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【コミカライズ始動】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第三章

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第47話

 田島さんを乗せたパトカーの遠ざかる音と入れ違いで、二つのサイレンが近づいてくる。パトカーと救急車だ。

 当然ながら木下専務は田島さんのスキルが乗った一撃でミンチより酷い状態になっているので救急車は不要だ。

 むしろ救急車が必要なのは前後不覚に陥ってぶっ倒れた合田さんを始めとする社員達だ。

 ……ちなみに木下専務のこの有様、エリクシック・ヒールで治ったりしないんだろうか?



《管理者:高坂渉に回答します。エリクシック・ヒールは対象の傷病の程度と使用者の魔技能力値によって消費魔力が決まります。個体名:木下康介の負傷は脳死どころか脳と身体が木っ端微塵になっておりますので、ダンジョン三つ分程度の魔素の貯留が必要になります。レベル換算で約千七百レベル分です。管理者:高坂渉単独で行使を試みると、確実に死にます》



 ……だそうだ。木下専務の事は諦めるしかない。もしこんな物理的に再生不可能な状態からのカムバックを果たしたら、俺も木下専務も普通の人生を歩めなくなってしまう。

 意識不明の合田さんがストレッチャーに乗せられ、かろうじて歩ける吉崎さんと新人の女性事務員が救急隊の介助を受けながら事務所を出ていく。

 しかし事務所を無人にする訳にはいかないので、指導教育責任者の岡島さんは事務所に残る事になった。

 その岡島さんも顔面蒼白だし小刻みに震えてるしで不安しか無い。



 しばらくして夜勤当直の川崎さんが出社し、血まみれの事務所を目の当たりにして腰を抜かした。

 さらに俺が帰ってこない事に痺れを切らした美沙が駆けつけて、俺が負傷したと勘違いして泣きながらヒールポーションを飲ませようとした。俺は無事だ。

 そして最後に、田島さんの凶行を警察から聞かされてすっ飛んで来た春川常務が呆然としていた。

 血まみれのオフィスに驚いたのか、今日が出勤日だったらと想像して恐れ慄いているのか、それとも自分を含めた重役が田島さんから殺される程に恨まれていると思っていなかったのか、はたまた明日からの諸々の後片付けを想像して途方に暮れているのか……

 どちらにせよ、俺や月島君への事情聴取が終わり、日報を所定の位置に投げ込み、俺達が事務所を後にする頃までに春川常務が平静を取り戻す事はなかった。



 § § §



 翌日から、栄光警備株式会社は上を下への大騒ぎとなった。

 隊員レベルでは、田島さんの凶行が凄まじい勢いで拡散した。五号警備担当者はシーカーズ経由で、一般隊員は現場での雑談や各種メッセージアプリで情報が飛び交った。

 確かに木下専務のシフトの組み方は酷かった、殺したくなる気持ちは分からんでもないが殺っちまったらおしめえよ、あの程度の連勤でキレるとは田島もまだまだだ俺なんて二十連勤もザラだったぞ……等と、様々な議論と言う名の雑談が交わされた。

 事務所の方はというと、今回の一件が探索者による非ステータス保持者への殺傷である事から、広島県警刑事部捜査第一課と探索者協会の合同捜査が行われた。

 血祭り状態に加えて警察や探索者協会のお偉いさんだらけの事務所では当然仕事が出来ようはずがない。臨時休業もやむなしと思われていた。

 しかし不幸中の幸いと言うべきか、三階にある会議室は元々経理課のオフィスだった名残から今でも電話回線とLAN回線が敷かれており、機器さえあれば事務所としての運用が可能だった。

 とはいえ、いかに事業所の機能を確保出来たとしても、それ以外の問題が山積している。



 常日頃働いている職場で凄惨な殺人事件が起こった事実に多くの事務員が精神に変調を来たし、特に合田さんは強いショックとストレスに晒され続けたせいで入院が確定した。いわゆるPTSDという奴だ。

