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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
13章 アマツクニ巡り
368/444

13‐23 和国アマツクニ 真・グルーミング

「ふぉぉぉおおおおおおおん!」


ククリ様がうつ伏せの状態から雄叫びのような声を上げて海老反りのように体を反らし、ビクンビクンと体を跳ねさせている……。

そして力が抜けたように顔をこちらに向けてうつぶせに戻るのだが、目から生気が消え涎等が零れていて衣服や髪についてしまっていても、気にする余裕もないようで「ぁ……」や、「ぅ……」と零したまま小さく小刻みに震えているのだが……。


……どうして、こうなった!


※ 少し前の事


ああ……別れとは、いくつ年を取ろうとも辛いものだ。

今生の別れではないにせよそれが、愛おしい相手であればなおの事……。


「あのあの……そろそろよろしいのでは……?」

「もう少し……もう少しだけ待ってください……」


ぎゅっと抱きしめるこの感覚を、尻尾が生えている時だけ感じられるこの感覚を魂に刻むまで待ってほしい……。

八尾もそっと俺の腕に抱かれ、寄り添うようにして別れを惜しんでくれているように感じる……温かいな。


アマツクニで会いたい人にも会う事ができたし、食も満喫できたうえにミゼラが恋しくなってきたのでそろそろ帰ろうという事になったのだが、そうなると当然八尾とのお別れが待っていたという訳だよ。


だが、いざ別れとなるとやはり寂しい。

尻尾があるのが当然と思えて来たところだったのに……これから先は無くなるだなんて……。


「お館様ー? もう流石に良くないですか? いい加減しつこいというか、私達置いてけぼりなんですけど……」

「それは悪いと思ってるんだけどぉ……」


うう、分かってはいるんだがやめられない止まらな……いや、俺も大人だ。

覚悟を決めよう。

そっと八尾を抱きしめるのをやめて、真っすぐに向き合う。


「……また、な」


俺が再会を誓うと、八尾が頷いたような気がして胸がキューっとなってしまった……。

やっぱりお持ち帰りを……いや、せめてもう一回だけ抱きしめ……くっ、歯止めが利かなくなってまた二の舞に……と悩んでいると、八尾が光となってククリ様へと吸収され、無事にククリ様の元へと還っていってしまった……。


「ふう……おかえりなさい。やはり八本ある方が落ち着きます……。楽しかったですか? そうですかそれは良かったですね。あ、他の皆様は八尾だけ好きに楽しんでと怒っていますから、お説教が待っていますからね。え、堪忍? しませんよ」


うう……やはりククリ様のように八尾と会話が出来るのはいいなあ……。

当然とはいえ、なんとなくでしかわからなかったからな……。

っと、何時までも落ち込んでいても仕方ない。

この後はお楽しみも待っているのだから!


「さて、お帰りになられるという事で、お土産等は受け取りましたよね?」

「ええ。しっかり頂きました。ありがとうございます」


もう米からお酒から蕎麦粉等粉類や干物や漬物などなど沢山いただきましたとも!

あ、ゴウキ殿とはお米の契約はそのままにして、別種やその他の食材などは直接買いに行こうかなと思ってます。

ただあんまり行き過ぎると、空間魔法の存在がばれそうだからな……商人にばれるのは怖い!


「いえいえ。こちらがご迷惑をおかけしたことですのでお気になさらず。喜んでいただけたのなら幸いです。八尾もとても楽しかったようで、こちらの件もご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした」

「いえ、お部屋をお借りさせてもいただけましたのでそれについても大丈夫です」


ふっふっふーこれがでかい!

空間魔法などの事情を説明するとククリ様の計らいで城の一室をお借りできることが出来たのだ。

これでいつでも座標転移(ポイントゲート)で来ることが出来るようになった訳だ。


ミゼラとのデートも勿論ではあるが、隼人達や真達、光ちゃんと来るのも面白そうだしな。

それに、カゲツ親方やゴウキ殿の所にもまた顔を出したいし、観光はまだまだ見尽くしていないから、何時でも来れるようにしてくれたのはとてもありがたかった。


ちなみにタチバナさんは物凄く警戒されて反対されましたが当然だと思います。

シロと少し仲が良くなったのか、シロが見つめていると勝手に追い込まれて許しをくれました!

