3-1 マイホームマイライフ 残念なイケメンさん
とりあえず出来上がったのから順次出していきます。
毎日連続で投稿できるかはわかりませんが、できる限り頑張ります。
決着の日から数日。
ようやく慌しい日々が終わりこれからまったりスローライフが始まるものだと、勝手に思い込んでいた俺は怒涛の錬金生活を続けていた。
まずウェンディとシロの宿代の確保。
南地区で評判のいい高級宿屋にお願いし、奴隷である二人をなんとか泊めてもらうことにする。
一泊食事つきで一人5万ノール。二人で10万ノールである。
特にシロはよく食べるので、食費だけでも別で一日5万ノールは最低限用意しないといけなかった。
次に税金だ。
この都市で家を得る場合市民権を得ることになる。
市民権は領主に陳情が出来たり、教会の利用や、図書館の利用などの公共施設の利用が無料になるそうだ。
他の町で利用する場合は手数料を取られてしまう。
当然のごとく俺も税金を支払わなければならず、従属奴隷がいる場合はその奴隷の分も支払わなければならない。
年間10万ノールで、初年度は二年分なのでここで60万ノール必要になってくる。
お小遣いスキルで一日10万ノールは手に入るので苦労はそこまでではないが、それ以外でも雑費がかかるのでまだまだ貯蓄をしておきたいところなのだが必要経費なので仕方がない。
幸いにも道具屋が仕入れを終わらせてくれていたのでヤーシスに売るバイブレータを大量に作り、引越しの日に備えている状態である。
アイナとソルテが戻ってくれば鉱石類からアクセサリーも作るのだが、ダンジョンはこの都市の先の森を抜けた入り口まで行かねばならないそうなのでまだまだ時間はかかるだろう。
そんなこんなでここ一ヶ月間とほぼ変わらない錬金生活を続けてきた今日!
ついにようやく待ちに待った入居日である。
ダーウィンから使いの男がやって来て、いつでも引渡しが出来るので訪れてほしいとのことだった。
その男にそのまますぐ行く旨を伝え、俺は今錬金術師ギルドにいる。
ウェンディとシロを連れてレインリヒにお世話になったので挨拶をしにきたのだ。
「よく来たね。ひよっこだったあんたが立派になったもんだ」
「レインリヒの弟子の名前に恥じないよう頑張ってきたつもりだからな」
褒めてくれるなんて虚を突かれたところだが、成長した俺はしっかりと返せるようになっていた。
「家を手に入れるまでなんだかあっという間でしたね」
リートさんも一緒にお祝いの言葉を述べてくれた。
思えばリートさんとはあまり話をしてなかったが、毎度出かけるたびに錬金室が片付いていたのはリートさんのおかげなのだろう。
「これからのご活躍も期待していますね」
「リートさんも、気苦労は多いかと思いますががんばってください」
「あら、気苦労なんてありませんよ? ここは明るく楽しい職場です」
流石はレインリヒ様と長い付き合いのリートさん。
皮肉を返してくるなんて、この人もきっと普通ではないんだろうな。
楽しいのかもしれないが、明るくはないだろう。
俺以外の錬金術師ギルドの人を見かけたことが無いぞ。
「ほら餞別だ。持っていきな」
レインリヒが袖から取り出したのは小さな薬瓶に入った液体。
『ブースト薬 詳細不明』
もう完全にアウトじゃないですか。
なんでブースト薬が詳細不明なんですか!
何をブーストするんですか!?
「ひひ、鑑定のレベルが低いから見えないだろう? 使い方は一滴だけ湯船に入れれば疲労回復してその日の夜はぐっすり眠れるようになるよ」
「それ強制的に眠らせるんじゃないだろうな。もう嫌だぞ気がついたら朝でしたみたいな意識が飛ぶ系は」
風呂場で意識を失ったら下手すりゃ死んじゃうよレインリヒ!
