14-36 イグドラ大森林 新たな相棒
ノベルス版異世界でスローライフを(願望)11巻発売中です!
精霊樹を地面に突き刺すと『イグドラシル』が生えるかどうかを試したところ、予想通り生えてくれた。
ただし、かなりの魔力を使うらしく魔力が少ないと可愛らしいイグドラシルの新芽のような小さいものが生えてきた。
あとこれは予想だが地面に生えている時は木刀の形よりも樹の形の方が楽なのかもしれない。
それと、形通り木刀として振ってみたのだが……良い。
何が良いって軽さが良いのよ。
振りやすいし、体が重みに耐えかねてもっていかれもしないのがいいの。
軽いのに硬い……控えめに言ってそれだけでも俺には最高だと思う。
それになんだかしっくりくるんだよなあ。
「という訳で、精霊樹が仲間になった!」
「……まあ目の前で見てたから分かってるんだけどね」
そう冷たい瞳を向けるなよソルテ。
隼人を見習って笑顔を向けてはくれないかね?
「あー……ついに樹まで誑したんですね……」
「ついにとか言うな。誑したとか言うなシオン」
「いやだって、お館様の規格外は慣れてきたと思ったのにまさかの樹ですよ? 精霊樹ですよ? 次は何ですか? 魔王を誑してももう驚きませんよ私」
魔王を誑すとか不可能だろう……。
隼人もそんな事が出来るなら是非って顔をしないでくれ無理だから……。
隼人の負担が減るだろうから誑せるものなら誑したいが絶対無理だから。
誑す前に間違いなく死んじゃうよ!
「ねえ旦那様。さっき生えてたのってイグドラシルよね? あれって確か運が良くないと手に入らないんじゃ……」
「そうだな。だけど、魔力を与えてから地面に精霊樹を刺すと生えてくるみたいだぞ」
「え、つまりこれからはいつでもイグドラシルが手に入るって事? それ、錬金術師にとっては凄い事よね?」
「そうだな。霊薬を作るのにも使うし、ミゼラの今後の錬金にも使えるだろうな!」
ここは一つミゼラは仲間に引き入れておかねばならない。
ミゼラならばイグドラシルが常に手に入る状態にあるということがどれほど凄い事なのか、どれほど助かる事なのかを分かってくれるだろう。
ウェンディとアイナは……。
「んー……頻繁に木の状態にするとしたらお庭のどこを使いましょうか? 日当たりが良い所は花壇などもありますし、場所を考えないとですね」
「鍛錬スペースもあるからな……。まあ鍛錬の方は日当たりが良くなくとも出来るからその辺りも考慮してくれて構わないぞ」
と、既に精霊樹の為のスペースを考えてくれている。
流石はウェンディとアイナ! 俺の望むことを第一に考えてくれる優しいウェンディとアイナが大好きだぞ!
「というかご主人。精霊樹ってエルフの大事な樹なんすよね? 連れていっちゃって良いんすか?」
「あー……駄目かな?」
「駄目……なんじゃないっすかね? 流石に……」
でもでもエルフの村にはもう一本あるし、分体が二本の時は別の所に飛んでいくわけだから、俺がアインズヘイルに連れていっても変わらなくない……? やっぱり駄目? と、エミリーに視線を向けてみる。
「良いんじゃない?」
と、軽く言ってくれたのだが、その軽さが逆に心配になってくる。
なのでイエロさんにもしっかりと聞いてみる事にしたのだが……。
「良いんじゃないかな?」
と、イエロさんまで軽い……。
ええー……結果は嬉しいけれどエルフにとって大切な精霊樹のお話ですよ?
いいのかそんな軽くて……。
「まあ精霊樹を個人が所有って言うのは今まで一度もないのだけど、精霊樹が一目散にご主人様様の元へと飛んでいくのを私達も見ているしね。そこまでご主人様様に懐いているのだし、引きはがすわけにはいかないだろう?」
それにウェンディ様もいる場所だしね! とのこと。
ただ、とイエロさんが続ける。
「出来ればなんだけど、定期的に土に植えては欲しいかな? 精霊樹は精霊にとっても憩いの場でね。ただでさえ数が減っているから村の外に憩いの場が増えるのはありがたいんだよね」
という事で、普段は土に植える事になりそうだな……と。
それくらいならば勿論構わないが、どこかに出かける際などは連れていかせてもらうけどね。
「あと多分エルフの来訪者が増えるでしょうね」
「そうだね。外に出ているエルフにとっても精霊樹は信奉の対象で、大切なものだからねえ……。そういった面倒はあるかもしれないけど構わないかい?」
あー……アインズヘイルの冒険者にもエルフはいるし、『エルフエ・ロフ』の女の子達も当然皆エルフだもんなあ。
それにこの村に来てエルフがどれだけ精霊樹を大事に思っているかを考えればエルフ達が精霊樹の所へやってくるのはしょうがない。
常識的な時間に訪れるのであれば何のもてなしも出来ないが構わないか。
という訳で、エルフサイド的にも問題なし!
