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自宅警備兵  作者: SIN


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38/50

16 th BREAK

 昨日の夜、8時半頃に親父達が旅行から帰ってきた。

 「しんどい」だの「暑い」だのと言いながら自室に向かい、着替えてからダイニングへ、そこで2人揃ってビールを飲んでいる。

 聞こえて来る会話の内容から、親父は新母親の実家に行って挨拶程度の事をして来たようだ。

 新母親の実家訪問と言う極度の緊張感からなのか、スッカリと忘れ去られているもの、それは、頼んでいたお土産である。しかもお土産を忘れている事すら忘れていると言う思い切りの良さ。

 2人が無事に帰って来た事をお土産としようではないか!

 そんな感じで今日からは普段通りの平日。盆が終わったと振り返ってみると、結構色んな事があった。

 その中でも1番の事件は、姉と姪の数時間訪問だ。

 夜中に来るというテロをやらかしておきながら、それでも事前連絡もなくやって来た姉と姪。

 夜中に来た時、親父は姉に電車代と飯代として千円を渡しており、それの返済に来た。と言っているが勝手に冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出しているので、残念な事に誠意が微塵にも感じられない。

 「お母さん、オジサンは?」

 姪がコソコソと姉の後ろに隠れながら、俺にではなく姉に小声で尋ねている。

 「なんでアタシに聞くん?知らんやん。誰に聞いたら分かるんか考えろや」

 いやいや、そんな言い方せんでも!

 姪は更に小声になり、完全に俯きながら多分俺に向かってもう1度「オジサンは?」と尋ねてきた。

 なんだろう、この前来た時よりも人見知りになってないか?

 「ドライブに行きましたよ。事前に連絡があれば待ってたと思いますけど」

 と、姉に向かって言ってみる。

 「へぇ~。アイツこんな暑い中よ~やるわぁ」

 ちょっとした皮肉は通じないようだ。

 携帯画面を眺めながら人の家のビールを飲む姉と、無言の俺と姪。無言の空間に気まずさを感じない俺はナチュラルなボッチ!しかし姪は居心地が相当悪いのか俯き、時折時計と玄関を眺めていた。

 全力で帰りたい姪と、熱心に携帯画面を見つめている姉は結局夕方の6時過ぎまで居座り続けたが、弟が帰って来ないまま帰り支度を始めた。

 ここに親父がいたら「かなり飲んだんや、危ないから泊まって行け」とか言うのだろうし、素面の弟なら「車で送ってくわ」と言うのだろう。しかし、今ここにいるのは俺だけである。

 「駅まで送るわ」

 しか言えない。

 駅までの道中、姉は旧母親とウマが合わないと愚痴り始めた。だからって喧嘩する度に泊まりに来られるのは勘弁願いたい。

 遠回しに言っても、少々皮肉を込めても通じないのだから、もう直接的に「頻繁に来ないでくれ」と言った方が良いのかも知れない。

 沸点の低い姉の事、はっきりと言えばきっとキレてしまうのだろうが、事前連絡もなく来る事が普通となってしまっている現状の見直しだけでもしてもらいたい。

 よし、ビシッと言ってやる!

 クイクイ。

 切符を買っている姉の背後に立つと、服を引っ張られた。

 視線を下げると姪がいて、背負っていた鞄の中から1つの袋を取り出し、熱い眼差しで俺を凝視しつつ差し出してきた。

 その袋には、ボールペンでこう書いてあった、

 ハッピーバースデイ。

 言わんとしている事は理解出来ているつもりだが、それにしては俺に対する視線が熱い。もしかして、まさか…本当に?いやいや。

 「ちょっと遅れたけど、オジサンに…」

 あぁ、この一言を言う為の集中時間が必要だったのか。って、俺は一体どんな近寄りがたい雰囲気を醸し出していたと言うのだろうか?

 姪が今日姉と一緒に来たのは、コレを弟に手渡す為だったのだろう。それなのに弟はドライブから戻っては来なかった。

 自分で手渡したかっただろうに…。

 俺は少し屈み込み、

 「ありがとうな、ちゃんと渡しとくわな」

 と、姪の頭を撫ぜた。

 もちろん、怖がらせては駄目だと思って笑顔を作りながら!

 結局はっきりと言ってやる前に姉は笑顔の姪の手を引いて改札を抜けて行ってしまったので、手を振る事しか出来なくなった。

 2人の後姿を見送りながら俺は「弟がオジサンで、親父がオッチャン。新母親はオバチャンと呼ばれていた。なら、俺はなんて呼ばれているのだろうか……」とボンヤリ考えていた。

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