閑話 ミゼラとアマツクニデート
本日の天候は晴れ。
デートにふさわしい程の快晴で、気持ちまで上がってくるような天候だ。
さて! 本日は一日ミゼラとアマツクニでデートをするという訳で……
「……似合うかしら?」
「ばっちりだ!」
ウェンディが選んだ白を基調とした和服との相乗効果でよりミゼラの純粋さと無垢さが際立っている。
まるでいいとこのお嬢さんだな。さしずめ俺は従者か……。
「ありがと……旦那様も似合ってるわよ」
「ありがとさん。やっぱり馴染むのかねえ?」
俺としても和服はやはり悪くない。
普段着使いは……流石にやりすぎかなと悩むが、部屋着にするには良い感じだよな。
甚平なんかだと、より部屋着感が上がるかな。
「……ねえ旦那様?」
「ん? どうした?」
「その……下着は……本当の本当につけないのが正しいの? 旦那様の趣味じゃなくて?」
「いや、本当だぞ? 和服は体のラインが綺麗に出るからな。そうすると、下着の形が浮かび上がってしまうんだよ。まあ、付けられない事もないんだけど……」
「その場合、今私が穿いている大分際どいものになる訳ね……」
そうだね。具体的に言うと、Tバックになってしまうね。
でも履かないよりはマシだよね!
なんで持っていたのかって? 備えあれば患いなし! こんなこともあろうかとさー!
「はあ……顔から火が出そうな程恥ずかしいのだけど……仕方ないわよね」
「うーん……でも、本当に嫌なら、和服じゃなくてもいいんだぞ? 俺もそれに合わせるし」
「それは嫌。だって皆もアマツクニでは和服だったんでしょう?」
「そうだけど……無理して着る物でもないぞ?」
アマツクニとはいえ、誰もが和服というわけではないしな。
それに、しっかり脳内フォルダには保存したからな!
続きは家でたまに着てもらうとしよう。
「いいの。別に誰かに見られるわけでもないし、和服を着ている人皆同じだと思えば……。それよりもほら、早く行きましょ? せっかくの二人きりなんだもの。時間は有効に使わないとね」
「そうだな……よし。それじゃあまずはお団子から行こうか」
ミゼラの手を取りこの前行った超絶美味いお団子屋へと足を運ぶ。
とりあえず食べ歩きなどをしつつ、色々見て回ろうという訳だ。
そしてお団子を無事に購入し、店先でとりあえず一串食べる。
「ん、んふ。柔らかくて美味しいわね」
「ここのお団子凄いよなあ。赤ちゃんのほっぺくらい柔らかいし、ほんのり甘くてもっちもちでさ」
「ええ。美味しいお茶と一緒だと何本も食べれてしまいそうでお腹周りが怖くなるくらいね……」
うう……と恨めしそうに残りの団子を見つつ、お腹周りに触れるミゼラ。
最近は出会った頃に比べれば大分健康的になったからな。
とはいえ痩せた体型であることに変わりはなく、お腹ばかり気にしていて気づいていないのかもしれないが、密かにぱいも成長しているぞ……?
「そういえば、ハーフの子達の様子はどうだ?」
「大分安定してきているわよ。まだ環境が変わったと言われても半信半疑な人もいるけどね。でも、私だけじゃなくて働きだして生活が変わった人達も話をしに来てくれるから、日に日に多くの人が社会復帰出来るようになっているわ」
「そっか……ミゼラ頑張ったな」
「私じゃないわよ。皆が変わりたいって心の中では思っていたの。それにあの街が良いところで、あの街の人達が良い人達ばかりだから、私が頑張らなくても結果的にどうにかなっていたはずよ」
それでも、実際にあの街で暮らしているミゼラの存在はハーフの方たちの中では大きかっただろうさ。
……恐らくだが、心無い言葉もかけられた事だろう。
だけど、相手の気持ちもわかるミゼラだからこそかけられた言葉もあったのだと思う。
「……そっか」
「……なんで慈愛に満ちた目してるのよ」
「いや、なんでもないよ」
「何よもう……。さあ、早く次に行きましょうよ。次はどこを案内してくれるのか楽しみにしているわね」
「んーとは言っても、俺ほとんど親方の所にいたからそこまで詳しくはないんだよな……」
「木工ギルドの人よね? 温泉の建物を作ってくれたっていう……」
ミゼラには事前にアマツクニで何をしたのかは伝えたのだが、木工ギルドで櫛を作ってたと伝えたら何をしていたのかと少しだけ呆れられてしまった……。
「そうそう。木工スキルは錬金にも活用できそうだし、もう少しレベルが上がったらミゼラにも教えていくからな」
「……錬金もまだまだなのに増やしていいのかしら」
「なあに。もしかしたらそっちに秀でている可能性もあるだろう? そこから新しいものが生まれるかもしれないし、物は試しで挑戦さ」
「はーい。師匠がしっかりと教えてくれるのなら、いいんだけどね。それで……どうするの?」
「えーっと、ちょっと待ってな……」
てれれてってれー。
『シオンちゃんのパーフェクトアマツクニガイド』-!
