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【コミカライズ始動】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第二章

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第37話

「渉さーーーーん!!」



 自衛隊員と話をしたり、スマホで各種情報を確認したり、会社からの明日の仕事の連絡を受けたりして時間を潰していると、美沙が走ってきた。遅れてあかりが歩いて来ているのも見えた。

 美沙は着の身着のままで駆けつけたんだろう、いつも通りのトンチキなTシャツに量販店のスキニージーンズ、足元はややくたびれているスニーカーと普段着の出で立ちだ。

 今日はご飯が山盛りになった茶碗にかわいい顔がかかれており、茶碗から生えた線の手足がばたばた暴れている上部にギザギザ吹き出しで「米騒動!」と書かれているプリントTシャツだった。

 ……だからどこで買ってるんだ、それは。



「美沙、無事だとは聞いてたけどそっちは……うおっと」



 俺の話も聞かずに、美沙が俺の胸元に飛び込んだ。結構力強いタックルだったが、しっかりと抱き留めてやる。



「渉さんっ、大丈夫なんスか!? あんなバカデカいのを相手にしようなんてどうかしてるっスよ!」


「え、もしかして見てたのか? さっきのヘリから?」


「そうですよ! 離れた所から見てたんスよ! どうやったんですかアレ! そもそも物理的に無理でしょう!?」



 ……流石に説明しない訳にはいかないだろう。とは言え、今は人の目がある。さすがに原初の種子の話を第三者の多い場所でぶちまけるのはマズい。

 自衛隊員のほとんどは他所に散らばったが、ゴーレムがいた場所を確認していたり、近辺に魔物がいないか偵察哨戒を行っている。

 俺とすれ違う度に自衛隊員が敬礼して来るので気が休まらない。

 ちなみに、本来であれば自衛隊員に敬礼されたら右手を左胸に置く答礼をすべきなんだが、一緒にゴーレムに立ち向かった仲間のような物なので「敬礼と言えばコレ!」って感じの右手をこめかみに当てる挙手の敬礼にて答礼をしている。

