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【コミカライズ始動】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第一章・幕間

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幕間2 激突! マリンフォートレス坂(2)

 マリンフォートレス坂は、坂町の横浜地区にある。神奈川県にある横浜と全く同じ漢字、全く同じ読み方なので、「横浜まで行ってきたよ、坂のだけど」なんて鉄板の親父ギャグがあったりもする。

 元々は横浜島という島があり、埋め立てた結果半島状に出っ張った土地になった。

 見るべきところも特になく、平成ヶ浜にマンションを建てる事で住民減少をどうにか食い止めるので精一杯だったベッドタウンのなり損ないである横浜地区が変わったのは、ほんの五年前。マリンフォートレス坂が出来てからだ。

 坂方面の現場に入る事が全く無かったので実際に目にする事は無かった。テレビで度々紹介されているのを見る事はあったが、なかなか食指が動かなかった。プライベートでまで人混みを見たくないからだ。

 今回初めて、生まれ変わった横浜地区に行く事になった訳だが……その姿に度肝を抜かされた。



 § § §



「ほえー……凄いっスね、今の坂ってこんな事になってんスねぇ」


「ああ、俺もここまで電車に乗って来たのは……ええと、十年ぶりか。まさかここまで栄えてるとはな」



 坂駅に降り立った俺達が驚いたのは、坂駅そのものだった。

 前の坂駅は田舎にありがちな古びた橋上駅舎と言った感じだったが、大幅な改装が施されている。……と言うよりも、これは駅と商業の複合施設として全面的に作り直されている。

 近代的で広々とした構内や飲食店や店舗が並ぶ駅ビルもさることながら、一番目を見張るのがマリンフォートレス坂まで続いている長大なペデストリアンデッキだ。

 ここからでも目視できる石造のスタジアムまで文字通り真っ直ぐ伸びている道には動く歩道も完備されており、身体が不自由な方への配慮も行き届いている。

 通路端にはエクシード・ブレイブの興行スケジュールや宣伝を流し続ける電子サイネージや選手を応援する横断幕が飾られており、等間隔に立てられた電灯には色とりどりのバナーが垂れ下がっている。

 チケットを持っていない人が取引条件を紙に書いて道行く人に交渉している様子も時折目にする。すまんな、俺達のは譲れないんだ。



 所々で物販のワゴンや屋台が軒を並べており、今日の試合を見に来たであろう通行人が飲食物や応援グッズを買い求めている。

 小さい男の子がビニール風船の剣を振り回している。俺らがガキの頃にもこういうおもちゃがあったが、その元ネタはゲームやアニメだった。

 この子が剣を振りながら想像しているのは、物語の勇者じゃない。広島の男の子が憧れの野球選手を真似してバットを振るように、この闘技場で戦う選手の真似をしているんだろう。

 ……それだけ武器を使った戦闘が身近になっているという事実に思う所がない訳じゃない。世界がダンジョンに慣れ、戦いに慣れている証拠だ。これが健全であろうはずがない。



「すっごい盛況っスねぇ」

 

「そうだな、一回はぐれたら合流するのが大変だろうから、近くにいるようにしろよ」



 俺が月ヶ瀬に注意を促すと、俺の横に駆け寄って来て手を取った。もう大分暑くなって来ている事もあってか、月ヶ瀬の手は繋ぐ前からしっとりとしていた。

 もう二十歳過ぎのお嬢さんだが、手を繋いで離れないようにする所はまだ子供と言う事だろうか。



「あの、先輩? 視線がすっごい生暖かいんスが?」


「いや、何かこう、親子みたいだなって思ってな」


「親子ぉ!? いやいやちょっと待って先輩、あたし父上と手を繋いだりしたことないんスけど!?」



 確か、まだ俺にとって月ヶ瀬がみーちゃんだった頃、お父さんが凄く厳しい人だと聞いた事がある。

 そうでも無ければ中学生の身空でステータスも無しに吉島ダンジョンで修行しろなんて言うはずもない。

 もしかしたら、月ヶ瀬は父親の愛に飢えているのかも知れない。こうやって手を繋いで歩いたり、親子でどこかに出掛けたりしたかったのだろう。

 最近俺を「お父さん」と呼びたがってる事だし、多分そういう事で間違いないだろう。

 繋いでいない方の手で月ヶ瀬の頭をわしわしと撫でてやる。ほら喜んでる、これが欲しかったんだろ?



「違う……嬉しいけど違う……絶対先輩違う事考えてる……違うのに……これじゃないのに……嬉しい……」



 月ヶ瀬は俯いたまま何かぶつくさと呟いてるが、観客席への入場ゲートが開門したようで、ことさらに大きくなった周囲の喧騒のせいで何を言ってるのかよく聞こえない。

 周囲の人混みの進む勢いが増す中で、俺は月ヶ瀬の小さな手を強く握って、入場ゲートへと歩みを進めた。



 § § §



 関係者席は、サッカースタジアムで言う所のロイヤルシートやプレミアムシートと呼ばれるような場所に位置していた。マリンフォートレス坂では「マジェスティックシート」と名前が付いている。

 中央寄りの最前列で、顔を上げれば巨大スクリーンも見える。飲食店の並ぶプロムナードまでは距離があるが、臨場感満点の試合を楽しむことが出来るだろう。

 まずは座席に荷物を置いてから飲食物の確保をしようと思っていたが、月ヶ瀬が怪訝そうな表情で、俺達のチケットに示された座席を指差している。



「先輩、あそこにいるのってちっひーじゃないっスかね?」


「そんなバカな、試合前だってのに……本当だ、月島君だ」



 黒地に蛍光カラーで幾何学模様が描かれたサッカーユニフォームのようなポロシャツにオレンジ色のキュロットスカートという奇抜な格好をした月島君は、俺達に割り当てられた座席の前でおろおろしながら辺りをキョロキョロと見回している。

 月島君は何かを探しているようだったが、俺達の姿を認めるとこちらに向かって大きく手を振り、こちらに向かって駆け出した。

 周りに人が居ないから良いものを、事故のもとになるから走らない方がいい……とでも説教の一つでもすれば警備員らしさをアピール出来る所だが、どうも月島君の様子がおかしい。完全に取り乱している。



「月島君、どうしたんだ? そんなに慌てて……」


「ちっひー、今日の試合出るんでしょ? こんな所にいていいの?」


「はぁ……はぁ……高坂さんっっっ! お願いがありますっっっっ!!」



 月島君が俺の腕に掴み掛かった。咄嗟の事に驚いて仰け反ってしまったが、月島君は逃してたまるかとばかりに俺の服を握り込んだ手にさらに力を込めて食い下がる。

 その鬼気迫る表情にトラブルの影が潜んでいるような気がして、俺は月島君の次の言葉を待った。



「ボクと一緒に試合に出てくださいっ!! 師匠の代わりに!!!」



 え、俺観客のはずだよな? 何で??

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