 広島本社の事務員のほとんどがダメになっている状態で、これでは業務が滞ってしまう。

 急遽山口と愛媛の各支社からピンチヒッターを募ってどうにか業務を回しているが、いきなりやって来て現状を把握していない人間が現場や警備員を適正にハンドリング出来る訳がない。……これが従業員の問題だ。



 さらに会社の問題がある。田島さんやその他一部の隊員に常軌を逸したシフトで働かせ続けた証拠となる業務日報が押収された。

 今回の一連の事件は、栄光警備の長年に亘る偏った労務管理が原因の一端であると見られている。

 それと同時に、様々な名目で劣悪な環境に押し込められて不満が燻っている人間にステータスという凶器を渡したらどうなるか? という問いに対するこれ以上ない事例が提示されてしまった。

 これは幾度も議論が重ねられ、ようやく沈静化した「ステータス保持者は危険なので一部権利を抑制すべきである」という提案が蒸し返されてしまう格好の材料となるだろう。

 発足からこれまで業界のイメージアップに腐心していた探索者協会にとっては、甚だ迷惑な話だ。

 今回は見せしめの意味も含めて、労働基準法違反を根拠に営業停止処分も視野に入れた厳しい判断が為される可能性が高い……と、朝のニュースで報じていた。



 今回の件で一番渋い顔をしていたのが栄光警備の買収計画を進めていた静香だ。

 栄光警備は非上場企業であり、その株式の価格は資産価格によって決まる。だがここに来て業界でも滅多に聞かない大事件の発生だ。

 これがただの損失なら霧ヶ峰の資本を注入する事で立て直す事が出来たかも知れない。

 だが今回の俎上の難物は従業員による殺人と労基法違反、しかも行政処分や営業停止がチラついてると来た。これでは火中の栗を拾いに行くような物である。



 静香は俺や美沙がダンジョン警備を主軸に活動出来るようにと栄光警備のTOBを企てたが、いっそ栄光警備を潰して霧ヶ峰で独自に五号警備専門の警備会社を設立し、そこで俺達を拾い上げた方が早いのではないか? と考えているようだ。

 美沙は俺さえいればどんな状態でも構わないとは言うが、俺はいくら待遇が微妙でも長年勤めている会社から離れたくはない。

 不安定でも留まっているならば、それは安定と変わらない……と俺は思う。社畜根性と言われてしまえばそれまでではあるが。



 ともあれ、報道や連絡を聞いて発注を取り下げた企業が多く、美沙が行く予定だった現場も立ち消えになった。

 俺は俺で応援で来た支社の事務員の手違いでダブルブッキング状態になったため、そのまま帰らされて休みになった。

 ちょうど二人とも休みになった事もあり、自室であるファーマメント南観音二階の俺の部屋で今後について相談する事になった。

 年中暇な綾乃と在宅勤務中の静香、そして今日は非番のあかりもいっしょだ。

 君ら、何かにつけて俺の部屋に上がり込もうとしてないか?



 § § §



「こーーーさか氏ーーーー、栄光警備抜ける気はないんですかなーーーー?? 拙者もうやんなっちゃったでござるぞーーー???」



 リビングにある六人掛けのテーブルに突っ伏して手足をばたばたさせながら、静香が泣き言を漏らす。



「うーん……勤続年数がまたゼロになるのはちょっとなぁ……うち、勤続年数によって年始のお年玉寸志の額が変わるんだよ」


「寸志って言ってもどうせ三万円とか五万円でござろーーーー!? 二倍! 二倍出すんで弊社に鞍替えするのはいかがですかな!? まだ警備会社作ってはおりませぬが!!」


「二倍出しても六万円とか十万円かぁ……しずかちゃん、倍とか言わんでバーンと給料三ヶ月分くらいボーナス出したげるーって言ったら釣れるんじゃないの?」



 綾乃が冷蔵庫から勝手に三個入りプリンから一つ取り出しつつ静香に提案する。勝手に人のデザートに手を出すんじゃない。

 ちなみにお年玉寸志は十年未満は三千円、十年以上は五千円だ。倍でも一万円……残念、桁一つ分惜しかったな。

 余りにも悲しすぎるので真実を伝えるのは止めておいた。



「そもそもの話、ウチって年越せるんスかね? 営業停止になったら何も出来無くなるじゃないスかね?」



 美沙が二リットルコーラをコップに継ぎながら俺に尋ねる。

 ただの後輩だった頃は俺に食料品をねだっていたが、今はちゃんと自腹で買った物を飲み食いしている。

 えらい、どこぞの人のプリンを勝手に食う占い師とは大違いである。

 


