11.予告状ってなんなんだよ
「朝になって発見されました」
王の玉座に、『今夜12時 王の命頂戴 魔王』と書いた紙が貼り付けてある。
うんシンプル。
「ど、ど、ど、どうします?」
大臣大慌て。
「どうもこうもない。私を狙ってくる以上私に非がある。誰も手出しするな。私の首が落ちれば済む話だ。それが最も犠牲が少なく済む。ここで待とうぞ」
王様、達観してますな――。
「また、村々を襲いながら乗り込んでくるのでしょうか?」
「いや、それはありますまい」
俺の言葉にみんなが驚く。
「これが魔王の書いたものなら、魔王は既に一度ここに侵入したことになります。つまり魔王は他の人間を相手にしなくてもここに来られる。今夜もそうするでしょう」
「ではもう国内にいるということに……。人を使って探させますか?」
「捕まらない自信があるから予告状なのです。無駄です。そもそも魔王を見てわかるのですか? 発見して捕らえることができるのですか?」
「……」
「ここで待ち、王に手出しさせる前に勇者がこれを倒す。倒せずとも今は追い払う。そういうことにしましょう」
「こっち来て一週間経ってないのに、もう魔王と対決なの……」
あいちゃんが不安そうです。まだまだ自信がないようですな。
「夜まで時間があります。その前にレベルを上げられるだけ上げますよ」
「ええええ――――っ!!」
冒険者ギルドがくれたハンドブックにはレベル上げの役に立ちそうな獲物など書かれていない。そんなもん役に立つのかと思うだろ?
だがこれには「行くなよ? 絶対行くなよ?」という場所がちゃんと書いてる。
これは行くのが様式美というものでしょう。
「さあやってきました『龍の巣窟』。ドラゴンがいっぱいいるはずです」
「ひいいいいいっ――――っ!!」
「……巣窟とは言っても、谷ですな。七匹ですね」
「いやあああ――――っ!」
「ドラゴンを狩る者が誰もいないと増えるものですな。ではまずこっちに向かってきているあの一匹を……」
くわああああああ――――っ!!!
大口広げてこっちに飛んできます。
「【ウォールボックス】で捕獲します」
どすんっ!
いきなりドラゴンが翼を封じられ墜落します。
「仲間がやられると他の仲間も襲ってきます。これを次々と……」
きゅわわ――――っ! きゅわわ――――っ!!
どすんっ!
どかんっ!
どっこーん!
「捕獲します」
あんぎゃ――っ! あんぎゃ――っ! あんぎゃ――っ! あんぎゃ――――っ!
うるさいですね。
「あわわわわ……」
「三匹が逃げていきましたな。絶滅されてはこまるのであれは逃がしときましょう。さて、勇者様」
「はい……」
「勇者様の剣はですね、今日からノーマルサイズに戻します。もうかなり使えるようになっているでしょうからね」
聖剣にかかっていた収縮魔法の【コントラクション】と、質量を加減するための重力操作【フライト】を解除します。
1m30cm。重さ2キログラム、これが本来の大きさです。
「うえ――――っ」
「ドラゴンを斬るのです。大きさと重さがないと対抗できません」
「……はい。(涙目)」
「ではウォールボックスを小さくして、しっぽの先端を出します。これを斬り落としてください」
「うええ……」
「私は……と、炎でも浴びておきますか」
執事服を脱いで全裸になり……とは言ってもガイコツですが。
ドラゴンの首まで【ウォールボックス】を解除して、頭だけ動かせるようにしてやります。
ドラゴン、口の前に火球を作って、こちらに飛ばしてきますな。
それをガイコツの俺が受けます。
どかーん! どごーん! どかーん!
なかなかの威力です。踏ん張ってないと吹っ飛ばされそうです。
これであいちゃんの魔法抵抗力もガン上がりというものです。
「もっと腰を入れて、狙って!」
「はい――っ!」
しっぽの先端の細いところにガッツンガッツン突き立てております。
さすがはドラゴン。尻尾の皮膚も硬い硬い。
でもさすがは聖剣。十回ぐらいめでスパンとしっぽの先端を斬り落としました。
あいちゃんの攻撃力パラメーターもガン上がりですね。
「はい、では【ウォールボックス】を少し小さくします。尻尾をどんどん輪切りにしていってください」
「は、はい――――っ!」
すぱんっ、すぱんっ、すぱんっ、がきっ!!
