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自宅警備兵  作者: SIN


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22/50

6 th BREAK

 空咳が出始めたのは正月の事だった。

 手強かったお客さんが帰宅し、荒れ果てた部屋の片付けをしていた時の事、何処からともなくシューっとスプレーの噴出す音が聞こえてきた。そして部屋中に漂うラベンダーの香り。

 芳香剤なんて家にはなかった筈、なのに何処から?しかし芳香剤を置くならトイレか?とトイレのドアを開けた途端、恐ろしい臭撃が襲い掛かってきた。

 「ゴホッゲホッ」

 咳をするとその反動で大きく呼吸をする事になり、そこで吸うのはまた芳香剤濃度の凄まじい空気である。

 激しく咳き込みながらもシューと出続けているスプレー缶を探さなければならない。こうして出っ放しになっていたスプレー缶の処理をしたのだが、そこから3ヶ月空咳が止まらない。

 正月には軽く風邪を引いていて、その上フリータイムのカラオケ、そこでの臭撃だったので始めは喉に負担がかかっただけだと思っていた。

 喉を冷やさないようにマフラーをし、喉に良いとパートのオバサンにもらったハチミツと殺菌作用があると教えてもらった紅茶と、ハチミツ大根。ハチミツレモンなども試し、徐々に治まりつつあったのだが、春の気候になりマフラーを取って生活を始めた途端、地味に空咳が再発した。

 こうして今日、かなり重い足を病院へと向けたのだった。

 待合室で出そうになる溜息を我慢しつつ、極度の緊張を誤魔化すためにテレビ画面を眺める。

 「木場さーん」

 名前を呼ばれて診察室に入り、医者の前にある丸椅子に座った。

 カルテを眺めながら「どうしました?」と声をかけてくる医者、今日が初診だというのにそのカルテには何が書いてあるのだろうか?と思いつつ空咳が正月から止まらない事を告げる。

 「ふん…じゃあ、前を開けて下さい」

 と、聴診器を耳にかける医者は、結構長い時間心音を聞き、時々咳をしてくださいと言って来た。

 1度咳をすると止まらなくなると説明した筈なのにだ。

 「ゴホッ・・・ゲホッ」

 何とか数回で止まった咳。医者は後ろを向いてーとか言いながら丸椅子をクルンと回してきた。成す術もなく背中を向けられ、今度は背中側から心音を聞く医者。そしてまた咳をして下さい、と。

 喉を見ろ、喉を!

 診察開始から結構な時間が経ち、やっと口を開けてーと言われて開ける。

 「あー、随分腫れてますねぇ、じゃあ、注射しましょうか」

 喉に直接注射を!?

 いや、そんな訳はないだろう。それに、腕だとしたって注射はお断りだ。

 「嫌です」

 「へ?」

 嫌な沈黙が続く。

 「注射するとスグに良くなりますよ?」

 まるっきり子供扱いをされていると感じつつ、俺は首を縦には振れない。

 「じゃあ塗り薬にしましょうか。少し苦いですけど」

 後ろで見ていた看護師の1人がそう言って奥の部屋に案内してくれた。そこで麺棒のような物で原液のうがい薬のような強烈な臭いと味のする薬を直接グルングルンと喉の奥に塗られ、薬成分配合のスチームが出る機械に顔を突っ込んで口呼吸する事10分。

 咳止めを処方してもらって帰宅した訳だが、正確な病名と言うのは結局最後まで聞けなかった。

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