14-18 イグドラ大森林 薬師マゼッタ
ずううううん……なんか疲れた……。
長旅のツケが今さら出てきただけかもしれないが、どうにも心も体もお疲れ様だよ。
まあ旅の疲れだけじゃなく、体はナシュとの激戦があったからわかるが、まさか薬草畑で気疲れするとはな……。
今はハーブティーを頂くということで、テーブルに頬を押し付けてバタンとしたままキューってなっている。
「ピィィィ……ピロロロ……」
口に咥えた笛吹草から呼吸するたびに力のない音色が鳴っているのだが、こんな吹き方でも回復しているのだろうか……?
皆にも心配はされたが、だらーっとしてれば治ると思うのでご心配なくと伝えたらそっとしておいてくれた。
『『……?』』
目の前では精霊達が突っ伏している俺を不思議そうな顔で見ている。
そして何やら始まった……と思ったら、さっきの俺とナシュとの戦いを見ていたらしく、再現しているようだ。
うんうん勇敢に戦って……俺、股間を打たれた後ってそんな変な歩き方してたの?
というか、いつの間にか人型で見える子が増えたなあ。
あれか? 余程無様だったからか?
警戒するに値しないとでも思われたのだろうか……?
現に今俺が指を無造作に精霊の近くに置くと触りに来る程無警戒なんだよな。
指を椅子にしてぽよぽよとお尻を弾ませたり、抱き着いたり、持ち上げたりして遊んでいるんだよ。
なんだなんだ? 遊びたいのか?
仕方ないな……と、指を二本立てて足に見立てて歩いているようにして精霊達へと近づいて行く。
すると、意図を察したのか逃げ始めた精霊達。
怖がってはおらず、楽しんでいるようで何よりだ。
だが足を止めたからと不満そうな顔をしないでおくれ。
俺、これでもお疲れなんです。
……駄目ですか。遊ばないと駄目ですかそうですか。
じゃあ……お手軽な遊び道具でも作りましょうか。
テーブルに頬を付けたままで悪いですが、色々作りますよ。
……とりあえず、ジャングルジムとブランコでどうです?
気に入りましたか? そうですか……じゃあ遊んで……あ、追いかけるのは継続ですかそうですか。
んん……じゃあこれはどうだ!
スケボーです。指で試して……って、なんかそういうおもちゃがあった気がするな。
どう遊ぶかって興味津々のようだな?
ふっふっふ。見せてやろう俺の華麗なテクニックを。
DEXの上がった今の俺ならばどんなトリックだって可能だという事を!
「おやご主人様様、どうしたんだい?」
「っ! あ、えっとマゼッタさん……?」
顔を向けていなかった方から声をかけられたので慌てて頭を浮かせて振り向くと、そこにはおかんエルフのマゼッタさんがやってきていた。
危ない危ない。精霊が見えない人からすれば、一人で何かしているヤバイ成人男性にしか見えないよな。
精霊達よ一時中断だ。
遊具は好きに使っていても良いけど、追いかけっこが出来ないからって頬を膨らませないでおくれ。
可愛いらしいけど、今はマゼッタさんへの受け答えが優先なのである。
ウェンディのご主人様として、だらしない姿は見せられない!
「あっはっはっは。随分疲れた顔をしているねえ。野菜畑で野菜と戦ったんだって? ここの野菜は強かっただろう?」
「あー……驚きました。逃げ回るもんだと思っていたので」
「ふふふふ。土に栄養が多いから元気が有り余っているんだよ。その分、外の野菜よりも美味しいから仕方ないね」
「確かに美味しいですけど、俺は弱いので割に合わないです……」
「あっはっはっは! 若いんだからこれからだよこれから!」
そりゃあエルフの方と比べたら若いというか、赤子みたいなものなのかもしれませんがねえ……。
まあいずれはナシュに楽勝で勝てるくらいには強くなりたいな。
俺の目標、ナシュに勝つ。目標があるっていいよね!