説明しよう。
今回護衛としてついてきてはいるのだが、決して邪魔をしないために姿は見せないそうなので案内が出来ないシオンがせめてこれをと渡してきたポップでわかりやすく穴場やおすすめのお店などが載った小冊子である。
「シオンさんって多才で凄いわよね……」
「本人の前で言ってあげると喜ぶぞ。まあ、元々案内人として出会ったからな。色んな街の面白い情報を持ってそうだよな」
しかもこのガイド読みやすいの。
分かりやすくまとまっているし、見出しや見どころなどもしっかり記載してある上にマニアックな店まで網羅してあるからな。
本当に多方面に優秀だよなあ。中身が多少残念だけれど。
さてさて、一緒に小冊子を見つつ次の目的地を決めようか。
「ミゼラの行きたいところはありそうか?」
「私? んんーそうねえ……あ。ここ行きたいかも」
「ん? 種子薬草花屋……?」
お花屋さん……ではなく、どちらかと言えば薬の素材屋か?
ミゼラらしいといえばらしいのだが、デートで行くところではないよなあ……。
「……駄目?」
「いや。駄目じゃないよ。俺も興味はあるし行ってみようか」
「ええ!」
ああもう嬉しそうに微笑むなあ。
いいですよいいですよ行きますよー。どこにだってお供しますともー。
そして着きましたのは古めかしく趣深いお店……。
店外にまで草花やツタが建物に掛かっていて、およそお店とは思えない見た目だったのだが……。
「わあ……! 見て見て旦那様。アインズヘイルで手に入る薬草とは形が違うわ。これはツタ……? ツタも使えるのかしら? こっちは色が違うみたいだけれど……効果はどうなのかしらね?」
おお……目を輝かせてまあ。
とってもとっても喜んでいらっしゃいますね。
はしゃぐミゼラを見て俺はほっこりしちゃいますねえ……薬草の香りが充満していますけども。
およそデートスポットとはかけ離れてはいるが、ミゼラが喜ぶ場所に行ってこそデートだろう。
それに、俺とミゼラのデートと言う点では間違いなくお似合いの場所だな。
他の皆はまず興味がないだろうしな……。
「抽出方法……? え、良いのかしらこんなの公表して……。知識は錬金術師にとって宝でしょうに……」
どうやら店主さんは高齢の方らしく、今まで蓄えた自分の知識を後世に引き継いでもらうために材料毎に抽出方法を書き記しているらしい。
書物にしないのかと尋ねたのだが、どうせなら店を訪れてくれたお客に伝えたいという。
……まあ、そこまで人気のある店ではないらしく、後々書物だけを手に取って知識を得られるのは面白くないという偏屈さも持ち合わせているのが、錬金術師らしい偏りだなとは思うが、こうして無料で貼り出しているのだから立派な人ではあるよなあ。
「旦那様旦那様! この方法、ポーション作りにも役立てられそう! もしかしたら成功率が上がるかも! あ! こっちの薬草安い! 種……え? これ全部セットなの? 育て方も使い方も書いてあるし……か、書くもの! あ、書き写しても良いですか? っ、ありがとうございますっ!」
ミゼラ大興奮である。
んんー……これはアレだね。
多分、今日のデートはここで終わりそうな気がするな……。
となると……。
「……シオン」
「はいはいー。お呼びですか? というか、せっかくの二人きりのデートなんですし、いくらミゼラさんに相手にされないからって私を呼び出して代わり扱いとか最低ですよ?」
「ちげえよ……。とりあえず、夜に食べられそうなものとおつまみ、あと泊まる宿の手配頼めるか?」
「ええー……使い走りですかぁ?」
「頼むよ……」
「はーいはい。お任せください! ミゼラちゃんにはさっき褒められましたからね! 私は私を褒めてくれる人が好きですから報いますともー!」
