閑話 リートさんとメイラちゃん
そういえば……今日で何日目でしたっけ?
えっとぉ……ひのふのみーの……もう七日は超えてますかね?
普段であればちょくちょく顔を出してくれたり、街中でたまたま出会ったり、作りすぎてしまったお夕飯を届けてくれたりなどして少なくとも七日に一度はお会いしているのですが、街にいないとそんな事があるはずもないのですよね……。
「……トさん?」
どことなく、街に彩りが欠けているように感じますよねえ。
普段よりも受付作業が暇に感じてしまい、妙に時間経過が長く感じています。
これは……寂しいというやつでしょうか?
……いやいや、別に恋人という訳でもありませんしそんな訳……。
「……-トさん? 聞いてますの? リートさん?」
「へ? ああ、すみません。ぼーっとしてました」
「商談の最中にぼーっとしないでくださいまし……失礼ですわよ」
「いやあ、本当にごめんなさい……。それで、どこまでお話進んでます?」
「まったく……どの商店に卸すかですわよ。最近貴女の化粧品が注目を浴び始めているのですから、経営戦略は早いに越したことはありませんのよ?」
「そうですね。私はそういうの疎いですから助かります。ありがとうございますメイラちゃん」
「……商談相手をちゃんづけしないでくださいまし」
そうは言われてもメイラちゃんはメイラちゃんですからね。
しかし、本当にこの子も出会った頃からずっと可愛いですねえ……。
どれだけ忙しかろうとも手入れを欠かさないからこそ、美しさを保ちつつ日々向上させているのでしょうが、見事なものですね。
し・か・も。
「うふふふ。私の化粧品。ずっと使っていてくれるんですね」
「……他意はないですわよ。物が良いからですわ」
「ええー……化粧品なら、大手のデイエチシイさんとか、シーセイドさんとか、フランケルさんの物の方が上質のはずですよー?」
「確かに……お三方はとても優れていますわね」
うんうん。
美容系錬金術師の三強と呼ばれる私の憧れの方々。
私が目指すべき雲の上の存在ですからね。
いつかはあの方たちと肩を並べ……もとい、商品棚であの方たちの品の横に私の化粧品が陳列されるのを見るのが夢なんですよー。
「……ですが、私はリートさんもお三方に負けないくらい優れていると思っていますわ。国民達が普段使い出来るようにと安価な材料で高価な材料に近い性能を生み出し、お手頃価格で広く化粧品を浸透させたのは貴女の功績ですわよ。貴女のおかげでアインズヘイルの女性は美しいと言われているのですわ」
「……いやあ。貧乏性なだけですよ。高い素材の効果が、安い素材で作れたらその分儲けが出て私の夕飯に一品追加出来るじゃないですか」
「それでしたら、今行っている商談の品の値段をもっと上げても良いんですのよ?」
「それはーちょっと……」
「まったく……龍の素材を化粧品に使っているのですし、今回くらいは高くしても誰も文句はつけませんのに……」
そうかもしれませんけど……でもだからと言って値を上げてしまうと、街の皆が手を出せなくなっちゃいますからね。
でもあれですね。流石は龍ですよね。
龍の素材は一度肌になじませれば数か月は効果が持続するので、コストパフォーマンスがとても良いんです!
更には保湿性も高くなり、他の薬品の効果も上がる!
流石龍です。希少種の私よりも希少な品ですからね!
それをこんなに低価格で出せるのは後輩君にお土産としていただけたおかげですよ。
実験に使う分すら買うのは難しい品でしたからねえ……。
「龍の素材を持ってきてくれた後輩君に感謝ですねえ……」
「後輩君? ああ、あの方ですのね。そういえば今はアマツクニに行っているのでしたっけ?」
おや? メイラちゃんも後輩君がアマツクニに行っている事を知っているんですね。
「あの方の事ですから、きっとアマツクニでも何かトラブルを引き起こしているのでしょうね」
「あー……でしょうねえ。サムライに追いかけまわされてたりして」
「アマツクニといえば、ゴウキ殿もいらっしゃいますわね。そこで何かあったりとか?」
「シオンちゃんは確かアマツクニ出身でしたよね。そっち関係の可能性も……」
「もしかしたら、アマツクニの巫狐様に粗相を働いているかもしれませんわよ」
「ええー。流石にそれはないでしょうー」
アマツクニの巫狐って言えば、神に近しいと言われる存在ですよ?
