15-2 ギゴショク共和国 薬草畑と精霊樹の寝床
共和国についてご教授いただきまして、前話の内容を少々変更しております。
読み返しが面倒な方用にですが
『共和国の王が変わった!』
↓
『共和国に王を名乗る奴がいきなり現れた!』
と、なったと思っていただければ!
アインズヘイルの俺の家はでかい。
部屋数もそれなりに多く、キッチンも広い。
大人数で食事できるだけのスペースもありつつ、地下にはお風呂もある。
庭には鍛錬をするだけの十分なスペースがあり、ウェンディが育てた花々を眺めながらお茶をするスペースもあって、横になって日向ぼっこしながらお昼寝出来るだけのスペースもある。
普通に暮らすならば文句など当然なく、十分過ぎる程広いんだが……エルフの森からのお土産の為にどうにかせねばならないんだよなあ。
俺の新しい武器であり、相棒となった小さな精霊樹は家にいる際は地面に突き刺しておこうと思っている。
そうしてくれとイエロさんにも言われているし、地面に刺して置けば周囲にイグドラシルの花を咲かせてくれるという利点もあるからこれは絶対だ。
それプラス、ミゼラがいただいた薬草畑も作らねばならないのだが……景観なども考えるとなかなか難しいんだよなあ。
薬草によって育て方に違いもあるだろうし、ぎゅうぎゅうに並べるわけにも行かないだろうしなあ……。
「旦那様?」
「ん。おおミゼラ」
「ちょっといいかしら? マゼッタさんにいただいた薬草の事なんだけど……」
「ああ今まさにそれについて考えてたところだよ。場所なんだが……まだ決まらなくてな」
「そう。それならちょうどよかったわ。お隣さんにシノビの子達の家があるわよね。そこを使っても良いって言って貰えたの」
シノビの子達の家の庭を?
確かに俺の家の庭は両隣の家と門は一つで大きな壁に三家が囲まれる形で繋がってはいるが、元々の家の敷地通りに区切っておりはみ出すなどはしていないが……。
そういえばアイリスが隣に家を建てた際に庭などの権利は俺にくれたんだったっけ?
すっかり忘れていて今までもアイリスたちの庭にまでは手を伸ばしていなかったんだがいいのかねえ?
しかも内容が薬草畑に精霊樹の寝床なんだが……。
「一応アイリスに確認した方が良いと思うが……」
「すぐにアイリス様に聞いてくれたみたいよ。アイリス様も何をしてくれても構わんぞ、だって。随分と気に入られているみたいね」
「気に入られてるのはアイスだと思うけどな……。でもそうか。ありがたいな」
「シノビの子達はむしろお礼ですって。夕食やデザートのお裾分けが嬉しいって言ってくれていたわ」
夕飯なんかを作りすぎた際や美味しいものが沢山手に入った時なんかにお裾分けしていただけなんだがなあ。
それでも毎回嬉しそうに鍋を受け取ってくれて、きれいに洗って返してくれるのが逆に嬉しかったんだが、こうして恩を返してくれるとはやっておくものだなと思う。
毎日門番をしてくれていたり、俺達が出かけている際にミゼラが残った場合はミゼラを守ってくれているだけでもありがたいんだけどなあ。
よし。これから更にお裾分けはしていくとしよう。
「それじゃあ、ありがたく使わせてもらおう。早速取り掛かるとしようか」
「ええ。頑張りましょうね」
さて、場所は何とかなったという事で薬草畑と精霊樹の寝床を作る訳なんだが……どうしたもんかね。
精霊樹の寝床って、どういう条件がいいんだろうか?
薬草畑ってどういった注意点が必要なのだろうか?
全く分からん。……という訳で、先生をお呼びします。
「先生! よろしくお願いします!」
「せ、せんせい? ご主人様様にそんな事言われるとむずがゆくなるかな。まあでもおまかせあれ、かな」
たゆん!! と、自信満々におっぱいを叩いて揺らす先生こと、シアンさん。
なんせミゼラの薬師としての師匠であるマゼッタさんの娘さんだからね。
本人もマゼッタさんから色々教えて貰っているらしいからお呼びさせていただきました!
「それじゃあ土を耕していくよ。立派な芝生は勿体ないけど……どんどんやっていこうー!」
「「おおー!」」
と、意気揚々と返事をして鍬を振るう。
ついに農業スキルの出番が来た!
女神様からいただいたスキルの一つであり、農業スキルがあればなんだかんだ役に立つだろうと思って取得したのにいままで全く出番の無かった農業スキル!
ふはははは! スキルの力は絶大だと俺はこの世界に来てそれなりに経つので知っているのだ!
鍬を振るう! 振るう! 振るう! 振るう!
ふはははは! あっという間ではないか!
……はあ。はあ。おかしい。
腰が、腕が痛い……俺には農業スキルがあるはずなのになぜぇ!
