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【コミカライズ始動】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第三章

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第54話

 西の空が赤く染まり始めた御山の森の中、空也さんの先導で無力の岩床を目指した。

 美沙はここに来るまで心ここに在らずといった感じで、どことなくぼんやりとしたままで着いてきた。

 程なく無力の岩床に辿り着き、その真ん中で空也さんが座り、美沙が対面に位置取った。

 俺は少し距離を取ろうとしたが、美沙が潤んだ目でこちらを見つめて来るので、仕方なく美沙の右隣に腰を下ろした。

 そう言えば、ここの脱力感にも大分慣れてきた。心も体もくたびれきった状態で入る風呂のおかげか、ステータスの無い生身でも結構仕上がっている気がする。



「まずは……そうだね。みーちゃんが生まれる前の話からしようか。渉君には、少しだけこっそり聴いてもらったんだけど」



 俺と美沙は空也さんの話に耳を傾けた。横にいる美沙が俺の手をそっと握る。

 少し震えているのは動揺しているせいだろうか? 俺は美沙に好きにさせておいた。俺の手で落ち着くならいくらでも握っておいて欲しい。



「千沙や万沙は千や万の敵を打倒出来るようにと名付けた。闇ヶ淵の婆様の見立てでも『将来月ヶ瀬のお役目を全う出来るだけの強さを得る』との事だったからね。……でも、みーちゃんの時は違った」



 空也さんが軽くため息を吐いて、美沙の目を見つめる。美沙の手に少しだけ力が籠る。



「闇ヶ淵の婆様が美沙の未来を予知した所、大人になった美沙は涙を流しながら異形の何かと戦っていて、最終的にボロボロになるまで蹂躙されて命尽きていたとの事だったよ。……僕はその話を聞いて、ショックを受けた」


「もしかして……美沙の力を封印したのは、その命を落とすような戦いから遠ざける為?」



 以前、空也さんが遊びに来た時に「美沙には普通の人生を生きて欲しい」と言っていた。

 日本屈指の武門の人間で、且つ自身も並外れた戦闘力を持つ月ヶ瀬筆頭が、そんな弱くて曖昧な理由で美沙から戦闘力を取り上げたのが少し疑問ではあった。



「そうだね。戦う力を取り上げれば、美沙が戦場に立つ事は無い。そうすれば無駄に命を散らす事もない。……みーちゃんは僕達夫婦にとってもかけがえのない大事な子だから、長生きして欲しかったんだ」


「あたしは……それでもあたしは、月ヶ瀬として生きて生きたかったです。父上が何も教えてくれなくても書物庫で本を読んで勉強して、かず姉様にこっそり教えてもらって……それでも姉様達のように戦えなくて、辛かったです」



 美沙がぽろりと涙をこぼし、左手で目を拭った。右手は俺の手を強く握りしめているせいで塞がっているからだ。

 空也さんの思惑はどうあれ、幼い頃の美沙にとっての世界は月ヶ瀬家の内側が全てだ。

 普通は戦えないからって「だからどうした」で済む話だが、魔物が出たら討伐しに行くような特殊な家庭事情において、自分だけが戦えなかったら鬱憤も溜まるだろう。

 いっそグレても仕方ない所だが、今はもう坂本さんになっている万沙さんが美沙の面倒を見ていたお陰か、大きく歪まずに成長出来た……んだろうか?

 歪んでなかったら年単位で分家衆を日本全国に飛ばして俺を捜索したり、少しでも俺に危害が加わりそうになるとマジギレするくらい執着したりしないはずだが……?



「僕と麻耶さんは、みーちゃんが生きていてさえいれば幸せになれると思っていたんだ。辛い思いをしていても、きっといつか月ヶ瀬を忘れて暮らしていけると……」


「そんな事あるわけない! あたしは月ヶ瀬の一員で居たかったんです! 血が目覚めなかったら月ヶ瀬を忘れて只人として生きろなんて、あんな事……言わないで欲しかった……!」



 ついには美沙が両手で顔を覆って嗚咽を上げて泣き始めた。左手がフリーになった俺は美沙の肩や背中をさすって慰めてやる。

 美沙が「血が目覚めなかったら月ヶ瀬を忘れて生きろ」と言われた話は多分、俺と美沙が出会った頃の事だろう。

 いつも思い詰めた表情で傷だらけで通りがかったみーちゃんが、悲痛な思いで吉島ダンジョンに通っていたなんて当時の俺には知る由もなかった。

 いわば勘当予告を受けたような状態だった訳だ。多感な思春期にそんな事を言われたら、そりゃあ誰だって傷付く。

 そして、俺は入院していたので直接聞く事は叶わなかったが、血が目覚めた……本当は封印が少し外れただけだが、ともかく月ヶ瀬の力を得られたみーちゃんがどれだけ喜んだ事だろう。



