15-1 ギゴショク共和国 助けてお兄ちゃん!
「さーて……どうしたものかねえ」
今日は各地域の統括が集まる定例会議なんだけど、それぞれ仕事が忙しくて代理を立てたりもするから全員が集まるのも珍しいのに、今回ばかりは流石に全員集まってるねえ。
「どうもこうもないじゃろう?」
「いやあ困りましたねえ。いや本当に」
流石にアイリスもダーマも真剣に困ってるねえ。
メイラちゃんにいたっては目頭を押さえてるし、今回の件は他の仕事を置いてでも集まるだけの事件だよねえ。
「あ、そういえば今回の件と関係はないんだけど、良い事もあったんだった。新たにイグドラ大森林のエルフ達が同盟に加わってくれたんだよ!」
「ほう……あの森に引きこもってる者達がか」
「それは良いですねえ。イグドラ大森林の野菜や果実は美味しいと有名ですし、木材も上等なものが流通してくれるのは助かります」
「……そういえばあの方がつい最近イグドラ大森林に行って帰って来たと聞きましたわね」
「もしや若様ですか……?」
「うん。まあ、絶対お兄ちゃんが関係してるよねえ」
ロウカクや帝国もそうだったしねえ。
そういえばアマツクニにも行ってたけど、もしかしてアマツクニからもお話が……って、間に帝国があるからそれは難しいかな?
いやあでもアマツクニには独自の技術や料理もあるし同盟を結んでくれたら今回の件が帳消しになるくらい……いや流石に難しいか。
「……もうあやつに行かせれば良いのではないか? それでなんやかんや解決するのではないか?」
「ええー……絶対断られるよ」
「そこはほれ。お主はこの国の代表なのだから圧をかければよいではないか」
「嫌だよ! 最近ようやく好感度が上がってきたのを実感したのに帳消しになるどころか二度と戻らないくらい悪くなるじゃないか!」
せっかく! せっかく苦労してお兄ちゃんという癒しを手に入れる事が出来たのに手放したらボクは死んじゃうぞ!
温泉にだってまだまだ連れてってもらいたいんだ!
もっともっとお兄ちゃんにいっぱいトロトロにされたいんだよ!
だってもう……すんごいんだぜお兄ちゃんは!
「公私混同もいい所ですわね」
「いやそもそもボクが国民に無理矢理言うことをきかせるなんてしたこともないし出来ないからね!」
「まあそうですね。お願いはありますが命令はありませんでしたし、それがオリゴール様の良い所だと国民達も思っている事でしょう」
そうだろうそうだろう!
だからお兄ちゃんに圧をかけて無理矢理だなんて無理無理無理だよ!
「ではどうする? 実際問題、あの男以上にこの国で戦力を持ち合わせている者もおらんだろう」
「あら。アイリス様の護衛もなかなかの腕だと聞いておりますが?」
「あくまでも奴らは護衛。どちらかと言えば集団戦や闇討ちが得意じゃからなあ……。個人戦闘でもアヤメは強いが……恐らくシロどころか紅い戦線の奴らにも敵わんじゃろう」
え、そうなの?
シロちゃんが強いのは知ってたけど、アイナちゃん達ってばそんなに強くなってたの?
「ヤーシス殿は? 奥様方はとても強い方だと思うのですが」
「確かに強いが、あ奴が動く訳なかろう」
あー……あー……無理かな。
下手するとお兄ちゃんよりも無理かも。
「となると……やはり若様にお願いするしかないのですかねえ……」
……何? 何で三人ともボクを見ながら話しているのかな?
もしかしてもしかすると三人ともお兄ちゃんに言う役をやりたくないって事なのかな?
そんな矢面に立たされてたまるかっ!
「……発案者のアイリスが言うべきだと思いまーす」
「馬鹿を言うな! 我があやつにこんな面倒事を押し付けなどしたら二度とアイスが食えなくなるじゃろうが!」
「食べ物の為なんですねえ……」
「どちらにしても公私混同ですわね……はあ……仕方ありませんわね」
「お、なになに? メイラちゃん何か良い作戦でもあるの?」
流石はその若さで老獪な商人達を相手に一歩も引けを取らないメイラちゃん。
敵に回したらすっごく怖いけど、味方にいると頼りになるねえ!
