13-27 和国アマツクニ 帰路にて……
帰りの馬車に揺られながら、アインズヘイルを目指して進む。
いつも通り関所を通ってアマツクニに来たので、また関所を通って戻らねばならないので馬車でまったりとだ。
快晴で気持ちの良い天候であり、魔物も現れないので荷台でまったりと盃に『二十四代』を注いで、景色や皆のくつろいでいる姿等を肴に飲んでは、うつらうつらとしてしまうほどに快適で好調な帰路である。
「お。盃に桜の花びら……風情があるねえ……」
アマツクニで自分へのお土産に買った朱塗りの雅な盃にどこからか舞い落ちた一枚の花弁がそっと酒の上に浮いているのを見て平和だなあと微笑み、またちびちびとお酒を嗜んでいく。
「主様、ワフクにその盃は似合うけど、昼間からお酒だなんて堕落極まれりね」
「んー? ソルテもやるか?」
「気持ち的には付き合いたいけれど私は駄目よ。後でレンゲと交代で馬車の護衛をしないとだもん」
「あー……そうか。それは残念」
「ん。シロなら付き合う」
「シロは……お酒は駄目です。ジュースにしなさい」
「むう……主が美味しそうに飲むお酒気になるのに……」
いくらこの世界の飲酒に関わる法律が元の世界より多少なり緩いとはいえ駄目な物は駄目なのです。
主として、シロの成長の為にもしっかりと管理します。
「も少し大人になったら、一緒に飲もうな」
「ん。楽しみにしてる」
シロとお酒を酌み交わす日か……待ち遠しいなあ。
その時はこのお酒で乾杯をしよう。
勿論おつまみは大量に用意しないとだな。
「で……主様がお酒を嗜むのは構わないんだけどさ……アレ。どうにかしてよ……」
「アレ? ああ……」
「はぁぁぁ……素敵……素敵ですぅ……。刃長2尺6寸4分、反りは9分……。刃紋は小乱れ小足入り、小沸つきで匂口深く、中ほどから上は二重刃、三重刃、帽子も二重刃、先は小丸ごころに返る……茎は生ぶで雉子股形……。美しすぎる……」
アレと言ってソルテが視線を向けた先にいたのは、アマツクニを出てからずっと刀を見てはうっとりとし、刃を光にかざしては俺にはわからない専門用語をずっと呪文の様に唱えているのだが、少し怖いので肴には含めないでいたシオン。
「やべーやつ」
「シロ。どこで覚えたんだそんな言葉遣い……」
「ん? んー……多分真」
「にゃろう……。うちのシロに汚ねえ言葉遣いを教えやがったとはふてえやろうだ……。帰ったら覚えてやがれ……」
「……主様が原因じゃないの?」
ソルテったら、そんな訳ないだろう。
俺は社会人の大人として丁寧で美しい言葉遣いを心がけているともさ。
「ご主人様。お酒も良いですけどお水も飲んでくださいね」
「ん、ありがとー」
ウェンディが俺から盃をそっと受け取り、残っていたお酒を飲み切ってしまった後にお水を注いでくれる。
んふー……思考が緩んでふわふわして一番良い感じの酔い具合になってたな。
流石ウェンディよく見てくれている。
そして、ウェンディの魔法で出したお水はやはり美味しい……。
「んー? なんですか皆さん揃って私の方を見て! あ、もしかしてこの刀が気になるんですか? 気になっちゃってますか? そうですか! そうですよね! そうなっちゃいますよね! さあさあもっと近くで見て良いですよー! シオンちゃんのニューウェポンー!」
うお、にゅるんってシロに近づいて刀の側面を押し付けるようにシロの頬の近くへ突き出してきたぞ。
シロは首をささっと動かして回避しているが、どちらにしても近すぎて見えたもんじゃないだろうに……。
「別にいい。興味ない」
「そんな遠慮せずー! この武器、再生機能もあるから多少乱暴に扱っても大丈夫ですから! ほらほら綺麗でしょう美しいでしょうー! シロさんもナイフなんてやめて長物にしたらどうですか? リーチの差って大事ですよー!」
「……鬱陶しい。これ以上しつこいなら……」
「なんですかなんですか? 特別に持たせてあげてもいいですよ? 試し切りは私もまだなので駄目ですけど持つだけなら――」
「折る」
「やめてくださいっ! 流石に折られたら直るのか不安になります!!」
刀を大事そうに抱きしめながら一瞬でシロから距離を取るシオン。