 とは言え、こうして見ると俺の家も相当だが、月ヶ瀬家も歪んでいる。

 武門の家という特殊な出自、未来予知という特殊な要素、そして美沙の能力の封印という特殊なソリューションが全て裏目に出ている。

 ただただ美沙が心根の良い子に育った事と能力を封じられたままのルートに進まずに済んだ事で結果的に救われただけだ。

 親の愛故のすれ違いと言えば世の中にごまんとある親子トラブルの話と変わらないが、規模が一般家庭のそれではない。



「……うん、今思い出しても悪い父親だったと思う。僕も麻耶さんも、みーちゃんが大好きだからね。とにかくみーちゃんには生きてて欲しかったんだ。でも美沙を傷付けた事に変わりはないし、嫌われても仕方ないと思ってるよ」


「あたしは父上や母上、ちー姉様やかず姉様、クミコおばちゃんや分家衆のみんなが好きです! 嫌いだったらとっくの昔に諦めてるに決まってます! 好きだから苦しかったんじゃないですか! 父上のバカ、バカぁ……!」



 空也さんは美沙のもとへ歩み寄り、「ごめんね、ごめんね」と声を掛けながら美沙を抱きしめて頭を撫でた。

 美沙も空也さんにしがみついて大泣きしている。ずっとこらえていたんだろう、誰が見てる訳でもないから好きなだけ泣いたらいい。

 美沙と空也さんにとって、長い事掛け違えっぱなしだったボタンが今ようやく掛け直された所だ。きっとこれからは真っ当な親子としてやっていける事だろう。

 俺からしたら羨ましい話だ。どんなに泣いたって、俺の家族はもう二度と元の形には戻らないんだから。 



 ……ところで一体誰なんだ、クミコおばちゃん。出てきた順番的に月ヶ瀬本家未満、分家以上といった感じだが……全く聞いた事のない登場人物に少しだけモヤっとする。

 まぁ、二人が落ち着いてから聞くとしようか。ここで水を差すのは野暮というものだ。



 § § §



 結局、美沙が泣き止む頃にはとっぷりと日が暮れてしまった。

 三人とも明かりを持っていないので、俺が自分の道着にライト・エンチャントを発動して発光させる事で光源を用意した。

 眩く光り輝く俺を見た空也さんが大爆笑してしまい、落ち着くまでさらにタイムロスが発生し、神水の坩堝に到着する頃には辺りは真っ暗闇になっていた。

 俺がライト・エンチャントを仕掛けた三人分の光り輝く道着を近場の木に吊るし、俺達は遅めの風呂に入った。

 さっきまで泣きすぎて目や鼻を真っ赤に腫らしていた美沙だったが、お湯に浸かって三分もしないうちに元通りに戻っていた。

 やっぱり凄いな、この神水。凹んだピンポン玉をお湯に浸けた時並みの復元力だ。



 気になったままだったのでクミコおばちゃんとやらについて尋ねてみたが、月ヶ瀬家の家政婦さんである月森久美子さんとの事だった。

 美沙のお母さんは身の回りの支度を自分でした事がないくらいの良家の出身であり、料理から掃除に至るまで家事の腕が壊滅的だった。

 そこで長女が生まれたのを期に、分家衆の中から家事に長けた女性を募り、本家に住み込みで働いてもらう事にした。それが月森久美子さんだそうな。



 美沙は武芸については何も教えてもらえなかったが、家事に関しては久美子おばちゃんにそれはもう厳しく躾けられたらしく、美沙が作る和食の味付けは完全に久美子ナイズされた物なんだとか。

 久美子さんはアラ還から無事離脱した所である御年六十五歳。おばちゃんと言う歳ではないが、おばあちゃんと呼ぶと短剣術の餌食になるそうな。包丁は短剣扱いになるのか?

