15-24 ギゴショク共和国 実食!火龍のお味は?
「うめええええ! なんじゃこりゃあ! マジで美味いな! 雑味が一切ない魔力の塊ってこんなに美味いのか!」
「だろだろぉ? 今まで食べてきた比較的癖のない魔物とかじゃ比べ物にならないよね! 私が言っていた意味がよーく分かるだろう?」
「分かる分かる! そりゃあこれを知らねえ俺は可哀想だわ! ああ、うんめええええ!」
うんめええええのタイミングで空へと向かって火を吐くヴォルメテウス。
いや何というか、人形態でも吐けるんだな火って。
「お? つまりあれか? こいつを知らねえアルスカイやレヴィアは可哀想って事だな! あいつら可哀想だなー!」
「そういうことだね! ああ可哀想可哀想!」
ぎゃははははと笑う二人。
酔っぱらってるのかと思うくらいにテンションが高いのだが、龍って酔っぱらうとかあるのだろうか?
魔力を含んだお酒なら酔うのだろうか?
「おう兄ちゃん! 追加だ追加! 追加をくれよう!」
「はいはい。色々貰ったし、ちょっと待ってろよ」
「婿殿私のもー! あ、今日は普通のでいいよ! ふふふ。気を遣える私って素敵でしょ?」
「はいはい。ありがとうありがとう」
確かに気を遣って貰えるのはありがたいね。
この状況で濃いやつとか作ったら、これ以降ずっとそれだろうしそうなるとMPも足りなくなってしまうだろうしな。
切り札は取っておくって大事だよね。
まあそんな二人はおいておこう。
火龍と地龍の尻尾が手に入った事だしどう料理したものかと考えたのだが、やはりここはシンプルに焼いてステーキを塩コショウで食べるのが良いかな。
勿論わさび醤油も捨てがたいので後で試すが、食べ比べをするのであればやはりシンプルなものが一番だろう。
「まさか火龍の尻尾まで食べる機会があるとは思わなかったっすねえ……」
「今までこの世界にいないんじゃない? 龍種の長の尻尾を同時に食べ比べしたことがあるヒトなんて」
「私が知る限りいないですね。美食家が聞いたら今までの自分の美食を思い返して膝を着きますよ……。っていうか、龍の尻尾食べるんですか? 売ったら超高額の超高級品ですよ? しかも野良龍ではなく純種の! しかも長の肉なんていったいいくらになるか……! 私売るなら伝手とかありますよ!」
確かに売れば相当な利益にはなるだろうけど、美味しいものは食べたいし好奇心の方が上回るのだから仕方ない。
それにお金は別の手段で稼げばよいが、この肉はお金を出せば食べられるようなものではないのだと考えるとやはり食べる一択になるだろう。
「そうかもしれないが滅多に食べられない上に市場に出る事もない肉を食べる機会だぞ? それに以前食べたレアガイアの尻尾はとんでもない美味さだったが、シオンは気にならないのか?」
「気になるに決まってるじゃないですか! 絶対食べますよ! こればかりは意地悪されたらマジ泣きしますからね!」
流石にしないっての……。
それにシオンも火龍を前に俺を守るように前に出てくれたからな。
あと誰を参考にしたのか知らないが、マジ切れじゃなくてマジ泣きは本当に困るからやめてね。
「よし。出来ました!」
「ん! ウェンディ早く早く!」
「はいはい。皆さんに配り終えたらですから、早く食べたいなら手伝ってくださいね」
「ん! 『被装纏衣・壱被黒鼬』」
おいおい。まさか配るだけの為に黒鼬を使うのかよ。
消耗してるはずなんだが……黒い線のような残影を残してあっという間に皆に配り終えたな。
そして配り終えると当然のように俺の隣へと座るのだが、流石に膝の上では俺が食べにくいと思ってくれたようだ。
「あ、あのう……私達もよろしいのですか?」
シロはリュービさん達にも配っており、目の前にある肉が龍の肉だと分かっているので戸惑っているのだろう。
堅物そうなソーソーさんや俺を多分あまり良く思っていないカンウさんまでもがぽかんと目の前に置かれた肉に驚いているようだ。
「勿論。せっかくですし皆で一緒に食べましょう」
「まじかよ……。この一枚だけでも相当貴重だぞこれ」
「なんと……龍を食べる機会が訪れるなんて……」
「き、貴重な機会に感謝をすると知りなさ……知って頂きたく思います。ええ、本当に……」
「この器の大きさ……姉様どうしましょう。本格的にこのお方に惚れそうです。子種だけでも頂きたくてキュンキュンしてます」
いやだって俺達だけ食べて皆さんだけ立ったまま放置って訳にも行かないでしょう。
俺そういうのけっこう気になるタイプなだけなので、瞳にハートを浮かべておへその下の辺りを撫でないでくださいソンサクさん。
多分それをしようとするとソンサクさんのお肉だけ無くなりますので……。
「それでは早速いただきましょうか。ではご主人様から食べてください。こちらがヴォルメテウスのもので、こちらがレアガイアです。小さい方はサラクリムのものとなっております」
「ああ。それじゃあ早速火龍のヴォルメテウスの方から……」
俺が食べないと皆が食べられないようなのでいただきますと手を合わせてから早々と頂くとしよう。
ナイフで切ると断面は見事なまでのミディアムレアで脂のテリが美しく、肉質は柔らかいのかスっと切る事が出来た。
そしてフォークで突き刺して持ち上げると、まず香ばしい香りによだれが溢れそうになるのを飲み込んで口へと運んでいく。
「おわあ……」
なんだこれ……すっげえ……。
美味い。間違いなく美味いのは間違いないのだが、口の中が不思議な感じがする。
「はふ……はっ……ほっ、ほっ……!」
何に置いてもまずはめっっっちゃ熱い!!