まあ……手に入ったばかりの刀を折られたら流石にショックだよな。
でもいくら嬉しかろうとも今のはしつこいシオンが悪いと思うぞ。
「はあ……全くもう。シロさんの様なお子様にはこの刀の魅力はわからないんですね……。はぁぁ……ん本当に素敵な刀ですぅ……。気持ち的にはこの刀があればシオンちゃんの戦力は倍増間違いなし! もはや敵なし! シオンちゃん最強ー! ってな感じですよ!」
「最強ねえ……」
「なんですかソルテさんその嘲笑は!? この前勝ったからって油断してるとすぐに足元をすくっちゃいますからね! なんせ私にはこのニューウェポンがあるんですから!!」
「まあ……うん。あんたが強くなる分には構わないわよ。主様を守る力が増えるんだから」
「うお……なんという大人の意見……。せっかくなので、武器の調子を試したいんですけどぉ……」
ああ、若干うざ絡みで煽ってたのは模擬戦がしたかったからなのか。
普段から毛色は変わらないので気づかなかったな。
「ん? ならシロがやろうか?」
「え……シロさんがお相手ですか……? 出来れば実力が少し上くらいのお三方のどなたかが良かったんですが……。ええー……シロさんかー……刀折りません? 手加減はしてくれますか?」
「善処する」
「……そこはかとなく不安なんですが。ま、まあいいでしょう! お館様! ちょっと馬車止めてくださいー!」
新武器で模擬戦ねえ……まあ、小休憩にはいいタイミングかな。
御者台に座るアイナが振り向いて確認を取るので頷いて馬車を止めてもらう。
「あー……シロさんを前にすると体が強張りますね……。これがトラウマ……。よ、よし。自分を鼓舞してテンションをあげてごまかしましょう! 今日こそは下剋上ー! 大丈夫! 私にはニューウェポンがあるのだからっ! シオンちゃん最強! やればできる子! うえいうえええええい!」
「ん」
シオンは二本の陰陽刀を手にしてやる気満々空元気。
大分無理やりテンションをあげているようだが、素振りが乱れなく丁寧なのはやはり戦い慣れをしているからだろう。
対してシロは臨戦態勢を取りもせず、自然体のままだ。
「ご主人様。お団子食べますか?」
「あーいいねえ。あんこ?」
「はい。草団子にあんこを乗せたものです」
「ウェンディ、私にもちょうだい」
「私ももらおう。あんこは少なめで頼む」
「あ、じゃあ自分のはアイナの分多めで欲しいっす!」
「はーい。皆さんの分もありますから、少々お待ちを。お茶も温めておきますね」
花見団子ではなく、模擬戦見団子?
さて、どうなるかねえ。
「ふむ新武器か……ソルテはどう見る?」
「どうもこうも……武器くらいで埋まる差じゃないでしょ。そんなんで埋まるんなら、私も武器を新調するわよ」
「そっすねえ。っていうかそもそも、シロには元から当たらないから武器を変えても仕方なくないっすか?」
……当たらなければどうという事は無いという事か。
シオン……武器の性能が戦力の決定的差ではないらしいぞ。
「お、始まるみたいだな」
「行きますよー!」
「ん」
シオンは陰陽刀の二振りを構えたまま、身を低くして真っすぐ進む。
大してシロはナイフを構えたままで受けるつもりらしく動かない。
シオンの間合いに入る……と思ったら、シオンはほぼ直角に右に方向を変えて飛び、意表を突くようにして手投げナイフを放ってシロの虚を突く。
だが、シロは放られたナイフを容易く弾くと攪乱せんと動きまわるシオンの動きを最小の動きで捉えて視線から外さない。
……シオンの動きだって緩急が付いており、見極めづらいもののはずなんだがな……。
「やっぱり、動き自体は悪くないのよね」
「そっすねえ。冒険者なら、間違いなくAランクは堅い良い動きっすよね」
「うむ。バランスも良いしな。速度は速いし、手数も多い。頭も良ければ器用で色々な武器を使いもする。なかなかの技巧派だろう」
「まあでも……新武器を試すってのに、初手が手投げナイフなのはどうなんすかね?」
「いいんじゃないの? それも含めてシオンの戦術でしょ?」
おーシオン高評価。
ちゃんと認められてますよ。
聞こえてますかね?