まあ、ククリ様が良いと言っているので結局は問題ないんですけども!


……また八尾に会いに来られるからな!

シロからもお願いしてくれたのは、きっとまた『遊び』に来たいのだろう。


「……そ、それではそろそろもう一つの約束を果たしましょうか……」

「はい! お任せください!」


もう一つの約束……それは、八本の尻尾全てのグルーミングをさせてもらうというものだ!

忘れるわけがない! 待ってましたともとても楽しみにしていたのだから!

そのために道具も新たに取り揃えたのだから!

指の関節をグワングワン曲げて曲げて準備体操だぁ!


「ん。じゃあ、皆出る」

「え? 巫狐様を殿方と二人きりになさるのですか? この方、獣人キラーなのでしょう? それは流石に傍仕えとしては許容できないのですが……」

「うーん……前にも言ったけど危険はないわよ。ククリ様の事を考えるなら、貴女は出た方が優しい選択だと思うわ」

「そうっすねえ……ご主人のグルーミングっすもんねえ……。ククリ様の名誉の為にも、近しい位置にいるタチバナさんは見ない方が良いと思うっす」

「あうあう……私、何をされるのでしょうか? 約束とは言え不安になってきたのですが……」

「いや、尻尾の手入れですけど……」

「そ、そうですよね。大丈夫ですよね? うん。八尾達も喜んでいますし、楽しみにしていますし大丈夫……ですよね?」


大丈夫だから怯えないでくださいよ。

本当に尻尾の手入れしかしませんから。

まあでも、新たに手に入れた道具によって至高の気持ちよさは約束されていますがね!


「ん。主のグルーミングは至高。良いから出る。悪い事は起こらない」

「え、ちょっと、シロ殿ぉ!?」

「私はいてもいいですか? お館様の獣人キラーでククリ様がどうなるか見ていたいです!」

「駄目。ククリには恩がある」

「あ、ちょ、襟首を引っ張らないで!? せめてタチバナと同じように押し出してくださいよう!」


シロがグイグイとタチバナさんとシオンを引っ張り出して部屋の外に出ていくと、皆もそれに続いて部屋を出て行ってしまう。

そして、最後にシロが扉から顔を出して……。


「ククリ……耐えられたら心底尊敬する。がんば」

「どういう事ですか!? 尻尾ですよね? 尻尾を綺麗にしてもらうだけなんですよね!?」

「ん」


ビッ! っとサムズアップして、シロはククリ様の疑問に答える事もなく去って行ってしまった。

そして、残されたのは俺とククリ様の二人……。


「あうあう……何故でしょうか。背筋が震えます……」

「まあ尻尾を他人に、それも男に触らせるのは抵抗があるでしょうしね……」

「い、いえ……それは別に、先ほども申し上げましたが八尾達はとても楽しみにしているようですし……。というか、今にも我先にと飛び込みそうで抑えるのが大変と言いますか……」


ああ、またお尻から飛び込んできそうだったんですね。

あのモフパラは最高ですが、グルーミングをするには体勢というか、理性的に不味い事になりそうですからそのまま抑えてくださいな。


「あ、あと流石に8本だと時間がかかるでしょうから、水分補給やおトイレなどは済ませておいた方が良いと思いますよ」

「あうあう……だ、大丈夫です。皆様が来られる前に済ませましたので……」


おっと、万全を尽くしたいという俺の想いから、事前準備にまで気を使った結果なのだが、デリカシーにかけてしまったな。


「すぅぅ……はぁぁ……。で、ではよろしくお願いします……。どうすればよいでしょうか? 服は脱いだ方が……?」

「ああ、いえそのままで大丈夫ですよ。楽な姿勢で、うつ伏せか四つ這いになって尻尾をこちらに向けて頂けますか?」


尻尾は服を着ていても全部見えているので、服を脱ぐ必要はない。

まあ、根本の方をやる際には少し邪魔かもしれないが、何とかしてみせよう。


「わかりました。ではうつ伏せで……その、ど、どうぞ……」

「はい。……始めますね」


うつ伏せになったククリ様は緊張しているようで、少し体が強張っているが始めさせてもらい、段々と慣れてリラックスしてもらおう。


では早速一尾からだな。

最初はシルバーボールブラシの出番だ。

シルバーボールブラシはピンの間隔が広いので、抗菌と清潔化を行いつつ大雑把に毛の向きを揃えて行こう。


「あ……んぅ……おお、確かな腕前ですね。力加減が絶妙で、何とも心地よいですぅ……。自分でやるのとはまるで違う……眠くなりそうな程の心地よさに一尾(イチヨウ)も喜んでいますぅ……」

