15-12 ギゴショク共和国 レンゲとチャイナドレス
シロとシオンが共和国飯を食べに行ってから少しの時間が経過したのだが、依然として俺はアクを取り続けている。
アインズヘイルから来た流れ人の俺が何を作るのか気になっていた人もいたようだが、何時まで経ってもアクを取り続ける俺を見て興味が無くなったらしくほとんどいなくなったようだ。
まあ変わらぬ作業をじろじろ見られているのも気になっていた事だし、見られていても試食とか出せる段階にないしなあ。
「ご主じーん?」
「ん? レンゲか? どうした?」
呼ばれたので振り向くとそこにはレンゲの姿が。
うーん。いやしかしチャイナドレスが似合っているなあ。
何故かはわからないがチャイナドレスといえば青龍刀か格闘術……と、刷り込まれているので戦闘スタイルが格闘術のレンゲを見るととてもしっくりくる。
ちらりとスリットの隙間から見えるレンゲの太ももにばかり目が行ってしまうのだが、それを察してかレンゲが片足を上げてくれたので思わず口元が緩んでしまった。
「ご主人は本当に自分の足好きっすよね」
「ああ! でも足だけじゃないけどな」
「特にって意味っすよ。よっ! ほっ! こんな感じで動いた方がいいっすか?」
レンゲの太ももは勿論好きだ。
鍛えているからかソルテやアイナと比べて少しだけ太いのにハリがあり、ショートパンツとの間に生まれるムチっとしたところなどたまらないものがある。
そしてチャイナドレスはレンゲのそんなたまらない足を隠しながらもチラ見せすることにより、より一層魅力を高めているといえるだろう。
そして、ぱいの中でも意外とあるのがレンゲである。
チャイナドレスはボディラインが出るところは出る服なので、意外とあるぱいが揺れるんだよね。
レンゲが結構激しめに動いてくれているからなあ……見るところが多くて困るなこれは。
もう2セット程お願いしたいところだが、人が集まってきても困るな。
「サービス精神旺盛でありがとな。それで? どうしたんだ?」
「いやあ、ちょっとご主人からショーユを貰おうとしたんすけど……あれ? シロとシオンはいないんすか?」
「ああ。今は手伝ってもらえることもないし共和国のご飯を食べに行ってるぞ」
醤油醤油っと……。
ウェンディは醤油を使う料理にしたんだなあ。
一体何を作るんだろう?
俺は食べたことがある物なのかな?
「そうなんすか? そういえば共和国の一部の地域に滅茶苦茶辛い料理ばっかりだす所もあるそうっすよ」
「ほーう。あんまり辛いのはなあ……」
辛い料理っていうと、四川料理みたいな感じなんだろうか?
ああー……あんまり辛いのは困るが、麻婆豆腐食べたくなってきた……この世界には豆腐がないんだけどさ。
醤油や味噌は『お小遣い』のスキルで女神様から貰えるのだが、流石に大豆とはいえ豆腐は無理だよなあ。
贅沢を言うのであれば納豆も欲しいんだけど……女神様どうですかね?
最近レベルも上がってないですし、ここらで一つレベルが上がったら大豆製品を色々くれたりとか……いや、醤油と味噌が手に入るだけで十分といえば十分か。
それに納豆はきっと皆に好かれなさそうだしなあ……。
「……人? ご主人?」
「っと、悪い。考え事してた」
「いいっすけど、ずっとアクを取っててこれから何が出来るんすか?」
「んんー超絶美味いスープ」
「スープっすか? なんか意外っすね。ご主人の事っすし、美味い肉ドーン! って感じでインパクト重視だと思ってたんすけどね」
いやいや俺だって結構繊細な料理を作った事もある気がするんだがな……。
お菓子とかあれって分量をしっかりしないと失敗しやすいんだぞ?
まあ男の料理ってのは豪快でインパクトが強いって印象があるのは分かるけどな。
「……というか、早く戻らなくていいのか?」
「まあまあ。アイナはウェンディの傍にいるっすし、ソルテはウェンディに頼まれた食材を取りに行ってる所っすから大丈夫っすよ。そういえばさっきアイナとウェンディがイケメンにナンパされてたっすね」
「イケメンにナンパだと!?」
「ま、まあ塩対応だったっすし、アイナもついてるっすし警備の人達も見回ってるっすから大丈夫だったっすけどね」
そ、そうか……。
まあチャイナドレスを着た二人は魅力的だから声をかけたくなるのは男としてわかるのだが、参加者紹介の際に俺の恋人だと言われていたはずなんだが?
全く……恋人がいても見境が無い奴はどこにでもいるんだな。
「ごしゅじーん? ウェンディ達は大丈夫っすから、その怪しいお薬はしまった方がいいっすよ? 間違えて料理に混入なんてしたら大事件っすよ?」
「はっ! 危ない危ない」
つい思わず無意識に『リトルヘルタタナクナール』を取り出してしまった。
効果は弱いのだが緩やかに進行していき気づきにくく、年のせいか? と思わせるような代物なのだが効果は永久に続くものなので混入したら大変な事になっていたな。
「まああの二人は見た目も美人で更におっぱいっすし、モテるっすから心配になるのも分からなくもないっすけどね」
「ん? 別にアイナとウェンディに限った話じゃないぞ?」
「え? じゃあ自分でも心配してくれるっすか?」
「当たり前だろ?」
「そ、そっすか……えへへ。なんか嬉しいっすね」
へへへっと口元が緩んで、笑みが止まらないらしいレンゲ。
落ち着かないのかもじもじと体を動かしていると、アクを取り続ける俺の横にぴたりと体を寄せて来た。
調理中なので腕を取られたりはしないが、すぐそばにレンゲの温もりを感じられる事が少し嬉しくて少し気恥ずかしい。
「ま、まあそれに俺より格好いい奴なんていくらでもいるし、そっちの心配もあったりなかったり……」
「なーんすかそれ? そんな心配はいらないっすよ? 自分達にとってはどんなイケメンよりもご主人が一番なんすから」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどな」
隼人程とは言わないまでも、この世界は美男美女が多すぎるんだよなあ。
だからまあ男の俺から見ても格好いいなと思う奴らは多いし、普通な俺は引け目を取る事だってそりゃあないとは言えないんだよ。
「なんすか? 人誑しの癖に自信が無いんすか?」
「人誑しの癖にっておい……」
人誑しだからとか関係ないというか、そもそも誑しているつもりなどないぞ!