 ……とりあえず最大の疑問だったクミコおばちゃんの謎が解明されたので、次に気になる点について美沙に尋ねる事にした。



「そういや、美沙が起きた時に言ってた第四相とか神魔合一? って何なんだ?」


「いやあ、あたしもそこについてはサッパリ……何せ何も教わってない木っ端っスから……どうなんすか父上」



 美沙から飛び出た板についてしまった無意識の卑下がグッサリ突き刺さってしまった空也さんが苦笑いを浮かべながら答える。



「『相』って言うのはランクみたいな物だよ、月ヶ瀬の力の発現は四段階あるんだ。第一相は肉体や神経、精神力が強化される。みーちゃんが常時発動してる奴だね」


「なるほど……てことは、ちー姉様に勝てる気がしないのは、ちー姉様や父上はその上の段階だからですか?」


「そうだね。これまでみーちゃんが本気になった時に解放出来ていたのが第二相の真ん中くらいだね。ここから常人には到底不可能な力を発揮出来る……とは言え、まだこの世界の物理法則には縛られてるけどね。ちーちゃんは常に第二相を発現してるよ」



 つまり、広島高速三号線の高架上でラピスと殺りあってた時の美沙が第二相という事だろうか。アレより上があるとかどうなってるんだ?

 広島城に現れたという長女に討ち取られた魔物も、本気の美沙でも一太刀浴びせる事が出来なかったらしいので何とも恐ろしい。そんなのが大量に現れたら日本の終わりだ。

 今の美沙がいればどうにかなるんだろうが、問題になるのは「美沙が居ないタイミングでピンチが訪れるパターン」だ。

 俺もそうだが、他のメンツ……あかりや綾乃、静香といった天地六家のお嬢様メンバーや俺のテイムモンスター達もなるべく戦力強化を図りたい。

 そんな今後の展望を考えている間にも、空也さんの説明は進んでいく。



「で、戦闘機動状態に入ったちーちゃんが第三相。物理法則を捻じ曲げるくらいは出来るよ。空を飛ぼうと思えば飛べるし、停止した時間の中でも動けるし、鋼鉄を曲げるくらいは簡単に出来ちゃうよね。僕は第三相までは自由に使えるよ」


「でも父上がそういう事してるの見た事ないんですけど? 空飛んで出勤とか時間停止とかやってましたっけ?」



 びっくり超人の種明かしを日常茶飯事とでも言いたげなくらいあっさりと済ませた空也さんに、美沙が素朴な疑問をぶつけた。

 すると空也さんは、どこか寂しげに答えを返した。



「みーちゃん。僕達みたいな生き物は、人間の世界にいる間は人間らしく生きていかないといけないんだよ。強すぎたっていい事なんて何一つないんだ。恐怖心は結託を産み、結託は排除を産む。そこに利害や善悪は関係ないんだ。そこはみーちゃんも肝に銘じておきなさい」


「だから父上は遠くの魔を退治しに行く時わざわざ新幹線や電車使ったりしてるんですか? なかなか大変なんですね……」


「あ、それはただ駅弁が楽しみだからだね! 遠征の時にはいつもどの駅で駅弁買おうか悩んでるくらいだからね!」



 空也さんは先程までのシリアスムードを一瞬で吹き飛ばし、ニッコニコで答えた。これには美沙もドン引きだ。

 そこから話が大いに脱線し、空也さんが食べておいしかった駅弁ランキングや駅弁へのこだわり、最近プラスチック製のちっちゃいお茶の水筒が無くなった事で寂しさと時代の潮目が変わる瞬間を感じた話へと話題が八艘飛びの様相を見せた。

 これまでの流れと全く関係ない四方山話を延々と聞かされていた俺と美沙のじとっとした視線に気がついた空也さんは、咳払いを一つしてから話の本筋に戻った。



「ま、それはそれとして。第四相については僕も詳しくは知らないんだ。一応第四相に関する古文書が残ってるんだけどね」


「それってどこにあるんですか? あたしが悪い事した時しょっちゅう閉じ込められてた本家の蔵ですか?」



 そうやって子供の頃のあれこれを空也さんに叩きつけるのはやめなさい、空也さんがビクッと震えてるじゃないか。

 しかし空也さんはショックを受けた素振りをあまり見せずに話を続ける。



「実はその古文書、この御山にあるんだ。頂上に祠があって、そこだけは何故か放置した物が消えないんだ。そんな性質もあるから月ヶ瀬家の宝物庫扱いになってるよ。……まあ、そこに至るまでの道のりが登る度にしょっちゅう変わるし、魔物も沢山出るけど」