いくら後輩君が貴族や王族の方々とお知り合う事が多くとも、伝手や知り合いの知り合いという方もいないでしょうし、流石にそれはないですよー。
「流石に、ですわね。でも、もし巫狐様とお知り合いになったとしても大して驚きませんけど」
「あはは。確かにそうですね。でも、危ない事をしていないといいですね」
「そうですわね……。まあ何かあってもひょこっと帰ってきますわよ」
「ふふふ。アインズヘイルのトラブルメイカーではありますが、妙な安心感がありますよね」
「そういう星の下に生まれてきたのでしょうね。本当に、飽きないお方ですわ。でも……あの方がいないと、街が少し寂しく感じますわね」
む? むむむ?
メイラちゃんが寂しい……?
珍しい……ですよね? これはもしや……?
私の乙女本能がビンビンに察知していますよ?
「おやおやー? 随分と後輩君を買っているんですねメイラちゃん」
「……何をニマニマしていらっしゃいますの? それを言うのならリートさんこそ。随分と注目していらっしゃる様子ですわよ?」
「それは勿論。私の大事な 後輩! 君ですからね。先輩として、お世話はさせてもらわないと」
「先輩として……ですか? その割にはお夕飯をいただいていたり、販路を広げてもらったりとお世話されてばかりに見えますけども?」
「むぅ……」
確かに後輩君には沢山お世話にはなっていますね。
お土産や素材は勿論ですし、お料理は当然ありがたいです。
とっても美味しいんです! 屋台で出来合いの物を買うよりも温かくて美味しいんですよう!
それに、後輩君のお陰で良い物が作れて、今こうしてメイラちゃんと商談も出来ていますし……あれ? 私お世話になりっぱなしでは?
いや、でも抱きついてあげたりしましたし、髪を切ってあげたり、その際は胸を押し付けてお礼もしましたし。
双星の美姫であるラズちゃんクランちゃん達のクラスの件では貢献できたと思うので相殺……という訳にもいきませんかね。
「リートさん? 私の勘が告げているのですけど……あの方の事を狙っているんですの?」
「私がですか!? ええ……どちらかと言えば好きですけどもそういうのではなく可愛い後輩というか……そういうメイラちゃんはどうなんですか?」
「そうですわねえ……お義父様を除いて、今まで出会った誰よりも気にはなっていますわよ。将来の伴侶に……とまで考えられるほどですわね」
「伴侶!?」
そんな、堂々と正直に……!?
これが最近の女の子なんですか?
こんな真っすぐ好きだと言えるのが最近のモテる女の子で、私に足りない部分なのでしょうか!?
「ユニークスキルだけを見ても有能ですし、錬金の技術も勿論ではありますが、異世界の知識も素晴らしいですわ。それだけで、この体を好きにさせても構わないだけの価値はありますわよね」
「おおー……ん? 体?」
「あら? 当然でしょう? あの方の周りを見ればわかる通り、そっち方面が大変お好きなのでしょうし、仕事に付き合ってくださるのでしたらありとあらゆる希望にこたえるくらいの覚悟はお見せすべきでしょう?」
「そ、そうかもですけど……」
メイラちゃんまだ若いんですよ!?
もっと若々しい初々しさとか見せてくれてもいいんですよ!?
愛とか恋とか青い春とか甘酸っぱいのとかほろ苦いのからげろ甘等々見せてくれてもいいんですよ!?
それをいきなり体って……好きにって……最近の若い子は色々進みすぎなのでは……?
いや、まあでも……確かに後輩君はそういう事が好きなんでしょうね……。
ウェンディさんやミゼラちゃんからお話を聞く限りでは相当……その、凄いらしいですし。
ロウカクから帰ってきてからより凄くなったって…………凄いって、どう凄いんですかね?
ぐああ……経験値が低すぎて凄さの想像が出来ません……っ。
ですが、私も知識はあります!
多分アレがああして……堅……ああなっていっぱい……ぎゅって……想像以上に……ひゃあああ! ひゃあああああ!
「……トさん? リートさん? 大丈夫ですの?」
「ふぇ?」
おおっとぉ!
危ない危ない。妄想に没頭してしまいました……。
そ、それにしても……。
「メイラちゃんは商売の事ばかりですねえ……」
「当然ですわよ。伴侶だって戦力に数えませんと」
「クールですねえ。もっと甘々な事とかしたいと思わないんですか?」
雪の降る日に温かい部屋で二人きり、温かい飲み物を寄り添いながら飲むだけの一日とか、一歩もベッドから出ないで二人でいちゃいちゃしながら過ごす一日とかぁ……えへへ。
「それが利益を生むのなら、しても構いませんわよ?」
「生粋の商人ですねぇ……。じゃあ、後輩君はメイラちゃんと結婚したとしても愛してもらえないと……」
「……それは、他の方がなさいますわよ。私の小さな想いをお伝えしたところで……」
「ん?」
何ですか今の可愛い表情は!
私は見逃しませんよキュピーン!
