4-19 裏オークション オークション・1
ステージ上で副隊長が威勢よく声を張り上げオークションの開始を宣言すると、何人かが看板のような立て札を持って現れる。
彼女達は隊員ちゃんたちかな?
「さあ、オークションを開始する前に注意事項です! 一つめ! 今、この場では私が絶対の存在でありこの場にはマスクを付けたお客様と、出品者、そして私の関係者しかおりません!」
副隊長がルール1を説明しだすと、一番左の子が立て札をクルリとまわし、偉そうな人がボロボロの人を踏みつけた絵にバッテンが書かれていた。
なんというか、内容と違ってコミカルである。
「相手を特定するような動きはなさらない事。そして相手を特定したとしても教会を出た後でも手を出さない事! この二点をお約束ください! 次に二つめ!」
続いて左から二番目の子が看板をクルリと半回転させる。
今度は、お金持ちそうな男が袋を開いてお金を確認した後に無い事に気づき、別の男に借りれないか頼んでいる姿にバッテンが記されていた。
あれは、貸し借り禁止ということだろうか?
「お金の貸し借りは構いません! ですが! それはお知り合いを連れてきている場合に限ります! マスクを付けていても相手がわかる者もいるとは思いますが、権力を行使してのお金の貸与、支払い時間までにお金が用意できない場合は、次回以降の参加を禁止とさせていただきます!」
貸し借りはいいのか。
ただし、支払い時点よりも早く借りれていればってことね。
そりゃお金も無いのに落札されたら出品者はたまったものじゃないもんな。
裏のオークションで後払いといわれても、本当に支払われるのか疑問になるだろう。
「三つ目」
右から二番目の女の子が、副隊長の合図とともに立て札を回転させる。
今度は悪そうな顔をした商人が、荷物のすり替えをしている絵であった。
……多分。
多分な理由は、その、あまり絵が上手じゃないのである。
腕の関節とか、顔の輪郭とかが曲がっていて色がついていて辛うじてわかるレベルだ。
「出品者様は落札価格に納得行かなかったとしても、一度落札された以上は必ず本物の商品をお渡ししていただきます。万が一、偽物にすりかえるなどされた場合にも我々は一切の責任を持ちません! ですが発覚した場合には重い罪が背負わされます。やるなら犯罪奴隷行きは覚悟しておいてくださいね……?」
マスクの下で副隊長の口が三日月のように弧を描く。
狂気を感じるんだが……。
あれで首を傾げながら両手を開いて目が光っていたら怪人である。
それにしてもよく声が出るなあ。
頑張ってる。副隊長。
「最後に! 当然ですが落札を争って負けたとはいえ暴力はいけません! 万が一オークション中に事件が起こった場合は、終了後、王族であろうが何処の貴族であろうがこちらも重い罪が背負わされます! 最大で御取り潰しの上に犯罪奴隷になる可能性もございますので、お気をつけください!」
最後の女の子がクルリと立て札を回転させると、妙にリアルなタッチで男が男を殴る絵にバッテンされたものだった。
ボクシング漫画か……?
