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5歳の見習い魔女ノアールの冒険  作者: 多田 笑


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7/8

ノアール、修行場を探す

「うわぁー! すごーい! ここが魔法都市スゲーンダーナなのね!」


 ノアールは、初めて目にする大都市の光景に、目をキラキラと輝かせていた。


 スゲーンダーナでは、あらゆるものが魔法で動いている。


 鉄道、動く歩道、空飛ぶ車、大型ビジョン──どれも田舎育ちのノアールには、見たこともないものばかりだ。


「すごいだろ? 全部、魔法で動いてるんだ」


 セインツは自分の功績でもないくせに、なぜかドヤ顔を決めている。


「それで……お二人がパワーアップするには……どうするのでしょうか……?」


 オカダが控えめに尋ねる。


「ああ、この街にはいろんな修行場があるんだ。鍛えたい能力や個性に合わせて好きに選べる」


 セインツがそう説明したとき──近くから声が聞こえてきた。


「いかがっすか~? 修行いかがっすか~? モテモテになること間違いなしの特別修行で~す!」


(な、なに!? モテモテ……だと!?)


 セインツの目がギラリと光る。


「じゃあ、俺は自分に合う修行場を探す! ノアールも自分で探してくれ。一週間後に合流しよう」


「分かったわ!」


 ノアールは、まるで遠足前の子どものように瞳を輝かせて答えた。


「オマエ、コロス」


 なぜか同じテンションでキラキラするちっちゃいオジさん。


(わ、私は……修行の必要はないから……ノアールさんのお手伝いをしなくては……)


 オカダは静かに決意を固めた。



 セインツと別れたあと、ノアールはオカダとともに、自分に合う修行場を探して歩き回っていた。


 スゲーンダーナには修行場がやたらと多い。ざっと見ただけでも100近くある。


「私はやっぱり、世界を一発で破壊できる魔法を覚えたいわ!」


 ノアールは突然、物騒なことを言い出した。


「でも……ここに来た目的は“魔法を安定して発動できるようになること”…だったはず……」


 オカダが冷静にツッコむ。


「じゃ、じゃあオカダはどこがいいのよ?」


「……あそこなんて、どうでしょうか……?」


 オカダが指差したのは、路地裏にぽつんと建つオンボロな建物だった。


「え? あれは……さすがに、営業してないでしょ……」


 ノアールは身をすくめる。


 なぜなら建物全体がホラー映画の舞台のように薄暗く、幽霊が出そうな雰囲気満点だったから。


「いえ……ああいうところにこそ、すごい先生がいるんです! さあ、行きましょうノアールさん!」


 オカダはめずらしく強気だ。


 オンボロ建物には『みんなの修行場』と書かれた看板がぶら下がっている。


「ほら、ノアールさん。楽しそうじゃないですか? “みんなの修行場”ですって……」


 オカダはにっこりしているが──


(楽しそう……? いや、看板の赤文字……絶対、血が垂れてる風にしか見えないんだけど!?)


 ノアールはガクガク震えていた。


 そのとき、背後から声が。


「あなたたち……お客さん?」


 ビクッと跳ねるノアール。ゆっくり振り返るオカダ。


 そこにいたのはノアールと同じくらいの年頃の少女だった。


「あ、あ、あ……あなた! 何者よ!」


 ノアールが半泣きで叫ぶ。


「あら……相手に名前を聞くなら、まずは自分から名乗るものでしょう……おチビちゃん?」


 少女はくすっと笑いながらノアールを見下す。


「な、なんですって〜!! あなたのほうがチビじゃない!! このチビチビちゃん!!」


「ふん! あなたのほうがチビよ!! このチビチビチビちゃん!!」


「あなたこそチビよ! チビチビチビチビチビ……(※以下略)」


(なんて……激しい……女の戦い……)


 オカダが戦慄していると、人影が近づいてきた。

 

 ゴッチーーーン!!


 少女の頭にげんこつが落ちる。


「リンディ! またお客さんにちょっかい出して! 今日はおやつ抜きよ!」


「いででで……アリアさん……だって、このチビチビチビチビ……(※以下略)」


 ゴッチーーーン!!


 再びげんこつ。リンディは地面で転がった。


 その女性──アリアがオカダに向き直り、ぎこちない営業スマイルを浮かべる。


「あ、いらっしゃいませ……うちはオンボロですが……ぜひ修行していってください……」


(な、なんだろう……営業が……とてつもなく下手そう……)


「い、いまなら……修行料を半額に……半額にしておきますんで……!」


(!!)


「は、半額……!?」


(久しく聞かなかった……その甘美な単語……。“半額”……ああ、“半額”……。は・ん・が・く……)


「ノアールさん! ここに決めましょう!!」


「え!? ちょ、ちょっと待っ──」


「さあノアールさん! 修行開始です!!」


「ありがと〜ございますぅ~」


 オカダは“半額”という言葉に完全に理性を失い、ノアールを半ば強制的にオンボロ修行場へ押し込むのだった。



 一方その頃、ちっちゃいオジさんは──。


「アン・ドゥ・トロワ……アン・ドゥ・トロワ……!」


 手拍子とともにリズムを刻む男性講師の声がスタジオに響く。


「あなたたち! そんなステップじゃ全然ダメ! そんな雑さで、素敵なプリンシパルになれると思っているの!? はい、もう一度!」


 講師は再び手をたたき始めた。


「アン・ドゥ・トロワ……アン・ドゥ・トロワ……!」


 そのリズムに合わせ、ちっちゃいオジさんがちょこちょことステップを踏む。


 ──そう。ちっちゃいオジさんは、バレエダンススクールで修行をしていたのである。


「オ・マエ・コロス……オ・マエ・コロス……」


 いつものセリフも“アン・ドゥ・トロワ風”だった。

 そして、セインツは──。


「さあ、次は100キロのベンチプレスだ!」


 トレーナーの男が当然のように言い放つ。


「ま、待って! なんで“魔法の修行”でベンチプレスなの!? 方向性おかしくない!?」


 セインツが悲鳴混じりに尋ねると、男はキラッと白い歯を見せて笑った。


「はっは〜! 何を言ってるんだ? 筋肉こそ、すべて! 筋肉こそ最強だろ? はっは〜!」


 そのまま強制的にベンチ台へ押し倒されるセインツ。


「ヒ、ヒィィィィ!!」



最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
オカダ!まだまだ甘い!半額という言葉に飛びついて、そもそもの定価がいくらか確認してないではないか! そういえば、セールの○○%引きで○円という表記がセール期間前の値段と変わらなかったということで行政…
は、半額〜!?? ⋯⋯おっとここはスーパーではありませんでしたね。 違う作品にワープするところでした(笑) それにしてもちっちゃいオジさんのバレエ可愛い(笑)
え?ノアールの修行内容は続き?続きですか?(・□・;) 連載ものっぽいと言われれば、連載ものっぽい展開…… 作者様……続きをお願い致します……お願い致します……(>人<;)
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