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ご葬儀

 水島弘樹の生家は昔で言うところの庄屋で素封家であった。


 見ているだけで圧倒されてしまいそうな立派な日本家屋には、夫婦二人だけが住んでいるのだという。

 

 被害者の両親水島武司、静枝の様子は実に対称的だ。

 父親の方は苦々しい顔を隠そうともせずに、弔問客に黙って頭を下げている。

 

 母親の方は涙も出尽くしたかのように、憔悴しきって、壁にもたれている。

 

 名家の、そして農村の出す葬式はやはりお金がかかってるな、と和泉は場違いなことを考えていた。

  それからふと隣を見る。駿河は黙って弔問客をチェックしているようだ。

 

 受付をしているのは弘樹の高校時代の同級生だという男女二人組である。

 男は松山、女は柏木と名乗った。

 

 彼らは当時3人でバンドを結成していたそうだ。卒業と同時に解散、今は二人ともそれぞれに就職している。アリバイはあり。今のところ被害者との金銭トラブルなども見当たらない。

 

 事件当夜松山は会社の飲み会に、柏木は友人達との女子会でそれぞれアリバイを主張している。

「でもまさか、弘樹がホストになったなんてね」

 被害者の友人達は互いに顔を見合わせて苦笑した。

「まあ、顔はいいから納得はできますけど」

 柏木は刑事達に答えて言った。

「お父さんはきっと嘆いてますよ。バンドやる時だって猛反対で、私達の親にまで文句言ってきたぐらいですもん」

 その時、家の中から怒鳴り声が、庭に設置された受付のテントにまで響いた。

 

 見ると所轄の刑事コンビが追い出されるところだった。

「何も話すことなんかない! 帰れ!!」

 被害者の父親は怒りをあらわにし、文字通り塩をまいた。どうせ相手を怒らせるようなものの言い方をしたのだろう。

「我々に協力しないと後悔することになりますよ!」

 捨て台詞を残して刑事達は去って行く。

 

 和泉は肩を竦めた。

 

 どうします? と駿河が目で問いかけてくる。

「こういう時は、聡さんだったらどうするかな? って考えるのが一番いい方々だよ」

 そこで彼はいきり立っている水島武司の前に立ち、深く頭を下げた。

「……我々の仲間がご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「なんだ? お前らも警察か?!」

「ご無礼があったことを深くお詫びいたします」

「……」

「ご不快な思いをさせて、大変失礼いたしました。しかし、我々としてはご子息を殺害した犯人を一刻も早く捕まえて、ご家族に真実をお伝えする義務があります。そのためにはご両親の協力が欠かせません」

 そこまで言って和泉は顔を上げた。父親の目を真っ直ぐに見つめる。

 

 よし、少し怒りがおさまってきたぞ。聡介ならきっと本心からそういう台詞が出るのだろうが、彼の場合は本気でそう思っているように装うだけだ。

 が、これが意外と上手く行くのだ。


「いかがでしょうか、弘樹さんのことでご存知のことを、是非とも私どもにお話いただけないでしょうか?」

 すると、それまで眉を吊り上げて怒っていた水島武司は急に、泣き出すのではないかという表情になった。

「……それが……ようわからんのです。あれが家を出て行ってからというもの……ほとんど音信もなかったんです」

 被害者の父親は縁側に座りこんだ。そうでしたか、と和泉は相槌を打つ。

「田舎暮らしをひどく嫌がって、一度は大阪へ出たんですよ。じゃけどうまくいかんかったようで……まさか広島におるとは思いもよりませんでした」

「ご実家の敷居は高いと感じておられたのかもしれません。それでも何かあった時、すぐにご両親の元に駆けつけられるように、近隣の広島に移られたのではないでしょうか?」

 とうとう堪え切れなくなったようだ。父親は手で顔を覆い、嗚咽を上げた。


 まいったな。そんなに時間もないというのに。

 聡介ならきっと一緒になって涙ぐむのだろうけど。


「兄のことでしたら、私がお話します」

 女性の声が後ろから聞こえた。振り返ると喪服姿の若い女性が立っている。


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