……ま、まあエミリーに人誑しは誉め言葉って言われたし、喜ぶところ……か?
「まったくこれだけ皆から好かれてるっすのに……」
「それは十分感じてるけど、そうは言ってもなあ……」
元の世界で特別モテていた訳でもないし、勿論レンゲ達からの愛情を疑う事はないが見た目に関しては普通だという自覚はある。
数十年間の自己評価を異世界に来て恋人が複数人出来たからと変えられるって訳でもないもんでね。
「……自分はどんなイケメンにも褒められたいなんて思わないっすけど、ご主人にだけは褒められたいっすよ。いつだって可愛いって言われたいっすし、ご主人にだけ触れられたいんすけど……これでも自信ないんすか?」
こてんっと、頭を腕に当てて来るレンゲ。
そこからこちらを上目遣いで見つめており、その柔らかな視線を見るだけでも励まされるような気持になる
「……悪かった。もうちょい自信を持てるよう頑張るわ」
「そうっすね。というか、自分達の心配をするよりご主人の方がまた新しい女を増やすんじゃないかって心配されている自覚を持つべきだと思うっす」
「それは……その……すんません」
増やそうという気を持って生きている訳ではないのだけれど、相手の覚悟とか好意とかが見えてしまうと据え膳はいただくというか、相手に恥をかかせるわけにはいかないと思うか……そのう……。
「まあそれについては自分達も自分達が惚れた男がそれだけ魅力的なんだと半ば諦めてるっすけどね。増えても自分達は大事にしてくれてるっすもんね?」
「そりゃあ勿論! 一番大切なのはレンゲ達だからな!」
「はいはい。分かってるっすよ。でも、大切なんだったら忘れてる事とかは思い出してほしいっすねえ~」
「忘れてる事……?」
な、なんだ?
俺は何を忘れているんだ?
この言い方だと結構大事な事だと思うんだが……どうしよう分からない。
あれか?
最近太ももにタッチしていない事か?
恋人とはいえ流石にスキンシップが過剰なのはまずいかもと控えていたのが不服だったのか!?
今までは隣に座られたら自然と手がレンゲの太ももに吸い込まれていたのを頑張って我慢していたのだが、そういえばレンゲはその際に挟んでくれていたし……。
そうか……分かった。これからは遠慮なく――。
「……自分、これだけアピールしてるんすけどねえ。ご主人の好きな足も見せてあげてるんすけど、まだ何も言われてないんすよねえ」
「あー……悪かった」
そう言うことか。
俺には褒められたくて、可愛いって言われたいって言ってたもんな。
あまりに似合ってたもんで妄想の方に集中しちゃって言い忘れてたな。
「レンゲ。その服抜群に似合ってて可愛いぞ」
「そっすかね? ご主人は足が見えればなんでもいいんじゃないんすか?」
ここまで言わせて褒められたからか素直に受け取ってくれはしないレンゲ。
だけど笑顔を向けてくれながら言うので、どうにか喜んではくれているようだ。
「ん。ただいま。ん? レンゲどうしたの?」
「お。帰ってきたみたいっすね。なーにご主人にちょっと褒められて喜んでるところっすよ」
「んー。いいな。シロも褒められたい。主お土産買ってきた」
「お、おう。ありがとうなシロ」
「ん」
頭を差し出してきたのでシロの頭を撫でながらお礼を言うと目を細めて口元を緩ませるシロ。
耳がぴこぴこっとしていて可愛らしく喜んでいる。
「それじゃあ自分はそろそろ行くっすかね」
「おう。ありがとうな」
「んー? 何がっすか?」
「シロ達がいない間、何かあるかわからないから一緒にいてくれたんだろう?」
「ばれてたっすか。まあご主人と二人きりを満喫したかったってのもあるんすけどね」
ばれていたとも。
そして後者もきっと本当なんだろうと今なら自信をもって確信が持てる。
「ご主人。自分達が勝ったらこの服で一日デートしてもらうっすからねー! 勿論朝まで!」
そんな勝つ気が無くなりそうなことを言い残し、レンゲは醤油を持ってウェンディ達の方へと向かっていった。
「主。負けたら駄目」
「心を読むなよな」
「読んでない。顔に出てた。むう。シロもこの格好でデートする」
「それは負けられないな」
「ん。負けちゃ駄目」
よし。それじゃあ負けないためにアク取りに集中するとしようか。
なあに、勝ってもあの格好のレンゲと一日デートをすればいいだけの事よ。
「……ってあれ? シオンはどうしたんだ?」
「ん? なんか激辛の料理を食べて悶絶してたから置いてきた」
「置いてきちゃったかあ……」
悶絶する程の激辛料理か……。
多分シオンはそれをお土産に買ってきそうなので、シオンのお土産はシオンに食べてもらう事にしようかな。




