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5歳の見習い魔女ノアールの冒険  作者: 多田 笑


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8/8

ノアール、修行する

 ノアールは、オカダが強引に申し込んだ結果、“みんなの修行場”で修行を始めることになった。


「それじゃあ、まずはあなたの“魔力量”を調べさせて」


 修行場の責任者アリアが、水晶玉を指しながら言った。


「ま、魔力量……? どうやって量るの?」


 ノアールが首をかしげる。


「リンディ、手本を見せてあげて」


「はい、アリアさん!」


 リンディは胸を張って水晶玉に両手をかざした。すると、彼女の体からふわっとオーラが立ち上り、水晶玉が明るく輝く。


『魔力量12』


「すごいじゃない、リンディ! 一週間前より伸びてるわ!」


「えへへ……!」


 アリアに褒められたリンディは、ドヤ顔で鼻を鳴らす。


「あの……アリアさん。魔力量って……具体的には?」


 オカダが丁寧に尋ねる。


「魔法をどれだけ使えるかの“総量”のことよ。修行を重ねればちゃんと伸びるの。リンディは、5歳としては考えられないほどの魔力量を持っているのよ」


「なるほど……」


(そういえばノアールさん、魔力切れしてるの見たことないわ……。だとしたら、魔力量はとんでもない数字に……?)


 期待に胸を膨らませるオカダ。ノアールは緊張しながら水晶玉に手をかざした。


 ……しかし。


『魔力量7』


「お〜ほっほほ! やっぱりおチビちゃんはその程度の魔力なのねぇ!」


 リンディが勝ち誇って笑い倒す。


「なっ……なにを~~!!」


 ノアールが地団駄を踏む。


(え、なんで? 絶対もっとあると思ってたのに……)


 オカダは心の中で大困惑。


 ──ていうか、こういう展開って普通、“魔力量2万”とか出てくるやつじゃないの~!?

(↑誰?)



 “みんなの修行場”の外で、魔法の練習を開始するノアールとリンディ。


「じゃあ、初級魔法の練習をするわよ。リンディ、まずはお手本を」


「はい、アリアさん!」


 リンディは的に向けて、両手を構えた。


「《ファイアボール》!!」


 ポンッ


 可愛らしい火の玉が飛び出し、的に着弾して小さく火花を散らす。


「ふふん、どう? おチビちゃん、これが“正しい魔法”よ」


「むっ……! わ、私だってできるんだから!」


 ノアールが真似して両手を構え──


「《ファイアボール》!!」


 ゴォォォォオ……


 炎の“狼”が出現し、一直線に的へ。


 ドゴォォォォン!!


 的は跡形もなく弾け飛んだ。


「……!!」

「……あ、あわわ……」


 アリアとリンディが固まる。


「えへへ……失敗しちゃった」


 ノアールがテヘペロ。


「し、失敗!? 今のは……《フレイム・ファング》。炎系の高等魔法よ!! あなたたち、一体……何者なの?」


 アリアが震えながら尋ねる。


 オカダは、これまでの経緯を説明した。


「ま、魔王軍最強の魔女ジャギーの弟子!? なるほど、それなら高等魔法が使えても──って、納得できるわけないや~ん!!」


(ノリツッコミ……)


「ジャギーの弟子でも、5歳児に……私でも使えない高等魔法が使えるわけないや~ん!! な~いや~ん!!」


(アリアさんのキャラが崩壊している……)


「で、でも……目の前の現象は事実……。落ち着け……も、もちつくのよ……アリア……」


 深呼吸を繰り返したアリアが、やがて真顔に戻る。


「ノアールは、使える魔法と魔力量が釣り合っていない……。だから魔法が安定しないのよ。魔力量を上げるには、まず基礎鍛練。彼女はそれをしてこなかったのでしょう。おそらく“才能だけで生きてきたタイプ”ね……。まるで、“泥団子の中の小石”のように」


(……どういう喩え? ボケている……? それとも喩えが壊滅的に下手な人……?)


 オカダは迷った結果、ツッコまなかった。


 と、その時──


「ハァ……ハァ……」


 ノアールが肩で息をしていた。


「魔力切れね。オカダ、中央広場の噴水にある“魔力の水”を汲んできて。魔力が回復する水よ」


「わ……分かりました……!」



 それから毎日、ノアールはリンディとともに、基礎鍛錬に明け暮れることになった。


 精神力と集中力を鍛える“瞑想”。

 魔力の流れを整える“魔力ラジオ体操”。

 体力と耐久力を養う“泥だらけマラソン”。

 演技力が身につく“バナナの皮で滑る練習”。

 そして、誰もが一度は挑戦してみたい“梅干しの種飛ばし大会”。


 どれも楽しくて、ノアールにとっては新しい世界そのものだった。


 気づけばノアールとリンディは、お互いを認め合う、よきライバルであり友となっていた。


 ある日、リンディがふと尋ねる。


「ねえ、ノアール。あなたのお母さんって……?」


「うーん……よく分からないの。でもね、ジャギー様が私のお母さんみたいな存在よ。リンディのお母さんは?」


「私は……気がついたら、もうアリアさんのところにいたの。だから、アリアさんが私のお母さんみたいなものね」


 境遇の似ていることに気づいた二人は、自然と笑い合った。


 その様子を見ていたオカダは、ぽろぽろと涙をこぼしていた。


 そんな彼女に、アリアが静かに声をかける。


「魔法が安定するかどうかは、魔力量と魔法そのもののバランス。……そして精神面の影響が大きいの。オカダ、あなたがノアールのそばにいれば、あの子の魔法は暴走しないわ」


「ぐ、ぐすん……はい……! わたし……がんばります……!」


 オカダは鼻をすすりながら、胸を張って頷いた。



 一週間の修行を終え──。


「……アリアさん、お世話になりました」


「オカダ、ノアールをお願いね。ノアールも、くれぐれも無茶はしないように」


「はいっ! アリアさん!」


「ノアール~! 行っちゃうの~!?」


 リンディが地面を転げそうな勢いで号泣する。


「また遊びに来るわ、リンディ」


「……うん。絶対よ……絶対に来てね」


「もちろんよ」


「――ほんとに? 本当に必ず?」


「うん」


「本当の本当の本当に必ずよ?」


「うん……」


「本当の本当の本当に絶対に必ずよ?」


「…………」


(……しつこい)


 こうしてノアールは、魔力量を大きく高め、次なる目的地――魔王城へと向かうのだった。

 アリアとリンディに別れを告げたノアールたちは、待ち合わせの場所へ向かった。


 そこには――ひときわ個性的な二人が立っていた。


 上半身裸で、やたら眩しい笑顔とともにサイドチェストのポーズをキメる、筋肉ムキムキのセインツ。


 そして、真っ白なシャツに黒いタイツ姿で、軽快なステップを踏み続ける、ちっちゃいオジさん。


 ノアールとオカダは、そっと視線を逸らし……何も見なかったことにした。



最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
 次回以降、皆の修行の成果が見られそうですねとても楽しみです。
魔力を高めてノワールちゃんは何が出来るようになるんですかね!? ちっちゃいオジさんの魔力値も気になります! 実はすごいのかも??(笑)
ノ、ノアールがなんだか連載っぽくなってきましたよ。 こ、これは大型連載の匂い?!まさか、多田笑さん、やっぱり30万字!!?Σ(・□・;) ちっちゃいおじさんのタップがレベルアップしているでしょうから、…
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