15-13 ギゴショク共和国 完成?究極?のスープ?
シロ達が買ってきたお土産は肉まんのような饅頭で、調理をしながら食べる事が出来たので助かった。
というか流石はシロだな。饅頭がでかい上に生地は薄めで肉がたっぷりなのがらしいよな。
まあおかげでこれ一個で腹は満ち足りたんだけどさ。
「お館様ー? いつまでやるんですかー?」
「んんーもうちょいかな」
「ずーっと同じ作業を……もうすっかり夜ですよ。あと二日もありますし、今日は作業を終わりにして寝ましょうよ。お館様の空間魔法で仕舞っておけば大丈夫じゃないですか?」
「まあそうなんだけどさ。あとちょっとだしキリの良いところまで……」
「はあ……さっきもそう言ってましたけど、いつキリが良くなるんですか?」
それは俺が聞きたいねえ……。
アクは殆どでなくなっており、もう骨などから油が出てきて水に黄色みがかった色がついて濃くなってはきている。
だがこれからもっと色が濃くなるはずなので、そこまではやってしまいたいんだが、どのくらいやるのか分からないんだよなあ……。
「ん。主。もう美味しそう」
「そうなんだけど……あとちょっとだけやるから二人は寝てても良いぞ?」
二人も長い間付き合ってくれているが、この後もやる事は変わりないからなあ……。
つまらないだろうし、付き合わせるのも心苦しいし。
「はあ……分かりました。お館様も早く寝てくださいね」
「おーう分かってる分かってる」
「ん。シロが見てる」
「はーい。では私は十全に動けるように先に寝ますね」
そう言って先に寝に行ったシオン。
俺も眠気が出てきたので早く寝たいんだが……あとちょっとだけ頑張ろう。
「シロはいいのか?」
「ん。大丈夫。主と一緒に寝るの」
ああもう可愛いなあ……。
これが終わったら一緒にたっぷり寝ような。と、頭を撫でてやると目を細めて気持ちよさそうな顔を見せるシロ。
「主。アク少なくなったね」
「だな。色も段々濃くなってきたし、もう少しだと思う。思ったよりも早く寝られそうだな」
「ん。美味しそうな匂いがする。出来るの楽しみ」
まあこれが終わった所で完成ではないのだが、確かに香りだけでも既に美味そうではあるんだよなあ。
「もうひと踏ん張り。頑張ろうな」
「ん!」
あとちょっとで完成……そう思っていた時が私にもありました。
「お館様? 私何て言いましたっけ?」
「……早く寝ろって言ってました」
「シロさーん? 確かシロさんがお館様を見ておくと言っていましたよねえ? 本当に見てただけなんですか?」
「ん。思ったより時間がかかった」
「でしょうね! 私が起きるまでやってましたもんね! びっくりしました! 流石に寝ているだろうと顔を覗かせたらまだやってるんですもん!」
いや、そろそろ良さそうだなーっと思ってたら朝だったんだよ……びっくりだね。
俺も眠いなーとは思ってはいたんだけど……はい。すみません。
「それで? スープはどうなったんですか? うわ! かなり減ってるじゃないですか! まさか二人だけで先に飲んだんですか!?」
「いやいや……蒸発して減っただけだよ。まだ俺らは一口も飲んでない」
水嵩が明らかに減っており、それに伴う様にスープの色が濃くなっているのがはっきりとわかる。
アクも殆どとったので油しか浮いておらず、その下にはたっぷりの旨味が解けたスープになっていると思うが、まだ完成ではないので飲んではいないぞ。
「ん。主。これで完成?」
「いやこの後はこれらを濾して少し冷ましてから、また一工程あるんだよ。冷ましてる間に俺らは寝ておこうか」
一先ず粗目と細かめの清潔な布を用いてスープを濾し、骨やら肉やら野菜やらを除いていく。
これで第一段階が完了した訳だが……既に美味そうなんだよなー……。
「主。このお肉は食べても良いの?」
「え、別にいいけど……でも多分……あんまり美味しくないぞ?」
「ん? あーん! んんー……んん?」
取り除いた肉はトロットロになっていて見た目は美味しそうに見えなくもないのだが、やはり予想通りシロは小首をかしげてしまう。
「ん…………お肉なのに美味しくない」
「え!? どういうことですか? シロさんがお肉を美味しくないと言うなんて……! わ、私も一ついただきます!」
シオンもシロに続いて取り除いた肉の一片をつまみ口に運ぶのだが、咀嚼の速度がだんだんと落ちていく。
「何て言うんでしょうか……? ……すかすか? 最初は味がある気がするんですが、噛めば噛むほど微妙なんですけど……」
俺も一応食べてみたがシオンの言うことが正しいとよくわかる程微妙な肉になっている。
なんというか、味の無い肉の感触がするだけというか……うん。微妙。
「というか骨も大分もろくなってますね」
