13-21 和国アマツクニ 親馬鹿ゴウキ
いやあ……いいですねえ。
立派な木造建築と長い廊下、障子、襖、そして玄関で靴を脱ぐという文化よ……。
立派な日本庭園をゆっくりと眺めつつ和室へと入る。
「改めて、先ほどは申し訳ない。私がユウキの父、ゴウキである」
「いえいえお気にせず。アインズヘイルで錬金術師をしております忍宮一樹です。いつも美味しいお米を届けていただき、心より感謝しております」
まあ、自分の娘がどこぞの男によって女の顔をするようになればと考えると分からなくもないし、特に何があった訳でもないので先ほどの事は見なかった事にしますよ。
……もし、ウェンディ達との娘にそんな男が現れたら、先ほどのゴウキ殿程度で済ませられる自信が無いしな俺は。
絶対可愛いもん未来の俺の娘達!
そんな娘達に近寄る男? しかもそれが女を侍らせた男だとか、はっはっは。
ただじゃ済まさねえ……。
いやでもゴウキ殿を見る限りその行動は娘に嫌われる……?
何だこの仮想究極の選択は……っ!
「はあ……父上。そもそも、お客人には今八尾様が憑いておられるのですよ? 普通に不敬です」
「八尾様はむしろ好きに挑んで来い! といった方だったからついな……。当時も侍共を集めては良く揉んでおったよ。そして『カカ! 皆以前よりも動きは良くなったがまだまだだのぅ』と楽しそうに嘲笑うのだあのお方は」
へえ、八尾ってそんな喋り方だったのか。
ん? なに? 恥ずかしがってるの? そんなべしんべしんと俺の背中を尻尾で叩かないでくれよ。
幸せな気持ちになってしまうじゃないか。
「ゴ、ゴウキ殿は八尾様にお会いしたことが?」
「ええ。一度だけですがね。力試しと侍を集めて自分を襲わせ、愉快そうに笑いながら朱色の和傘でバッタバッタと薙ぎ倒しておりましたよ。当時の私には無理でしたが、今の私ならば是非挑みたいところですな。そういえば妻も挑んだことがありますが、遅すぎると一蹴されていましたな」
おお……。
奥さん……ユズキさんも八尾に挑んでいたのか。
あの大槌でかな?
少し離れたところからドシンドシンと大きな音が聞こえるのだが、激しくやってるなあ……。
「私は小さい頃に少し見たくらいでしたが、武闘派だったんですねぇ……」
「某は覚えがありませんね……。母上も一蹴されるほどの実力……。もし今御健在であれば、是非挑ませていただきたかったです」
褒めちぎられて、段々と八尾のべしんべしんが強くなっている。
昔の話をされて恥ずかしいんだろうな。
気持ちは分からなくもないけれど、それを俺に訴えてもどうにもならないんだけど、なんか八尾可愛いなあ……って、そろそろ痛いですよ?
あと叩きすぎて乱れてしまったので、後で綺麗綺麗しましょうねー。
「さて……お土産の方はタチバナ様より仰せつかっておりますが、先ほどのお詫びも含めまして特段欲しいものなどはありませぬか? いくらでもご用意させていただきますぞ」
「んんー……お米とかはお土産に含まれているんですよね?」
「当然ですな。普段は城にしか卸さぬ最上級米も含まれておりますよ。普段お出ししている米も良い物ですが、甘み、旨味、風味が違いますぞ」
「おお……それはとても楽しみですね」
「お米好きの流れ人であれば、間違いなく満足するかと」
それはまた期待を持たせてくれるじゃないか。
隼人や光ちゃん、真達を呼んでいただくとしよう。
で、あと何かか……。
んんー……ある程度美味しいものなんかはお土産で頂けそうだしな……。
親方の木工製品は良い物が手に入っているし、他……か。
お土産を頂かないのであれば大量にお願いしていたんだろうけど……。
「んー……特にはないですね」
「いやいやいやお館様。今大チャンスです。豪商たるゴウキ殿が財布の紐を緩めるどころか宝物庫の扉を開けたまま後ろを向いて何も見ていませんよー! って状況ですよ? ここで何か頼む事が落としどころってものになるんですよ!」
「それを本人がいる前で言うかね? と言ってもなあ……あ、蕎麦粉が欲しいですね」
「蕎麦粉!? ここに来て蕎麦粉!?」
なんだよう。蕎麦は美味しいんだぞ?
こっちには醤油が無いからめんつゆは作れないのだろうけど、俺は作れるし冷たいのも温かいのも美味しいんだよ。
せっかくだし、きつね蕎麦でも……って思ったら、お揚げは大豆製品じゃねえか……。
あ、別に八尾を食べる訳じゃないから、怯えないでね?
