15-3 ギゴショク共和国 冒険者登録
今日は冒険者ギルドへとやって来たのだが、今日の予定はいつものポーションの販売ではない。
「よう久しぶりだな兄ちゃん。イグドラ大森林から帰って来たんだな。今日もポーション持って来てくれたのか?」
「つい先日な。今日は別件だよ」
「別件? なんだ? 冒険者ギルドに登録でもしに来たのか? 兄ちゃんアイナさん達に鍛えて貰ってるんだし、結構強くなったんじゃねえのか?」
「俺が冒険者ねえ……似合うかな?」
「……いや。悪かった」
おいまたか。
なんでお前らは毎回謝るんだ。
実際強くなったかどうかであれば、間違いなく俺がこの世界に来た頃よりは強くなってるんだぞ。
体力だってついたし、お腹周りに無駄な贅肉はついたりなんてしてないんだぞ!
それに今の俺には頼もしい相棒だっているんだ。
自動で守ってくれるし、最適に動いてもくれるんだぞ!
……まあ、こんな風に武具に頼っていたら冒険者になんてなれっこないんだろうけどもさ。
「違うとなると……昼間から飲み仲間でも探しに来たのか?」
「俺のイメージどうなってるんだよ……あれだよあれ」
と、俺が視線を向けた先にいるのはアイナ達。と、もう1人シアンさんがいる。
「受付にいるのはアイナさん達か? それと……見ない顔だな。あれは……兄ちゃんの知り合いか?」
「そ。今日はあの子の冒険者登録の付き添いに来たんだよ」
シアンさんが冒険者登録をするらしく、それにアイナ達が付き合うというので一緒に来たのだ。
シアンさんはエルフエ・ロフのオーナーであるリリーママと知り合いで、この前訪れた際はシアンさんが接客をしてくれたのだがあの日だけの特別だったとのこと。
やはり本業は冒険者になるそうなのだが、一番下のランクからの登録が常ではある中で高ランクからの推薦枠というものもあるらしい。
あまりに力量が高い人が冒険者登録をする際に、他の低ランク冒険者が自信を無くさないようにするための措置らしい。
勿論推薦をする際は色々条件もあるそうだが、アイナ達紅い戦線であれば問題もないそうだ。
まあ、もうこの国は王国でもないし今までの王国でのギルドルールに従わなくてもいいそうだけど。
ともかく、新人冒険者とするにはシアンさんは強すぎるということでアイナ達が上位の冒険者から始められるように推薦をしに来たという訳だ。
「推薦か……。アイナさん達が今までそんな事はした事なかったんだが、つまり相当できるんだな。それにあの姿は……グランドエルフか? 珍しいな」
グランドエルフは守り人になる子が多いって言ってたもんな。
知っているという事は0ではなかったのだろうけど、守り人が森から出て冒険者になるってのはやはり珍しいんだろうな。
「主君。少し街を出るぞ」
「ん。話はまとまったのか?」
と、アイナ達が冒険者ギルドを出ていくのでついて行くと冒険者ギルドにいた冒険者のほとんどが付いてくるんだが……なんだろう?
「ああ。シアン殿の実力を確かめた後、ランクが確定するだろう。一先ずBランクからという事になりそうだ」
「いきなりBランクか……いくらアイナ達からの推薦だからって不満とか出ないのか?」
冒険者はこつこつと実績を重ねてランクを上げる。
ランクが上がれば信用も上がり、クエストだって上位のランクの方が報酬が良いし皆良い生活の為にランクを上げて金を稼ぐことを目指しているからなあ。
「そうはならないわよ。相手をするのはシアンがなるランクの冒険者達だしね。つまり今回はBランクって事」
「そういう事だ。文句があれば相手に名乗り出ればいい。文句が出なければ合格という訳だ。少々手荒だがな」
……つまり、ついてきているのはシアンさんの相手をする冒険者と、その様子を見に来た冒険者って事か。
どうりで飲んでた酒瓶やおつまみを持ったまま付いてくる連中がいる訳だ。
シアンさんの試験を肴に飲む気だな?
よし。俺もそうしよう。
「冒険者なんすから手荒いくらいが妥当っすよ。まあシアンはパーティは組まないみたいっすし、日を跨ぐようなクエストは受けないみたいっすからAランクに上がるのは難しそうっすけど実力的にはAランクでも通じるとは思うっすよ」
「なんだか悪い気もするよ……。私は別に低いランクからでも良いんだよ。薬草探しとかも好きだし得意かな」
薬師のマゼッタさんの娘さんだもんなあ。
それとやっぱり低ランクは薬草採取なんかからのスタートなんだなあ。
俺もそれなら出来る気がする。
……突然魔物に襲われたら慌てない自信はないがな。
「まあそう言わないでくれ。シアン殿の実力で低ランクにしてしまうと、新人が自信を無くして辞めてしまいかねないからな。それに、昇格試験を何度もやるギルド側の手間も省いてやらねばならないんだ」
あー……いつも忙しなく働いているもんなあ。
そういえば昇格試験って、やっぱり試験官とかがいて戦って決めるのかな?