しかも中々の迫力である。
「以上を持ちましてルール説明を終わります! もしご納得いただけない方がいましたら今すぐ退場をお願いします。この会場に残られる方々は、女神様に誓ってルールを守るとみなさせていただきますので、どうぞ!」
当然といえば当然だが、誰一人として出て行く様子は無い。
「皆様、同意とさせていただきます! それでは早速第一品目! 20代の男性犯罪奴隷! 男盛りでペットにしてよし! 働かせてもよし! 盗賊団の団長をしておりました男ですから、反骨精神が強いかと思いますがそんな男を調教してみたい人にはたまりませんね! それでは! 10万ノールから、単位は1万ノールで開始です! さあ、24番さん11万ノール! 45番さん13万ノール!」
それにしても生き生きしているな副隊長。
説明なんかも堂に入っている。
「なあ隼人」
「なんですか?」
「番号って決まってるの?」
「ええ、あちらからしか見えませんが、番号は決まっていますよ。ランダムですが、あ、ほら今自分の番号が書かれた札を配ってます」
前の方を見ると修道着を着たテレサが前から順に小さな札を配っている。
持ち前の身体能力がいいからかはわからないがスイスイと素早く過ぎ去っては札だけを渡していっていた。
「お、ここにいやがりましたか」
「ああ、がんばれよ」
「これが終わったら換金所の警備でやがりますから、気合入れるでやがりますよ」
それだけ言い終わるとテレサは俺と隼人に札を渡して去っていった。
それにしても良く間違えないな、と思ったら上から順に渡していっているだけのようだ。
先に準備しておけば間違えるわけもないか。
「それでは盗賊団の男は25万ノールで24番さんが落札でええええっす!」
25万か……。
人の命だと思うと凄く安いな……。
「続いての商品はああああ」
こうしていくつかの商品が紹介されては落札されていき、もう既に10は超えたと思う。
今迄で一番高い商品はダンジョンの下層で見つけられた幻想級の武器。
落札金額、1500万ノール。
幻想って……とか思ったのだが、どうやら更にその上もあるらしい。
隼人に聞くと、
『幻想級、の上に神器級、特殊ではありますが、神器級の上に神器級の武器を封じる封神級の武器がありますね。僕の『光の聖剣』は封神級になります』
『すげえな。一番上のランクかよ』
『まあ……女神様からいただいた能力ですからね』
それもそうか。
女神様からいただいたチート能力の上の剣が普通にこの世界にあったら、ユニークスキルとは言えないか。
俺の『お小遣い』だってこの世界に二つと無いスキルだと思うしな。
「さあ皆様お待ちかね! 今回のメインと言っても過言ではないでしょう! ダンジョン踏破を成し遂げた証ともいえる、世界最高の効き目! 部位欠損すら治してしまう奇跡のお薬! その名は霊薬です! 今回は二本ありますがまずは一本目、最低落札価格は1億ノール。単位は1000万ノールでスタートです!」
ついにか……。
それにしても1億ノールがスタート値……。
基本的には倍以上で落札されてるから2億は行くと見ていいだろう。
「おおおっと! 18番さん1億5000万! 45番さん更に5000万追加で早くも二億です! さあ、お次は55番さん2億5000万ノール入りました!」
あっという間かよ……。
しかも55番って隼人じゃねえか。
横を見ると指を大きく広げてパーを見せていた。
「さあ18番さんは降りでしょうか? 45番さん2億8000万! 55番さんさらに5000万追加で3億3000万ノールです!」
すげえな隼人、間髪いれずにプラス5000万だぞ……。
「ちなみに隼人の上限は……?」
「……5億までならなんとか……」
ひゃー……。
5億ノールですってよ奥さん……。
あの豪邸を買った後に5億ノール所持とか、さすが英雄……。
「普段なら3億前後で決まるんですが、できればこのまま決まってくれれば……」
「おおおおっと! ここで1番さんが更に5000万ノール追加です!」
「……そう上手くはいきませんか……」
「55番さん更に5000万ノール追加で、4億3000万ノールです!」
「あー……1億ノールくらいなら出せるぞ?」
隼人に貰った材料で作ったアクセサリが3000万ノール。
出発前に領主に貰った隼人に払うはずだった報酬が7000万ノール。
どちらも隼人に還元するなら構わないと思える。
それに隼人なら何らかの形で返してくれるだろうという打算も混じっている。
「……もしかしたらお借りするかもしれません」
「おう。構わんからいったれいったれ」
「さあ、1番さん追加で5000入りました! お値段なんと4億8000万ノールです! おっと55番さん2000追加で5億ノール! 一番さんなななんと5000追加で5億5000万ノールです!」
「タイミング悪いですね……。どうしても霊薬が必要なのでしょうか……」
隼人が苦々しく唇を噛み、険しい顔をする。
それにしても霊薬高いなあ……。
まあ、部位欠損もあらゆる病も毒も治すとあらばこれくらいなのだろうか?