「あ……ち、違いますわよ? 今のは別に……」
「んんー?」
「ど、独占など最初から叶わないのですし、他の方々があんなに愛しているのですから、別に私までする必要はないというか……何をニヤニヤしていますの!?」
いやあ、だってちゃんと若い子らしい可愛いさじゃないですかぁ。
なるほどなるほど。消極的ながら自分のポジションを確保するための言い訳だったわけですね。
重荷にはならぬよう、それでも、と……くはぁ!
いいですねいいですね! そういうの私好きですよ!
「っ……リートさんこそ。どうなんですのよ!」
「私ですかあ? 私は……私だけを愛してくれる方が嬉しいですね」
「では、あの方は好みではないと?」
「そうは言いませんよ? でもでも、もしかしたらもっといい男が現れるかもしれないじゃないですか!」
ええ、勿論後輩君の事は嫌いじゃないです。
良いところはいっぱいありますし、気遣いは出来る上に最近は頼もしさも出てきて、私の恋人に求める条件はかなーりクリアしていますしね。
まあ? 私だけを愛してくれるという重要な部分が既に不可能なので、今一歩この人だ! と、断定が出来ないんですけどね。
「そういうことを言っているから……」
「何か言いましたー?」
言っているからなんですかー?
婚期を逃してるとか言うつもりですかー?
うふふふふ。
「いいえなにも。結婚願望はあるのですよね?」
「それは勿論! 素敵でお金持ちな旦那様と結婚して家庭に入り、子供は二人か三人が良いんです! 男の子と女の子で、女の子が上がいいですね。仲睦まじく暮らしながら、ヒト族である夫の寿命が尽きるのを看取って操を立て、毒人粘族の寿命が尽きるのをゆっくりと待つのが私の夢です!」
「具体的な夢ですわね……」
勿論です!
理想は持っていなければ叶いませんからね!
「でしたら……私が男性を紹介いたしましょうか?」
「え?」
「私の紹介でリートさんの器量と錬金の腕があれば、種族が特殊である事を差し引いても引く手はあまたですわよ。そうですわね……ぱっと思い浮かべるだけでも、3人は候補がいますけれど……どれもそれなりに若くてお金持ちでイケメンですわよ。勿論、特殊な趣味などはない一般的な良い男ですわね」
さ、三人も?
イケメンが三人も私の恋人候補に!?
や……でも……。
「う、うーん……今は……いいですかね?」
「あら? そんな事を言っていられますの?」
「ぐっ……ズバッと言いますねえメイラちゃん?」
「だって、いつもお酒を飲むと『結婚したい結婚したいよう。ただいまって言ったらおかえりって言いたい言われたい。抱きしめて欲しい。触れ合いたいよう。旦那様といちゃいちゃして愛が欲しい! 子供欲しいー!』……等と口走るじゃありませんの」
「そんな事言った覚えはないですよ!?」
今の私の真似ですか!?
そんなに切羽詰まった声出してますか!?
いや、まったく覚えてないのできっと嘘だと思いますけど!
「言っていますのよ……。ついでに言っておきますけど、お店で飲み過ぎるのは止めなさいな……。貴女が吐いたら、毒性が強すぎてお店が除染作業をしなければならないんですのよ……」
うう……それは反省していますけど……。
えええ……でも本当に言った記憶がないんですけど……。
私、自分で気づかないだけで実はそんなに飢えていたんですか……?
「……やはり紹介しましょうか?」
「うう……良いもん良いもんいらないもん! 自分で探しますもん! それに最終的に駄目だったら後輩君に貰ってもらうもん……責任取ってもらうもんー!」
「その年でもんはお止めなさいな……。なんの責任かは知りませんけど……その枠すら埋まらなければ良いですわね」
一夫多妻制のこの世界で埋まる事があるの!?
なんですか? 優良物件だとサブにすら枠があるんですか!?
早めに予約しておかないといけないんですかー!?
「さあ。そろそろ商談に戻りますわよ。お金があれば選択肢は広がりますわ。一人で生きていくとしてもお金があればなんとかなりますわ……」
「ううー! メイラちゃん酷いー!」
だ、大丈夫だもん!
後輩君に頼らなくったっていつかきっと会えるもん!
イケメンでお金持ちで私だけを愛してくれる運命の王子様にー!
……でもちょっと一応、今度後輩君には軽ーくお話しておいてもいいかもしれません。
格好は悪いですが……この前お助けした事を引き合いに出せば、受け入れてくれますよね? ね!?
閑話ー!
今回は書いてて『なんか微妙……』と感じたのが多かったのと、14章で書いた方が良さそう等ありまして、感想にてリクエストがありましたお二人での閑話!
毎回は難しいですが、たまにはこういうのも良いかな、と。




