15-27 ギゴショク共和国 龍の加護
ヴォルメテウスの加護……。
カサンドラに続いて二つ目の龍の加護を貰えるって事か?
そしてそのためにはおっさんとチュー……。
あの柔らかくなさそうで乾燥とか一切気にしないおっさんの唇とチュー……かあ。
「ん? なんだあ? どうした?」
加護をくれるというのなら欲しい。
だってどんな効果にせよ確実に今よりも強くはなれるだろうし。
ただ……せめて、せめて龍の姿で……いやなんかそれはそれで食べられそうだから怖いな。
「いやいやいや。何を言ってるんだよヴォルちゃん。うちのお婿さんに加護なんて駄目だよ駄目駄目」
「ああ? なんでだよ。加護与えねえとどこにいるかわからねえじゃねえか」
あ、俺に加護を与えたい理由ってそれなのね。
まあくれるってんなら理由は何だって良いんだけど、食い気の為だけに恐らく貴重であろう加護を俺にくれるという話だったのか。
もう龍は食いしん坊って印象が固まって来たな。
そしてレアガイアよ。
何故駄目なんだ?
それはアレか? 俺程度じゃあ貰ったところで何も変わらないと……?
「あのさあ。この子にはカサンドラちゃんがもう加護を与えてるの。そこに追加とか駄目に決まってるでしょ」
「ああ? そんなの別に決まってねえだろうが! 加護が二つあったっていいじゃねえか」
「良くないよ。龍の加護を二つ以上受けたヒトなんて、そんなの今までいないじゃないか。どうなるかもわからないのにそんな危険な真似できるわけないだろう?」
え、何?
加護ってそんなに危ないものなの?
二つ受け取ったらどうなるか分からないって、下手すると体が張り裂けるとか内側から爆発するとかそういう事が起こる可能性もあるってこと?
……いやああああ! 想像しちゃったよ! 怖すぎんだろ!
「あー……今までいなかったっけか?」
「いないよ。そもそも加護を与える機会自体が少ないのに、龍が同じ相手を気にいるなんて今までなかったじゃん」
「あーそうか……。一応龍の因子だし流石に危ねえか。それじゃあ博打をうつわけにもいかねえよなあ」
いかないよ! というか、絶対に嫌だ!
王様になるよりも嫌だよ!
「じゃあどうすっかなー。火属性の適性が無いと駄目なんだが……ん? なんだよ適性あるやつがいるじゃねえか。おい、そこの髪の紅いの。お前こいつの女だよな? いつも一緒にいるんだろう? それじゃあお前にやるよ」
「「へ?」」
紅い髪の女って……アイナか?
「わ、私か? 確かに火の適性はあるが……」
「じゃあお前に俺の加護をやるよ。そうすりゃあいつでも居場所が分かるしな!」
俺に加護を与えられないと分かって本気で悩んでいたようだが、解決策が生まれたからかヴォルメテウスが両腕を組んでガハハハと笑いながら上機嫌にアイナへと近づいていく。
「俺の加護はいいぞー? 火力も上がるし身体能力も上がるからな! その力でこいつを守ってくれるんだから得が二つ、ただ居場所が分かるだけよりも好都合じゃねえか!」
「火龍の加護か……。いただけるのなら是が非でも欲しい所だが、そんな理由で良いのだろうか?」
「別に決まりはねえしなあ。気にいったらやる。そんなもんだ」
龍ゆえにおおらかというか、まあアイナも強くなるためか欲しいみたいだし、じゃあここはアイナにーって、
「駄目に決まってんだろうが! いくら加護のためとはいえおっさんとチューさせる訳にいくかああああ!」
「へ?」
「ああ? チュー? 何言ってんだこいつ……」
「あー……そういえばカサンドラちゃんはチューして加護を渡してたね。でも別にチューじゃなくて胸に触っても大丈――」
「アイナのおっぱいに触る……だと?」
おいおいおいレアガイアよう……大丈夫って何がだ?
何一つ大丈夫な要素がないんだが?
久しぶりに……キレちまいそうだよ。
「ひぃ……ちょ、怒りすぎじゃない? 龍の加護だよ龍の加護! 数百年に一度あるかないかくらい貴重な機会なんだよ! それがちょっと胸に触るくらいで手に入るんだから――あ、ごめんなさい。もう言わないです……」
そうだな。
その方が良いぞレアガイア。
今の俺はヴォルメテウスの圧にも耐えうる自信がある程熱くなっているから余計なことは言わない方が良い。
もし俺が獣人だったら尻尾がぶわっとなって、牙をむき出しにして唸っているくらい興奮状態だからな!
「ああ? ヒトの胸なんざ興味ねえって……」
「ああ!? アイナのおっぱいに興味ないとかそんな訳ないだろうが!」
アイナのおっぱいはすんごいんだぞ!
冒険者で沢山動いているのにクーパーさんに衰えは全く見えず、ハリも凄いのに柔らかさもばっちりで、触り心地も滑らかで手を離しがたくなるくらいなんだぞ!
しかも鍛えているから程よい筋肉とのバランスは最早芸術なんだ!
そんなアイナのおっぱいに興味がないとか嘘をついて堪能する気だろう!
別に興味はねえけど……まあ、仕方なく、仕方なくだからなあグヘヘヘなんて、そんなことさせてたまるかっ!
