第58話
求道との戦闘が始まって、もう三十分が経とうとしている。
倉庫をリノベーションして祭壇にしたと思われるこの決戦のバトルフィールドも、求道の「存在しなかった事にする力」によってボロボロになっている。
俺と求道は互いに攻めきれない状態が続き、消耗していた。
俺は彼岸の神棚でならまだしも、現実世界でユーバーセンスをここまで長時間使用したのは初めてで、少しだけ疲れを感じている。
求道もここまで粘る敵は初めてのようで、焦りの表情が見え隠れしているだけでなく、少し息が上がり始めている。しかし依然としてモヤモヤは飛ばしてくるし、身体を再生させる力の膜も健在だ。
ステータス保持者であれば四十分どころか二時間くらいは戦っていられるスタミナが備わっているが、全く別種の力を用いる慣れない戦闘が俺と求道の気力と体力を大いに疲弊させている。
ただ、美沙だけは上手い具合に体力を温存しつつ戦っているようで、まだまだ余力を残していた。
その大半を封印されていたとは言え、美沙はこれまでずっと月ヶ瀬の力という異能を鍛えていた。
不遇を物ともせず、気が遠くなるような基礎鍛錬の上に成り立っている美沙の持久力は封印解除によって大幅に底上げされ、もはや多少の無茶では揺るがない程になっているようだった。
……ネット小説の主人公じゃないんだから、少しは自重して欲しい。俺の立つ瀬がない。
しかし、そんな戦闘民族である美沙でも到底戦闘要員に見えない求道を殺し切れないんだから、アンドゥアーの力の異常性が際立つという物だ。
(トーカ、あの自動回復機能を無力化出来ないか?)
俺は脳内でトーカに解決策の提示を求めるが、返答がない。ようやく解答が返ってきたのは数分後、攻め手を美沙と交代して後退した時だった。
《現在の管理者:高坂渉の練度では、原初の種子の能力を自身に適用するのが関の山です。他者に影響を及ぼす為には、管理者:高坂渉がユーバーセンスと呼ぶ感覚能力をさらに強化する必要があります。ただ、現状を打破する手段であれば、奥方様に一つだけあります》
(美沙の手段……? それは何だ?)
《奥方様に宿る原初の種子の力を利用します。簒奪する者の名を冠するユザーパーであれば、力の膜の簒奪は可能でしょう。しかし……》
(何か問題でもあるのか?)
《対処方法を奥方様に伝える術がありません。馬鹿正直に「求道聖蘭の力をユザーパーで奪えば回復を阻止できる」と口頭にてお伝えすれば、作戦が露見し警戒されるでしょう。相手方もバレーボールのようにテクニカル・タイムアウトを設けてくれるとは考えられませんので、奥方様にユザーパーの有用性や使用方法をお伝えするのは困難でしょう》
それは求道の戦い方を見て何となく察していた。
求道は美沙の相手をしながら俺に牽制のモヤモヤを放ったりして、俺と美沙に連携させないように立ち回っている。
求道は生まれついての宗教家であって戦闘要員ではないはずだが、小癪な事に戦い方がとてもクレバーだ。
求道がただ全力で向かってくるだけのバカなら出し抜くチャンスはあっただろうが、これでは美沙にアドバイスする隙がない。
(こう、テレパシーみたいなスキルを作成する事は出来ないのか?)
《この施設への突入時、ステータスが読み取れなかったのを覚えていますか? 現在、管理者:高坂渉のステータスシステムがユーバーセンスと競合しており、一時的にスキルシステムへの介入が拒絶されています。システムが順応するまでの間、既存のナイトのスキルと既に作成済みのスキル、スキルカードを用いて習得したスキル以外は使用不可能となっています》
(それは困ったな……いつ使えるようになる?)
《不明です。当個体が管理者:高坂渉の内部に送還されて以来一部リソースをシステム改変に割いていますが、一向に完了する様子を見せません。進捗度は多く見積もっても3%、最低でも丸一日は掛かる見積もりです》
流石に新規スキル作成に丸一日かかっては俺も美沙ももたない。いっそ一旦ここから逃げて、適当な場所で作戦会議をするとか……いや、話し合っている間に求道に逃げられて梨々香に手を出されても困る。
あかりの手下がここに手助けに来てくれたら……ダメだ、俺達以外では秒殺だ。居る方がかえって邪魔になる。
どう考えても打つ手が見当たらない、完全に詰んでいる。じわじわと足元から立ち上ってくる敗北の予感に焦りを覚え始めたその時──
《高坂さん、大丈夫ですか!? 作戦開始から四十分くらい経ってますが、まだ戦闘が続いているんですか!?》
脳裏に聞き覚えのある声が聴こえてきた。あかりだ。
アイドルのジョブには念話のスキルはなかったはずだ。……と言う事は、これは原初の種子か?
