15-23 ギゴショク共和国 お土産確保
ヴォルメテウスはレアガイアがいるのでもう暴れない。
ということで土の山は解除して、いるだけで気温が上がって熱いし大きいので邪魔だから人型になってもらった。
人型のヴォルメテウスは豪快そうな長髪でサラクリムと同じ赤い髪をしており、筋肉はムキムキで腹筋が割れていて印象通り豪快というか粗野というかな感じの風貌であった。
「シロ、大丈夫か?」
「……」
「シロ?」
シロは軽いやけどを負っていたので今手持ちにある一番効果の高いポーションをウェンディが塗布しているのだが、ヴォルメテウスの方をじっと見つめていて反応が薄かった。
だが、俺が呼んでいるのに気が付いたのか首をふりふりした後振り向いて頷いてみせてくれる。
「……ん。大丈夫」
「はい。これで大丈夫ですよ。傷跡も残らないようですし、良かったですね」
「ん。ありがとう主、ウェンディ」
シロの怪我も無事に元通りになったようで一安心だな。
で、龍たちの様子はと言うと――。
「あーんっま。あーうまいわあー。最高。もう最高! 止まらないわあ!! はあああ……この為に生きてると言っても過言じゃないね! いやマジ本当に。ふわああああー! もうやばい。もうやばいわあー!」
……うざいだろうなあ。
まあ一応助けに来てくれたわけだし、これで冷静に話しが出来る事になったのでお礼がてら魔力球を作ってレアガイアに渡したんだけどさ。
『ねえねえキミ火属性の魔力球も出せるよね?』
『え? まあ光以外なら出せるけど……』
『わお! それならさ。君にとっても都合が良い事をするからもっとたくさん頂戴よ。絶対に損はさせないから!』
と言うので、これで損を感じたら次から暫くはうっすい魔力球しか作らないと心に決めてレアガイアに乗ってみたのだが……またヴォルメテウスを怒らせる作戦か?
もう今日は気疲れが酷いしこりごりなんだが?
「お、おい……なんだよそれ……」
さっきまであからさまにうざいから触れようとしなかったヴォルメテウスだが、流石に気にはなったのだろう。
だがな。こういう輩ってのはここからがもっともうざいので覚悟した方が良いと思う……。
「ええー!? 知らないのぉ!!? うわあ……うわあ……可哀想……これを知らないで生きて来たとか可哀想。一分一秒でも早く知っておくべきだったのに可哀想すぎるー!」
「ちっ! 知らねえから聞いてんだろうが! だからなんだよその丸いのは! 地の魔力の塊か? なんだってそんなもんがあるんだよ!」
「ふっふーん。その通り。これは純度がほぼ100%の地の魔力の塊だ。臭みなんてない、私にとって最高の食事と言う訳だよ! これはねえ……なーんと婿殿が作ったんだよう?」
そういえば俺が作った所をヴォルメテウスは見てなかったな。
サラクリムに弁解するのに必死だったもんなあ。
「なにぃ!? だからお前、俺様がそいつを殺そうとしたらブチ切れて来たのか……」
「その通りだよ!」
あ、俺の方に視線向けられるかな? と、思ったのだがヴォルメテウスの視線は一直線にレアガイアの口元に運ばれる魔力球へと向けられている。
……というか、横のサラクリムと並んでよだれを垂らして見ていらっしゃる。
「あーん! ふわあああ……たまらないよ。君のねっとり濃いのが私の中で溶けてしみ込んで私と一体になっていくんだ……ん? 何? 何その視線。なになに? もしかして分けて欲しいのぉ?」
「欲し……い、いやそれ地属性だろう? 魔力の塊とはいえ地属性じゃ……」
「婿殿ー。婿殿ってー火属性の魔力球もだせるんだよねえー?」
「そりゃあ出せるけど……ひぅ!」
ぐいんって、ぐいんって顔を一瞬で二人して向けるなよ。
サラクリムは羨望の眼差しを、ヴォルメテウスは……よだれだらだらのまま目をかっ開いて今にも飛びつきそうに前のめりとか怖いよ。
「火属性の魔力の塊……」
「あれの火属性が食えるのか……!」
「いやいやいや。サラちゃんは分からないけどヴォルちゃんは駄目でしょ」
「なんでだよ!!?」
「当たり前じゃーん。自分を食べようとした相手に御馳走してくれると思うー? 食べたいならそれなりの対価を払わないと。ちなみに私は血とか鱗とか爪とか肝とかをあげたんだよねえ」
「なっ……」
あー……バチンってウィンクをしたって事はこれが目的って事か。
魔力球を対価に火龍の素材を貰えって事ね。
さっき相対したのを思い出せば龍の素材がどれだけ貴重なのかは分かるし、しかも長となれば相当上質な素材になる訳だし、確かにこれはありがたいな。
多分、俺だけで交渉してたら良くて鱗と血くらいだったもんなあ……。
ついでに言うとレアガイアは自身を一切傷つけることなく沢山の魔力球が食べられると……。
「……わたちは、食べさせてもらえないわね。貴方が作った料理を台無ちにちたんだもの……」
うゆ……っと、涙を目尻に貯めてはいるものの泣くのは我慢していらっしゃるサラクリムなんだが……まあ、床にぶちまけられた時は少し頭に来たのだが、龍だと分かったら美味しくない物を食べさせられ続けてイライラしたというのも分からなくもないしなあ……。
というか、見た目幼女が涙目で鼻をすんすんしているのを見ると心が締め付けられそうだ。
手を差し伸べたくなったので、少しくらいなら……と思ったところで、シロが一歩前に出た。
「ん。駄目」
「……分かってりゅわよ」
おお……シロ。
わざわざとどめを刺さんでも……。