「大丈夫さ。全く問題ないよ。あんたは後で私に感謝してまたアクセサリーを作ってくれるだろうね」
「あ、じゃあその時は私にもお願いしますね」
リートさんって抜け目ないっすよね。
まあでもせっかくの餞別だし、思ってたほど怖くはなさそうだからいいか。
「とりあえず疲れた日にでも使ってみるよ。ありがとうレインリヒ」
「私からもありますよー。はい。A級錬金術師の証明書です」
「A級? 階級なんかあったの? 俺知らないんだけど」
「まあ一応形骸化してる制度ではあるんですが、ギルドに多大な貢献をした場合に一年に一人だけに贈られるんですよ。今年は銀行のこともありますし、貴方に決定いたしました!」
一年の始まりが何時なのかはわからないが俺でいいのだろうか。
銀行云々は別に錬金によってうまれた結果ではないし、俺ただ自分の為に働いていただけなんだが。
「ちなみに、特典は錬金室の利用がただになりまーす! なので今このギルドにいる引きこもりさん達は皆A級でして、絶賛宿代わりに使われています」
おいおい。それでギルド経営が成り立つのか?
レインリヒがそういうことを気にするようには思えないので、そうなるとリートさんがやっているのだろうか?
やはりこの人苦労人だろう。
もし、良さそうな効果のついたアクセサリーが出来たら渡してあげよう。
「っさ、私は忙しいから部屋に戻るよ」
「ああ、悪い。今まで本当に、ありがとうな」
「いいさ。何かあればここにおいで。いつでも私はいるからね」
なんだよお……。
キャラじゃねえだろレインリヒ……。
お前は『ふん。そういうこと言う暇があったらとっとと錬金でもして金を稼ぎな。言葉より高級酒でも持ってくるほうがよっぽど嬉しいよ』とかいうタイプだろう……。
それがお前、最後の最後にまじで師匠っぽいこというなよ……。
「本音。レインリヒ様はロイヤルベラードの20年物が大好物です」
「リートは流石分かってるね。期待してるからね」
「……ちなみにそれいくらだよ」
「最低でも1000万ノール、高い時だと3000万ノールくらいでしょうか? なにしろ戦争で失われた国が原産の貴重品なので」
たっけえよ! 1000万の価値の酒ってなんだよ!
っていうか本音って、おま、さっきの俺の感動を返してくれ!
結論。最後までレインリヒはレインリヒでした。
その後、錬金術師ギルドを後にした俺らはレインリヒに渡された地図に従って目的地を目指した。
道順はとてもシンプルで中央広場から西地区と南地区の間をまっすぐ行った正面の家だという。
この都市は二つの城壁に囲われており、外側が第一城壁、内側が第二城壁となっており、商店やギルドなどは第二城壁内でしか運営を許されていない。
第一城壁内にあるのは住まいや集合住宅のみ、この首都に住む市民はこぞってそこで暮らしている。
城壁があることで格差が生まれるのかと思いきや第二城壁は低く、常に城門が開放されているのでそれほど不満はないらしい。
強いて言えば影が生まれてしまうくらいだが、その分影が差す家は安くされ、むしろ好まれる場合もあるという。
ただ、逆に日当たりの凄くいい場所もあるということだ。
それが西地区と南地区の第二城壁に連なっている豪華な家々だ。
そして俺らが目指していた家は第二城壁に隣接した内の一軒だった。
白亜の豪邸で、建物自体は他と比べて少し小さいのかもしれない。
元所有者の領主様は一人身だったので小さくしたつもりなのだろうが、俺にはちょうど良すぎるくらいだ。
日は逆側から上るので昼の間は常に日当たりが良好で、庭も広く左右の家とは距離がある。
まず門がありその前で三人の男女が俺らを待ち構えていた。
「ようやく来たな。ったく、俺を待たせるなんていい度胸だ」
「ごめんごめん。レインリヒにお礼を言ってたんだよ。世話になったからな」
「ほう。そういうところをわきまえてる奴は好きだぜ? 最近じゃ目をかけてやったのに何も告げずに逃げ出すやつもいるからな」
それはダーウィンが怖かっただけじゃなかろうか。
あんた部下には無茶とかさせそうだもんな。
「父上、私をご紹介していただけないのでしょうか?」
ダーウィンを父上と呼ぶどう見てもイケメン俳優顔の男。
くそう神はここまで不平等なのか!
