14-24 イグドラ大森林 ハクイドリハント
「シロさん大丈夫ですか? 僕も手伝いましょうか?」
「ん? 大丈夫。不覚を取る相手じゃない。それに、せっかくの主に良い所を見せるチャンス。ここは譲ってもらう」
「そうですか。僕もイツキさんに良いところを見せたかったですけどね。それでは、お任せしますね」
「ん。マカセロリン」
それ気に入ったのか?
というか、マカセロリンって野菜だしシロは食べてなかったよな?
一口食べた後「エー」って顔を顰めて舌を出していただろうに……。
靴をトントンして履き心地を改め、ナイフを取り出して軽く振り回したようだが肘から先が消えたように全く見えなかった。
ぐぐーっと体を伸ばし、その場で数度ジャンプした後顔を上げて俺の方へと振り返る。
「シロ。くれぐれも気を付けてな?」
「ん」
「頼みます! くれぐれも、くれぐれも気を付けて!」
不可視の牢獄を張り、分かりやすいように土を被せた上にシロを乗せてゼノハクイドリの方へと運んでいく。
シロの踏み込みが強いと割れてしまうが、すぐ下にも不可視の牢獄を複数用意してあるので安全対策はばっちりだ。
「ん。それじゃあ行ってくるー」
シロは普段の遊びに行くような感じで軽く言ってのけるのだが、それだとイエロさんが不安になってしまうだろう……。
現に、『だ、大丈夫ですよねご主人様様!』と、ついさっき家で話していた際は精霊樹は大丈夫だとあっけらかんと言っていたのが嘘の様な心配ようで俺に詰め寄って来ている。
まあ分体が作れないかもしれない状況の中でこのトラブルだからなあ……。
でも、シロが大丈夫って言っているんだから大丈夫ですよ。
俺としては何一つ心配などはしていない。
シロが大丈夫だと言ったのだから、絶対に大丈夫なのだ。
※※※
「~~♪」
鼻唄を勝手に歌ってしまう。
おっと。油断は禁物。
ククリを相手にしている時のような緊張感で臨まねば。
油断は心に緩みを与え、それは致命的な隙になる。
そんな隙を見せてへまをしたとククリに話せばきっと――。
『え? ゼノハクイドリを相手に油断をして……なるほどぉ。随分成長したとは思いましたが、まだまだお子様な部分は取れていないようですねぇ。ふふふ。少しレベル下げてあげましょうか?』
と、馬鹿にされてしまう。
それは避けねば……。
それに、万が一にも失敗は出来ないの。
討伐は容易だと思うけれど、精霊樹に負担をかけずに魔石を破壊しないと。
失敗したら主に良い所を見せられないどころか、主に頭を下げさせてしまう。
それだけは許されない。
だから……初手から全力でいく。
「ッ!」
っと、ゼノハクイドリが食べるのをやめて周囲を警戒させてしまった。
危ない危ない。
どうせならそのまま大人しくしていてくれた方がやりやすいから、そのままでね。
主の不可視の牢獄がゼノハクイドリと同じ高さまで運んでくれると、その様子に驚いているのはシアンとその仲間たち。
所々傷が出来ていて血を流している。
ゼノハクイドリは攻撃している訳ではなく撥ねのけているだけに見えるけれど、この大きな羽根で叩かれ吹き飛ばされていれば傷も出来るだろう。
「あれ? シロちゃん?」
「ん。お手伝いに来た」
「えっと、でもこれは守り人のお仕事なんだよ……」
「ん。でも、緊急事態? あまり葉を食べられるのも不味いってイエロが言ってた」
「あー……うん。そうなんだよね……。じゃあシロちゃん。手伝ってもらえるかな?」
ん。勿論。
お仕事を奪うような差し出がましい真似をするつもりはないけど、緊急事態だから仕方ないの。
「それで、どうするのかな? 倒せるなら倒したいけど、あの巨体が下に落ちるのはまずいかなってところだよ」
「ん。まず背中の羽根を削ぐ。その際に暴れないように皆で押さえつけて。3秒でいい。その隙にシロが魔石を破壊する」
「3秒……」
痛みや危機を察知して暴れた巨大な魔物を押さえるのは大変。
シアンは少し考えたような顔をした後、仲間たちの方へと顔を向けると頷かれ、それを見てシロの方へと振り返る。
「分かったよ。……花を持たせてくれるってことかな?」
「ん? 猪美味しかった」
「ふふふ。それじゃあ、私たちも頑張るかな!」
シアンとその仲間たちがゼノハクイドリの周囲を取り囲み、準備は万全。
殺気は一瞬、警戒される前にその分厚い羽毛をまず削がさせてもらう。
「……被装纏衣・三纏白獅子」