「眠くなったら眠ってしまっても構いませんよ?」

「いえ……ちゃんと起きてますよぅ……。でもでも、もし寝てしまっても続けてくださって構いません。何があろうと、約束はお守りしますので好きにやっちゃってくださいぃ……」

「わかりました。それでは、ブラシを変えていきますね」

「はいぃ………ふぃっっ!!?」


次はブラッシュツリーのジュエルブラシで感度上昇と状態の回復だ。

こちらはかなり細かいブラシとなっているので、抜け毛なども絡めとって取り除いていく。

ククリ様の尻尾は一本一本が細く量が多いので、抜けた毛も絡まったままついているのが多いようだ。


「ふぁっ……んっ!? な、この感覚……この前のアレに近いような……っ!」

「おっとと、大丈夫ですか? 腰が浮いてますが……」

「あうあう……だ、大丈夫です。そのまま続けてください。……大丈夫。まだ耐えられる。この前のに比べたら全然だもん……」


えっと、小声過ぎて後半は聞き取りづらかったんだが……全然だもんだけ聞こえたな。

んんーあんまり気持ちよくないのかな?

確かに、俺もアマツクニで一番偉いククリ様の尻尾だからか少し緊張しておっかなびっくりだったかもしれない。


……せっかくククリ様が尻尾に触れるのをお許しになってくださったのにそれは失礼だよな。

八尾達も楽しみにしてくれていたのだし……よし。

それじゃあ錬金ばりに集中して、全力全開でいこうか。


ここからが、俺の本気。

三本目の親方作の櫛こそが最強の櫛。

指先の達人付きであるため俺の技量も関係し、俺が持つ櫛の中でも最強のこの一本に全神経を集中してククリ様を気持ちよく、尻尾を美しくして見せる!!


……という経緯を経て今に至る。


気付いたらククリ様が海老反りで叫んでいたんだよ。

でもいつの間にか6本の尻尾がとても綺麗で美しく、まるで毛の一本一本が白金や金で出来ているかのように煌めいていた。

決してそんな事は無いのだが、対照的に残り二本の美しいはずの尻尾がくすんでいるようにさえ感じてしまう。


「えっと……じゃあ、続きを? します?」

「っ!! む、無理ぃ! 無理れすぅぅ! もう無理なんれしゅ! やぁ、も、駄目……っ! 駄目なのぉ!」


……ですよね。

一応何があろうと約束は……と言われたが、これはもう流石に無理なのではないだろうか……。

出来れば八尾まで終わらせたかったのだが……後日とかは駄目かな?

いや……でもこのままってのもなあ……。


「うーん……ククリ様、あと2回で終わりですよ」

「2回なんで無理ぃぃぃ! 無理なのぉ! あと2回もなんれ死んじゃいましゅ! 頭真っ白になっれぱーんっれなっちゃいましゅからぁ!」


おお……酔っぱらっているかのように呂律が微妙に回っていないが、感情がとても込められた魂の叫びだ……。

……流石にこれはやめた方が良い気がするんだが……まだされていない七尾と八尾が俺の手首にそれぞれ巻き付いて放してくれないの。

くいくいっと引っ張って、早く私をやれ! と言っている気がするんだよ……。


「あうあうー……なんですか。なんなんですかそれは。櫛のせいですか? それとも、貴方のユニークスキルですか? 『お小遣い』だなんて偽装を施して、わた、私を……騙したのですか?」

