殺し人走る 四
「くそ、みんな逃げるんだ! 店ごとぶっ飛んじまうぞ!」
ザックは慌てて、シェーラとヒロコを担ぎ上げる。しかし――
「チッチッチッチッチ。こんなもんにビビってるようじゃあ……ここいらじゃあ三番目以下だな」
ケーンの声。と同時に、いきなり魔法爆弾を手に持ちジャンプした。そして地面に叩きつける――
「バカものが! 貴様何をするか!」
ザックが罵声を浴びせる。だが驚いたことに、魔法爆弾は床に沈んでいく……まるで床が水に変わったかのように、魔法爆弾が床の下に沈んでいったのだ。そして魔法爆弾は見えなくなり――
ややあって、地面が軽く揺れた……。
そして、ケーンの勝ち誇った表情。
「見たか……これが俺のモール・キックさ」
ケーンの声を聞き、ザックは呆れた表情のまま固まっていた。モール・キックとはなんなのだ? 今のはキックでも何でもない。ただジャンプし、魔法爆弾を床に叩きつけただけではないか……両手を使っているのに、なぜキック? しかも、なぜ沈んでいった? しかも、こんな理不尽かつデタラメな真似をしておいて、なぜケーンは勝ち誇った顔をしているのだ?
「あのぉ……ザックさん……いつまで担いでるつもりなんです?」
ヒロコの声を聞き、ザックは我に返る。そうだった……思わず、二人を担ぎ上げてしまっていたのだ。そして、手に柔らかい物が当たる感触。ザックは慌てて二人を降ろす。
「どさくさに紛れて、お尻触らないでください!」
ヒロコの非難する声。だが、ザックの頭の中には……。
待てよ……これはもしや、暗殺者の仕業ではないのか? 魔法爆弾を用いるとは……本当にとんでもない奴らだ。どうやら、手段を選ばずに私を消すつもりらしい。となると、我が部下たちにも危険が迫る可能性がある……。
ザックは考えてみた。ふと、隣でチッチッチ言ってる男のことを思い出す。そうだ。ケーンに頼めばいいのだ。ケーンならば、このデタラメかつ理不尽なチート能力で、どんな奴が来ようとも返り討ちにしてくれるだろう。
もちろん、この男には頼みたくはない。だが、部下の命がかかっているのだ。相手が手段を選ばないとわかった以上、こちらも手段を選んでいられない。
「おいケーン、貴様に頼みがある」
「ん? お前さんが俺に頼みごととは珍しいな。一体何なんだい?」
ケーンは相変わらずクールな表情で答える。ザックは不快になった。やっぱり頼みたくはない。どう考えても嫌だ。しかし……。
「いいか、実はな……私は何者かに命を狙われているようなのだ。首に賞金まで懸けられたらしい。今の魔法爆弾は恐らく、私を狙ったものであろう。だから……我が部下たちをしばらくの間、預かって欲しいのだが……」
「何!? 飛鳥って欲しいだと――」
「ちぃがーう! 預かって欲しい、と言ったのだ! アスカって欲しい、とはどこの方言だ!」
「ああ、そうか。そうだよな……驚いたぜ。まあ、それは構わんが、しかしな……お前さん、その頼み方じゃあ二番目だ」
ケーンは涼しい顔でそう言ってのける。ザックはさらに気分が落ちてきた。また、この展開なのか……もう嫌だ……こんなバカに頼みごとをしなくてはならない自分が悲しい……。
しかし、部下の命には変えられないのだ。このままだと、再度襲撃を受けた時に万が一、ということがあるのだ。
「で、では一番は誰なのだ……」
ザックが嫌々ながら尋ねると、ケーンはヒュウ、と口笛を吹く。そしてニヤリと笑い、親指を立てて――
「俺だ」
ザックは深いため息をついた。何なのだろう、このやり取り……。
「で、では……どうやって頼めばいいのだ」
げんなりした表情で、尋ねるザック。すると――
「人にものを頼む時は……お願いします、だろう?」
なんと面倒くさい男なのか……ザックは思った。こやつ、いずれ泣かす。絶対に泣かしてやる。
「お願いします、ケーン様……」
ザックは頭を下げる。するとケーンはニヤリと笑い、うなずいてみせる。
「まあ、いいだろう。じゃあ、さっそく帰って引っ越しの用意だな」
「いいか、お前ら……しばらくはお泊まりだ。このケーンに迷惑をかけないようにするのだぞ」
家に帰り、ザックは部下たちの前で宣言する。その横で、訳知り顔でウンウンうなずいているケーン。 そして他の者たちは荷造りをしている……とは言っても、まともに荷造りしているのはヒロコだけだ。ロドリゲス兄弟はバーベルやダンベルを背負って行こうとしてヒロコに叱られた。ミャアに至っては、シェーラをリュックに入れようとして――
「それは……私が辛いのです……私もこのリュックには入れないのです……入ったら……凄く苦しいと思うのです……」
とすまなそうな表情で言われて、仕方なく諦めたのだ。
そんなわけでヒロコが仕切って全員の荷造りを済ませた。そしてザックを除く全員が嬉々として外に出ていった。遠足にでも行くような雰囲気である。まあ、あながち間違いではないのだが。




