4-4 ニーディアとセレナの話
聡明で凛々しく、けれど人一倍繊細なニーディア。
天真爛漫で甘えんぼで、だれにでもかわいがられるセレナ。
もうあの子たちとは二月も会っていないのですね。まだ六歳と三歳のあの子たちとは。
ふたりとも、私と会えなくなって戸惑っているでしょう。さびしがっているでしょう。
けれどこんなに痩せおとろえた母の姿を見せるよりは。
母親の死、というものをあの子たちに見せつけてしまうよりは……。
……どうなの? あなた。どちらが正しいの?
私はいったいどうすればいいの?
あの子たちに私のこんな姿を見せたくない。それはほんとう。でも。
私はふたりに会いたい。
私はもうすぐ死んでしまうけれど、あなたたちを愛している、と残された時間すべてを使って伝えたい。ふたりを何度でも抱きしめたい。
それは身勝手なのでしょうか?
実の母親のこんな姿を見せてまで。愛情を伝えようとするのは。
教えて、あなた。
ニーディアとセレナのために──私はなにをすればいいの?
……ああ、そうでしたね。
あなたは、おかあさまが病みついてから最期の日まで会えずにいたのでしたね。
さびしかったのですね。
かなしかったのですね。
だからこそ、ふたりにはそんな思いをしてほしくないと……
…………
……わかりました。
ふたりを呼んでください、あなた。
真実を知って、ふたりは傷ついてしまうかもしれないけれど……そのときは、どうかあなたが支えてあげてくださいね。
ふたりとも。もっとこっちへきて。
だいじょうぶよ。きょうは調子がいいの。ほら、ふたりの顔をよく見せてちょうだいな。
ふたりとも、背が伸びたわね。たった二ヵ月会わなかっただけなのに、もう何年も会っていなかったみたい。おかあさまのこと、忘れたりなんてしていなかった?……ふふ、そう。
あら、セレナ。なにを持っているの?
まあ、なんてきれいな小石。庭で拾ったの? ふたりで?
すてきね。
光にかざすと瑠璃色に輝いて、ひゅるるる……と鳴くあの鳥の羽みたい。
え、おかあさまにくれるの?
おかあさまの病気が治るように、って?
……そう。ああ、ちがうの。嬉しくて泣いているのよ。
ありがとう、ふたりとも。おかあさまはかならず元気になりますからね。ねえ、あなた。
さあ、まずはニーディア。もっと近くにきて。
あなたの髪と瞳はおかあさまとおそろいね。まぶしく輝く太陽のよう。あなたにはいずれ、この国の民すべてがつきしたがうでしょう。ひとが太陽の光を崇めるように。
だから自信をもって。あなたはいらない子などではありません。
私たちがどれだけあなたのことを待ちわびていたことか。
この話はまだあなたにはしていませんでしたね。あなたには実はふたつ上のきょうだいがいたのです。でも、その子は神さまにさしあげたので私たちのもとには一日としていませんでした。
だから、あなたが産まれてきてくれたことが私たちは嬉しかった。
こうやって存在をそばに感じられるあなた。いつでも抱きしめたいときに抱きしめられるあなたのことを。
私たちは──胸が痛くなるくらい、待っていたのですよ。
愛しています。ニーディア。
私たちの子供として産まれてきてくれて、ありがとう。
……さあ。次はセレナ、こっちへおいで。
あなたはほんとうにおとうさまによく似ているわ。それなのに性格は正反対。なんだかちがう世界のおとうさまを見ているみたいね。
思えば、私の不調に一番はやく気づいてくれたのはあなたでした。
食欲がなくて夕食の鴨肉を残した私に、どうしたの、おなかいたいの、とあなたは聞いてくれたのでした。
──セレナが、いたいいたいのとんでけしてあげる!
そう言ってあなたは私のおなかをさすってくれました。私の半分もない、小さな小さな手で。
どうしてこの子はこんなにも優しいのだろう。そう思うと、私は泣いてしまいそうになりました。
あなたが周りに愛されるのは甘え上手だからではない、あなたの優しいところが伝わっているからです。それを忘れないでくださいね。あなたは、あのおじいさまの氷ですら溶かしたのですよ。
ああ、あなたが大人になっていくところを見たかった。
どれほど可憐な乙女になったでしょう。あなたの髪飾りを選び、ドレスを選ぶことはどれだけ私の日々の楽しみになったことでしょう。
……ええ、そう。わかっています。
セレナ、あなたが大人になったらおかあさまと一緒にドレスを選びましょうね。そのあとはあなたの銀髪をくしけずって、あなたに一番似合うリボンを結んであげます。
ええ、もちろん。ドレスもリボンもおそろいにしましょうね。
愛しているわ。セレナ。
私たちの子供として産まれてきてくれて、ほんとうに……ほんとうにありがとう。
大好きよ。私のかわいい子供たち。
おかあさまは、いつまでもあなたたちのそばにいますからね……。