 道のりが変わると聞いて、ローグライクの探索型RPGゲームが脳裏に浮かんだのは気のせいだろうか? 懐かしいな、学生時代に結構やり込んだモンだが……



「なあ美沙、もしかして山頂への道って……」


「言わないでください、あたしも一瞬『白紙の巻物とかあったらやりやすいのにな』とか思いましたから……難易度次第では序盤でもあっけなく詰みそうっスよね」



 やっぱり考える事は一緒か。

 しかしゲームと違ってここは現実、死んだら終わりの一発勝負だ、舐めてかかると痛い目を見るどころでは済まないかも知れない。

 俺が深刻な顔つきをしていたからだろうか、空也さんはあっけらかんと俺の想像を否定した。



「まあでも、僕やちーちゃんくらいなら苦労せずに登頂出来る程度だし、そんなに難しい訳じゃないけどね。今のみーちゃんなら力の解放を練習する良い力試しになるんじゃないかな?」



 空也さんの見立てに、俺は胸を撫で下ろした。

 せっかく力を得たというのに、美沙が怪我をしたり、最悪死んでしまってはあまりにも不憫だ。

 美沙もエンドコンテンツ並みの難易度を予想していたのかどことなく顔色が悪かったが、空也さんの話を聞いてほっとしているようだ。



「じゃあ原初の種子も取り込めた訳ですし、空いちゃった明日の午前中にでも行ってきますよ。頂上まで一日がかりって訳じゃないんですよね?」


「そうだね。時間がかかるのは往路だけで、復路は一瞬だからね。今のみーちゃんなら午前中で帰って来れるかもねー」



 もともと美沙がここに来たのは原初の種子を取り込む為であり、午前中はその為の試行錯誤に充てられていた。

 昼にカスタムステータスを書き込む機械を流用する事で、その目的は達成された。

 無力の岩床でのトレーニングもおまけのような物であり、現状では美沙のやる事が無くなってしまっている。

 手持ち無沙汰なままで俺の修行が終わるのを待つより、美沙には美沙の出来る事をやらせておいた方がいいという事なんだろう。



「じゃ、みーちゃんは明日の早朝から山頂アタック、渉君はいつものように彼岸の神棚ね」



 空也さんから伝えられた明日の指針に、俺と美沙ははーいと気の抜けた返事をした。



 § § §



 風呂から上がり、発光を続けたままの道着を各々手に持ってベースキャンプへ戻り、寝支度に入る。

 俺がテントで寝間着代わりのTシャツと短パンを着込んで寝袋に入ろうとした時、テントの入り口が開いた。

 そこにはパジャマに身を包み、手にやけに大きな寝袋を持った眼鏡姿の美沙がおり、俺の承諾を得ずにテントに上がり込んで来た。



「えへへ、おじゃましまーす」


「おじゃましまーすじゃない。父親が近くに居るのに男の寝床に入り込むのはやめなさい、気まずいだろ」


「今日だけは許可が出たから問題ないっスよ、変なことはするなとは言われましたけど……添い寝は変な事じゃないっスからね」



 美沙は今まさに俺が入ろうとしていた寝袋をテントの隅へと放り投げ、持ってきた二人用と思しき寝袋を敷いてポンポンと叩く。……ここに入れと言うことか?

 もうすぐ十月に差し掛かろうとしている現在、俺達が住む広島は昨今の異常気象のせいでまだまだ残暑がしつこく残っている。

 しかし、この御山はダンジョンと同様に気温が一年を通して一定に保たれており、夜から明け方にかけては冷え込みが馬鹿にならない。

 なので寝袋が必須になるのだが……一人用を横に並べるだけでも良かったんじゃないか? 外に空也さんがいるのに同衾状態になるのはどうなんだ?



 そんな事を考えて二の足を踏んでしまい、なかなか寝袋に入らない俺美沙の機嫌がどんどん悪くなっていく。

 もし端に追いやられた俺の寝袋を取りに行ったりしたら、何をされるか分かったものではない。俺は素直に美沙の持ってきた寝袋へと入る。

 間髪入れずに美沙が隣に潜り込み、俺の体に身を寄せた。ひんやりとした外の空気とは打って変わって、二人分の体温が徐々に寝袋の中を温めていく。

 しかし、これだけ女性と密着しているにもかかわらず変な気が起きないのは不思議な感じだ。この山の雰囲気がそうさせるのか、はたまた表にいる空也さんの存在感のせいなのか……