 警備業が営業停止処分を受ける話は結構聞く。

 大体は警備業法違反を法的根拠とする公安委員会からの行政処分という形が多い。田島さんご乱心の件があまりにもレアケース過ぎるのだ。

 営業停止処分になると、当然警備員は現場に出る事は出来ない。営業停止前に受けた仕事についてもキャンセルするか、他社に応援を頼むしかない。

 そうやってその場を凌ぐ事が出来たとしても、スケジュールに大穴を開けるような警備業者の信用はガタ落ちになる。

 新規案件の受注が難しくなり、現場の数が減る。現場が減ると隊員は働けなくなるので辞めるしかない。隊員が居ないと現場を受注しても穴が開くので積極的な営業をかけられない……という悪循環だ。

 事実、営業停止を喰らった警備業者は大幅な規模縮小か廃業の憂き目に遭う。正直言って、かなりマズい。



「一応山口支社とか愛媛支社は動けるはずだが、広島本社の仕事は全ストップになるだろ? もうすぐ十月、営業停止は大体一週間から一ヶ月……年末年始は耐えるかもな、それ以上は知らんが」


「実際どうしますかねぇ……いっそ警備じゃなくて探索者やります? 特例甲種もある事ですし」



 美沙の提案は悪くないとは思う。

 正直、警備員で潜れる表層ではそこまで金にはならない。しかし深層を探索出来る実力があれば値千金のドロップ品を手に入れられる可能性がある。

 ……しかし、やはりちゃんとした定職に就いていたい気持ちはある。警備員がちゃんとした定職かと言われたら……そこは少し肯定し難い気持ちも無くはないが。



「うーん……いや、俺は警備員を続けるよ。栄光がダメでも警備会社は他にもあるからな」


「何でまたそんな儲からない道を行こうとするんかねー、高坂さんって修行僧か何か?」



 プリンをペロリと食べ切った綾乃が容器をゴミ箱に投げ入れようとして……外した。

 しかしちゃんと拾って捨て直したので許す。床に落とした所はちゃんと拭いとけよ、カラメルが溢れてるとベタベタするからな。



「世界に突然現れたダンジョンが、ある日突然消えることだってあるかも知れないだろ? 探索者に全振りしてると、そうなった時食い扶持が無くなるからな」


「それまでに稼ぎまくればいい話でしょ? ガッポリ稼いで早期リタイアしちゃえばいーじゃん」


「そういう山師的な生き方は好きじゃないんだよな……人間地道に生きていくのが一番だよ」



 勇気と想像力とほんの少しのお金があれば生きていけると宣った喜劇王が大昔に居たが、俺も立って半畳寝て一畳より多少マシな程度の生活でも悪くないと思っている。

 あまり金銭的な幸せを追い求め過ぎるのも健全とは思えない。……俺が生まれつき貧乏だからかも知れないが、そういう気質なんだからしょうがない。

 とは言え、俺が一人で生きて一人でくたばる人生ならそれでもいいが、今の俺には美沙がいる。

 美沙にまで不便を強いるのはよろしくないんじゃないかとは思っている。俺と違っていい所のお嬢さんだしな。



「ふーん……こんな事言ってるけどみさっちはいいの? 甲斐性がミニマイズされてるよ、このオッサン?」



 綾乃から急に話を振られた美沙はコップを置いて、にっこりと微笑んで俺の方を向いた。



「別にどっちでも良いと言うか……あたしにとっての幸せは渉さんの側にしかないから何でもいいっスよ。お金のある生活もそうでない生活も、渉さんがいれば最高に幸せですし、いなかったらどのみち地獄っスから……何ならあたしが稼いで来るから問題無いっス」