「ご主人様様? 鍬はそんなに力をいれてやらなくてもいいんだよ? 鍬自身の重さを使ってやれば疲れにくいかな」
「そういう事は早めに教えてくれ……」
「ご、ごめんね。ミゼラちゃんの方を見て教えてたから……」
「ま、まあ俺には農業スキルがあるから? ミゼラに教えてあげるのは当然だよな」
うんうん。
ミゼラは農業スキルを持っていないから仕方ないよな。
「……ご主人様様。農業スキルはパッシブスキルだよ?」
「ん? そうだな。パッシブで農業が上手くなるんじゃないのか?」
「農業の相手って自然だよ? 自然を相手に上手くなるっていうのは無理なんじゃないかな……?」
「え……それじゃあ農業スキルって……」
「ステータスがちょこっと上がる……かな?」
……つまり、農業に適したステータスの向上?
今まで出番が全くなかったと思ったのだけれど、実はひっそりとずっと出番があったパターン?
多分農業に必要なステータスって、STR(農具重いし)やVIT(腰痛いし)だと思うんだけど、その分がプラスされていて俺はあの雑魚さ加減な訳か……そっかぁ……。
「あ、でも農業スキルがあった方が収穫が良いって噂や、農業スキルがあると甘くなる果物もあるって噂もあるかな! あと農業スキルがないと採れないものもあるとかないとか……」
「噂……」
「あわわ……お、落ち込まなくても良いと思うよ? スキルはあっても困らないから、無駄ではないかな!」
そ、そうだよな。
ないよりはあるにこした事はないよな。
例えば女神様に貰ったスキルで同じ通常スキルの錬金はかなり役に立っているけど……。
先に鑑定スキルだけいただいて、スキルについて調べながら取得させてくれたらよかったのにとか思わなくも無いけどないよりはいいよな!
「よし。切り替えよう。この後もアドバイス頼むな」
「分かったよー! でもまずは、私がやることがあるかな」
「シアンさんがやること?」
俺が疑問に思っているとシアンさんは両腕を解した土の中に突っ込んだ。
肘から先まで更に奥に突っ込んだ後、なにやら魔力を練っているようなんだが……。
「何してるんだ?」
「土の状態を確かめてるんだよ。縦横にどれだけ根を伸ばせるか。根を伸ばすのに邪魔な石なんかがあれば砕いたり、水はけのよい土を作っているんだよ。それと、土の中に魔力を混ぜて作物を作りやすい状態にするんだよ」
お、おおー……流石異世界。
土いじりすら魔力を用いるのか……。
「最初にやっておかないと後々じゃあやりにくくなるからね。呼んでくれて良かったよ。あとで精霊樹の寝床にするところも入念にやるかな……と、よし。完璧。これでエルフの森同様に良い土が出来たと思うよ」
「凄いな……これって、エルフ独自の工夫って事じゃないのか?」
「そうなのかな? 昔からこうしてたらしいけど、外の情報は分からないかな?」
おおー……もしかして、ここでもエルフの森で頂いたような美味しい野菜が取れるようになったりするのか?
育てるのは薬草だが、エルフの森のように立派なものがついたりするのだろうか?
「よし。それじゃあまずはウネが必要な物からかな。それと、植える間隔が特殊なものもあるから、それについても教えてあげるよ」
「よろしくお願いしますシアンさん」
「かしこまらなくていいかな。これはお礼だから」
「お礼……ですか?」
「うん。私は薬師の道には行かなかったからね。ミゼラちゃんっていうお弟子が出来て、お母さん嬉しそうにしていたんだよ。だからそのお礼」
あー弟子が出来た嬉しさは分かるなあ。
マゼッタさん程の熟練の薬師であれば、自分の技術を見て教えて欲しいと乞われるのは自分の今までを肯定してもらえたようで嬉しかったのだろう。
「そんな……弟子を名乗れるほど教えていただけたわけじゃ……」
「真面目で真剣で、自分の頑張りを尊敬してくれていて教えがいがあったって。良い弟子が出来たって。あんたはメモ一つ取らなかったのにって愚痴も言われたくらいだよ」
「……ありがたいですね。これからも頑張ります!」
「うん。錬金術師と薬師を極めたらどうなるのか楽しみだよ。それじゃあ、ウネを作った後は特徴を説明しつつ植えていこうか」
こうして、シノビの子達の家の前に薬草畑と精霊樹の寝床を完成させることが出来た。
お世話はミゼラがすると言い、錬金で行き詰まった際などに気分転換に様子を見るなど好循環が生まれたようだ。
精霊樹の寝床は俺が丹念に土を掘りシアンさんもしっかりと土の状態を見てくれたおかげで、なんとなくであるが精霊樹も居心地が良いと言っているように思えたのだった。