「渉さん、あたし、本当に感謝してるんスよ」



 俺が煩悶していると、美沙が俺の手をぎゅっと握って、告げた。



「もしあの時、渉さんが話しかけてくれなかったら……きっと、今日みたいな日は来なかったと思います」


「そうか? 俺が話しかけなかったとしても、その時はきっと他の誰かが声をかけてたと思うけどな」


「そうだったとしても、実際にあたしに手を差し伸べてくれたのは渉さんだけなんスよ。だから……ありがとうございます、渉さん」



 美沙がぽろりと涙をこぼしたので、頭を軽くなでてやる。今日の美沙は良く泣く美沙だ、明日また目を腫らしたりしなければいいんだが。

 ……あの時、俺は特別何かしてやったという意識は無い。ただちょっと気になっただけで、恩を着せようだとか女の子と仲良くなろうって思惑もなかった。

 ただ、それが美沙にとって良い方向に作用したのなら……きっと、間違った行動ではなかったのだろう。

 過去の「みーちゃん」が救われ、今の美沙が力を得た。ここまでは良い。たった一つ気になる事があるとすれば……



「闇ヶ淵の予言……気になるな」



 そう、空也さんが語った、美沙が生まれてすぐに闇ヶ淵に見せた時の予言だ。

 年齢差から考えて、そのとき綾乃は生まれていない。綾乃が「ばっちゃま」と呼ぶ闇ヶ淵の当主が見た、異形と戦い、傷つき倒れる未来の美沙の姿。

 一体これから先、何が待ち受けているんだろうか。求道聖蘭が第二形態や第三形態に変身したりするんだろうか? はたまた、俺達にも予想出来ないような未来の出来事なんだろうか?



「あたし、それに関してはあんまり心配してないんスよね」


「そりゃまたどうして?」


「だって闇ヶ淵の未来予知ではあたしは独りぼっちだったんでしょ? ありえないですもん」



 不意に美沙が俺の手を両手で包み込んだ。



「どこで誰と戦うにしても、困難には二人で対処するんでしょ? 今回の修行だって、渉さんに置いてかれないための物っスからね。……もうあたしを独りぼっちにしないですよね、相棒?」



 そんな話をしたのはついこの間、お互いに自らの弱さを認める原因となった広島城での魔物出現の時だった。

 一人で困難を抱え込まない、二人で対処していこうと提案したのは間違いなく俺だ。その約束を違えるつもりは毛頭ない。俺は美沙の目を見て頷く。



「そうだな、美沙が傷付く時には俺が、俺が傷付く時には美沙がそばにいる……そういう約束だからな」


「……あたし、ご先祖様から聞いたんスよ。渉さんは神も魔も集う運命の特異点だって……きっと、渉さんの側が世界で一番危険なんスよ。だからあたし、渉さんの側から離れるつもりは一切ないっスからね」



 普通であれば危険だと聞かされたなら俺から離れていくはずだが、逆に絶対離れないと宣言する美沙に、俺は妙な安心感を覚えていた。



「ああ、頼りにしてるからな」


「えへへ、最近はみそっかすイベントがあまりにも多かったっスからね……今後はまた頼りしてもらえるよう、頑張りますからねー!」


「その為にも、明日のローグライク登山ダンジョンの踏破、頑張れよ」


「はーい……まぁ、あたしに限っては持ち込みチートアイテムがあるんで楽勝だと思いますけどね。ご先祖様がお土産に詫び刀を配布してくれたんスけど、これが世にも珍しいエンチャント特化で耐久無限の破壊無効持ちなんで、ナーフされない限り人権武器確定っスよ」



 詫び刀配布……人権武器……ありがたみが薄れるから、あんまりソシャゲ用語は使わない方がいいんじゃないだろうか。ご先祖様も草葉の陰で泣いていると思われる。



「そういやお前、熱帯魚のソシャゲやってたろ? アレはどうしたんだ?」


「ああ、アレは八月くらいに卒業しました。イベント限定のベタ・スプレンディスを取り逃したんですけど、そいつが今シーズンの環境最強カードになっちゃって、持ってないとレイドに入れないんスよ……だもんでアカウントを売っぱらって辞めました」


「もったいねえ……俺から飯をせびってまで課金し続けてたゲームだったのにな」


「そういやそうでしたね……また今度コンビニのおにぎりでも奢ってくださいよ、先輩」



 それから俺達は、栄光警備に入ってからの思い出話やお互いの身の上話をしているうちに、どちらからともなく眠りについていた。

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