 ……こんなしょっちゅう人の通りかかる状況で迂闊な事を喋ろうモンなら、どこから拡散されるか分かった物ではない。



「今その話はちょっと……な」


「そうですよ、月ヶ瀬さん。落ち着いて話が出来る環境ではありませんし、後日改めてお聞かせ頂きましょう。……高坂さん、お疲れ様でした」



 美沙の後方からゆっくりと近づいてきたのはあかりだ。

 淡い水色のサマーニットに白いロングスカート、見るからに高価そうなサンダルと、美沙と違ってしっかりめかし込んで来たのが分かる。



「ああ、お疲れ様。美沙の事助けてくれてありがとうな」


「いいえ、これも高坂さんに恩を売るためですから、気にしないで下さい。しっかり徴収させて頂きますからね」


「……警備員の安月給をナメて貰っては困るぞ」


「大丈夫です、体で払って頂きますから。……そうでした、お身体の方は大丈夫なんですか? 相当な無茶をされていたみたいですけど」



 あかりがぺたぺたと俺の体を触ってくる。ゴーレムとの戦いでの緊張と暑さのせいで結構な量の汗をかいているので、あまり触れて欲しくはない。

 あと美沙が俺に抱きついたまま鬼の形相で凝視して来るのでスキンシップは厳に謹んで頂きたい。美沙もいい加減離れて欲しい、汚れるぞ。



「ああ、問題ない。体への負担はほとんど無かったからな。……とりあえずそろそろ帰る事を考えないとなぁ、アシがないからタクシーか……」


《指定した地点への瞬間移動を行うアクションスキル:新規スキル004を……》



 いりません。何でも便利にしようとするんじゃない。あと会話に勝手に入り込んで来ないように。



「私と月ヶ瀬さんがここまで乗ってきた車の運転手に、お二人を広島市内のご自宅までお送りするよう伝えております」


「いいのか? 俺達は助かるが……」


「私は明日岡山で打ち合わせがありますので、間も無く迎えが来る手筈になっております。どうぞご利用下さい」



 あかりからの申し出はありがたいが……少しだけ不安を感じなくもない。

 今回のゴーレム事件に不干渉を決め込んだ天地六家……あかりはその一角を担う、雪ヶ原家のトップだ。

 俺が原初の種子の力を扱えるようになったから助かったものの、そうでなければ自衛隊員もろとも全滅だった。

 それだけでなく、美沙への襲撃を事前にきっちりと対処出来たと言うことは当然情報を握っていたはずだ。それならゴーレムの話だって事前に把握していたはずだ。

 その情報を流さずに俺に対処させようとしたという事実に、少しだけ言い知れぬ不信感が漂う。



 美沙のご実家である月ヶ瀬家と違ってあかりに戦闘力がある訳ではない。

 それでも「俺だけでなく、東洋鉱業の関係者と救助に駆けつけた自衛隊員を見殺しにしようとした」と言えなくもない。

 いざと言う時に様々な要因によってハシゴを外すかも知れないあかりをこれからも頼っていいのだろうか……? と思ってしまう。

 いや、別にあかりを嫌いになったとかそういう訳ではないのだが……何なんだろう、妙な感じだ。



「高坂さん。私達は今回の一件について、情報の擦り合わせが必要だと思っています」



 俺が困惑している顔を隠せなくなってしまったからか、あかりがそんな提案をしてきた。

 俺としても今回の判断を下した理由や、どうして俺に任せようとしたのかも聞いておきたかった。



「……そうだな、こちらとしても聞きたい事がある」


「高坂さんの疑問点につきましても、説明……いえ、弁明したく思います。後日、お時間を頂けますか?」


「分かった。出来れば中本社長にも声を掛けて欲しい。あの人も言ってしまえば被害者だからな……ある程度は知る権利があると思う」


「……承知しました。日取りと場所は追ってご連絡させて頂きます。それでは、私はこれで失礼します」



 あかりはしずしずと頭を下げ、ジャストタイミングで迎えに来た女性と共に東洋鉱業を後にした。

 ……あの迎えに来た人、江田島で見たぞ。確か雪沢って人だ。そういや、氷川さんはあの後どうなったんだろうか?



「渉さん、そろそろ帰りましょ? 疲れたんじゃないっスか?」


「そうだなぁ、体はそうでもないがメンタルが結構……帰るにしても離れてくれないと歩けないんだが?」



 俺が指摘すると美沙が腕に力を入れる。マジで歩けないんだが?

 あとそろそろ周囲の視線に殺意が混ざり始めているので勘弁して欲しい。



《空中浮遊移動を可能にするアクションスキル:新規スキル004を……》



 だから要らない! 抱き合ったカップルが浮きながら車に向かうとかどんな怪奇現象だ! 何でもかんでもスキル生やして対応しようとするんじゃない!



 結局、どうにか美沙を引き剥がし、あかりの残した車に乗って広島市内へと戻った。美沙にラピスの為にオムライスを用意してもらい、ようやく長い一日が終わった。



 § § §



 呉を震撼させた巨大ゴーレム騒ぎの後、しばらくは何事も無く平穏無事な生活が帰ってきた。

 東洋鉱業から預かっている最新鋭装備「八重垣」だが、使用データの解析とオーバーホールを実施したいとの申し出を受けて、カードデバイス「神楽」と共に返却している。

 どうやら八重垣には使用状況をモニタリングするシステムが組み込まれており、想定された物と大きくかけ離れたデータが送信されていたらしい。



 実物を見ないと判断出来ないのはデータ解析班だけでなく製造部門も同じようで、材質の耐久性で見ればとっくに壊れていてもおかしくない状態らしい。

 変な歪みが発生して最悪のタイミングで爆散する可能性を考えると、このデータの不一致を解決出来ないまま製品として世に出したりなんか出来ない。

 そういう事もあり、隅から隅まで徹底的に検査するために数ヶ月預ける事になったのだ。

 その間の装備は八重垣と比べると一世代型落ち……と言うと大変失礼だが、現行最上位モデルであり、栄光警備にも提供されている「不抜」を一式借り受ける事になっている。

 こっちとしては、F1カーの代車がスポーツカーだったような感じだ。軽自動車くらいの肌感覚の装備で良かったんだが……ゴブリン程度の相手ならバルク品で十分だ。



 実際、本業の方も田方ダンジョンや中広ダンジョン、マリンフォートレス坂に程近い矢野ダンジョンといった比較的難易度の低いダンジョンの警備業務に駆り出される程度だった。

 頻度もさほど高くなく、ダンジョン警備は三日に一回程度に留まった。残りは工事現場での車両誘導や夜間の通行止め要員、商業施設の駐車場警備がほとんどだ。

 美沙と同じ現場になる機会はほとんど無かったが、半同棲状態のおかげで俺との接点がある為、美沙が会社にキレ散らかす事は無くなった。



 ちなみに越智が知っているはずがない美沙の居所を何故知っていたのかだが、これは栄光警備に下手人が居た。事務の三浦さんだった。

 故意で情報漏洩をかました訳ではなく、越智から「月ヶ瀬さんから借りっぱなしになっている本を返したいが住所が分からないので教えて欲しい」と言われてホイホイ教えたそうだ。



 女の住所を退職して無関係になった男に容易く流したのも問題だが、そもそも借りている本を返したければ栄光警備の事務所を経由させるとか方法はあったはずで、それに思い至らなかったのは三浦さんの落ち度だ。

 これが何も問題がなければ「次から気を付けなさいよ」と訓告程度でお咎め無しとなるだろうが、今回はコトが大きくなりすぎた。

 俺がならず者に包囲された件も含めて、美沙が越智から襲われる所だったと警察から注意喚起が来たとあっては処分は免れない。

 三浦さんは自主退職扱いで栄光警備をクビとなった。

 元々事務員としての能力に乏しく、あまりにもミスが目立っていたので致し方無しとも言える。俺たちの特例甲種授与式の時の連絡もお粗末だったしな。



 そんな感じで裏ではいろいろありつつも、仕事自体は至って平和な毎日を過ごしていた。

 休めないお盆を商業施設の警備で過ごし、酷暑で倒れた同僚の救援に向かい、新規現場の立ち上げの為に日勤夜勤シフトで丸一日働いて帰り、接点が短くなったせいで沸点を迎えそうな美沙をなだめて……といった生活を送ってようやく迎えた九月の中頃。

