ノアールでゴザル
少しでも笑っていただけたら嬉しいです。
デッカイダーの城下町にて、ノアールたちは話し合いをしていた。
「ふぅ~……全然、ジャギー様の手がかりが見つからないわ。何とかしなさいよ、セインツ!」
ノアールが言うと、セインツは慌てて答えた。
「俺が!? でも、これだけ探して何も情報がないとは……」
「あの~、そもそも、どこで行方がわからなくなったのでしょうか……?」
オカダが尋ねた。
「魔王城よ!」
「では、そこを探すべきではないでしょうか……?」
「そ、そうね……。私もそう思っていたところよ」
ノアールは焦っていた。
行方不明者を探すなら、最後に目撃された場所から――そんな当たり前のことすら知らなかったのだ。だって、5歳だから……。
「でも、魔王城やその周辺は、強力なモンスターばかりだ。魔王が倒されたとはいえ、まだまだ危険だ」
セインツは焦っていた。
攻撃魔法が使えない自分がそこへ行ったら、無事では済まない。だって、ヒーラーだから……。
「ノアールの魔法は失敗することが多い。今はまだ不安だ」
「そういうセインツこそ大丈夫なの!?」
「お、俺……? 大丈夫なわけないだろ! 回復魔法しか使えないのに!」
セインツは、なぜかドヤ顔で言い切った。
「で、オカダは?」
「私は……大丈夫です。《ステルス》と《アサシン》のスキルを持っていますから……」
ノアールとセインツは思った。
((オカダって……一体、何者!?))
一方そのころ、ちっちゃいオジさんはトノサマバッタと格闘していた。
「オマエ、コロス」
一行は、ノアールの魔法のレベルアップとセインツの攻撃魔法習得──そのために、魔法都市スゲーンダーナを目指すことにした。
◇
「た、助けてくれでゴザル!!」
一行が森を歩いていると、一人の少年が茂みから飛び出してきた。
「どうした!?」
セインツが駆け寄る。
「僕は、この近くのイサ村の者でゴザル! 村に……村に……悪の魔法使いが呪いをかけたでゴザル!!」
「悪の魔法使い!? それにしても……あなたの話し方、変よ!」
ノアールが首をかしげると、少年は苦しそうに言った。
「の、呪いのせいでゴザル! 呪いを受けると、みんな語尾が“ゴザル”になるでゴザル!!」
「「えぇぇ!!?」」
驚愕するノアールとセインツ。
オカダは、ふと思った。
(みんなのセリフに“ゴザル”が付いたら、誰が喋ってるか分からなくなるのでは……?)
「ヒョーッヒョッヒョッヒョ!」
不気味な笑い声とともに、明らかに魔法使いという風貌の老人が姿を現した。
「小僧……こんなところに隠れていたのか……?」
「あなた、誰!?」
「ほう……ワシの呪いを受けていない者がまだいたか。ワシの名はザルゴ・ザール。お前たちも、ワシの呪いを受けるがよい!」
ザルゴ・ザールは掌から黒い霧を発生させた。
「な、なんだ……この霧は!?」
セインツが霧を払おうとするが、ノアールたちはあっという間に包まれてしまう。
「ヒョーヒョッヒョ……どうじゃ、ワシの呪いの霧は?」
「呪いの霧ですって……く、苦し……」
ノアールがしゃがみこむ。
「……くない。あれ? 全然、苦しくない……でゴザル……」
「ノアール、語尾が……“ゴザル”になっている……でゴザル、あれ!?」
「……セインツさんも……“ゴザル”って言っているでゴザル……あれ?」
「オマエ……ゴザル」
(ちっちゃいオジさんは、むしろコンプラ的に安全かもしれない……でゴザル)
「ヒョーヒョッヒョ……これで誰が話しているか分かるまい! ワシだけが目立つのだ!」
「く、なんてこと……でゴザル!」
「どうする……でゴザル!」
「みんな呪いにかかっちゃったでゴザル」
「ねこちゃん、かわいい~でゴザル」
「オマエ……ゴザル」
(あれ? なんか……知らない人がいたような気がするでゴザル……)
「……ノアールさん、魔法を……でゴザル!」
「はっ! そうでゴザル! 私の魔法で、こんなヤツ一発でゴザル! 闇よ、すべてを凍てつかせるでゴザル! 《ダーク・フリージア》……でゴザル!!」
――シーン。
何も起こらなかった。
「し、失敗……でゴザル……」
「ヒョーヒョッヒョ! 何も起こらぬではないか! ビックリさせおって、今度はワシの番だ!」
ザルゴ・ザールは掌に黒い光を集め始める。
「氷魔法とは、こうするのだ! ワシの《ブラック・コールド》で、お前ら全員――凍るど!」
――シーン。
その場の空気が凍りつく。
──そう。
《ダーク・フリージア》の効果――それは、その場を凍りつかせるほど寒いギャグを相手に言わせるものだった。
「い、いや違う……勝手に口が……勝手口……」
――シーン。
さらに空気が凍りつく。
「今でゴザル!! ちっちゃいオジさん、出番でゴザル!!」
「オマエ……ゴザル」
ちっちゃいオジさんは天高く飛び上がり、回転しながら体当たり!
ドゴォォォォン!!!
ザルゴ・ザールは森の木々をなぎ倒しながら、見えなくなるほど遠くへ吹っ飛んでいった。
「オマエ、コロス……」
「どうやら、呪いが解けたようね」
ノアールは、そう言って微笑む。
オカダは思った。
(全員が“ゴザル”だと、個性にならないのね……)
少年が言った。
「お礼をしたいので、村に来てください」
ついて行くと、村人たちは全員ちょんまげ姿。
「よう来たでゴザル!」
「礼に茶をどうぞでゴザル!」
ノアールはつぶやいた。
「呪いをかけなくても……元々、そういう文化だった……でゴザル」
最後までお読みいただきありがとうございます。
誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。