「作戦なんてなにもありませんわよ。ただ頭を下げてお願いするだけですわ」
「え? あー……一番効きそうだね」
「確かに。下手な小細工を弄するよりも良いじゃろうな」
「では我々全員で頭を下げに行きますか」
「む? わらわも下げるのか? お主らだけでも十分じゃろう」
「私もですけれど、アイリス様が頭を下げる事が一番の予想外でしょう。だからこそ本気で困っていると伝わりますわよ」
「ふむ……まあ、事情が事情ゆえ仕方がないか」
「そうですね。真摯に全員でお願いする事が望ましいでしょうね」
お兄ちゃんは正攻法に弱いという実績もあるからねえ。
というか、本当に困ってるから受けてくれないと困るんだよねえ……最悪、レインリヒに……駄目だ。国と国の溝が一生戻らない程に深くなっちゃう。
あと対価として実験されてボクがボクじゃなくなっちゃう……。
「あーもうー! ぐぬぬぬ……ギゴショク共和国め……。いきなり【同盟を破棄する】とかふざけたことしやがってえ……!」
「どうやら今のギゴショクは強者が上に立つ、弱肉強食の国になったらしいそうで……。元々張り合っていた三国があらゆる分野で競い合っているところにひょっこり王を自称する者が現れたらしいですわよ。力で排除しようとしたものの敵わず……。その王に会うのに強者である必要があるというのもまた面倒な……」
「共和国に現れた王か……。まあ強者というのであれば奴にはシロがおるし、この国で一番の冒険者である紅い戦線もいるのだ。まず王に会う事は出来るだろう」
「そうですね。ただ、その王の名を聞いた覚えがないのが不安ですねえ……」
そうそう。そうなんだよ。
ギゴショクは共和国だから王なんていないはずなのに、突然降って湧いた王だもんねえ。
三国の元首が話し合いで外交や政治の決まりを作って来たのに、突然王だもんねえ……。
「『サラクリム』ねえ……アイリスは地方に飛び回ってたんだから聞いたことくらいないの?」
「王となるほどの傑物であれば忘れるはずもないのだが知らぬ」
「まあどのような方であろうとも書状も受け取って頂けない以上、お会いしてお話をしなければどうしようもないでしょう」
「せっかく上手く行っている同盟に穴を開ける訳にもいきませんし、この国で商いを始めているギゴショク出身者も不安をかかえておりますからね」
ボクとお兄ちゃんを結んでくれたあのお店も困ってるんだよなあ。
あのお店にはこれからもボクとお兄ちゃんの想い出の店として残って欲しいのもあるけど、せっかく新たな希望を持ってこの国に来てくれたんだから守りたいよ。
「よし。お兄ちゃんには全部詳細を説明したうえで、心からお願いしよう」
「うむ。しかし我らの日取りを合わせるのに数日はいるな」
「今日も無理をして来ていますからね……」
そうなんだよねえ……この後も仕事がぎっしりあるもんね。
こればかりは仕方ない。ボクも自分の仕事を真面目にやるしかないよなあ。
「議題もこれだけではないですしね。そろそろ北地区の統括も代理ではなく決めねばならないのでは?」
「あー……この件で絶対お兄ちゃんには頼めなくなったね」
「それは仕方ありませんわよ……。これ以上負荷をかけると、この国からいなくなってしまいますわ」
「帝国などもろ手を挙げて歓迎するだろうなあ……シシリアにあやつを渡すなど……それは許せん!」
「ロウカクもだねえ……。あそこの女王様はお兄ちゃんにメロメロどころかトロトロどころか調教済みみたいだからね」
確かレンゲちゃんの妹で随分とシスコンだって聞いたし、この国に住みづらくなったら全力を挙げてお兄ちゃんとレンゲちゃんを確保しに来るだろうねえ。
なんせお兄ちゃんはあの国では英雄扱いだもんねえ……。
「女王を調教……流石は若様ですねえ。惚れ惚れします」
「……ダーマ。顔がやばいですわよ。控えなさい」
「おっと……これは失礼しました」
お兄ちゃんまさかダーマまで……っ!?
それにしても突如現れた共和国の王サラクリムか……。
なぁんか嫌な予感がするんだよなあ……。
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ご感想頂きました内容をもとに、一部編集しております! 2024/02/03