肉が自ら熱を放っているかのように熱く、肉だけじゃなくて噛み締めるたびに溢れる肉汁も熱い。
まるで小籠包を割らずに丸ごと口に放り込んだような感覚で、口の中がとにかく熱い!
もう物凄く熱いのだけど何故か火傷はしないと確信が持てる熱さで、その熱さが美味いと思えるような不思議な感覚なのだ。
甘味、酸味、うま味、苦味、塩味の基本五味に熱味という味覚が加わったかのように、熱さ自体が美味いと感じているのだと感覚で分かってしまう。
まるで火そのものを食べているかのような錯覚に頭は混乱するのだが、美味いからその火を噛み締める。
その熱さに涙も出て来るのだけど味は間違いなく美味いこの肉は、飲み込んだ後も熱を持っていてまさしく体の中からぽっかぽかって感じで汗までかいてきた。
「はぁぁぁぁ……すっげえなこれ……あ、皆も食べてみな。これは驚くぞ。そんで美味い」
「ん!」
シロが鼻息荒くかぶりつくのを筆頭に、皆もヴォルメテウスのステーキにかぶりつく。
その後シンクロしたかのように皆がほっほと熱を逃すような顔をしているのが少し面白いな
さあ食べ比べだし、次はレアガイアの肉だな。
そういえばレアガイアの尻尾肉はコラーゲンが溢れ出た後、肉に馴染んだようであったけどヴォルメテウスの方はそのまま蒸発してまとわりついたような感じだったな。
そして地龍の肉は相変わらず肉が勝手に裂けるような柔らかさでありながら、噛むと噛み応えがあって肉汁がぷしゅっと出るように溢れて来る。
同じ龍でもこんなにも違うもんなんだなあ……と、感心しつついつまでも噛んでいたい地龍の肉を堪能させてもらう。
「はああ……やっぱり地龍も美味いなあ……」
単純な肉としての旨味で言うのであればレアガイアの方がやはり美味い。
だが、珍しさや不思議な感覚でまた食べたいと思ってしまうのはヴォルメテウスの方だろうか?
こいつはどちらも甲乙つけられそうもないな。
ほんでサラクリムの肉なんだが……。
「食べりゅのね」
「……じっと見られると食べにくいんだが」
「わたちのはじめてをあげりゅんだから、もっとうれちそうにちなさいよ」
「ニュアンスが変わって事案になりそうなんだけど!?」
尻尾な。
尻尾を食べられるのは初めてって事な?
っていうか元々サラクリムの尻尾は貰う予定じゃなかったんだが、追加分が欲しいからって自ら差し出してきたんじゃないか!
ぐっ、じっと見られると食べにくいけれどもう焼いてしまったし、実際子牛とか子羊とか子~~だと味や食感が変わる事もあるから遠慮なく食べさせてもらうぞ。
「ん。シロも食べる~」
「あ……」
「んっ、んんっ……ほぉぉ……」
あー……なるほどなあ。
柔らかさはヴォルテウスのものよりも更に柔らかいが、肉汁は多くなくどちらかというと淡白な感じだろうか?
そして一番の大きな違いは熱さだろう。
熱くはないのだが温かいといった表現が正しいかな?
火力の暴威を振るうようなヴォルメテウスの肉に比べて、こちらは白湯のおうに優しくて落ち着く感じの熱さがある。
勿論それは焼いたからという訳ではなく、火龍の肉独特の熱さなのだが、うん……美味いな。
塩と胡椒でシンプルだからかほんのり甘さが際立って、脂肪分も少ないのでいくらでも食べられるといった感じだな。
「……ど、どうなのよ?」
「ん! サラクリムのも美味しい! お肉が甘い! 脂が少なくていっぱい食べられる!」
「そ、そう……! おいちいんだわたちのちっぽ……。またほちくなったら言ってくれればあげりゅわよ。勿論、この球と交換だけどね」
シロの回答に満足いったのか、改めて魔力球をぱくぱくと食べ始めるサラクリム。
……自分の尻尾が美味しいかどうかを気にしてたみたいだな。
ま、まあどうせ食べられるなら不味いよりは美味しい方がいい……って事でいいのだろうか?