「駄目! 駄目ですみさっち! それはヒモ製造機のセリフです! 天地六家の矜持をしっかり持ってー! 私はハナっからそんなモンないけど!!」



 綾乃がギャースカ騒いでいるのを美沙は困ったように眺めている。本当、何で美沙は俺なんかにそこまで惚れ込んでいるのやら……

 ふと、俺のズボンのポケットから振動が伝わる。俺はポケットからスマホを取り出して通知を確認する。

 通知はシーカーズアプリのメッセージ機能だった。という事は五号警備関連だと思う。差し出し人は東山さんだ。



 東山さんは交通誘導警備員としてブイブイ言わせてた頃は誘導灯を二本使ったアクロバティックな誘導を行い、悪い意味で有名だった。

 SNSで拡散した結果、一般人からは神業警備員と持て囃されたが、ご同業である警備員からは仕事中に遊ぶなと酷評されていた。

 俺と同じ講習会でステータスを得て、そのジョブはデュアルブレーダー、二刀流の手数を頼みにバッドステータスを付与しながら敵に切り込むジョブとなった。



 そんな東山さんからのメッセージは、案の定田島さんの事だ。最後に一緒に働いたのが俺だから、何か知っているんじゃないか? との事だった。残念ながら何も知らない。

 狂気の日勤夜勤日勤で限界だった事と、最後にまるで発狂したように豹変した事くらいしか分からないが……前者はともかく、後者は人に軽々しく教えていい物じゃない。

 俺は「日勤夜勤日勤でしんどそうでしたよ、それくらいしか分かりません」と返信して、スマホをポケットに入れた。

 その様子を見ていた美沙が俺の側に来て、肩に手を置いて尋ねる。



「……誰からっスか? 女からっスか?」



 そのハイライトが消えた目で見つめるのはやめて欲しい。蛇に睨まれたカエルになった気分になる。

 別にやましい所のない俺は素直に答える事にした。



「東山さんからだよ。田島さんと昨日一緒に働いた時には異変はなかったのかって」


「そういや実際どうだったんスか? お好み焼き食べた時に多少は聞きましたけど……」


「ああ、めっちゃ揺れてたよ。人間って限界越えると平衡感覚から駄目になっていくのかなって思わせるくらいだったが……別に殺しをやるような狂気は感じなかったな」


「でもそれから数時間で木下さんをミンチにするくらいにキレた訳でしょ? 一体何が田島さんをそこまで追い詰めたんスかね? これまで似たようなアホなシフトは何度もあったはずですけど……」



 それが俺にもさっぱり分からない。

 田島さんは栄光警備でも古株で、もっと会社の規模が小さかった頃からの警備員だ。

 今とは比じゃないくらいのブラックだったと聞いた事もあるし、田島さんに関しては今でもブラックだ。

 そんな田島さんが人を殺すレベルでブチ切れるなんて、何か理由があったとしか思えない。一体何があったんだろうか?

 ……そう言えば、あの時田島さんは「教わった通り」と言っていた。一体誰に、何を教わったんだ?



「……その話なんですが、よろしいでしょうか?」



 俺達から少し離れてソファに腰掛けてスマホをいじっていたあかりがこちらに合流する。

 そのソファも静香の所の子会社が手配した物だが、とんでもなくふわふわしており、一度腰掛けたら深く沈み込んで起き上がれなくなりそうだった。

 人を駄目にするソファなんて物もあるが、こちらはある意味腰を駄目にしてしまいそうなソファだ。



「あかりん、何かあったのー?」


「ええ、田島耕作氏の持ち物を検査した所、このような物が見つかったとうちの手の者から報告がありました。……高坂さん、どうかお気を確かに」



 あかりがスマホをこちらに向ける。田島さんのリュックとその内容物を撮影した物のようだ。気を確かにって、そんなに衝撃的な物が見つかったのか?

