閑話 2 オリゴールの日常 2
キャラ設定が上手くいかず閑話が進む……。
ンー……難しいね。
さてさて、応接室にいる豪商はどんな人物なのか楽しみだね。
舌戦を楽しめるような輩だと嬉しいんだけどどうだろう。
それにしてもアマツクニか……。
あそこって『ワフク』って衣服を着てて文化がまるで違う独立国だよね。
しかも『ムシャ』『サムライ』と呼ばれる部族は戦闘が得意で動く物はなんでも食べるって聞いたんだけど。
……まさか怖い人じゃないよね?
「お待たせして申し訳ありませんわ。私はメイラと申します。当商館の支配人をしておりますわ」
「かまいませぬ。そのお年で支配人とは随分お若いのですね。おや、そちらのお嬢さんは?」
綺麗な佇まいで椅子に座り、円柱状の茶器でお茶を飲んでいる美少女。
美少女だよ美少女!
黒髪ではあるけれど瞳の色が違うから『流れ人』ではないみたいだけど、系列は彼らに似ているね。
真っ黒で、それでいて長い髪を後ろで一本に結んでいてさらっさらな髪質だ。
そしてなにより、ボイーンだ!
ウェンディほどじゃないにせよ大きなお胸だねえ。
アイナといい勝負かな?
なるほど。
これがかの有名なアマツクニの『ヤマトナデシコ』か。
「わたちおりごーる11ちゃい」
「設定年齢と口調がバランス悪すぎますわ領主様」
「っち。早々にバラしたら意味無いじゃないか」
「どうせばれるんですから早めの方がいいですわ」
面白みにかけるなあ。
こういうネタはバラすタイミングが大切なのに。
「なんと、領主様であられましたか。某の名はユウキと申します。アマツクニ出身の冒険者です」
「冒険者なの? 豪商じゃなくて?」
「本日は近々行なわれる王都の武術大会に参加予定でして、実家からの書状と取引で使うであろう品は持ってきておりますのでご安心を」
そう言ってチラリと視線を向けたのは腰に付けた小さな袋。
多分あれは魔法の袋だろう。
一介の冒険者が魔法の袋を持っているなんて余程強いのかな。
それとも豪商たる親から貰ったのかな?
多分だけど前者な気がするね。
「そうでしたの。ゴウキ様がいらっしゃるのかと思いましたわ」
「ゴウキは某の父ですね。申し訳ないのですが二度足を運ぶ手間を考えたら某が行く方が効率がよいと申しまして。勿論商品は大量に持って参りましたし、某も商人の娘でございますから取引の方はしっかりとさせていただきます」
「ええ構いませんわ。大口の契約が交わせるんでしたら全く問題はありませんわ」
「それは勿論。ただやはり道中は険しい道が多いですから、その分のお値段はご考慮いただきますが」
「わかっていますわ。ちょうどここにいる領主様が今街道の整備にも力をいれていますしね。いかに西側への街道が重要かご理解していただくチャンスでもありますしね」
「んにゃ?」
メイラのところのお客様用のお菓子美味し!
なにこれ、何処のお菓子だろう。
王都かな?
この街でこんな美味しいお菓子は食べた事無いんだけど。
やっぱりまだ職人連中は王都に集中しちゃうか。
もっとこっちに人を呼べればいいんだけどなあ。
「そうですね。王都を通らず直接こちらに伺ったのですが、途中から道が整備されていて驚きました! できれば帝国との国境線近くまで整備が進んでいれば良いのですけど……」
「さすがにそこまでは無理かなあ。西に伸ばすとなるとうるさい出資者が多いんだよね」
お菓子をもぐもぐと咀嚼しつつ受け答えはしっかりとする。
ソーマあたりがいたら口に物を入れて喋ってはいけないと注意されていただろうね。
「口に物を入れて喋らないでくださいな領主様。それと、そのお菓子はユウキ様に差し出した物ですわ」
……小娘が。
ボクの予想を上回るなんて成長したじゃないか。
「さて、この領主様にはお菓子を与えておけばよろしいので早速商談とまいりましょうか」
「え、よろしいのですか? 仮にも領主様にそんな扱いを……」
「今は領主としてこの場にいるのではなく、個人であるオリゴールとしているのです。ですから個人的な買い付けは出来ますが、敬意を払う必要はありません」
「その通り! ボクは領主だけど、今は個人的にアマツクニの品が買いたいだけだからね! ユウキちゃんも気にせず接してくれていいんだぜ」
「は、はぁ……」
さって何を買おうかなー!