地球でもこんな薬があるならば5億でも6億でもほしいというお金持ちもいるのだろうか……。
豪邸を一つ買う感覚で、あらゆる病や怪我が治るなら買う人もいるか。
「ごめんなさい。お借りします」
「いいよいいよ。今回は見に来ただけだし。クリスのためだ頑張れ!」
「はい!」
「おおおおっと! 55番息を吹き返したかのように5000万追加だあああああ!!! これで6億ノール! 普段の霊薬の倍近くになっています!」
これは……出品者はうはうはだろうな。
それと教会もか。
一割ってことはこれだけで6000万ノールかよ……。
「お、おおっと? 一番さん5000万追加でなななんと、6億5000万ノールです!」
「っく……」
「さあ、いませんか? よろしいでしょうか? それでは! 霊薬の一本目は6億5000万ノールで1番さんが落札です!」
まじかよ……。
一本の霊薬に6億5000万ノール……。
シロ65人分だぞ。
65人のシロ……。
のしかかられたら死んでしまうな。
「仕方ありません……。二本目を取りにいきましょう」
「だな。流石に1番はもう金が切れるだろ」
「……どうでしょう。相手が公爵だとその限りではありませんね……」
そういえばテレサも公爵が狙っているようなことを言っていたな……。
というかばらして良かったのか?
番号で特定はできないからいいのだろうか?
「さあそれではこのまま二本目に行きましょう! 先ほどと同じく1億ノールからのスタートで、単位は1000万ノールです! 55番さん1億5000万ノール! 18番さん2億ノール! 45番さん2億5000万ノール! おっと、55番さん3億ノールです! 45番さん3億3000万ノール!」
流石に二本目、あっという間に値が上がるな……。
「55番さん3億8000万ノール! さあ、ほかにありませんかあああ?」
「……」
隼人は固唾を呑んでステージを見ているようだ。
こちらにも緊張が走る。
「1番さん4億3000万ノール!」
「やはり来ますよね……」
1番、先ほど霊薬を一本落札したのにまだ買うのか。
これ、隼人への嫌がらせって訳じゃないよな?
「55番さん4億8000万ノール! さらに5000万! 1番さん5億3000万ノール!」
おいおい、相場は3億前後じゃないのか?
あっという間に5億だぞ……。
金銭感覚が訳わからなくなるな……。
「55番さん更に5000万! 5億8000万ノールです!」
「っ……」
ギリギリのラインだ。
これで2000万以上アップされたらアウトか……。
そして、ステージにいる副隊長が大きく息を吸い込んだ。
「1番さん更に5000万ノール追加! 6億3000万ノールです! さあ、よろしいですか!?」
「はぁ……。今回はタイミングが悪かったみたいですね……。クリスに謝らないと……」
「あー……こればっかりはどうにもならないだろう……」
「そうですね。多分1番が公爵で間違いないでしょう。それにしても霊薬二本で12億8000万ノールですか……」
「はぁー……公爵っていうのは金を持ってるんだなあ……」
「まあ、王族の一員ですからね。あるところにはあるんでしょう……」
隼人は目に見えて落ち込んでいたが、こればかりはどうにもならない……。
「まあ落ち込むな……。クリスには申し訳ないけど次もあるだろう」
「……そうします。次はもっとお金を貯めてから万全にしますよ」
「ああ、俺も協力するよ」
「はい! ありがとうございます!」
「それでは次に参りましょう! 続いては美しき人魚族の奴隷です!」
隼人は残念だったな……。
まあでも永遠に治らないわけではないだろうし、隼人ならすぐに治すことになるだろう。
そういえば、王都の錬金ギルドには行ってなかったな……。
明日、起きたら行ってみるか。
領主から褒美貰ってたの? に関しては閑話のネタにしようか考え中の為、突っ込み無しでお願いします。