(あかりか? いつから念話ができるようになったんだ?)
《あ、はい。私の原初の種子、ソウル・リンカーの能力が少し強くなりまして……魔力パスの通っている対象とちょっとした通話が可能になりました。それより報告です。梨々香さんの確保と施設の地上部分の制圧は完了しています。そちらの状況はいかがですか?》
(ああ、求道に攻撃が無効化されて困っている所だ。対処法はあるんだが、美沙に伝えられない状態……あ)
なんてタイミングで念話してきてくれたんだ、あかりは。あかりに情報を中継してもらえば、美沙への連絡が可能だ。
これぞまさに天佑、助かった。
(あかり、トーカと美沙に念話は使えるか?)
《はい、魂を持つ物で魔力パスが通るのであれば誰でも可能ですが……どうかしましたか?》
(トーカからアンドゥアーの対処法を聞き出して、美沙に伝えてやってくれ。求道にバレずに伝える方法が無くて困ってたんだ)
《承知しました。しばらくお待ち下さい》
あかりからの念話が途切れたのを確認してから、俺は美沙と交代して求道への攻撃を再開する。
トーカ自体はどうやってるのかは分からないが俺の中にいるので、あかりとの念話は大体聞こえて来る。
美沙が求道に触れた状態でユザーパーの能力を使用して、求道の能力が消滅した一瞬であれば求道の高速回復は機能しなくなるので、そのタイミングで攻撃を加えれば勝てるとの事だ。
とは言え、殺しきる前に力の膜の再生成が始まってしまうと元の木阿弥なので、とにかくキッチリ息の根を止める必要がある。
非常に物騒な話ではあるが、俺達はもう殺すか殺されるかのデスマッチでしか生き残る術がない。法治国家である日本で、こんな蛮行をするハメになろうとは……
「渉さん、助けを呼んできます! しばらく一人で持ちこたえて下さい!」
俺が少しだけ気落ちしながら求道のモヤモヤを回避しつつ斬りつけていると、いきなり美沙がそんな事を言いながら後方にあるシャッターを再び細切れにした。
助けを呼ぶだって? ユザーパーは? 能力の簒奪はやらないのか?
「えっ? おいコラちょっと待て! どこ行く気だ!?」
「上です! あたし達二人だけじゃ無理っぽいですから、もう二〜三人連れて来ます! じゃ、あとよろしくです!」
しゅたっと片手を上げて挨拶してスタコラと逃げるように退場していく美沙を尻目に、俺は呆然としてしまった。
呆気に取られたのは求道も同様で、美沙を無言で見送った後、哀れな物を見るような視線を俺に向けてきた。やめろよ、命懸けの戦闘中だぞ?
どうしたものかと逡巡していると、求道がモヤモヤを飛ばすのをやめ、俺に声をかけてきた。
「どうやら見捨てられたようですね」
「お前耳腐ってんのかよ、助けを呼ぶっつってたろ」
「迷宮の愛し子であるあなた達が私に勝てないのに、一体誰を呼んでくるつもりですか? もしそのような者がいるなら、最初からこの場にいたのではありませんか?」
痛い所を突いて来やがる。確かに求道の言う通りだ。
同じ原初の種子持ちであるあかりをこちらに連れて来なかったのは戦力分散の意味もあるが、一番の理由は戦闘に巻き込むリスクに見合ったメリットが無いことだ。
あかりのソウル・リンカーは情報伝達やバフによる支援が主業務で、且つ遠隔で優位性が際立つ能力らしい。
それなら、わざわざ切り結ぶ刃の下の地獄に引っ張り出してまでやってもらわなければならない事は何一つない。大本営でドンと構えていて欲しいくらいだ。
だからこそ、俺と美沙のツートップで殴り込みをかける作戦になった訳だ。……逆に言えば人材がいない事を露呈してしまった形になる。
「迷宮の愛し子……いえ、高坂渉。一つ提案します」
一歩、また一歩と俺に近づきながら嫌に優しい声色で求道が語りかける。貼り付けたような慈愛に満ちた微笑みに反吐が出そうになる。
「聞くつもりはないが、言ってみろ」
「迷救会に帰依しませんか?」
俺の剣からミシリと音がした。強く握りしめたせいで柄か飾りか何かにヒビでも入ったのだろうか。確認するような余裕は無い。