「叩きつけるだけではダメですよ。刃物なのですから、引く動作も入れましょう」
「引く?」
「肉を包丁で切る時どうします?」
「手前に引く」
「そうです、剣道じゃないのですから叩きつけるだけではダメです。刀は引くことで斬れるのです。真剣の稽古である居合の型にはかならず刀を引く動作があります。叩きつけると同時に刃を引きましょう」
すぱんっ! すぱんっ! すぱんっ!」
しっぽがどんどん太くなっていきます。
いい練習になりますな。攻撃力がガンガン上がってる証拠です。
「血が出て怖い――っ!」
「ファイアボールで傷口を焼きましょう。血が止まります」
「は……はい……。ファイアボール!」
あんぎゃ――――――――っ!!
さすがのドラゴンも傷口を焼かれては悶絶するしかありませんな。
「では尻尾を一回斬るごとに、ファイアボールで焼いてください」
魔法攻撃力も上げましょう。ドラゴンに大ダメージですからこちらもガン上がりが期待できます。
「ファイヤボ――ル!」
あんぎゃああああ――――っ!!
……うるさいですな。
周りのドラゴンがドン引きです。
一時間ほどやってると尻尾が無くなってしまいました。
ドラゴンはぐたっとしてもう火も吐かなくなっておりますな。
「では首を斬り落としてください」
「……ひどい」
「がんばれがんばれがんばれできるできるできるやれるやれるやれる」
「修造――――っ!」
「ファイト――――っ!」
「西高ファイッ!」
あいちゃん西高だったのかよ……。偏差値低いなおい……。
すぱんっ!
「お見事です」
「……レベルガン上げ」
「いくつになりました?」
「68」
「ガンガンいきましょう。さ、二匹目。今度は袈裟と横なぎの練習です」
【ウォールボックス】を浮かせ、ドラゴンのしっぽを上から垂らします。
それをバットのスイングのごとく剣を振り、斧で木を斬り倒すように輪切りにしていきます。
「右ばっかりじゃなくて左からもやるんですよ――。両刃の剣なんですから、両方使ってやってみてください」
「は――い!!」
……うん、だいぶやる気になってきましたな。
俺はさっき倒したドラゴンの解体でもするとしますか。
「はい小休止します。ドラゴン肉のソテーです」
「うえ――っ」
「食べるとHPが上がります。我慢して食べてください」
「ううっ……もぐもぐもぐ……」
「HPはどうですか?」
「98になりました」
「どんどん行きますよ」
二匹目のドラゴンに止めを刺し、三匹目。
「今度はしっぽを少し長めに出します。切られたくないから尻尾が逃げたり攻撃してきますので、それをかわしながら斬りかかってください」
「もうイヤになってきた……」
「今夜魔王と闘うのです。頑張ってください」
「うえ――……」
しっぽと闘っておりますな。うん、上手になりました。たまに吹っ飛ばされておおりますが。まあ防御力もあがるでしょう。
「傷ができたら魔法も叩き込んでやるといいですよ」
「はいーっ!! ファイアボール!!」
だいぶしっぽが短くなってきましたな。
「小休止しましょう。ドラゴンのハツ串焼きです」
「これも食べるの――!」
「MPと魔法攻撃力が上がります。我慢して食べてください」
「ううう……もぐもぐもぐ……」
「MPはどうですか?」
「128になりました」
「どんどん行きますよ」
「お昼寝したい」
「では一時間だけ」
防音に厚くした【ウォール】のドームの中でお昼寝してもらい、その間俺はずっと残り二匹からどかんどかんとファイアボールを受け続けます。
「では三匹目に止めを刺します。首を長めに出しておきますから、ファイアボールの攻撃をかいくぐって首を斬り落としてください」
「噛みつかれたら――っ!」
「そろそろ防御魔法も使えるのではないですか?」
「おじさんのほうが強力だもん」
「自分でも使えるようになりましょう」
「そうだね。もういろいろ増えてるんだ実は」
おうっ、聖剣が光りましたな。
武器強化か、魔力注入か。
自分で伸ばしたい魔法にスキルポイントを振るとかではなく、レベルが上がると勝手に魔法が増えていくタイプですな。親切設計です。
防具も体もオレンジ色の光で包まれました。
「防御系魔法プロテクション! 武器強化魔法エッジ!」
