4-20 裏オークション オークション・2
人魚族の美少女が4000万ノールで落札された後、ついに俺のアクセサリーの番がやってきた。
「さあ、お次の商品はこちら! 高レベル錬金術師様によるネックレスのセットです!」
「あれって、イツキさんのですか?」
「だな。さて、開始は1000万だそうだが何処まで行くか……」
いままでの感じで予想すると3000万ノールくらいだろうか。
4000万いったら上等だな。
「こちらの一つは元となった手形成で作られた物ですね。能力は……三つ!しかも全部効果が大です! ん? 攻撃力と防御力はわかりますが……声の大きさ?」
副隊長が困惑したような顔を浮かべた。
ちなみに能力表示は『攻撃力大上昇 防御力大上昇 声の大きさ大上昇』である。
「えっと、のこりは贋作のスキルで作られたものですね。うん。こちらは先ほどの能力が全て中上昇のものですね。それにしても声の大きさ上昇って初めて見ましたね。ちょっと試してみますが、使用済みだとか言わないように!」
そういうと副隊長はオリジナルのものを首から提げる。
「シロ、ウェンディ、隼人、レティ、耳塞いどけ」
「え?」
俺は素早く耳を塞ぐ。
シロは眠そうな顔で耳を閉じ、ウェンディも疑問すら抱かないようにすぐさま耳を押さえる。
それを見て慌てて隼人とレティも耳を塞いだ。
「み! な! さ! ま!! わ! 声でか……」
当然一度試したので良くわかっている。
あれだ、マイクみたいなものだ。
ただエコーとかはないし、普通に大きくなるだけである。
ラッパを意識しようとしたらメガホンっぽくなってしまった結果、声の大きさ上昇の効果がついたのだと思う。
それでも大上昇がついたのはやはり材料の質と錬金レベルの高さのおかげか。
「大変失礼しました! うわー……これ便利。普通にオークションで使う用に一つ欲しいところですけど、教会的に参加は……、あ、だめ? 主催者はあくまで中立、と。残念ですが了解です! それではこちらのオリジナル1つと、贋作で作られた29点の合計30点のアクセサリー1000万ノールから、単位は一つ……200万ノール! スタートです! おっとお早い! 31番さんいきなり1000万のアップで、2000万ノールです!」
おお、なんか自分の物にいきなり最大値で上がると嬉しいな。
「16番さん更に1000万! 3000万ノールです! 4番さん200万を足して3200万ノール! 31番さん1000万追加で、なんと4200万ノールです!」
あっという間に希望金額を超えた。
「さあ、4番さん更に200万を足して4400万ノール! 31番さん600万を足して5000万ノールです! さあ、他にはいらっしゃいませんか? よろしいですか? よろしいですね? それでは! アクセサリーの30点セット! 31番さんが5000万ノールで落札です!」
おおー……5000万。教会に500万ノール払ったとしても4500万ノールである。
「やりましたね!」
「だな! 思ったより出品したものが競売されてるのは楽しいな」
「ですね。ボクもイツキさんのだと思うとどきどきしてしまいました!」
「ご主人様、おめでとうございます」
「ありがとうウェンディ」
「んうー……」
シロはおねむか。
ほれ、頭こっちの膝にのせな。
「それにしても、予想より高かったな」
「そうですか? 声の大きさ上昇なんて珍しい効果ですし、順当だと思いますよ? むしろ少し安いかもしれません」
「でも買うのって騎士団の団長とかだろ? 元々声大きそうじゃない?」
「だからいいんですよ。戦場では声は武器になりますからね。号令、指揮、威嚇に威圧、少人数だと思わせない策にも使えますし、多分追加発注も来るんじゃないですかね?」
「追加発注?」
「ええ、あのアクセサリーには銘は彫ってありますよね?」
「ああ、勿論」
「だとすると有用性に気がついた騎士団からお声がかかるかもしれません。それに、国王様が民の前で演説をする際などにも使えますし、元の世界でもマイクっていろいろなところで使ってますしね」
なるほど。
つまりそれは儲かるけど働かなきゃいけない理由がまた増えたということだろうか……。
それに材料費もかかる……。
今回は隼人に貰ったハイグレードな材料のおかげということもあるし、もう一度同じ物を作るとするならば圧倒的に材料が足りない。
声の大きさ上昇だけが上手くついたアクセサリーを安価な材料で作れればいいのだが……。
「さあ続いての商品はああぁぁぁぁっ! あー……えっと」
ん? どうしたんだ?