「ここなら、あなたの力を遺憾なく発揮できるでしょう。そもそも迷宮の愛し子が、俗世でのうのうと生きていく事自体が罪にも等しい愚かな行為……あなたの力は迷救会で振るわれる事でようやく意味が生まれるのです」
俺がだんまりを決め込んでいる事を迷っていると捉えたのか、調子に乗った求道がさらに畳みかける。
「それに、ここならあなたのお母様もいらっしゃいます。妹さんもその身を迷宮に変え、ここで私達の為に神々の恵みをもたらし続ける事でしょう。家族がバラバラで生きるのは辛い事……あなたの居場所はここにあるのですよ」
あまりの怒りに目の前がぼやけてくる。頭どころか耳まで熱い。俺の全てが怒りで焼き尽くされてしまいそうな錯覚に苛まれていた。
「お前が……人の家族をバラバラにした張本人のお前が言うなァ!」
俺は握りしめていた剣をかざし、勝ち誇った笑みを浮かべる求道を唐竹割りするように大上段から振り下ろそうとした瞬間。
求道の体を覆っていた力の膜が輝きを失い、消滅した。その直後、俺の剣が鉄片をばら撒くように砕けながら、求道を真っ二つに切り裂いた。
「「えっ」」
何が起こったのか理解できない求道と、何が起こったのかを理解しているが、何故今起こったのか理解できない俺の驚きの声が重なった。
間髪入れず、縦に割れた求道の首がさらに横一文字に千切れ、泣き別れになった頭部が血風を撒き散らしミンチになりながらすっ飛んでいく。俺は追撃を加えていない……何が起こってるんだ?
その場に残された求道の体がその場で崩れ落ちたのと同時に、何もない空間からゆっくりと美沙が現れた。
「よしっ、作戦大成功! ……どしたんスか、豆が鳩鉄砲食らったような顔をして」
それを言うなら鳩が豆鉄砲を食らったような顔だろとツッコむ余裕もない。お前逃げたんじゃないのかよ? なんでそこから出てきた?
俺は美沙に尋ねようとしたが、トーカが美沙と俺の間に挟まるように現れた。
「今回の作戦について当個体が説明します。奥方様に助けを求める名目で退出して頂き、当個体が奥方様にハイドプレゼンスを使用しました。奥方様は隠密状態で求道聖蘭の近くで潜伏、管理者:高坂渉が求道聖蘭を攻撃するタイミングでユザーパーの能力を用いて能力の簒奪を行う作戦でした」
「あかりさん経由でトーカちゃんから作戦は聞いてたんスけど、渉さんには伝わってなかったんスね……だから側でスタンバってるあたしにも気付かなかったと」
全てが終わった今だから、起こった事から逆算してそういう予定で動いていたんだろうなとは理解出来る。
だが、一つだけ不満がある。俺だけ蚊帳の外じゃないか?
「作戦自体は考えたら分かる、分かるんだが……何故、それを俺に教えてくれなかったんだ?」
「では、管理者:高坂渉に質問します。作戦の全容が分かっている状態で、人心掌握を生業とするカルト教団の教祖を相手に、作戦を勘付かれないようハッタリを続けられますか?」
トーカにそう尋ねられて、俺は返答に詰まってしまった。
……無理だろう。俺は役者でも何でもないので、おそらくどこかでボロが出る。そこを指摘されると何も言えない。
俺がだんまりを決め込んでいると、トーカが一礼しながら説明を続ける。
「内密に作戦を立案したのは越権行為であると認識していますが、事後報告になったとしても管理者:高坂渉が俗に言う『ケツの穴の小さい男』ではない事を考慮し、最も成功率が高い方法を採用しました」
「正直、正攻法では勝てない相手でしたからね。敵を欺くにはまず味方からってヤツっスね。ちなみにシバき足りないって意味で不服だったら……」
美沙がゆっくり目を閉じて、両手を広げる。その両手の間につい先程まで求道が使っていた物と同質の力が溜まっていく。
「ぶん捕ったアンドゥアーで、求道を死ななかった事にしてもいいっスよ。とはいえ、原初の種子はあたしが持ってるんで甦ったところでただの雑魚っスけど」
「……ちょっと待った、まさか簒奪したのって力の膜じゃなくって原初の種子ごとか!?」
俺はてっきり、あの力の膜や飛ばしてくるモヤモヤを自分のコントロール下に置く物だとばかり思っていた。
原初の種子を奪えるのなら話が変わってくる。もしかして、俺の一にして全なる者も簒奪できるんじゃないのか?