「多分肉や骨や野菜の旨味が全部スープに溶けているんだと思うぞ」
「まじですか……それじゃあこのスープどれだけ美味しいんですかね?」
ゴクリ、と二人が喉を鳴らしてこちらを見る。
料理において味見は大切……なんだが、この肉の味の抜け方を見るに不味くはならないだろうと予想は出来る。
なので……。
「どうせなら完成した後に飲もうぜ。それじゃあ、少し寝るから起きたら作業再開な」
「ええー!? 分かりましたよう……。完成を楽しみにしますぅ。あ、抱き枕とかいります?」
「悪いけど間に合ってるんだなー」
「ん。シロも寝る」
「ちぇー。それじゃあ私はサラグリムの情報収集でもしておきますか。お役に立てばご褒美くれますよね?」
「ああ。助かる。それじゃあよろしく頼むな。ふわああ……」
「はーい! それではおやすみなさいませ!」
シオンは手を振って見送ってくれると、シャっと忍びっぽい動きで情報収集へと向かったようだ。
俺はシロと寝所へ向かうのだが……ふわああ……眠。
「ん。主眠そう」
「シロもだろ?」
「ん。主頑張りすぎ」
「んんー……まあな。こんな問題とっとと解決してアインズヘイルに帰りたいしなあ」
「ん。……ありがとう主」
「なあに。大した事じゃないさ」
ぐしぐしと頭を撫でるとある程度受けた後に手を外されてしまい、背中からよじ登られてしまう。
「主。完成楽しみ」
「だな。どんな味か、あともう一人頑張ろうな」
「ん!」
シロを背中に乗せたままベッドへと辿りついたのだが、シロは正面にやってきて抱き着いたまま寝るらしい。
俺もあっという間に眠くなったのでそのまま眠る事にしたのだった。
さて……夕方まで寝てしまったが、その分眠気も醒めたしラストスパートやりますかね。
「おおお……なんか見た目が一気に悪くなりましたね……大丈夫なんですか?」
先ほどまで出来上がったスープは上辺が冷めた結果ゼラチンでぷるっぷるになっているようで、確かに見た目は大分悪く見えなくもないが温め直せば大丈夫のはずだ。
とりあえず牛のミンチと刻んだ香味野菜と大量のトマト。そして卵白を入れてこれらを混ぜ、大鍋へと移していく。
そこに先ほどの冷めたスープを入れて攪拌しながら温め直していくのだが……ごちゃごちゃしているように見えるので美味しそうには見えないなあ……。
「ん……さっきまでの方が美味しそうだった」
「ですよねですよね。大丈夫ですかお館様?」
「大丈夫……のはず。多分」
ちょっと不安になってはくるんだけど、確かこんな感じになるものだからきっと大丈夫のはず。
温度を沸騰しないような温度で落ち着かせるのだが、入れた卵白でアクを固める事が出来、あまり動かすと卵白が散って固まらなくなるのでこの後はあまり鍋の中に触らぬようにして放置だ。
するとアクを吸い固まった卵白が鍋の表面を立体化させ、白いアクが大量に出て来るのでそれらをとって中心に戻していく。
「それアクですよね? 取らないんですか?」
「ああ。今浮いているこいつらがアクをろ過してくれるからな」
「ん。白いスープなの?」
「いや、黄金色のスープになるはず……」
シロが白いスープかという程に今はアクが出てきているが、このあとクリアになるはずなので続けて行くと段々と白いアクが消え中のスープが見え始める。
このタイミングで塩と胡椒と香草を入れて味を調えておき、またアクを中央に賭ける作業を続けていく。
これで白いアクが出なくなり段々と濃い色になって、最終的には大鍋で大量に作っているので茶色っぽくなるはずなんだが……えっと……あれ?
「完成……ですか?」
「ああ、あとは濾すだけで完成のはずなんだが……」
「あの、お館様? 黄金色のスープとのことでしたよね」
「あ、ああ……」
「えっと……黄金色って、料理に使うものをいうのであれば茶系統のアレですよね?」
「ああ……多分シオンと俺の認識はあってるはずだ」
言いたい事は分かってる。
俺も同じことを思ってる。
「主。スープ光ってる」
「光ってるな」
「黄金色ですね」
「黄金色だな」
上辺に浮かぶアクやらひき肉やらの下に眠るスープが、見紛う事無く黄金色の輝きを放っているな。
……なんで光ってるの!?
「これ濾したら光が収まるとかありますか?」
「ないんじゃないかな!? わかんないよ俺も!」
何の心当たりもないんだよ!
さっきまで普通に作れてたじゃん!
光りそうな食材なんて何も入れてないんだけど!?
「と、とりあえず毒見……味見はしますか?」
「そうだな……幸いな事に香りは一級品に感じるし……濾してから飲んでみるとしようか」
シオンが言った濾したら光が収まるかと若干期待していたのだが……そんな事はあるはずがないのであった。




