筋骨逞しい二人の大男がブーメランパンツ一丁で取っ組み合っているのだ。二人とも、全く同じ顔をしており体格も瓜二つである。
それを裁いているレフェリーは、猫のような耳の付いた女だ。
「お前ら! ファイトだにゃ! どっちも頑張るんだにゃ!」
叫びながら、興奮した様子で二人の周りをぴょんぴょん飛び跳ねている。
さらに、その周りでは……十人にも満たない観客が無言のまま、じっと試合を観ている。何とも異様な風景だ。
それを見ていたサタングロスは、胸はわくわくし血は沸き立ってきてしまったのだ。もはや、ただ見ていることに耐えきれなくなり、凄まじい勢いで駆け出しリングに上がる。
そして叫んだ。
「俺は赤き死の仮面だ! 二千の超反則技を使いこなす悪魔だぞ! 世界最強の反則王だ!」
すると、組み合っていた大男二人が動きを止め、くるりとこちらを向いた。その顔には、笑みが浮かんでいる、
と同時に、猫耳のレフェリーも口に手を当てて笑った。
「ぷぷぷ……引っかかったにゃ……」
・・・
いきなり、リング上に乱入してきた赤いコスチュームの男……その様は、まるで昆虫人間のようだった。頭から飛び出た二本の触角、やたらと大きな複眼、尖った耳、常に笑っているかのような口元。制作者の狂気めいたセンスを感じるコスチュームだ。
「何なのだ、あのバカは……」
観客のふりをしていたザックだったが、あまりの姿に思わず呟いていた。それくらい、とんでもない格好である。
だが、リング上のロドリゲス兄弟とミャアはお構い無しだ。三人は凄まじい勢いで、サタングロスに飛びかかっていく。いくら転生者といえど、この三人が相手ではひとたまりもあるまい……ザックは高見の見物をすることにした。
しかし――
「甘い、甘いぞ! 二千の反則技の一つ、髪分身!」
三人の攻撃をかわし、サタングロスは叫んだ。と同時にトップロープに昇り、マスクからはみ出た自らの髪を数本引き抜く。
その髪に、息を吹きかけると――
たちまち、数人の新たなるサタングロスが現れたのだ。
この出来事を前に、戸惑うミャアとロドリゲス兄弟……一方、サタングロスは勝ち誇った表情で語り始める。
「いいか、お前ら……俺は分身が出来るんだ。その数は、最大なんと百四十四人だぞ。どうだ、驚いただろうが」
この言葉を聞き、リング上で立ちすくむ三人。
「百四十四人……数えられない……」
「百四十四人……俺たちより、何人多いんだ?」
「い、いくつだにゃ?」
頭を寄せ合い、ひそひそと相談する三人。すると、そんな三人を見かねたシェーラがリング上に上がって行った。
そして叫ぶ。
「皆さん、何をやっているのです! 早く、悪い奴らをやっつけるのです!」
その声を聞き、はっと我に返る三人。
次の瞬間――
「おんどりゃぁぁぁ!」
「こんどるぅぅぅぅ!」
「ふしゃぁぁぁ!」
雄叫びを上げ、突進していく三人。
サタングロスの分身めがけ、ドロップキックを喰らわすスカイ・ロドリゲス。超低空タックルを喰らわすグラン・ロドリゲス。コズミッククラッシュ式猫パンチを喰らわすミャア……。
あっという間に、分身たちをノックアウトしてしまったのだ。倒れた分身たちは、元の髪の毛に戻っていく……。
しかし、サタングロスは怯まなかった。トップロープの上から、さらに分身を作り出す。自らの髪の毛をむしり取り、さらなる分身を作り出す。
「わはははは! 俺はサタングロス! 二千の反則技を持つ、赤き死の仮面だ! 百四十四の分身にかかれば、貴様らなど――」
だが、最後まで言い終えることは出来なかった。
ザックはため息をつき、右手の人差し指を向ける。すると、指が白く輝き始める。
そして、光の弾丸が放たれた――
光の弾丸はサタングロスの胸に命中し、彼は転げ落ちる。完全に気絶していた……。
「それ以上髪の毛を抜いたら、ハゲ分身になってしまうぞ、バカ者が……」