領主たるボクは娯楽に飢えて飢えてリート並に欲求が高まっているからね。
お兄ちゃんへの報酬で貯金はすっからかんだけど、あれから頑張って働いて稼いだ分くらいならいいよね?
「ではまず、お菓子の話題もありましたのでこちらもお菓子から」
「おお! アマツクニのお菓子かー!」
「はしたないですわよ。オリゴール様。露骨に興味を持たないでくださいな」
「ははは、残念ながら某は商人の機微などはわかりませぬ。足元を見る気はないので、お気軽にお楽しみいただけたらと存じます」
そういってユウキは魔法の袋からお皿を取り出し、また別の布袋からカラカラとキツネ色の細いお菓子を載せていく。
ふむ。色的にはクッキーに近いだろうか。
だが見た目だけでは味の想像が出来ない。
「食べてみてもいいの?」
「ええ勿論。これは最近アマツクニで出来たお菓子でして、甘くは無いのですが癖になると評判のお菓子なのです」
「じゃあ早速! いただきまーす!」
「あ、こら! 私が商談相手なのですよ!」
「早い者勝ちだよー。ん? 結構硬いんだね」
「そうですわね。あまり食べなれない食材な気が……」
「ふふふ。某たちは食べなれた食材なのですが、それを少し加工してます」
「あ! わかった! これお米だ!」
「正解です。これは『オカキ』といいまして。実はお米だけではなく、お米を加工したものもこれからは輸出したいと思っていまして」
「なるほど……。これは癖になりますわね」
「ボクにはちょっと硬いかも。でもこれ美味しいね!」
決して年だから歯が悪くなったんじゃない。
本当にこれ少し硬いんだって。
「あれ、でもこれ普段輸出しているお米ですか?」
「いいえ。流石ですね。これはもち米といって、おもちを作る際に使われるお米で作っているのです。そして」
といって新たに取り出したのは平たい円形の『オカキ』に黒い粒がついていた。
「これはおかきとは違うの?」
「こちらは『オセンベイ』です。平らに潰したお米に、塩と黒ゴマを混ぜて焼いた物ですね」
「おお、こっちも香ばしくて美味しいね」
「甘くないお菓子もありですわね……。これは、流行るかもしれませんわ」
「好感触のようで良かったです」
おせんべいかあ。
いいねえ。
硬いには硬いんだけど、噛めば噛むほど美味しくなる。
これなら判子を押しながら食べていられそうだ。
「ところで、もち米で作る『オモチ』って何?」
「おもちはこう……ねっとりとしたお米の塊といいますか、んー……百聞は一見にしかずですね。ではこちらもお試しください」
次に取り出したのは大きな笹の葉に包まれていて中身はわからない。
だがボクの勘が言っている。
これは、甘い物だと!
「こちらは『ダイフク』といいます。『アンコ』をお餅で包んだ物になりますね」
アンコというのも初耳だが、真っ白でぷにっぷにみたいだ。
これは……。
「……何してますの?」
「いや、だってこれ形といい弾力といいまさにあれだよ? 世の男子諸君がこのダイフクの誘惑に負ける姿が目に浮かんで……。何か悔しい……」
「食べ物で遊ぶと女神様からの天罰が下りますよ」
「じゃあ触ってみればいいさ。どうせボクと同じ感想を抱くから!」
「まさか、そんな……。ん、確かにこれは……」
ぷにぷにと人差し指で『ダイフク』を触るボクたちに、ユウキは苦い顔をしているがそんな事は知らない!
だってユウキは『持つ者』だから!
ボクたち『持たない者』には無い感触なのだから!
「……この柔らかさはユウキ君の胸がモデルになっているということはないだろうね」
「っな! こ、こら変な事を言ってはいけませんわ! 申し訳ありません!」
「い、いえ。勿論そのようなことはありませんので。えっと食べてみていただけませんか?」
「は、はい。それではいただきますわ」
「さらば乳よ。願わくばボクが喰らってボクの乳にならんことを」
「それは……難しいかと……」
そんな哀れむような顔で言わないでくれ!