「……っ」
「ん。来ないの?」
「シロさん……ちょっとの間にまた強くなってません……?」
「んー……まあ。うん」
「ううう……ですが、かすりさえすればっ……!」
「ん……」
「なっ……今当たった!?」
「ああ。そう見えたな」
シロが油断したようには見えないが、陰陽刀の-陰-がわずかに右足をかすったらしくシロの動きが僅かに鈍る。
「っ……!」
「っ……はぁぁあああっ!」
それを察したのか好機と見るや怒涛の猛ラッシュをかけるシオン。
対して僅かに右足を庇いながら、最小限の動きで避け続けるシロ。
だが、最小限という事はギリギリで避けているという訳で、直撃は無いにせよかすり続けてしまうのは武器の相性的にも良くない選択のように思える。
現に、シオンは笑いシロはわずかに表情を曇らせていた。
そして、シオンが左腕、右腕、右足にしっかりと陰陽刀-陰-を当て動きを止めると、シロは麻痺させられたせいかその場にナイフを落としてしまった。
これは……意外な展開だな。
「更に!」
動きの止まったシロに追撃をかけるようにして陰陽刀-陽-を振るい、霊体を吸い取る事に成功したようである。
そして当然、吸い取った力は自分に還元させたようだ。
対してシロは左足だけで立ち、両腕は動かないせいでだらんと力が抜けてしまっているようだ。
「ふっふっふ! 年貢の納め時ですよーシロさん! まぐれでも勝ちは勝ちですからね! やたー! 一勝出来たら一生一勝はしたと言い続けますからねー!」
「……ん。準備完了」
「んんー? 強がりですかー? 言い訳は格好悪いですよ!」
「手加減、いるんでしょ?」
「……流石にそれは舐めすぎでは? 確かに手加減は求めましたけど、今現在左足しか動かないじゃないですか……。ここから私が負ける訳ありませんよ!」
「ん。勝ってから言う」
「いいでしょう……吠え面かかせてあげます!」
シオンが少しイラついた様子で開幕時のように体を低くし、真っすぐ突っ込んでいく。
だが、最後まで油断はせずに愚直に攻めず、動けないシロの死角を取るように背後へと回り込んだ。
「残った左足に注意を払って完全に動きを止めてしまえば、私の勝――痛っ!! なぁ……っっ!!!」
「……ん。シロの、勝ち」
……背後からの攻撃を防いだのはシロの尻尾。
尻尾がいつの間にか落としたナイフを拾い上げ、シオンの二つの刀をほぼ同時に跳ねあげて体勢を崩したようだ。
更に、立ったままの状態から一瞬にして煙のように姿を消して現れたと思ったらシオンの肩に乗っており、左足でがっちりと首を押さえつつ尻尾を使ってナイフを背中に当てていた。
「……今、スキル使ってたっすか?」
「いや、そうは見えなかったが……片足だぞ……?」
「速過ぎるわね。はあ……また遠のいたじゃない。……いいわよ。ふふ、面白いじゃない」
「ううー……降参します……」
「ん」
シロはもう動けるようになったのか、すとっとシオンの肩から降りると、可愛らしく手を広げながらこちらへと走ってきて、俺の膝の上に腰を降ろす。
「主ーシロ強くなった」
「みたいだな。全く見えなかったよ」
「ん。でも、まだもっと強くなる」
「……ああ。楽しみにしてるよ」
「ん」
シロの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じて口元を緩ませるシロ。
強くなる……それはきっと、俺の為になのだろう。
ありがたい……だけど、どうせなら今この時のような平穏な時間ばかりになって欲しいもんだ。
そう思いつつ、シロの気持ちよさそうな顔を眺め続けていると……。
「うわああああああん! 酷いですよシロさん! ここは私に華を持たせるべきでしょう!? 満を持してのニューウェポンなんですよー!?」
「ん? 機能は試せたでしょ?」
あー……だからシオンの攻撃を受けたのか。
手加減をしつつ、シオンの武器の効果や振り具合、感触等も試させてあげたと……一石二鳥だったわけね。
そして、残っているのは左足だけだと錯覚させて奇策である尻尾を使ったと……はは、笑えるぐらい凄いな。