「え、このまま読んでいいんですか? はあ……ええ。わかりました」
なにやら舞台袖の人物と会話をし、微妙な顔で納得をするとこほんと咳払いを一つ。
「失礼しました! 続いての商品はこちら! ハーフエルフの美少女です!」
「おお」
確かに美人である。
見た目は……レンゲくらいだろうか。
幼くはないが、アイナやウェンディほどの大人な女性といった具合ではない。
ハーフと言えど尖った耳、真っ白な肌、プラチナブロンドの髪まさしく思い描いているエルフである。
隼人のところのエミリーは純粋なエルフであるが、髪は短いので申し訳ないが、やはりエルフといえばロングだなと思ってしまう。
ただ、あの目……普通の奴隷とは違うな。
いままで出てきたような奴隷のように、悲壮感のある顔をしていない。
怒っている……のか?
「ハーフエルフ……」
「ん? どうかしたのか」
「いえ、ハーフエルフはですねその……」
彼女を見てから隼人の目が少し険しくなった。
「皆様ご存知かと思いますがハーフエルフには様々なスキル抵抗があります。当然それは奴隷契約も含まれますので、触れず、弄れず、命令できずがハーフエルフの奴隷の現実です。そしてこのハーフエルフはそれが特に強く、何度も脱走を企てている問題児です。更にハーフエルフは、人族を強く恨んでいます。そのため奴隷として主に手を出さないといった制約は守られる保証がありません。用途は頑丈な鎖で繋いで鑑賞するくらいしかできませんが、見た目はこの通り美しいので開始価格は1000万ノールです。単位は100万ノールから。それではどうぞ! ……はあ」
だが副隊長はそれから声を続けない。
「まあ、こうなりますよね……」
「どういうことだ?」
「元々ハーフというのは、世間からは中途半端な存在として一つ格下に見られやすいのです。エルフだけでなく、巨人族、狼人族なんかのハーフもそうですね」
巨人族のハーフ……フリードがそうだが、あの時の言葉はそういうことか。
いやでも、人族から見てフリードとか格下に見えないだろう。
どう見たって人族より強そうだぞ。
「はぁー……。俺から見れば綺麗なエルフの姉ちゃんにしか見えないんだけどな」
「僕もそう思います」
隼人も俺も転生者だし、もともと種族に対しての強い偏見はないんだよな。
あ、虫に関してはノーカウントで。
種族じゃないし。
「ただハーフエルフですと、スキルに対しての抵抗は高いのですが、エルフ程魔力が高いわけでもなく、人族ほど成長を期待できる種族ではないので特に扱いが悪く……」
「恨まれてるってことか。でもなんで人族だけ? エルフ族に対しては恨んでないのか?」
「エルフ族にとっては哀れな存在なだけなのです。彼らに無意味な誹謗中傷をすることなどはありません。ただ、同じ扱いを受けると眉をしかめるなどはするみたいです」
隼人はため息を一つついた。
「はぁ……その、基本的にはハーフエルフは深い森などに小さな村を作りハーフエルフや、ハーフの種族のみで隠れて暮らしていますが、たまにいるんですよ。森の中に住んでいるからとエルフ族と勘違いして攫ってくる輩が。当然人攫いは犯罪ですが、認められていない闇の奴隷市などで売られ、一度人の手に渡ってしまえば出所がわかりにくくなる場合が多いのです。僕は何処で開催されているのかわからないので、参加した事はありませんがそこでは格安でハーフの奴隷を含めた『売れ残り』が処理されているようです……」
「なるほどな……」
静かに穏やかに暮らしたいだけなのに人族に攫われて無理矢理奴隷にされるのならそりゃ嫌われるわな。
それにしても綺麗なのにおっかない目をしたお姉ちゃんである。
会場中の人族全員を睨み、恨み、憎悪をぶつけるかのような怒気が背後に見える。
「いや、ちょっと待て。無理矢理奴隷って、どうするんだよ?」
いくらなんでも無理矢理奴隷化なんて理不尽な真似が出来るのか?