それか、魔物を指定されて討伐するとかなのかな?
「そういうことなら仕方ないかな。でも、手加減とか苦手なんだよ……」
「ならば、初手は思い切り地面にハルバートを叩きつけてやれ。それで大概は大人しくなるだろう」
「それがいいわね。いい? 思い切りよ」
「あっはっはっは。二人とも悪いっすねえ……。まあでも、それが一番だと自分も思うっすけど」
「思い切り……うん。分かったよ」
わあ……思い切りやるのか……。
シアンさんの武器は巨大なハルバートだからなあ……よし。絶対に離れておこう。
あとは途中で何かおつまみを……お、あれは最近美味いと話題の揚げ棒。
つまりは春巻きだな。
あと一緒に売っている小籠包のような物も美味いらしい。
ギゴショク共和国のものだと聞いたのだが、オリゴールと行ったお店でも思ったけどやはり中華系の系譜を辿る食文化なイメージだな。
アマツクニは昔の日本の印象だったが、ギゴショクは中国のような感じなのだろうか?
まあ中華料理は日本人は大好きだし、美味い料理がアインズヘイルに広まるのはありがたい限りだよなあ。
お酒は……意外と日本酒が合ったりするので『二十四代』をちびちびやるとするか。
さてさて、街の外へとやって来た訳で魔物も見えてはいるがこれだけ冒険者がいれば恐れる事も無いだろう。
シアンさんとアイナ達を中心にして周囲をちらほらまばらに囲んでおり、俺も少し離れたところに腰を降ろす。
「お、ご主人美味しそうな物持ってるっすね」
「なんだレンゲはこっちに来たのか」
「やることはないっすからね。魔物が襲ってこないとも限らないっすし、破片が飛んで来たらご主人を守ってあげようかなと。あーんっす」
「俺もまだ食べてないのに……たく。ほら」
とりあえず春巻きっぽいのからあげてみたのだが、少し歩いたとはいえ揚げたてなので熱そうだけど大丈夫かな?
「はふ。はっふぅ……んんー……これ美味いっすねえ」
「お、やっぱり美味いんだ。それじゃあ俺も……」
レンゲが噛み千切った残りを口に運んで食べてみる。
んんー……皮はパリパリだし、中身は細切りにした肉を中心に野菜なども同様に細切りにされており味付けはオイスターソースのような感じかな?
タケノコは入っていないようで、中身はチンジャオロースーに近いだろうか。
味が濃いめで、これを『二十四代』でくっ……と、ああー……美味いよう……。
「ご主人ご主人。自分も自分も!」
「んー? あんまゴクゴク飲むなよ?」
『二十四代』は貴重なんだからな?
ついつい美味しすぎて飲んじゃうから今度シロがククリ様の所に行く際に追加をお願いしたいんだよ。
「だはー! 美味いっすねえ……お酒なのに美味い水、って感じが強くて口の中がすっきりするっす! そしてまた味の濃いのが欲しくなるんすよねえ!」
「だな。次はこっちの蒸し料理で試してみようぜ。こいつには酢と醤油が合うと思って、タレはかけないでもらったものもあるんだよ」
小籠包にアンをかけて食べるようだったのだが、酢醤油が合うと思って少しそのままの物を頼んでおいたのだ。
それじゃあ早速……熱っ! 汁が! 中からお汁がめっちゃ出てくる!
「ご主人零したら勿体ないっすよ! それはこう一口でがぶっとやるのが一番美味いんすから!」
「火傷するわ! ん。でもシンプルに美味いな。お汁を飲んでから酢醤油をかけるとこれまた美味い……」
まんま小籠包だが、これ食べ歩きには向かないな。
レンゲのように一口で食べたら俺は火傷するし、そうじゃなければ汁が零れてしまう。
食べ方が難しいなあ……。
「……レンゲが欲しいなあ」
「え、ここでっすか? 流石にそれは……いくら皆シアンの方を見てるからって恥ずかしすぎるっすよ……」
「違うそうじゃない」
思わずつぶやいてしまったが、レンゲ違いである。
というか、そんな事を今ここで言う訳ないだろう。
「んん? じゃあ自分が欲しいってどういう事っすか?」
「元の世界の食器の一つで、こういうのを食べるのに適したスプーンに似た物があるんだよ。それをレンゲって言うんだよ」
「ああそういう事っすか。びっくりしたっすよ。良かった……ご主人がそういう癖に目覚めた訳じゃなくて」
「俺はノーマルだから安心してくれ。特殊性癖などない!」
「……ノーマルかどうかは微妙なとこだと思うっすよ?」
そんな馬鹿な……と、俺の沽券に関わる内容をレンゲと熱く話していると前方から巨大な地面を叩く音がした。
そしてあっという間にシアンさんはBランクの冒険者として認められることになったのだが……まあ、小さなクレーターを見た後に挑むやつはいないよなあ。
こうしてアインズヘイルに限りなくAに近いBランク冒険者が誕生したという訳なのだが……巨大な音が鳴り響いてすぐに警備の方々が何事かと様子を見に来て、アイナ達と冒険者ギルド一同が頭を下げる事になったのだった。