「ん。先に、主に言うことがあると思う。さっき、言いかけてたやつ」
「え……あ……ごめんなさぁぁぁああい」
「ん。良くできました」
ダムが決壊したのかわんわんと泣き始めるサラクリムと、その泣くサラクリムの頭に手を載せて撫でるシロ。
そしてこちらを振り向いたので、意図を理解して火の魔力球を作ってあげる。
「ひぐっ……うう、あ……い、いいのぉ?」
「ん。お腹いっぱいになるといいね」
「うううう……! ありがとぉ……」
俺から手渡された火の魔力球をぱくっと口に含むと頬を押さえて目を輝かせる子供らしい反応を見せるサラクリム。
龍とか関係なく子供だもんなあ。
「美味ちい!」
さっきまで泣いていたせいか目がまだ赤いが、お腹が空いた状態で食べる魔力球がそれほど美味しかったのだろう。
足りないだろうな、と思ったのでまだまだ作ってやるとするか。
……ちなみに、濃いやつではなく普通に魔力を込めた魔力球だ。
多分きっとこれが最後という訳じゃあないだろうと予測して濃いやつを最初に食べたらそれを基準にされかねないからな。
まあそれでも十分美味しいようで、笑顔で涙を流しながら一個一個大切に美味しそうにして食べていてほっこりした。
……その横でよだれをだらだら流しながらじーっと娘が食べている火の魔力球を見つめるお父さんがいなければ。
流石に泣きながら食べる娘のご飯を奪う訳には行かないのだろうが、自分の好物の属性である魔力の塊から目が離せなくなっているようで……多分きっとこの後矛先が俺に代わるんだろうなと予測を超えて予知が出来てしまう。
「お、おい! 俺様にも作りやがれ!」
おっとー? 命令口調で来ましたよ。
ご丁寧にレアガイアに怒られない程度の威圧なのか、天然の迫力なのかはわからないが若干の圧も感じます。
まあ龍だし? さっきまで怖い思いをさせられてたのでその脅しは俺に効く。
本来ならば。
「お断りいたす!」
「な!?」
馬鹿め! その程度の圧に負ける俺ではない!
今現在殺されるどころか傷つけられる恐れすらないと分かっている相手に対しては強く出られるのが俺なのだ!
あとお前シロに火傷負わせたのまだ許してないからな。
「あっはっはっは! 婿殿を甘く見るんじゃない! その子は私相手に脅しをかけるヒト族だぞ! その子の圧に私は負けた事もあるんだぞ!」
それはお前がその肉をおっぱいとか言うからだろう。
多少は痩せた。だが俺はまだそれをおっぱいだとは認めないからな!
「な、なんだと……レアガイアを負かす……」
「言っただろう? 大人しく、対価を示すべきだよ」
そうだな。
本当ならばシロを傷つけ、俺達を焼き殺そうとしたやつに食べさせる魔力球なんてものはないのだが、まあ10万歩くらい譲ったとして最低でも肝くらいは貰わねばやってられないね。
それと量は沢山貰わないとね。
なんせ火龍の長の素材だからいくらあっても困らない。
レインリヒやリートさんへお土産だって持って行けば喜んでもらえるだろうし、遠慮なんてする気はないからなあ!
「そりゃあ肝を取り出すのはしんどいし、地龍に比べて火龍は再生力が劣るけどさあ。そんなものこの魔力球を食べればすぐ回復するさ! っていうか、この味知らないとか本当に可哀想だよ? 見てみなよサラちゃんのあの幸せそうな顔!」
「ぐぬぬぬ……」
「お父ちゃま! これ凄く美味ちいわ! わたち始めてこんな美味ちいもの食べた!」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!!! ……分かった。血でも肝でも鱗でも爪でも持っていけ……」
「ん。じゃあ尻尾も貰う」
「尻尾もか!? わ、分かったから! 尻尾も持ってっていいから! 俺の分も頼む!!」
という事で、まずはさっそく素材から頂く事に。
シロが切り裂き、アイナ達が手際よく素材を魔法の袋へと入れていくので俺は火の魔力球を量産していく。
濃いやつは切り札として出していないので、通常の魔力球だからポンポン出せるのは楽でいいな。
これで火龍の素材ゲット! あ、鱗とかエリオダルトも欲しがるかな?
シロ。もっと切って剥いでくれていいぞ。
「はあ……はあああ……もういいだろう? これ以上は……」
「んんー……もう少し欲しかったけど、仕方ないか」
「ん。沢山取れた」
まあ十分とれたし、こんなものか。
恨みがましい瞳を向けられるが、悪い事はしていないので知らんぷりしようと思う。
まあ、火の魔力球は沢山用意したから好きなだけ食べてくれ。
「いいなあー。ねえねえ私にももうちょっと頂戴よ」
「ん? いいぞー」
「え!? いいの!? やったー! 君も私の敬い方が分かって来たんだねえ」
という事でレアガイアにも地の魔力球を用意し、それを嬉々として食べ始めるレアガイア。
……よし。食べたな。それじゃあ。
「ん? なあに? なんで私の方を見てにっこりしてるの? なになにもっとくれるとか? え? 何する気!? シロちゃんまで何!? なんでナイフ構えてるの?」
「いやあだって、対価は必要なんだろう?」
シロが火龍の尻尾を求めた。
それはつまり火龍の尻尾を食べたいと思ったという事だ。
となると、やはり地龍と火龍との食べ比べも大事だと思うんだよ。
と言う訳で、レアガイアの尻尾も貰って俺達は俺達でお食事タイムと行きますか。
ちなみに、サラクリムは魔力球があまりにも美味しかったらしく、おかわりをしたいとの事で別に構わなかったのだけど自ら尻尾を提供してくれました。