「ハーフに限っては無理ではないのですよ……。元々格下扱いですからね、冤罪を被せても誰も庇ってくれませんし、下手すると人族の奴隷よりも人権がありません……」
「酷いな……」
「ええ……。でも、どうすることもできないのが悔しいです……。こちらから手を差し伸べても彼女達は僕ら人族を信じませんから……」
隼人としては購入し、彼女を助けたいのだろう。
だが隼人のPTにはクリスもいるし、危険が無いとは言い切れない……。
すぐさま解放したとしても、無事元の村に帰れるのかわからないのであれば一時的な措置にしかならないだろう。
「さて、それでは本日彼女の購入者はなしということで次に行かせていただきます!」
あれこれ思案しているうちに、彼女の競売は終えてしまったらしい。
というよりも副隊長の判断で打ち切ったという方が正しいのかもしれない。
「ご主人様。ご購入されなくて良かったのですか?」
「え、なんで?」
このなんで?は「何で買わなきゃいけないの?」ではなく、「なんで買いたいのがわかったの?」のなんでである。
おれ自身への危険は勿論あるだろうし、下手をするとシロやウェンディ達にも被害が出るかもしれないと考えると今一歩踏み出せなかったのだが正直悩んではいた。
これが同情心なのか、俺のエロ魂からきているのかはわからないがどうも気になったのである。
「ご主人様好みの綺麗な子でしたので……」
「いや、まあそう言われればそうだけど……」
「別にいいんですよ? ご遠慮なさらなくても。先ほどの人魚族の時も目が爛々としていましたもの」
いや、さっきの人魚族はほら、ねえ。
人魚族だしお約束のように上半身の服の面積が小さかったから……。
そのうえ、胸が大きいなんてそれは、ねえ?
見るよね。見るだけならただだし!
でもうちの家だと人魚族の娘を買ったとしても水場がお風呂場しかないしさ、お風呂に入れないのは困るし……。
「やー……でも買ったら怒らない?」
「はぁ……。ご主人様は私がすぐ怒ると思っているのですね。傷つきました」
ああ、頬をぷうっと膨らませてそっぽを向くウェンディもなんだか可愛いなあ。
「まあほら、もしかしたら危ないかもしれないし……」
「それはそうですけど、ご主人様は相手が可愛い子だと、清濁併せて呑み込むようなお方ですから……」
それはレンゲやソルテのことだろうか。
まあ、俺としてはあれは不運な事故だと思う事にしているしな……。
事故の結果として犯罪奴隷なんて立場になっただけだと。
アイナとソルテには材料収集でお世話になり続けているし、レンゲも運が悪かっただけだ。
俺としては紅い戦線としてアインズヘイルでは有名な冒険者なのだし、タイミングをみて三人とも元の生活に戻ってもらおうと思っているんだが……。
「ま、まあ。あ、ほら次の商品の説明が始まるぞ!」
「あはは……否定しないんですね。イツキさん」
「いやだって……誰かが可愛いは正義って言ってたし……」
「この世界だと可愛くて悪い子なんてざらにいますから、イツキさんは特に注意したほうがいいですよ?」
ぐう……。
俺よりも早くこの世界に来て様々な体験をしてきた隼人に言われると、心の中でしかぐうの音がでなかった。
なんて大人な目をしているんだ隼人……。
その年で可愛い子、綺麗な子に疑心暗鬼になるなんて……。
「……わかった。心に留めておく」
年齢としてではない経験の濃さと、この世界の先輩の助言としてしっかりと受け止めようと思う。
綺麗な薔薇には棘がある。っと。
「……でも、きっと」
「あまりかわらないでしょうね……」
ウェンディも隼人もあんまりだと思うの……。
まあ、俺もそう思うけど。
でもちゃんと、心には留めるからね!