隼人もイケメンだったが、こちらはまた違った雰囲気のイケメンだった。
「ああ、悪いな。こいつは俺の息子のダーマだ。俺の後継者筆頭だな」
「嫌です父上。それでは誤解を与えてしまいます。僕は堅実に商売をしているだけなのですから」
「どういう意味だこら……」
「そのままの意味です父上。父上はまず悪評が立つのですから、そのことを踏まえてください」
なんというか、ダーウィンの息子とは思えないほど普通に第一印象がいい。
別に俺はイケメン滅びろ党ではないからな。
イケメンだって友達になれるさ。ああなれるとも。人の女に手さえ出さなきゃな。
「初めまして、ダーマと申します。ダーウィン父上の養子で、現在は建設、設計、工事を主な仕事にしておりますので、内装が気に入らない場合や、増築をしたい場合はいつでもお呼びください」
「ああ、俺は忍宮一樹だ。錬金術師ギルドに所属してる」
なんて言うかやはり普通だ。
いやうん。全然構わないんだけどさ。
ダーウィンの息子なのに拍子抜けというか、なんというか。
「聞き及んでおります。レインリヒ様のお弟子で錬金術師ギルドの若様とのことで」
「若様って……。それで二人は俺の従属奴隷で、ウェンディとシロだ」
「はじめまして、ウェンディと申します」
「シロ」
「大変お美しい方々ですね。ダーダリルの物にならず本当に良かったと思います」
「あーやっぱ全部知ってる感じか? そっちで俺恨まれてたりしない?」
「それは勿論。現在私達養子の中であの勝負を知らぬ者はおりませんし、若様を恨んでる者などおりませんよ。むしろ父上からこの家を手に入れた若様に注目が集まっていますが」
なんでだよ……。
ダーウィン一家から注目とか迷惑しか起こらなそうな予感しかしないぞ。
「いやでも、お前らの義理とはいえ家族が、ある意味俺のせいでさ」
「いいのよあんな奴どうだって。さっさと忘れなさい」
「いや恨まれてたら困るから聞いただけだっての」
「あら、そう。……意外ね」
「ダーダリルに不満を持っている者も多かったですからその心配はないかと。どちらかと言えば喜ばれていると思います。私も今我々が注目している若様とお近づきになれて光栄だと思っています」
ダーマはキラキラとした瞳で俺の両手を取りそう言うのだが、ダーウィンの息子である以上ある程度は警戒を残しておく。手痛いしっぺ返しはごめんなのだ。
そして握られた手をメイラに叩かれて二人して手を放した。
「あら、ダーマ。父上は私に若様と結婚しろと言ったのよ? 私より馴れ馴れしくするのはおかしいんじゃないの?」
「メイラでは無理だと思いますよ? 若様には見目麗しいお二人もいらっしゃいますし、なによりその性格ではたとえ相手が普通の方でも結婚は難しいかと」
「へぇ……言うじゃない。若様気をつけなさい? こいつ男色だから」
「は?」
いやいやいや。
まさか、そんな。
「そうだな。ダーマは男好きだ。しかも自分より出来る奴が好きみたいだ」
「やめてくださいよ父上。僕は男が好きなんじゃありません。自分より人として実力が上な相手でないと興奮できないだけです」
「お前こそやめてくれ……お前だけだぞ俺をそんな目で見る男は」
「ふふふ。父上は私が尊敬する一番の人ですから。若様は3番目です」
ぞぞぞっと背中に怖気が走る。
おおおう。イケメンなのに!
なんて残念な! 無駄遣いだ! イケメンの無駄遣いだ!
「俺はノーマルなんで……」
「あはは。残念です」
「ウェンディ、シロ助けて! あいつ残念そうな顔をしていないの!」
イケメンを前にウェンディとシロを盾にする俺の図。
情けない。何て情けないんだろう俺は。
だが奴の目をみればわかる。あれは獲物を狩る狩人の目だ。
「ご主人様を男色にしてはいけませんよ。シロ」
「ん、主守る」
「おっと、大丈夫ですよ。僕は無理矢理は嫌いなんです。いつかご理解いただける日が来ることを願ってますよ」
そういうと残念なイケメンはさわやかに笑う。
おおう……まだ鳥肌が収まらん。
男色でもケモナーでも差別する気はないが、ノーマルな俺を巻き込むのはやめてくれ!
そして、二位って誰なんだ……。
俺の中では隼人とヤーシスが浮かび上がる。
っていうかさっきの言い分ならレインリヒなんかも含まれるんじゃなかろうか。
一体この男に年齢制限はあるんだろうか。




