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二十二、目覚める本質

 私は父の言葉から逃げ出すようにその場を飛び出し、気がつけば透明な檻に閉じ込められている虚な表情の人達を呆然と見つめており。


「こんなの絶対間違ってるよ……」


 視線の先にいるのは身体中に傷を負い、何やら見たこともない機械と手首に嵌められた腕輪を繋がれている。私はこみ上げてくるやり場の無い感情に苛立ちを覚え。人間としての尊厳を尽く奪われた戦闘系の人達。ふと頭に思い浮かぶのはロゼさんの言葉。




『今もどこかで犠牲になっている誰かに比べれば幾分か幸せ。自分よりも不幸な誰かがいるだけで人は幸福を実感できるものなの』




 ————人間をこんな風にして、自分たちだけが幸せ? ()()戦闘系を利用して、踏みにじって!! そんな幸せ、そんな、幸せなんて……壊れちゃえばいいんだ!!




 目を見開く。視界がぼんやりと桜色に色付いていた。身体の内側から溢れ出す力の放流、いつの間にか手にしていたのは片方にだけ刃のある剣。確か刀と言うやつだ。

 吸い込まれそうな程美しい刃、妖艶とすら思える刀身は怪しげな光を放っている。ただ、はっきりと分かるのはこれが私の力であり、この刃は私自身だと言う事。


 私はおもむろに刀を振りかざすと、ガラスの檻、その真横にある怪しげな機械へ向け。


「はぁああああああああ!!」


 思い切りその刃を突き刺した。けたたましく警鐘を鳴り響き、そこら中のあらゆる機器が悲鳴を上げている。しかし、そんな事はどうでも良かった。私は決めたのだから。


「こんな場所! 壊してやる!!」


 透明の檻はその全てが自動的に開いていった。私は腕輪と腕輪をつなぐ機器を斬り倒しながら先へ進み、目についた重要そうな機器は手当たり次第斬り崩す。

 魂の刃は鋼鉄も何もかも、私の目に映る不愉快な全てを易々と斬り裂いてくれた。


 何かに取り憑かれたように、目に映るものを斬り伏せ階段を上がり、異常事態を知らせる警報と点滅する赤い光の中をただ、悠然と歩いていく。何階ほど登ったのだろう。気がつけば私が腕輪を嵌められ虚な表情で剣や槍を持つ人達に囲まれていた。


「あななた達は出来るだけ傷つけたく無いのだけれど」


 しかし、こちらの声など届いていない彼らは、その一人が剣を抜き斬りかかって。


「その腕輪が、なければ……今楽にしてあげる」


 真正面から剣を振り上げ斬りかかってきた男の脇をすり抜け“腕輪ごと”片方の手首を斬り落とす。途端に、意識を失ったように男はその場で倒れ。


 皮切りに、槍や斧、剣を手にした男達が四方から私目掛けて攻撃を放つ。身を翻し、宙を舞い。音なく懐に潜り込んでは手首を落としていく。しかし、その数は多く、攻撃の手が止むことは無かった。


「速く、もっと速く」


 私の思いに魂の刃は共鳴する。一振りの刀はその姿を変え、二対の小ぶりな双刀となって両手へと収まり。


「《桜花刀剣(おうかとうけん)弐式(にしき)紅桜(べにざくら)》」


 身体中の血が沸騰するように熱くたぎる。両手にした小太刀を逆手に持ちかえ、そんな私を中心に槍を手にした男が左右から突きを放ち、一人の男が正面から首を落とさんと手にした斧を振りかざす。


 瞬間。私の視界にうつる世界は静止しているかのようにゆっくりと流れ。彼らが私に近づくよりも尚早く、その手首を腕輪ごと一瞬で斬り落とし、周囲にいた全員の間を縫うように駆け抜け、小太刀を収める。


 踵を返しその場を立ち去る私の背後から次々にどさりと男達が倒れこむ音が聞こえたが、振り返る事はしない。これ以上私には何も出来ないから。






 □■□■□







 異常を知らせる警報が、朦朧とする俺の意識を叩き起こした。


 激しい痛みが全身に走り、飛びそうになる意識。歯を食いしばって堪えると俺は辺りを見回した。見覚えの無い部屋、見慣れない機器の並んだそこには膝をつき肩を落とす中年の男性が一人。彼女の姿が見当たらない。


「……っく、あんたは確かルゥシィの? あいつはどこに?!」


「もう、手遅れだ。私にはあの子を制する事が出来なかった。この騒ぎだ、もう誰も助からない」


 失意の底にいるかのような男の反応に苛立ちを覚えるが、今はそんな事にかまっている暇はない。俺は痛みを押し殺しながら起き上がる、こんな時に上手く動かない身体が歯痒い。千人に一人の逸材だと期待を集めた癒しを司る上位天職も、本体が満身創痍じゃ形無しだな。全くもって役に立たない。


 俺のスキルが目覚めれば或いは、彼女の足を引っ張らずにすんだ。本当に使えない天職だ。


「あんた、あいつの父親だろ? 聞きたい事は山ほどあるが、まずは俺をあいつの所まで連れて行け」


「……もう、無駄だ。君もその怪我では危険すぎる。逃げなさ——」

「いいから案内しろ、それとあんたの知っている事全部話してもらう」


 俺は腰から抜いた魔装銃を消沈する男へと突きつけ案内を命じる。なりふりなど構っていられない、彼女をおいて逃げる選択肢など最初から存在しない。


「親としては、君のような子があの子の側にいてくれた事に感謝するべきなのかもしれないな」


「……むしろ逆だがな」


「わかった、話そう。あの子とあの子が背負った運命、そして私の罪を」


 ルゥシィの父親は思い詰めたように視線を下げた後、深く頷き俺の肩をとって部屋から足を踏み出そうとした。


 その時。


「興味深い。その話、余にも詳しく聞かせてもらおうか?」


「あなた様はっ!?」

「————」


 開いた扉の前に悠然と立っていたのは複数の護衛を引き連れた一人の少女。少女と言うにはあまりにも威圧的な雰囲気と気品溢れる佇まい。透き通るようなブロンドの長い髪に薄らと赤身がかった瞳。

 品のある真紅のドレスに似つかわしくないシルバーの胸当てと籠手を嵌めた姿は、さながら物語に登場する女騎士のようで。


「余も同行する、この騒ぎの元凶まで案内せよ。其方の話は移動しながら聞くとしよう」


「か、畏まりました。シャーロット王女殿下」

「——王女、だと」


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