「そうみたいっス、あたしもさっき知ったんスよ。なんか取り込める種子の容量が設定されてるみたいで、それを超える種子は扱えないみたいっスね。アンドゥアーを一だとしたらストックできる総量は五、トーカちゃんのサイズは九か十って所ですかね」
「じゃあ、俺の原初の種子は無理としても、例えばあかりのソウル・リンカーを奪う事は出来るのか?」
「そりゃあサイズ次第では出来なくはないっスけど、あたしは最前線で刀振ってる方が性に合ってるんで……後方支援や各部隊に渡りをつけるみたいな裏方仕事は裏方のプロに丸投げした方が楽っスね」
美沙が手の内で転がしていたアンドゥアーの力場を霧散させ、仕事は終わったとばかりに思いっきり伸びをする。
「それじゃあ、こっちの仕事も終わった事ですし……あかりさん達の所に戻りましょうか。妹さんも待ってる事でしょうし」
美沙は装備していた粗末な革鎧を外しながら祭壇部屋を後にしようとする。
俺は……何となく求道の亡骸に手を合わせてから、美沙の後を追いかけた。
§ § §
エレベーターで地上へ上がると、放置したままだったエレベーター監視役の教団員の遺体は片付けられており、清掃員がモップと薬液で血液を洗い流していた。
俺達は忙しそうにしている清掃員の横を通り抜けながら戦闘の痕跡が多数残る前庭に目をやると、清掃員が大勢作業していた。
焼け焦げた石畳や血の汚れをデッキブラシでゴシゴシやってるおばちゃんや遺体をブルーシートで包んで搬出している二人組の若い男性、ぐちゃぐちゃになった花壇の前で何やら相談している一団もいる。
教会の中からも家宅捜査のダンボールを持った警官がぞろぞろと現れ、事後処理の様相を呈している。
俺達は彼らの邪魔をしないようそそくさと立ち去り、足早に作戦本部を目指した。
既にあかり達が戻っている作戦本部には弛緩した雰囲気が漂っていた。
第二班・第三班は順調に作戦を終え、俺と美沙の帰りを待っている状況だった。梨々香は消耗が激しかったため、廿日市の地御前にある総合病院に搬送されたとの事だ。
しかし、ある事がきっかけで作戦本部の空気が一気に緊張する事になってしまった。
原因は美沙がアンドゥアーの能力を使えるようになってしまった事を報告したせいだ。
あかりは清掃員に連絡して輸送中の教団幹部の遺体を呼び戻し、地下施設に置きっ放しになっている求道聖蘭の遺体をここに持ってくるように指示していた。
あかりが教団員を皆殺しにするよう各班に通達していたのは、捕縛していてはキリがないからだ。
警察上層部としては首魁くらいは刑事裁判を受けさせたい思惑はあっただろうが、求道は俺や美沙ですら真っ当に戦って倒せない相手だ。
なら一人残らず始末し、襲撃を受けた教団関係者は全員消息不明とした方がカバーストーリーを立てやすい。
だが、求道を蘇生できるとしたら話は別だ。ついでに幹部を数人蘇らせ、大々的に刑事罰を問うて迷救会を一網打尽にすれば根絶も容易い。
迷救会から派生した小規模の宗教団体も、迷救会を取り締まった後なら監視がしやすい。
何より、迷救会に煮え湯を飲まされ続けてきた警察上層部の溜飲が下がるというものだ。
一仕事終えて俺にべったりひっついていた美沙はあかりによって俺から引き剥がされ、雪沢さんに遺体の蘇生の為に前庭へと連れていかれた。美沙の抗弁と哀しげな泣き声が木々の隙間に吸い込まれていく。
……そして俺とあかり、それとどことなく居心地悪そうにしている綾乃と静香だけが作戦本部に残った。
「……そういや、聞きたいことがあったんだ。うちのお袋は……どうなった?」
俺は三人に尋ねた。深く瞑目するあかり、気まずそうにしている綾乃、露骨にオロオロし始める静香とそれぞれ三者三様の反応を見せた。
俺の問いに答えたのは、あかりだった。
「……辛いお話になるかも知れませんが、お聞きになりますか?」
「ちょ、ちょっと待ってあかりん! 言っちゃうの!? 高坂さんの負担になるから黙ってた方が……」
止めようとする綾乃にあかりは小さく首を横に振った。
「あの時……私が自殺未遂で病院に運ばれた時、高坂さんに内緒で話をを進めないって約束しましたからね。黙ってたら不誠実でしょう」