「薬草畑はどうだったんだい? 私の自慢の薬草達だったのだけれど」
「素晴らしいの一言で。愛情たっぷり込められていて、どれもこれも艶やかで一際大きくて薬効が高そうでした」
「あっはっはっは。ご主人様様に褒められるとは嬉しいねえ。そういえば、丸薬も欲しいんだって? 沢山用意しておくから持っていっておくれ」
「ありがとうございます。代金はきちんとお支払いしますので」
「いいよいいよ。お土産なんだから。お金なんて取れないさ」
「いやあ、そういう訳には……」
「若いもんが遠慮するもんじゃないよ」
ううーん。
ありがたいとは思うが……いや、お金の事はきっちりとすべきだろう。
遠慮しすぎるのも失礼ではあると思うが、今回はウェンディの威光があると思うし、甘えすぎてしまっては駄目だと思う。
「あっはっはっは。納得してない顔をしているね。頑固なご主人様様だねえ。それじゃあ、基本的な丸薬はお土産として受け取っておくれよ。その代わり、特殊な丸薬は店で買っておくれ」
「それでも十分申し訳ないんですが……特殊な丸薬?」
「ああ。今淹れるから気に入ったら買っておくれよ」
そう言うとマゼッタさんはガラスのコップを取り出してそこにお湯を注ぎ始める。
木じゃないんだな……と、エルフだから自然由来のものばかり使うものだと思っていた偏見交りの感想とともに、お湯で飲む丸薬なのかと考えていると、一つの丸薬を取り出したマゼッタさん。
「これが私の薬師としての集大成さ」
ぽちゃんっと、湯に丸薬を落とすとすぐさまじゅわっと溶けだす丸薬。
そして溶けた丸薬は湯を鮮やかな緑色へと染め、それらはコップの底へと沈殿していく。
お茶かな? と思っていると、溶けた丸薬の中からは蕾が一つ、沈殿した緑の上に乗っかるように上向きで現れ、ゆっくりと花弁が開いていく。
「おおお……!」
「ふふふ。いい具合に咲いてくれたね」
下に沈殿し落ち着いた緑色の上で花弁がマゼッタさんが言う様に、まるで水中で咲いたかのようである。
ゆっくりと開いていく様はまるで早送りで開花を見ているようで、満開になるまで目を放すことができなかった。
一つの芸術であり、美しい自然の光景を見ているようで、思わず目を見開き口が開いたままになってしまった。
花が咲く茶は元の世界でも似たようなものはあった気がしたが、ここまでのものではなかった気がする。
「さあご主人様様。まずは上澄みを飲んでみてくださいな」
「あ、はい……」
言われた通り薄っすらと色づいている上澄みを少しだけ飲んでみる。
すると、若芽のような甘みのある薄っすらとした味が口の中に広がる。
飲みやすいお茶のような味わいでとても美味しいが、若干薄いかなと感じてしまう。
「おおお……飲みやすくて美味しいですね」
「ふふふ。それでは、次はこちらでどうぞ」
そう言うとマゼッタさんは木匙を取り出し、沈殿していた丸薬を巻きあがらせて湯を完全な緑色へと染める。
だが、その際に花も一緒に崩しており、今度は花が沈殿すると濃い緑色であった湯が淡い緑色から更に透明感のある緑へと姿を変えた。
色合い的には緑茶の状態に近いだろうか?
最初染まった時は抹茶をさらに濃くしたもののように見えたが、そこからお茶の色へと変貌を遂げたのだから驚きである。
あの花にそういった成分があるのだろうか?
「混ぜ具合で飲みやすさが変わるんだよ。ご主人様様は、癖が少なく飲みやすい方が良いと思ったからこれくらいで」
「いただきます……ん。はああ……美味しい……」
んんー甘みは感じられ、苦味と渋みが抑えめでまろやかで美味しいお茶だあ……。
それでいて、疲れた体が少し軽くなった気もする。
そうか。丸薬を使っていたって事は薬効もある訳か。
「丸薬は基本的に薬草をそのまま使うから苦いんでね。飲みやすいようにと茶に出来るようにし、それでいて見て楽しめて、薬効も落とさないようにしたのさ。ただそれだけの事だけれど、私が薬師として目指したものなんだよ」
ただそれだけ……とはいうが、どれだけの苦労があったのかは計り知れないだろう。
集大成……というだけのこだわりと完成度である。
味も良く薬効もありながら芸術のように見ても楽しめる。
俺もポーションの味にはこだわるところがあるが、マゼッタさんはさらに上を行くのだと尊敬出来る。
「……凄いです! 感動しましたよ!」
「そう言って貰えると嬉しいねえ。気に入ったのなら店で買って行っておくれよ」
「沢山買わせていただきますよ。むしろ、帰るまでに量産していただけたら嬉しいです」
「あっはっはっは! 在庫全部買う気かい? 嬉しい悲鳴だねえ。それじゃあご主人様様にはご満足いただけたようだし、次はウェンディ様達にも披露してこようかね」
そう言うと笑顔で去っていくマゼッタさん。
その際に丸薬を二つほど置いていってくれたのだが、若干色が違う……という事は、多分違う種類のものなのだろう。
これは……楽しい!
早速お茶を飲み尽くしたいが、美味しいのでしっかり味わいつつ次を試す。
ん、次は焙煎してあるお茶か! これも香ばしさが良い!
ああ……美味いし楽しいしでいつの間にか疲れがどこかへ行ってしまったようだ。
ん? どうした精霊達? 元気になったのならスケボーの遊び方の続き?
ああよし、分かったいいだろう。
今度こそ俺の超絶スケボー(指)テクニックをお見せしようじゃないか!
オーバーラップのサイトでもう情報出ていますね。
という事で、ノベルス10巻の発売日は3月25日を予定しておりますー!
改めてしっかりと宣伝告知はさせていただきますが、今回は二桁巻ということもありまして完全書き下ろしかつ、個性的な新キャラもおりますので是非! よろしくお願いします!




