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5歳の見習い魔女ノアールの冒険  作者: 多田 笑


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5/8

ノアール、城を訪れる

少しでも笑っていただけたら嬉しいです。

 ニギヤカーナの町を出たノアールたちは、一路デッカイダー城へ向かっていた。


「……あれ、オカダは?」


 セインツが辺りを見回しながら尋ねる。


「いるわよ」


 ノアールがあっさり答える。


「え、どこ? どこ?」


 セインツがきょろきょろと探したそのとき、首筋に生ぬるい息がかかった。


「……あなたの、後ろにな!!」


 耳元でささやくオカダ。


「ヒ、ヒイィィィッ!!」


 飛び上がるセインツ。


「オマエ、コロス」


 ちっちゃいオジさんは、今日も平常運転だった。



 城下町に到着した一行は、広場の掲示板を見上げる。そこには御触れが貼られていた。


『挑戦者求む! 第二王子の病気を治したら、素敵なプレゼントをあげるよ笑』


「キター!! これは俺のための依頼じゃないか!? 前回は全然活躍できなかったし、今度こそ──」


 セインツは胸を張って拳を握る。


「ここで決めて、『セインツ様、素敵……』って言わせてやるぜ!」


 ノアールはといえば、掲示板を見ながら両手を胸の前で組み、うっとりしていた。


「お、王子様……」


 幼い頃(今でも十分幼いが)に絵本で読んだ、白馬にまたがる完璧な王子の姿を想像して、口元がゆるむ。


「うふふ……」


 ノアールはすっかり夢見心地。


 その横で、ちっちゃいオジさんはアリの巣に棒を突っ込んでいた。


 オカダは道具屋で半額シールの貼られた薬草を真剣に吟味していた。



「これはこれは、よくぞ参られました。旅の回復術士様ご一行」


 広間にて、デッカイダー王は満面の笑みで迎え入れた。


「こちらこそ、ご厚意に感謝いたします」


 セインツが礼儀正しく答える。


「それより!」


 ノアールは目を輝かせて前に出る。


「王子様は!? 王子様は、どこなのですか!?」


 その瞳はハートマークで輝いていた。


「ふふ……すぐに案内しよう」


 王の合図で、大臣が立ち上がる。


 一行は大臣に導かれ、第二王子の部屋の前にたどり着いた。


「では、こちらに」


 だが、扉を開けるより早く、ノアールが勢いよく飛び込んだ。


「王子さま! 姫は、姫はずっとお逢いしたく存じておりましたわ!」


 しかし──


「あれ? 誰もいない……?」


 ノアールが首を傾げたそのとき、部屋の隅から声が聞こえた。


「オギャア、オギャア」


「え?」


「あちらが、第二王子ジョージ様です」


 大臣が指差した先には、ゆりかごが揺れていた。中には生まれたばかりの赤ん坊。


「えぇぇ!? 王子って……赤ちゃんなの!?」


 ノアールのテンションが急降下する。


「赤ちゃん……かわいい……」 ポッ


 オカダは頬を赤らめ、テンション急上昇であった。


「ちなみに……王子のご病気とは?」


 セインツが尋ねると、大臣が深刻そうな顔で答えた。


「はい……『眠っているときに、オジさんの顔になる病』でございます」


 その言葉を聞いた途端、眠っているジョージ王子の顔が、どことなくオジさんじみて見えてくる。


「……気のせいよね?」


 ノアールがつぶやく。


「では、早速回復しちゃいますね!」


 セインツが得意げに杖を掲げる。


「ヒール!」


 今回は見事な緑色の光があふれ、ジョージ王子の身体をやさしく包み込む。


 だが──


 しーん。


 何も起こらない。


「も、もう一度! ヒール!」


「ヒール! ヒール! ヒールぅぅぅ!!」


 額に玉のような汗を浮かべ、必死に唱え続けるセインツ。けれども結果は同じ。


「ハァ……ハァ……今日はこれくらいで勘弁しといてやらぁ!」


 無理やり強がって杖を下ろすセインツ。


「もうっ! セインツの根性なし!」


 ノアールはぷんぷん顔で腕を組んだ。


 そのとき──廊下から騒がしい声が響いてくる。


「王子! ジェファード王子! お待ちください!」


(……お兄さん! そうよ、第二王子がいるなら第一王子も! 今度こそ、運命の出会いが──!)