使わなくても大丈夫だとは思うけど、油断しないから使っておく。
感覚が研ぎ澄まされ、ゆっくりと感じるような時間の中でシロはいつも通りに動くだけ。
首の根元から尾までに生えた羽毛を刹那にて刈り取る。
刈り残しがないように、根元からしっかりと。
「ッ! フルルルァァアアアア!」
流石に背を削られると葉を食べ続ける訳にもいかず、雄叫びを上げて自身の背中へと注目を向けるゼノハクイドリ。
翼を広げ威嚇と振り払いを同時に行うけれどそれは読めている。
「今かな!」
翼を広げた瞬間に周囲からシアンたちがそれぞれの武器を使って押さえ込み、それをうっとうしがるように体を揺さぶり、振り回して追い払おうとするゼノハクイドリ。
何人かが吹き飛ばされてしまったものの、すぐに立ち上がり何度も押さえ込んでくれている。
「……ここ」
背中を剥いだ際に違和感を感じた部分。
皮の下の肉が固く、骨が異様に太くなっている場所。
守らねばならないものがあるから、強固なつくりになっている場所に魔石はある。
「ん」
ナイフを振り下ろし、硬い肉を裂く。
が、骨は余程硬いのかカツーンと、音を立ててナイフをはじき返してきた。
「ん……」
参纏白獅子でも貫けない……大きいだけはある。
でも――シロだって、ちゃんと備えている。
『んんー……シロさんの最大の一撃はなんですか?』
『ん? 白獅子を使う?』
『ああ、いえ、そうではなく。一撃必殺の様なものはないんですか?』
『んん? そんなのいる? 隙がでかいだけになる。隙は駄目ってククリが言ってるのに』
『ええ勿論隙を作るのはいけません。ですが、よく考えてみてください。この世界にはシロさんよりも大きな大きな者が沢山います』
『ん……レアガイアみたいな?』
『地龍もそうですね。大型の者は、小さい者からの攻撃を気にせぬだけの防御力を有しています。その分重力の影響を強く受けるため愚鈍であり、取りつくのは楽ですが小さき者では攻め手にかけてしまいます』
『ん……確かに』
『この先自分よりも遥かに大きな者を相手する場合もあるでしょうし、油断している大きな者に、小さき者が致命的な一打を与える備えがあっても良いのでは?』
『ん!』
ククリに感謝する。
早速出番が来た。
「『被装纏衣・伍被緑麒麟』」
鮮やかな緑色の大きな靄が肘から下をナイフごと包み込む。
やがてそれらは収縮し、濃緑となりナイフの切っ先からはキィィィィンと、甲高い音が鳴る。
後はただ振り下ろすだけ。
振り下ろすのにも力は要らない。
というか、早く振り下ろすことは出来ない。
肘までカバーはしているけれど、早く振り降ろしたりしたら集めた力に負けて腕がベキベキに折れ曲がってしまうだろうと予測が出来る。
あと、加減しないと樹が傷つくかもしれないから慎重に……。
だから自然体のままただただナイフを振り下ろす。
するとナイフと骨が触れる直前に、まず骨が割れながら大きく凹む。
そのまま振り下ろし続けると、骨が凹みながらもナイフと触れた瞬間――ぱっくりと背骨に沿って縦に割れ、内側に秘められた魔石ごと真っ二つとなった。
魔石が割れるとゼノハクイドリの身体が動かなくなり、やがて黒い灰のようになって宙へと霧散していった。
「……ふう」
緑麒麟を解除すると、汗がドバっと出てきて疲労感に襲われる。
やっぱり、実戦で使うと疲労度が違う。
でも……やはり使える。今度レアガイアにも試させてもらおう。
ん。あれ? 主の不可視の牢獄がない……。
……あ。余波で全部壊れてる。
ん。まあでも、主がすぐさま新しいのを張ってくれているっぽいから大丈夫……ん?
下を見ると精霊樹から枝が急速に伸びてきて枝先を広げ、葉を一瞬で付けるとシロを受け止めてくれた。
おおー……凄い。
流石は精霊樹。
一瞬にして葉を生やすとは思わなかった。
「シロちゃん! やった! やったようー!」
「ん。皆のおかげ。集中できた。ありがとう」
「こっちこそだようー! 宿願だよ宿願! 守り人の宿願が叶ったよー!」
と、嬉しそうに抱き着いてくるシアンと、次々に集まってくるシアンの仲間たち。
ん、ちょっと待って? 皆来ると枝折れちゃう……?
精霊樹が更に巻き付くようにして枝を太くしてくれたから事なきを得たけれど……周り、よく見てね……?
コミックス! 第六巻! 発売中でございますー!
紙媒体、電子書籍のどちらもよろしくお願いしますー!