これでこの子を連れて帰る事が出来るな!
「ん。主。その子は主の新しい武器になるの?」
「そう……だな。最初が武器の形であったし、この子もそう望んでいるんだと思ったんだが駄目か?」
「ううん。駄目じゃない。むしろ良い。主には」
俺には……?
どういうこと?
「ソルテ。主の相手してみて」
「はあ? いいけど何よいきなり……」
と、突然ソルテとの模擬戦が始まる事になったのだけど、シロはなにやら俺達が気づいていない事に気づいているみたいだな。
俺にはむしろ良い……との事だが、一体どういうことなのかは模擬戦をしてみればわかるという事だろうか?
「それじゃあ主様行くわよ」
「お、おう」
鍛錬、ではなく模擬戦なので緊張する。
いつもはある程度俺からの攻めを受けられた後に刃の付いていない部分を使ってぶっ飛ばされて終わるからな。
しかもなにが始まるのやらとエルフのギャラリーが多いんですよ。
おっと、余計なことを考えてると問答無用で初手でぶっ飛ばされるからこれ以上はやめよう。
一先ず右手に『マナ・イーター』左手に『精霊樹の木刀』を構えて集中する。
久々の二刀流に思わずにやけそうになるが、それらを押し殺して待っているソルテへと駆け出した。
「はああああっ!」
「ふっ!」
最初の一撃はソルテに軽々とかちあげられる。
だがそれは分かっていたので体勢を即時に立て直して次の攻撃へと繋げていく。
二刀流にしている最たる理由は手数と攻め手の多さだからな。
防御面は『不可視の牢獄』と『加速する方向性』を用いてどうにかしていく算段なのだから、ソルテが攻めてこない内はもっと攻めねばならない。
「おあああっ!」
「……っ!」
何合か交わしていくと一瞬、ソルテの顔が歪んだ……?
というか、今までの模擬戦の中でもかなり良い感じな気がする。
生半可な攻撃で大きな隙を見せればソルテは石突で俺の腹を容赦なく突くのだが、今日はまだそれが無い。
「なんか普段よりいい動きっすね」
「主君の狙う点が良いな。特に左の精霊樹の方か」
「シロさん。あれってもしかして……」
「ん。やっぱり良い感じ」
なにやら外野が話している会話を拾ってしまったが、今なんかいい感じだからこのままソルテを攻めさせてもらおう。
多分今、俺、調子に乗ってると思う!
「すぇぇぇえええい!」
「っ! それは甘いわね!」
「やばっ!」
はい! 調子に乗って大振りになったところでこれでございますうううう!
これは流石に間に合わない……っ!
と、思った瞬間ソルテの槍の石突で腹を突かれて後方へと吹き飛ばされる。
激痛が来る! 息が出来なくなる程の苦痛が鳩尾に!
うああああああ…………あれ?
吹き飛ばされて地面を転がった痛みはあれど、お腹はそこまで痛くない。
確実に突かれたはずなのに無事なんだけどどうして……あ!
精霊樹が! 精霊樹がソルテの槍と俺の間に刀身を伸ばして守ってくれたのか!
だからお腹は痛くならなかったようだが、俺の膂力が足りずに吹き飛ばされてしまったって事か。
いやでも本当に助かった! 悶絶する事を覚悟していたのだけど、これくらいなら全然問題ないからな!
「……なるほどね。シロの言う通り、主様には良い感じって事ね」
「ん。主の為に最適に動く武器。不意打ちにも強い。主を守るのにぴったり」
「あー精霊樹がサポートしてたから良い動きだったんすねえ。これは良いっすねえ!」
「受けの方も良い動きを期待できそうだな。ふふふ。主君の鍛錬にまた熱が入りそうだ」
おおー! うちの戦闘組からもなかなかの評価ですよ精霊樹君!
これは新たな相棒就任間違いなしという事で良いですよね!
「わぁー……でもあの武器、私達が持ったら微妙ですよね? 勝手に動くとか困りますし……」
「そうね。こっちが意図して見せた隙にも反応しそうだし、私達には合わないでしょうね」
「ん。だから主にはちょうど良い」
……それはあれだね? 俺が未熟だからだね?
要するに、初心者サポートがついているって事ですかね?
お守り付きって事ですか? この子の方が生まれたばかりなのに!?
いやまあ良いんですけどねえ!!
俺にはとっても助かりますし良いんですけどね!?
活動報告にて11巻発売のご報告も行っております。
よろしければ表紙絵もありますので是非見て言ってくださいー!




