11 th BREAK
去年と同じ、去年までと同じだと思っていた。
何も考えず、いつものようにスーパーに行って、発泡酒ではなく、6缶入りのビールを買って。
少し重いな、とか考えながら梅雨の癖に恐ろしく晴れ渡った空なんかを見上げて。
何事もなく1日が過ぎると思っていたんだ。
改めて考えてみるまでは。
「おぅ。おかえりー」
スーパーから戻るとダイニングには弟がいた。
「ん。ただいま」
袋からビールを出して冷蔵庫を開けると、中にはロング缶のビールが2本。
「あー、被った」
そう言いながらビールを見せると、弟は笑いながら、
「そんなスグ腐るモンちゃうし、えぇやろ」
と。
親父は新母親と2人で飯を食べに行っていたので、帰りは遅くなるだろうと俺達は一旦解散する事にしたのだが、気が付いてしまったのだ。
去年とは状況が違っていた事を。
親父は今、新母親と食事に行っている。
そう、新母親と。
「母の日、すっかり忘れてたな」
「あーホンマや」
母の日に何かすると言う習慣がなく育った、との言い訳はあるが、父の日にガッツリと祝う俺達を新母親はどう思うだろうか?
疎外感なんか抱かれては大変だ。
「なんかケーキみたいなん買って来る」
「みたいなんってなんやねん。ケーキでえぇやん。俺も行くわ」
こうして2人でケーキ屋に向かい、どれが良いだろうかと眺めている俺の隣で弟は、
「ショート1つ、チーズ1つ、チョコ1つ。で、どれにする?」
と、指を差しながらパパッと注文し、最後に俺の顔を見上げた。
甘い物は得意ではないが、店員さんも俺に注目する中での「いりません」は、流石に言えない。
「あ、じゃあ…ザッハトルテ」
恐ろしく甘い事は知っているが、弟が好きなチョコケーキと言う事も知っている。何を選んだ所で半分程で弟に食べてもらうのだから、それなら好きな物を選ぼうと言う素晴らしい兄の気配りである!
「やった、んじゃあここは俺出すわ」
なにっ!?
財布を開けた弟は既にレジの前を陣取って立っている。
ならば。
「チューハイ奢るわ」
「おぅ」
こうして買出しが終わって帰宅したのだが、親父達は「父の日」には帰って来なかったのだった。