ボクだってわかってるさ!
無いものねだりだってわかってるさ!
だけどボクだって大きな胸に憧れるくらいいいじゃないか!
「わ、手触りもさることながら食感も凄いですわね」
「伸びるよこれ! すご! 伸びー! それに中のアンコ? も甘くて美味しいね!」
「こちらは豆でしょうか? ですがどうして豆がこんなに甘いんですの……?」
「ええ。特別な『甘熟小豆』という甘いお豆を使って作ったアンコですから。お砂糖が無くてもとても甘いのです」
ぷにっぷにの感触といい豆本来の食感と潰れた食感が面白いね。
中のアンコの色が黒に近すぎる紫色なのはちょっと怖いけど、それでもこの甘さは驚きだ。
さらにこれが砂糖ではなく、自然に出来る豆の甘さだってのも信じられない。
いやまったく。アマツクニは面白いね。
「ちなみにお値段の方は……」
「えっと、今回は一つ2000ノールですが、次回からは3000ノールは戴きたいかと……」
「わお。結構するね」
「アマツクニでは半分以下なのですけどね。やはり道中の輸送を考えるとそれくらいは……」
「大量発注をかけるならばもう少しお安くなりますわよね?」
「はい勿論。ですがダイフクはあまり保存が利かないのです。おせんべいの方ならば火の魔石を使えば湿気防止にはなりますし、カビなどに気をつければ大丈夫だと思いますが、ダイフクはアンコがあまり長持ちしませんので難しいかと。なのでこちらはもち米と甘熟小豆をお売りしまして、製法をお教えする事も考えています。その分代金は上乗せしていただきますけど。それか、我が国の職人を派遣して出店する事も可能かと思います」
ふーむ。
ダイフクを食べるなら作り方を聞いてこっちで職人を育てるか、それとも専門の職人を呼ぶかか……。
普通に考えたら前者の方が長くこの街の為になりそうだけど、ボクは後者を選ぶかな。
「ねえ、メイラちゃん。一つ相談があるんだけどさ……」
「嫌な予感がしますわ……」
あはは。大当たりだね。
「うん。できればアマツクニの職人さんを呼びたいなって思うんだけど、どうだろう」
メイラにとっては製法を知って自分の所で出店までしたいだろうね。
そうすれば利益は独占。
そのうえでこの街も盛り上がるというものだからボクにとってはどっちでもいいんだけどね。
ただ、その場合はメイラだけに利益が入るからね。
これからの事と他の商店の事を考えるならば、アマツクニの人達がこの街に馴染み深くなってもらわないとね。
「ですわよね……。顔つきが領主の仕事をしている時に戻ってますもの」
「うん、まあこの街のためになりそうなことだからね」
「はぁ、わかりましたわ。ダイフクについてはお好きにどうぞ。その代わり、センベイやオカキについてはこちらで独占させていただきますわ」
「それは勿論! ありがとうメイラちゃん!」
「ちょっと、抱きつかないでくださいまし!」
やはりこの子ダーウィンの義娘とは思えない程かしこくていい子だねえ。
1を聞いて10を知るとはまさにこの子の事だと思うよ。
「よろしいのですか?」
「ん? 何が?」
「いえ、製法を知ればあなた方が独占してここで販売する事も可能ではないですか。それなのに我が国の者に任せてしまって……」
「かまいませんわよ。本場の職人の『ダイフク』がいつでも食べられるようになるのなら。商人としては失格なのでしょうけどね。私もこの街が好きですし、領主様に真剣な顔でお願いされたらこの街が好きな商人なら断わりませんもの」
「あはは、ちゃんとこの街のためになるようにするからさ」
「当然ですわ。そうならなかったら許しませんから!」
はぁ……この街が好きって言われると、領主冥利に尽きるというものだね……。
帰ったら真面目に仕事しよう。
この件について店舗の位置なんかもしっかりとボクのほうで考えるとしようか。
「安心してよ。お兄ちゃんが帰ってきてアマツクニのお店が出店すれば気に入る事間違い無しだ! そしてこの成果は君のおかげだと吹聴しておくからさ!」
「べ、別にそんなことはしなくても構いませんわ!」
「えっと、お兄さんですか?」
「そう。今は王都に行ってるんだけど彼女の想い人でね。『流れ人』だからきっとおせんべいもダイフクも気に入ると思うんだよね!」
「あ、血の繋がりがあるわけではないのですね。確かに『流れ人』の方は我々の里に来るとなぜか咽び泣く方が多いですが……」
「おっと、だが君はボクのお兄ちゃんに接近してくれるなよ! まず間違いなく落としに来るぞ!」
「落とし……軟派な方なのですか?」
「欲望に忠実なだけさ!」
「それって軟派より酷くないですか……?」
うんまあ、人によってはそうかもしれないけど、一線を越えればすがすがしく見えるもんだよ!