 ノアールの胸はときめきでいっぱいになった。


 ガチャ。


 扉が開き、現れたのは八歳ほどの少年。頭に王冠、豪華な服……。


 だが──


 腹は見事に突き出し、両手にはローストチキン。骨をガリガリかじりながら、口の周りを脂でテカテカに光らせていた。


 ノアールの脳裏に、絵本で読んだ“完璧で紳士的な王子”の姿がよみがえる。


 薔薇の花を差し出し、ひざまずいて微笑む──そんな理想像。


 パリーンッ!


 そのイメージは音を立てて崩れ去った。


「いやぁぁぁああ!!!」


 ノアールは叫び、反射的に杖を構える。


「や、やめろノアール!!」


 セインツが慌てて止める間もなく──


「闇の業火よ、すべてを焼き尽くせ! ダーク・ファイア・アロー!!」


 ノアールの呪文が、珍しく大成功。闇の炎がジェファードを包み込む。


「ぎいぇぇぇええ!!」


 炎に焼かれたその体はグニャリと歪み、たちまちガマガエルのようなモンスターへと変貌した。


「なっ……第一王子はモンスターが化けていたのか!?」


 セインツが驚愕の声を上げる。


 それを見て、大臣が慌てて逃げ出した。


「ハァ、ハァ……なぜだ!? なぜ正体がバレた!? 俺様の計画は完璧だったのに!」


「……それは……たまたまなんです……」


 オカダが素早く横を通り抜け、さりげなく大臣の前に立ちふさがる。


 すかさず、後ろからちっちゃいオジさんが現れ、大臣を挟み撃ちにした。


「く、くそっ! こうなったら実力行使だ!」


 大臣は叫ぶと、その姿をタヌキ腹のモンスター“ドラムスコ”へと変え、抱えた太鼓を打ち鳴らした。


 しかし──


「オマエ・コロス!」


 回転しながら上昇するちっちゃいオジさん。


「……私も……」


 全力で跳躍するオカダ。


「インビジブル・ふんどし・カーニバル!!」


 オカダとちっちゃいオジさんの謎の合体技が炸裂。


「ぐ……ぐ、ぎぃやぁぁぁぁあ!!」


 ドラムスコは抵抗する間もなく瞬殺された。



 その後、本物の第一王子と大臣は地下牢から無事に発見された。


 第一王子にとっては──少しばかり辛い監禁生活が、ちょうど良いダイエットの機会となったらしい。


 そして第二王子も、もうオジさんの顔に見えることはなくなったという。


 こうして、デッカイダー城の事件は解決したのだった。

「それでは、そなた達に褒美をとらせよう。開けるが良い」


王様の言葉に従い、ノアールは宝箱の蓋をそっと開けた。


「こ、これは……!」


「それは銀のペットボトルじゃ! 常に中身がひんやりと冷たい、魔法のアイテムである!」


……オカダは内心で首をかしげた。


(銀のペットボトル……つまり、ただの銀の水筒なのでは? それに、この世界に“ペットボトル”なんて、あるのかしら……?)



最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
今日は仕事を早抜けしてきたのに、電車が人身事故で歯医者にも行けず、満員電車で大変ですが、ちょっと疲れが和らぎました(笑) 笑いをありがとうございます。
 ノアールの本能に任せた行動が思いがけない結果になって良かったです。今回もとても面白く、今後の冒険も楽しみなのでブックマークを付けておきますね。
く、悔しいです。いつものノリで星をパパパと押そうとしましたら、前の時にもう振る舞っていました。連載ってコレありますよね……(´ー`) というわけで、星を沢山あげたいほどに楽しかったです!!! ちっちゃ…
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