 ようやく、あかりからゴーレムの件と俺の力についての意見交換会の日取りが決まったとの連絡が入った。



 § § §



「あかりも話し合いするからって普通、こんな場所取るかね? 俺とかどう見ても場違いなんだが」


「そんなモンっスよ。あたしも前に『居酒屋で話すればいいじゃん』って言ったら家畜を見るような目を向けられて割烹料亭に連れて行かれましたもん」


「何なら公民館やスポーツセンターの貸し会議室でも良い気がするけどなぁ……やっぱ住んでる世界が違うわ」



 ここは広島市東区、只今絶賛改装中の広島駅から徒歩圏内にある高級ホテルの四階だ。宴会場や会議室が並んでおり、今日の話し合いはその一室で行われる。

 俺と美沙は時間前に着くように、少し早めに到着している。

 格式高いホテルと言う事もあり、親父が死んだ時に着たっきりの式服を引っ張り出してきた。

 何せ俺はブルーカラー、まともなスーツなんて式服以外持ち合わせていない。やはり安いヤツでもいいから一着くらいは買っておいた方がいいんだろうか。

 美沙はいつもの変なTシャツを封印し、紺色のフォーマルなジャケットに同色のパフスリーブワンピースを合わせたセットアップで臨むようだ。

 うっかり「お前そんなまともな服も持ってたのか」と口を滑らせてしまい、じっとりと睨まれたのは内緒にしておきたい。



 目的地である会議室に到着すると、俺達よりも早く開場を待っている人がいた。

 廊下に置かれた革張りのソファに座る、ピンクのアロハシャツにダメージジーンズの男性……東洋鉱業の中本社長だ。

 この人はどんなシチュエーションでも服装を変えない……と言うよりも、人前に出る時は必ずアロハシャツだ。もはやそういう正装なのかも知れない。



「もう来られてたんですか、中本社長」


「そりゃアねぇ……情報屋のお嬢さんから『墓場まで持って行くか、漏らしたら死ぬ覚悟で来て下さい。高坂さんの希望がなければ、一般人に聞かせる話ではありませんから』なんて言われりゃア、恐ろしくて家でまったりなんて出来ませんよ」



 中本社長は緊張感を隠している様子だったが、それでもやはり精神的に来る物があるのか、貧乏ゆすりが止まらないようだ。



「……まぁ、あかり……いえ、雪ヶ原がそう言うのも分からないでもないですよ。誇張抜きでバレたらえらい事になるとは思います」


「当人にそう言われちゃア、どうしようもありませんな……しかし情報屋のカシラを名前呼びとは……やっぱり只者じゃアありませんな」



 中本社長の口から乾いた笑いが漏れる。



「当の本人からそう呼べと言われただけですからね……正直よく分かりませんよ。俺自身は一般人のつもりなんですがね」


「渉さん、月ヶ瀬のあたしに好かれて、尚且つ雪ヶ原に気に入られる一般人なんて居ないっスよ」


「そうは言うけど、まだ面識があるのは三分の一だぞ? あと四つも残ってるぞ」



 割って入ってきた美沙にそう返すと、後ろから声が掛かった。



「では高坂さん、今日で三分の二になりますよ」



 振り返ると、鮮やかな刺繍が施された黒留袖に身を包んだあかりが居た。



「あかり? ……それはつまり……?」


「はい。今回の件に関与した天地六家の二家が、中で皆様をお待ちしております。早めに集まってしまったのは、どうやらお三方だけではなかったようでして」


「二家……もしかして闇ヶ淵と霧ヶ峰ですか?」



 あかりは美沙の問いに小さく頷きを返した。

 確か美沙のお姉さんにあたる坂本万沙さんが説明してくれた気がするが、闇ヶ淵は日本最古の占い師集団だったはずだ。



「はい。残念ながら残りの二家とは連絡が付きませんでした。今回の件にも直接関わった訳ではありませんから」


「でしょうね……でも、真相を聞くだけなら闇ヶ淵と霧ヶ峰、それから雪ヶ原さえ揃っていれば問題はないでしょうし、他家への連絡も事足りますから……ぶっちゃけ居ても居なくてもって感じですよね」


「そうですね。ちなみに月ヶ瀬さんのお父上にも連絡が付きませんでしたので、改めて今日の内容をご報告しておきますね」



 美沙と話し終えたあかりが、会議室のドアを開いて俺達に向き直った。



「では、せっかく早く集まったのですから、早くお話を始めてしまいましょう。どうぞ、中へお入り下さい」



 何の気負いもない美沙と少し緊張してきた俺、そしてこれから敵対するヤクザにカチコミをかける鉄砲玉のように表情が死んでいる中本社長は、あかりが開けてくれている会議室へと足を踏み入れた。

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