現にボクはおにいちゃんの欲望に忠実なエロスは嫌いじゃないからね!
下品ではないし、むっつりよりずっとましさ!
「『流れ人』……という事はきっとお強いのですね。ではもしかして王都の武術大会にでられるのでしょうか?」
「まっさかー。弱いしビビリだからでるわけないじゃん」
「そうですわね。あの方が武術大会など、あの方を知る者ならば冗談だと笑い飛ばしますわね」
「ええ!? 『流れ人』なのですよね? 凄い力をお持ちのはずでは?」
「お兄ちゃんは変だからね」
「ええ。変ですわね」
「『変な流れ人』ですか……。少々お会いしてみたくなりました」
おっと。
お兄ちゃんのいないところでまた変なフラグを立ててしまったかもしれない。
この成果についてはボクのおかげだと吹聴しておこう!
「えっと、それでダイフクについては某の国の者を呼ぶのでよろしいのでしょうか?」
「ええ、構いませんわ。貴方と、ゴウキ様とはこれからも懇意にしていきたいですしね」
「えっと、では某からもよくしていただいたとお伝えしておきます」
「ありがとうございます。さて、今回の商談ですけどお菓子だけということはありませんわよね?」
「勿論でございます。意中の『流れ人』の方がメロメロになるような『ワフク』もご用意しておりますよ。多分ですが『アーレー』したいですか? と聞けば喜んでノってくるかと思います!」
な、なんだってー!?
お菓子だけじゃなかったのか。
しかもなんだその『アーレー』って!
ボクにはわかるきっと卑猥なことだ!
「あーれー? ですの? なんなんですのそれは?」
「はいはいはい! ボクそれ買う! メイラちゃんには悪い事をしたからボクからプレゼントしてあげるよ! それで二人でアーレーしてもらおう!」
「別にもう気にしてませんわよ。商売をする上ではよくあることですし、それにしてもそのあーれーって不穏な空気しか感じないんですけど……」
「大丈夫ですよ。こんなのはまだ健全な遊びですから!」
「そ、そうなんですの?」
「母国はそういった文化が発展しすぎてしまいまして、近隣からは『H』なる呼び名で定着しています。……呼び名自体は別に好きにすればよいのですが、そのせいでアマツクニの女性は『H』だと思われ、襲われる事もたまにあるのです。ですが、アマツクニの女性は強いですから大概は返り討ちですけど。当然無理矢理しようとすれば大罪ですね。局部を切り落とされる事が多いです」
わお。流石『サムライ』の国だ。
やることがえげつないねえ。
まあ犯罪者の肩を持つつもりも無いけどね。
『H』ってのが何の略かはわからないが、感覚でエロいみたいなものだろう。
これほどの美人がエロいと聞かされては飛びつく男もそりゃあいただろうね。
一体何人の男が去勢されたのだろうか……。
「色々と過激な国ですのね……」
「そうかな? ボクは楽しそうな国だと思うけど」
『ワフク』に『サムライ』に『オセンベイ』に『ダイフク』さらには『H』だなんてアマツクニって随分変わっていて面白そうな国だよね。
ボクが領主を引退したら是非お兄ちゃんと遊びに行こうと思うよ!
とりあえず今回のオリゴールの話はこれで終わり。
次は……キャラ設定の出来次第でまた……。
追記2017/08/18 22:57
おはぎに拘る必要はなかった……。
ってことで普通に『ダイフク』にしました。
オリゴールとメイラのやり取りも少し修正!