 雪ヶ原は古代より諜報活動に特化した情報戦の名家だ。その構成員は様々な組織に入り込んでおり、広島県警にも当然出入りしている。

 だからこそこんな写真も簡単に出てくる訳だが……悪い事をしている気分になってくる。



 画像はリュックから始まり制服、日報の束、菓子パンのビニール袋、列車見張員の教本、一本しかない割り箸、チョコレートの銀紙とゴミやそうでない物が玉石混交で存在していたが……



「ちょっと待った、お前……それは……!」



 とある画像で俺は自分の目を疑った。ケバケバしい原色のカラーリングを多用した目に優しくないデザインに「世界の真実」と書かれた表紙の書物が写っていた。

 表紙下部には「宗教法人 龍心会/宗教法人 迷救会」と書かれており、五芒星をモチーフにしたロゴがあしらわれている。

 ……確かに衝撃的だ。何でこれを田島さんが持っているんだ。どうして……!



「渉さん……渉さん? 大丈夫っスか? 顔色悪いっスよ?」



 思わず立ち上がってしまった俺の顔を覗き込んで美沙が声をかける。俺はその声もどこかぼんやりしたように聞こえていた。



「……高坂さん、お気持ちは分かります。落ち着いて下さい」


「雪ヶ原さん、それ何なんですか!? 渉さんと何の関係があるんですか!?」


「これに関しては、ご本人から直接お聞きした方がいいでしょう。……高坂さん、大丈夫ですか?」



 何故あかりがお気を確かになどと言ったのか、ようやく分かった。

 そうだ、あかりは俺の妹の事を知っている。江田島ダンジョンで妹に俺の居場所をバラされたくなければ敬語を止めろと脅された。うちの家庭環境は既に筒抜けだった訳だ。

 思い出したくない記憶が脳裏を埋め尽くしていく。親父、お袋、そして妹。病室で力無く笑う妹、親父の葬式、お袋を殴った雨の夜……



「高坂さん! 高坂さん! 聞こえていますか!? しっかりしてください!」



 あかりに揺さぶられて、意識が表層へと帰って来た。気がつくと俺は短時間だというのにびっしょりと汗をかいていた。



「あ、ああ……大丈夫だ」


「渉さん……言いたくない事だったら言わなくていいっスよ。あたし達は別に無理にでも聞きたい訳じゃないっスから」



 美沙がゆっくりと俺を抱きしめて、背中をポンポンと叩く。その柔らかさと安心するリズムのお陰で、俺は徐々に平静を取り戻していった。



「……いや、これは俺からちゃんと説明しないといけない事だ。特に、美沙には」



 俺は美沙の頭をひと撫でして体を離し、椅子に腰掛ける。出来ることなら一生思い出したくなかったが……仕方がない。



「そりゃあ、教えてもらえるなら聞くっスけど……大丈夫っスか?」



 美沙が心配そうな声を上げる。俺は何度か深呼吸してから、口を開いた。



「宗教法人、龍心会……和歌山県の田辺市にやたらとデカい城みたいな建物が建っているのが本部だ。全国規模で支部が存在し、広島には廿日市市の栗栖に支部がある。教主……いや、代表は求道龍禅(ぐどうりゅうぜん)と名乗るジジイだ。求道は龍の生まれ変わりを自称して癒しの力を使い、どんな末期の病人すら癒すと喧伝している。よくある手かざし系の新興宗教だ」



 俺の家族を壊したカルト教団の事なんか、思い出したくも無かった。何で今になって、俺のすぐ近くに現れやがった……!



「病人や怪我人の弱った心につけ込んで、多額の布施を要求する。払った額によってランクがつけられ、龍禅の手ずからの治療を頼みたければ、それこそ途方も無い額の金をつぎ込んでランクを上げる必要がある。一般的なサラリーマンの一生分の稼ぎを渡して、さらに借金しても足りないくらいのな。そして……」



 俺は顔を上げて、皆の顔を見た。皆、神妙な面持ちで俺の顔色を窺っていた。

 これ、言わなきゃダメか。ダメだよな……



「……妹が不治の病に冒された結果、お袋がどっぷりとハマっちまった宗教だよ」

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