「……うらやましいですな。おじさんは物理コントロールの魔法しか使えませんから」
「回復魔法ももう使えるよー」
「では始めてください」
【ウォールボックス】から首だけ出したドラゴンと闘います。
「うおっあちっ。コノヤロ――っ! あちっ! てめ――っ! あちっ!!」
なかなかてこずっております。
魔法抵抗力上がりましたな。ドラゴンのファイアボールの直撃受けても平気です。
おうっドラゴンが首を振ってあいちゃんを吹っ飛ばそうとした一瞬をカウンターで斬りつけました。闘い慣れてきましたな。
どすんっとドラゴンの首が落ちます。
「やった――――っ!」
「おめでとうございます。ドラゴンのキモのニラ炒めです。HPが回復しますよ」
「……もぐもぐもぐ……キモい。おいしくない」
「キモだけに」
「キモってなに?」
「肝臓」
「うえ――……」
「レバーです」
「……そう思えば食べられるか……」
「レベルはいくつになりました?」
「103になりました」
「では最後のドラゴンとは一人で闘ってください。逃げられないように手足と翼だけ縛ります」
「……はいはい。やるよ、やればいいんでしょ?」
「西高――――っ」
「ファイッ!!」
体育会系の子でよかった……。
ファイアボールをかわし、尾を先に斬り捨て、首に攻撃を集中させて倒しましたな! 見事です!
「レベルはいくつになりました?」
「126」
「そろそろ帰りましょう」
「飛べるようになった」
「じゃあ自力で飛んで帰りますか」
「瞬間移動もできるようになったよ!」
「……そういう物理法則に反した魔法は卑怯ですな……」
「おじさんはできないんだ」
「できません」
「やったね! とうとうおじさん越え!!」
めっちゃ悔しい。
「アイテムボックス」
(はいはーい、今度はなんですか)
「転送」
(うぎゃああああああ――――――――!!)
……ドラゴンの首なし死体はさすがにきつかったな、すまんラステル。
ドラゴンのファイアボールは魔法炎なので煤けたりはしませんな。
そのまま執事服を着て、あいちゃんと手をつなぎます。
「じゃあ、瞬間移動魔法テレポ! いきます!」
「どうぞ」
「テレポ!!!」
おうっ! 一瞬で王宮中庭ですな!
「ぎゃああああ――――!!」
全身血まみれの勇者様のお姿に中庭にいた王宮関係者から悲鳴が上がります。
「心配しなくてもケガとかしているわけではありません。勇者様をお風呂に入れてあげて下さい。新しい着替えと防具とか装備品の手入れもお願いします。あと、夜までお休みになれるよう寝室をご用意ください」
「は……はい。こちらへ……」
「すいません……」
メイドさんの案内であいちゃんが血をぼたぼた垂らしながら王宮の中に入っていきます。
「厨房から大きい鍋を持ってきてもらえますか?」
「はい……」
うん、でかい鍋ですね。
「アイテムボックス」
左耳に手を当ててラステルと交信します。
(なんなんですか! なんなんですかコレは!! 部屋がいっぱいじゃないですか!! いい加減にして下さい!!)
「それを」
(はいはい……。せいせいしますわこんなもん……。さっさと送りますわよ。)
どおんっ。
中庭にドラゴンの首なし死体が登場しました。
「ぎゃああああああ――――――――――――――――っ!!!!」
ものすごい悲鳴が王宮全部から上がります。
これはしょうがないね。
ドラゴンの首なし死体を【フライト】で逆さに吊るし、焼いておいた傷口をハンティングナイフでそぎ取ると、下に置いたばかでかい鍋にどぼどぼと血が落ちます。
「こ……これは……」
「ドラゴンです」
大臣とかもやってきて驚いておりますな。
「メイドさん」
「は……はい……」
「この血をリンゴジュースと混ぜて瓶詰して小分けにして下さい」
HP、MP全回復のポーションになりますからな。
「ドラゴンはお好きになさってください。あと、飛び切りおいしいお菓子の詰め合わせをお願いします」
来た来た。これはおいしそうですな。
「アイテムボックス」
(またですか――っ! 今度は何ですか――――っ! もうやりませんからねっ!)
「貢物です」
(え……)
「転送」
(……御用があったらまたお呼びください)
ちょろいですな。