「そうですけどぉ……。実戦でどう使うかなどとても分かりやすかったですけどぉ……。いくらガチの戦術ではないとはいえ、凄まじく手加減された上にあっさり負けるとか……悔しい通り越して悲しいんですけど……。自信粉砕どころじゃないですよう……」
「慰める訳じゃないけど、私達の時の方が舐められてたわよね……。3対1でよそ見されながら避け続けられて相手にすらされなかったとかしょっちゅうだったし」
「ん?」
「ん? じゃないわよ……っ!」
「まあ、実力差は明らかだったからな」
「そこからなにくそって這い上がるんすよ! そうするともっと強くなれるんす!」
「うう、根性論じゃないですかぁ……。泥臭いのは嫌ですぅ……もっと楽して強くなりたいっ!」
そんな道はないんだろうよ……。
楽して強くなれるなら、俺だってあやかりたいですともさ。
でもそんなものはないのだから、地道に泥臭く頑張るしかないんだよな。
「大丈夫。皆もこれからもっと強くなる。シオンも良い感じ」
「見込みありですか? それは嬉しいですが……っ。えっと……もしかしてシロさんが鍛えてくださると?」
「ん。スパルタで行く」
「ふーん。私達もよね?」
「当然」
「そ。ならいいわ。今はあんたに敵わないけど……必ず、追いついてみせるから待ってなさい」
「ふふ。そうだな。今のままでは我々もシロの鍛錬相手にはなれないだろう。早々に相手を務められるくらいにはならないとだな」
「燃えるっすねー! 自分達ももっと強くなるっすよー!」
三人はやる気に満ちているようで、頼もしく笑って見せてくれる。
シロもシロで俺の膝上で癒されながらも、少し嬉しそうだ。
「スパルタ……あ、シオンちゃんは結構です。シオンちゃん戦闘特化になりたくないですから! 死が垣間見えそうな鍛錬とか絶対嫌です! さっき言った悔しいとか自信粉砕とかは全部忘れてください生言ってすみませんでしたーっ!」
それはそれは早口で綺麗な土下座でありましたが、シロはそれを『ダーメ』と、許してくれませんでしたとさ……。
※※※
ああー……相変わらず、アインズヘイルに帰ってきて我が家が見えると落ち着くなあ……。
家に帰ったら、たっぷりベッドで寝るとしよう。
「ひぐ……えぐ……やりたくないよう……。お家帰りたくないよう……」
「おかえ……あの……なんでシオンさんは泣いているの?」
出迎えてくれたミゼラの一言めがおかえりなさいをインターセプトしてまで疑問から入ったのは当然と言えば当然だろう。
家の前まで来て帰りたくないとべそをかいている子がいるのだからな……。
「あー……この後シロと鍛錬だってさ」
「ん。早速する」
「いーやーでーすううううううう!」
ずるずるとシロに運ばれていくシオン……。
見込みはあるそうだから、頑張れっ!
「そ、そう……。良く分からないのだけれど……皆無事で良かったわ。どうだったのアマツクニは」
「最高だったよ。お土産話もあるが、ミゼラとの約束通りデートはデートで楽しみにしててくれよ」
「……ええ。楽しみにしてるわ。それじゃあ改めて……おかえりなさい。旦那様」
「ああ。ただいまミゼラ」
久しぶりの我が家は、やはり落ち着くなあ……。
アマツクニ料理も良いが、ミゼラとウェンディの料理に勝る物はない。
はぁぁぁ……しばらくはゆっくりしたいところなんだ……が……。
「イツキさんが帰ってきたと聞いて! すみませんイツキさん! 少々お話をよろしいでしょうか!」
……隼人よ。
もう少しだけ俺にゆっくりする時間をくれまいか?
俺本当にたった今帰ってきたところなんだけども、どこで嗅ぎつけて来たんだよ……。
はいっと、これにて13章終了です!
なにやら隼人君を残しての終了です!
次の章をどうするかまだ決めかねているというのを含めて少々お休みをいただきつつ、閑話などは書ける時に書いていこうかなと思っております。
どうなるかはわかりませんが、12章のようにまとめて……の可能性もありますので、お休みが長くなった場合は貯めこんでるか、別の事が大変な状態なのかなと思ってください!
あ、書かなくなることはないのでご安心を。
それでは! 閑話&14章でまた!
おっと忘れてた。
祝! 2億PV突破ー! ありがとうございますー!!