それだけ言うと瞬時に姿を消してしまうシオン。
流石シノビでオボロなだけはあるよな。気配の消し方が達人のそれだ。
「あれ? 今誰かいた?」
「いんや。それより、何か良い物あったのか?」
「どれにしようか悩み中……。抽出機も欲しいのだけど……流石に高いのよね……。薬草も色々あるし……あーもう悩むわあ……」
「足りないなら俺が出すぞ?」
「それはいいわよ。私が使いたいだけだもの。ちゃんと自分で稼いでるんだから、自分で買うの」
「仕事に使うんなら構わないぞ? それか、俺からのプレゼントって事で……色気のないプレゼントだけどな。それに、色々買いたいんじゃないのか?」
「それは……そうなんだけど。うう……むーうー…………甘えてもいい?」
かなり悩んだようだが、実際に抽出機などは高価だからな……貯めて来てはいたのだろうが、お財布とにらめっこをした結果素直に甘えてくれたようだな。
「むしろもっと甘えてくれよ。ミゼラは遠慮が多いからなあ……。他にも色々あるみたいだし、ゆっくり見て、ゆっくり選びなよ」
「うん!」
良い笑顔の良いお返事。
それじゃあ、俺も何かあるか見てみますかね。
そして数時間が経過しまして……。
「……ごめんなさい」
「なんで謝るんだよ」
「うう……だって……せっかくのデートだったのに、私薬草しか見てなかったんだもの……」
外は暗くなってしまい、閉店してしまったお店がしばしばと……。
ミゼラはあのお店で時間を忘れてはしゃぎすぎてしまった事を思いだして頬に両手を当ててうううと唸っている。
「楽しくなかったのか?」
「楽し……かったけどぉ。旦那様はつまらなかったでしょう?」
「そんな事ないよ。ミゼラを見てるだけで楽しかったぞ?」
あんなに驚いたり喜んだり目を輝かせているミゼラを見ているのは飽きなかったしな。
それに、途中で店主のおじいさんが椅子を出してお茶もだしてくれたからな。
錬金話は為になる事も多かったうえにあのお茶、苦味の中に旨味が合ってなかなか好みだったので作り方を習い、その原料を購入させてもらったしな。
「ううう……せっかくの二人きりのデートだったのに……はああ……」
「んん? だったのにって、ミゼラ。今日のデートは丸一日なんだぞ? まだ半日。あと半分もあるんだぜ?」
「え? あ……」
今気づいたのか?
今日は夜までではなく、帰るまでがデートなんですよ。
「まだまだデートはこれからだよ。夜は夜を楽しもう。ディナーにお酒やお菓子も買ってあるし、近場を散歩……は、流石に危ないか。でも、夕食付きの宿も予約してあるからな。朝まで一緒だぞ」
「……旦那様。手慣れ過ぎてない?」
「え……駄目だったか?」
「ふふふ。そんな事ないわ。とっても嬉しい。というか朝までって……そ、そう言う事よね? あ、だから私にあんな下着を勧めたの?」
「…………ち、違うよ?」
「はあ……そこで言い淀むのが旦那様よね……」
うっ……つい想像してしまっただけで本当に他の意図はなかったんだよう……。
あー……いまいち格好つかないなあ。
「……ほら。行きましょう? お宿の夕飯が楽しみだわ。お腹ペコペコだもの」
「お昼も抜いて薬草に夢中だったもんなあ……」
「もう……恥ずかしいから言わないでよ……」
「悪い悪い。それじゃあ、行こうか」
ミゼラの手を引いて一緒に走り出す。
とはいえ、和服は走りにくいからちょっと急いで歩く程度のスピードで。
指を絡めて繋ぎ合い、買った薬草の使い道やお菓子に何があるのかを話しながら宿へと向かう。
まだまだ、デートは折り返し。
この後もたっぷりと、楽しい時間を送るのであった。
閑話~~!
もう一個別の閑話を書こうかなと考えてる。




