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自宅警備兵  作者: SIN


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20/50

LEVEL-8

 今日、バイト上がりに店長から信じ難い話しを聞かされた。

 いつか、こんな日が来るんだとは分かっていたし、その時期もそろそろだろうとは思っていたと言うのに、店長の口から告げられた報告に俺は多少の衝撃を受けている。

 どうして、直接言って来ないんだ?

 高校を卒業したら就職する千手観音は、卒業と共に新社会人として巣立っていく。つまり、ここのバイトを辞めると言う事だ。

 衝撃を受けている俺などお構いなく店長は続ける、休日のセットは今週から俺がしろと。

 もう全てのセットは頭に入っているが、昼間の混雑時に無心でセット出来るかどうかはやってみない事には分からない。

 いや、そんな弱気でどうする。俺はこの定食屋を守る砦となるのだ!全てのオーダーを瞬時に覚え、完璧にセットして送り出す。ホール係りと厨房を繋ぐ唯一絶対の存在・・・千手観音2代目とならなければならない!

 上がる時間になってもサービス残業をする事1時間、千手観音が出勤してきた。

 バイトが1人辞めると言うだけで送別会がある訳でもなし、こうでもしないと話す機会がなかったからだ。

 今月で辞めるとの情報が正しいなら、締めである今日が千手観音にとっては最後の出勤と言う事になる。

 1年も一緒にはいなかったが、それでもここを共に守った仲間だと言うのに何も言わないまま辞めようとしていた。

 直接言って来い、俺はどうしたって言いたい事がある!

 「1つ聞きたい事があるんですけど」

 客に出す用のお茶をグルグルかき混ぜながら千手観音は質問してきた。

 かき回され続けている急須の中身は、色が出過ぎて汚い深緑色になっている。あれはもう飲めないレベルの渋さだろう。

 客に出せない物を作り出す行為は千手観音らしくない。

 それだけ言い辛いのか?しかし言いたい事、ではなく聞きたい事なのか?

 「なんですか?」

 今、この時が最後なんだ、恋人いない暦とかそう言うのじゃなければなんだって答える。

 「何で千手観音なんですか?」

 今更そこ!?

 呼べば普通に返事をしておきながら、実は気になってたのか。気になってたんなら最初にそう言ってくれたら良いものを・・・。

 「後姿から」

 正直に名前の由来を言ったにも拘らず千手観音はまだ良く分かってないんだろう、微妙な表情だ。だったらちゃんと説明するとしよう。丁度今誰も客がいないんだから話が多少長くなっても問題ない。

 「初めて昼に入った時。セットしてる後姿見て凄いなって思った。それが由来」

 あの時はまだ完璧にセットも覚えてなかったし、本当に人間離れしてると思ったんだ。それを、今週から俺がしなきゃならない。

 俺はちゃんと千手観音2代目を勤める事が出来るのだろうか?1代目と同じように上手く出来るだろうか?

 「木場さん、店長から聞いてると思いますけど・・・辞めます」

 まだグルグルと急須の中を菜箸でかき回している千手観音は、やっと直接言ってくれた。相当気まずいのか急須の中の深緑色の液体を熱心に見つめているが、それでも良い。

 就職出来ずにここに来た俺が、就職して出て行く千手観音に偉そうだとは思うが、そこは無礼講って事にしてくれ。

 「就職おめでとう」

 ここは俺に任せて、安心して出陣してくれ!

と、言う事が20日にあり、本日22日の日曜日、千手観音2代目に就任しました!

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