「ええ……なんかこいつ、怖くね?」
「うん……。この状態の時は逆らっちゃ駄目だよ。すっごい弱いのに突っ込んできそうで、ちょっと動いただけで殺しちゃいかねないからね!」
「弱さを振りかざしてくる相手とか初めてなんだが……」
「ちなみに間違いでも殺しちゃったら私がお前を殺すからね」
「絶対何も出来ねえじゃねえか……。こんな龍の追い詰め方あんのか? ええ……胸は駄目なんだろ? あー……じゃあどうするか。お、そうだ。じゃあ背中。背中はどうだ?」
「背中ぁ~? うーん……まあ……アイナが良いなら」
「あ、ああ。私は構わないぞ」
アイナが構わないというので仕方なく加護を貰っておくとしよう。
しかしアイナのおっぱいに興味がないとか……そういえばカサンドラもおっぱいに無頓着だったし、龍はおっぱい自体に興味がないのだろうか?
なんて、なんて可哀想な種族なんだろうか……。
「お、おう……背中ならいいんだな。何が違うのかわからねえが、よーし。それじゃあ加護を渡すぞ」
「う、うむ。よろしく頼む」
「おう。んじゃちゃっちゃとやるぞ。ん? お前、灼熱の申し子か?」
「あ、ああ。半分だけだが……」
灼熱の申し子? って、確かヤーシスの所でアイナと奴隷契約を結んだ際に言っていた炎人族の別称だっけか。
「なるほどな。じゃあ俺の加護はより役に立つだろうよ。それでそいつを守ってやってくれ」
「ああ。魔力球の為なのだろうが、それでも主君を守る力が増すのであればありがたく受け取らせていただこう」
アイナが背中を向けるとヴォルメテウスがアイナの背中に触れる。
するとアイナがびくっと一瞬反応したのだが、あっという間に受け渡しが終わったらしい。
……別に光ったりしない。
俺の時もあっさりだったしな。
「っ……これは……」
「加護の影響が分かるか? 効果については後で確かめた方がいいぞ。いきなりじゃあ加減も上手くいかないだろうしな」
「そのようだな。体の内側に熱源があるように感じるな……。それにこれは……徐々に体を慣らして行った方が良さそうだ」
「ん? 龍の加護ってそんなに効果が分かりやすくでるものだったっけ?」
俺の時は特に何もなかったし、ほんの少し死ににくくなるって言われただけだったと思うんだが……。
まあ元が元だしとも言われていたし、普段から鍛えているアイナの方が効果は大きいのは分かるけど……そんなに差があるものなの?
「灼熱の申し子だからな。相性が良すぎんだよ。今のこいつは以前よりも火力は上がっているし、身体能力の向上も目に見えて変わっているはずだぜ」
「おおー! やったじゃないっすかアイナ!」
「理由はどうあれ戦力アップね! おめでとう!」
「おめでとうございます。アイナさん」
「ん。アイナ、後で鍛錬しよ」
「ああ。ありがとう皆。シロも是非よろしく頼む。ただ主君との鍛錬は暫く出来そうにないのが残念だが……」
あー……加減が出来ないとなると、そうした方が良さそうだなあ。
俺も危ないし、アイナも奴隷契約上鍛錬でなくなってしまうとペナルティが発生して頭痛が起こってしまうしな。
「アイナが龍の加護っすか……あ、じゃあレアガイアも自分にくれてもいいんじゃないっすかね?」
「ちょっと! 置いてけぼりにしないでよ!」
「大丈夫っすよソルテ。差が出来ても自分達は仲間っすよ!」
「まだ貰ってもいないのに気を遣わないでよ!」
確かにレンゲは地属性の適性があるし、レアガイアから地龍の加護を貰えれば同じく相性が良い結果になりそうだよな。
そうなるとソルテは……まあ、風龍とは出会ってもないし、仕方ないか。
「うん。まあ駄目だしねえ」
「なんでっすか!? 自分の事嫌いなんすか!? ご主人にあんなことやこんなことからそんなことまでサービスしてレアガイアに魔力球を渡すように交渉するっすよ!?」
「いやあ、それは望ましいし君の事が嫌いというわけじゃあないんだけどね。私の加護は過去にあげた彼だけって決めているんだよ。だから駄目なんだ」
おお……まさかの一途宣言。
レアガイアにもそんな相手がいたんだな……。
レアガイアのラブロマンスって所か?
今の姿ではなく、痩せた頃の話だったとすると……結構羨ましいな。
「ちなみにカサンドラちゃんもあげられないから、欲しいならロックズやロッカスが成長するのを待つしかないね。あの子達まだ加護あげられないし、私やカサンドラちゃん程の力は得られないと思うけど……」
「そんなあっすぅ……」
レンゲが膝を折って四つん這いになり落ち込んだ様子を見せるのだが、まあロッカスやロックズじゃあまだまだ先になりそうだしなあ……。
そして加護にも個体差ってあるもんなんだな。
「残念だったわね。ねえレアガイア。風龍ってどんな龍? 主様の魔力球で釣れるかしら?」
「アルスカイの事? うーん……真面目だからなあ。でもあの味を知ったら分からないね」
「だな。アルスカイとはいえ、あの味の前にゃあ交渉も行けるんじゃあねえか」
「ふーんそうなんだ。で、何処にいるの?」
「ちょっとソルテ!? 何加護を受け取りに行こうとしてるんすか! 置いてかないで欲しいんすけど!?」
「大丈夫よレンゲ。差が出来ても私達は仲間よ!」
先ほどのやり取りを見事なまでにやり返されるレンゲ。
まあ先に煽ったのはレンゲだからな。
ソルテが風龍の加護を貰えるとなったら勿論協力するが、その際はソルテにあんなことやこんなことからそんなことまでさせてもらうとしよう。