「騙してないです騙してないです……」


本当に俺のユニークスキルは『お小遣い』であってます。

ああ、なんかもう本当にごめんなさい。

そんな涙目で訴えかけて来ないでください。

どうしたらいいのか……多数決で考えるのならばやらねばならないのだが……。


「うううう……尻尾だけなのになんでこんな……んぅ……へ? 無理だよぉ……お仕置きって言われても無理だもんん……。泣きますよ? 泣いちゃいますよ? 七尾(ナナカ)八尾(ヤエ)も嫌いになっちゃいますよ……え? いいからやれって酷い……。た、確かに気持ち良いというか、気持ち良すぎるのが問題なんですよぅ……。確かに……私が尻尾の状況であれば間違いなくお願いしますけど……。あうあう……でもでもこれ以上殿方の前で醜態を晒すのは……っ。え? 今更? そ、そうかもしれませんけどぉ……」


何やら七尾と八尾と会話中らしいので大人しく結果を待つ事にする。

俺としては物足りなくはないのだが……やはり視覚的に8本中6本だけが光り輝いていて、2本が見劣りしてしまうというのはどうにも見栄えがよろしくなくそわそわしてしまう。


「あうあう……年齢的には大人でも無理なものは無理で……。え? あ、はい……。ご、ごめんなさい! はい……はい。いえ、私は本気で……はい。……そ、そうですね。国のトップたるもの約束一つ守れずして国など守れませんよね。申し訳ございません! はい……七尾と八尾の国を想う気持ちで覚悟が決まりました!」


いや、多分きっとそれ騙されてる。

分からないけど、絶対騙されている気がするよ。

多分七尾と八尾が裏でハイタッチしているよ。


「だ、大丈夫。私は巫狐。誇り高きアマツクニの守護神! 戦闘では冷静に対処できるのですから、戦闘でもないグルーミングなんかに負けません! 来ると分かっていれば耐えられるはずです! さあ、来なさい!」

「あ、はい。じゃあいきますね」


どうやら良いらしいので、お言葉に甘える……というか、従って……。


「あああああ! 無理ぃぃ! やっぱり無理ですぅ! こんなの耐えられる訳なっ……んぁああああ!」


えっとあの……まだ『ブラッシュツリーのジュエルブラシ』で『金剛石と柞の上位櫛』ではないんですが……。

度重なるグルーミングで、より敏感に反応するようになってしまったのだろうか……。


「ど、どうします……?」

「ううう……はい。負けません……っ。ククリは出来る子ですからぁ……っ! もう一思いにしてくださいぃぃぃ!」


一思いにか、むしろそれが優しさなのかもしれない。

よし、いちいち止めずに一気呵成に集中してこなしてしまおう。

もう一度集中して……ククリ様の為にも懇切丁寧に全速力で……っ!


「ふぉぉぉおおおおおおおん!」


……はあ……はあ。なんとか、終わらせることが出来た。

腕がプルプルする……。

早く、だが丁寧にというのはこれほどまでの疲労をため込むものなのか……。


ククリ様はというと顔を地につけ息は荒く、膝を立ててお尻だけが上がっている状態のままビクビクと震えていらっしゃる。

だが、尻尾の出来は……感動すら覚えるレベルだ。


8つの尻尾が光り輝いていて、まさしく守護神たるククリ様にふさわしいものとなっている。

この出来に、満足しないわけがない……。


「ぁぅぁぅ……ぅ……あ……終わい? 終わりましたか……?」

「はぁぁぁぁ……はい。終わりました……」


ククリ様の言葉がどことなくふわふわしている気がするが、ああ……集中しすぎたせいか目がちかちかする……。

魔力不足のような感覚に、体が倒れそうだ……というか、倒れる……。


「はぁ……はあぁ……ああ、皆喜んでましゅねぇ……。出来栄えは見えませんが……ふえ? 主さん? そこ、お尻ですよ……お尻!? お顔が!? やっ、駄目です! 特に今は絶対駄目です! あうあう、動けない……っ!? 皆、主さんをすぐにどけてって、なんで抱きしめてますか!? 早くお尻から放してくださいぃぃ!」


なにやらもふもふとしっとりに囲まれている気がする……。

もふもふはボリューミーなのにさらさらで気持ちよく高級なシルクすらも劣るであろう感触で、しっとりとしてもちもちの感触はほんのりと温かく、夢心地のようでそのまま目を瞑り、体を休ませてもらうのだった。

お待たせです……。


そーろそーろ終わる、13章。

あとはアレだけですな。

……能力どうするかまだ決まっていないというね。

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― 新着の感想 ―
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