「そりゃそうだけどさぁ……実のお母さんの話でしょ? 絶対辛いって。私だったら聞きたくないもん」
「闇ヶ淵氏、これは仕方のない事ですぞ。我々も一発ずつ殴られるくらいの覚悟はしないと……」
三人が何やら話し合っているが、俺は女の子を一発ずつドツくような酷い男ではない。……先程女性を一人唐竹割りにしたが、それはそれ、これはこれだ。
「それでは、お話します」
どうやら話し合いがまとまったようで、あかりがお袋に関わる話を始めた。
お袋は教団幹部としてステータスを持っており、そのジョブは恐らくM型催眠のスキルを多用するメズマライザーではないかとの事だった。
第三班が陽動として教会に突入した際、教団側の人間として登場。第三班に催眠スキルを行使するも精神攻撃無効持ちの静香の存在によって不発。
ここで綾乃がお袋を生かしておくと何やかんやあって梨々香が迷宮に変じてしまう未来を視てしまい、各所に相談する余裕も無かったので突発的に殺害を指示、求道の能力が及ばないように遺体を手隙の第三班に搬出させ、適切に処理するよう命じた。
その頃、あかり達第二班は別ルートから教団施設内部に潜入し、梨々香に接触。
お袋から「生きてると他人に迷惑をかけるから生贄になれ」「人に寄生しないと生きていけないんだから最後くらい役に立て」などと心ない言葉を投げかけられ恐慌状態に陥っていた梨々香を回収、すぐさま近場の医療施設へと搬送した……という顛末だそうだ。
……自分の母親ながら、殺されても仕方がない事をしていると思う。俺もその話を聞いた上でお袋を前にしたらタコ殴りにしてる事だろう。
「それで、多分高坂さんのお母さんはみさっちでも蘇らせられないと思うんだ。多分もう焼かれて骨を砕かれて海に撒かれてるだろうから、対象に指定出来ないと思う」
「……そうか」
そこまで説明を聞いて、俺は大きくため息をついた。
そりゃあ晩節を汚しまくったが、それでも俺の母親だ。良い思い出だって当然あったし、悲しむ気持ちがない訳でもない。
しかし梨々香にした仕打ちや教団幹部として行ってきたあれこれを考えると、同情的な気持ちはどうしても引っ込んでしまう。
「あかり、悪いな。いろいろ面倒かけちまった」
「いいえ、私に出来るのはこれくらいですから」
「静香も悪いな、巻き込んじまって」
「拙者は……いえ、高坂氏の方が辛いでしょうから」
「綾乃も、黙ってたのも前みたいに既成事実で俺をハメようとしてたんじゃなくて、俺が悲しむから黙ってたんだろ? それを責めるつもりは無いからな」
「……うん、ごめんね」
俺は三人の目を見て、労をねぎらった。この三人がいなければ求道の討伐はおろか、梨々香の奪還もままならなかっただろう。
お袋の件は残念だったが、こればかりはどうしようもない。俺の「梨々香奪還を最優先に」という思いを汲んでくれた結果だ。
感謝こそすれ、糾弾なんてできようはずがない。
「みんな、ありがとうな。誰が欠けても梨々香はこの世にいなかっただろう。助かったよ」
俺は深く頭を下げた。
ふと、俺の背中にそっと手が添えられた。振り返ると、そこには教団幹部の蘇生を終えたであろう美沙が帰ってきていた。
「美沙もありがとう。求道を倒せたのはお前のお陰だよ」
「えへへ……そりゃあ相棒っスからね。これからも一緒に頑張っていきましょうね」
美沙は照れ臭そうに笑っていた。
§ § §
機材の撤収や書類上の整理、関係各所への連絡等はあかりが呼んだ雪ヶ原家の人達が片付けてくれるらしく、俺達はあかりが手配した車両でファーマメント南観音への帰途に着く。
家を空けて半月、帰ったらとりあえず掃き掃除くらいはやらないと……と思っていたが、ラピスの監視下で赤帽軍団が手分けして掃除していたそうだ。
帰ったら少し休みたいと思っていた所だし、荷解きは明日に回してゆっくりさせてもらおう。
西広島バイパスを降り、ようやく見慣れるようになった立派なマンションが視界に入ると、まだやる事は残っているがとりあえず帰って来れたんだと心の荷が降りた気持ちになった。