「蕎麦粉ですか? 勿論ご用意させていただきますが……。食材ばかりが多くなってしまっていますが、保存は大丈夫なのですか?」
「ええ。便利な魔道具がありまして、時間経過しないんでいくらでも問題ないんです」
「おお、それはとても便利ですな。商人の私から見ると、リスクが減って大変羨ましい。もしかしてご自身で作られたので?」
「いえいえ。流石に自分じゃ作れませんよ」
まあ、魔道具じゃなくて魔法空間だからね。
一応隼人の所の『道具箱』というの名の冷蔵庫も同じように時間を停止させた状態で保存できるもののはずだが、あれも確かダンジョンの最奥で手に入れた魔法の袋(大)に入ってたものだから、恐らくはこの世に二つとないのではないだろうか。
「そうですか……。では、保存は問題ないようですので、お土産の食材の量を増やしておきましょう。それで……もしその魔道具をお作りになられるのでしたら、私が出資いたしますぞ!」
「あー……基本的にはまったりやっていきたいので……。もし何かの拍子に作れましたら、お送りいたしますよ」
「それはありがたい。よろしければ普段作っているものなどの買い取りも行いますよ?」
「んんー……安定収入を得ている商品は専売契約をしてしまっているんですよね……。アクセサリー類であればお出しできますがどうですか?」
「アクセサリーですか。ちなみに、錬金のレベルは?」
「9ですよ。薬であれば万能薬くらいは作れます」
「ほほーう。それはまた素晴らしいですな。では、是非見せていただきたい」
相手は豪商……つまり、露店で出していたよりもハイレベルな物も買ってくれる可能性が高い。
となれば、ここは出し惜しみをすべきではないな。
「では……最近作った物で数点……」
『絶対不変のイヤリング 破壊不可 力大上昇』
『絶対不変のネックレス 破壊不可 体力大上昇』
『絶対不変の指輪 破壊不可 俊敏大上昇 3つの絶対不変アクセサリーを装備時、追加で力・体力・俊敏が大上昇』
製作期間は一週間。
造形を近しいものにして統一感を持たせてみたら付いた能力だ。
シリーズ物……というやつだろうか?
まあ、失敗作も沢山出来たのだが、それはそれで売れるから損はない。
「これはまた……予想以上に凄まじいものが出ましたね……。破壊不可というのもさることながら、指輪の性能がまた……」
「効果は良いんですけどねえ……。一般の方に売るには高くなりすぎてしまって……」
「なるほど……それに3つとも買わねば効果が薄れる、と商売上手ですな。……良いでしょう。一つ3000……いや、切りよく三つで1億ノールでいかがでしょうか?」
「……こちらはそれで構わないんですが……かなり高く見積もってません?」
「ええ。一応こちらのギリギリのラインですね。お詫びも兼ねさせていただきますよ」
そこはもう気にしてもいないのだが……シオンの言う通り、ここらで落としどころを作っておくのも悪くはないか。
とはいえ、それでも下手せずともなかなか売れずに赤字になりかねない値段だと思うのだが……良いというのならここは甘んじて受け取るべきか。
「では、取引成立という事で。ありがとうございます」
「また何か一般には売れぬものが出来たら持ってきてくだされ。適正価格でなんでも買いますぞ。門番にはいつでも通して良いと伝えておきますからな」
ぐっと握手を交わして取引成立。
顔を合わせる際に販路を作りたいとは思っていたが、思わぬところで思わぬものが売れたのは上々だろう。
これらを元手に……皆のアクセサリーも作って行かないと。
アインズヘイルに戻ったら、ロウカクに鉱石を買いに行かないとかな。
「わあ……あっという間に大金が手に入りましたよ……。本当、金銭感覚がおかしくなりそうです……」
「隼人様が物凄く買っていらっしゃる方でしたので只者ではないと思っておりましたが、本当に腕の良い錬金術師なのですねえ……。お手頃な値段のアクセサリーを見てみたく思いますね」
ん? ユウキさんがつける奴ですかね?
でしたら、多少は勉強させていただきますよ?
「あー……ユウキ。付けておきなさい」
「え!? 私にくださるのですか?」
「また冒険に出る娘に何かしたいとは思っていたからな。なに、性能は素晴らしいものだ。お前の安全を思えば安いくらいだ」
ああ、なるほど。
だから販売価格で買い取った訳か。
それで次からは適正価格っと、なるほど。
そしてこのゴウキさんはとても娘想いなのだろう。
先ほどの出来事も娘の事を思えばの事だし、ぽんと娘の為に1億ノールも出せるのだから、親馬鹿というやつか。
「……お館様? ウェンディ様の為にポンっと5億ノール出したお馬鹿さんを私は知っていますよ?」
「……心を読むんじゃないよ。あとまだ嫁じゃないです」
「まだ……という事は、私も正妻になれるチャンスがあるという事! シオンちゃんは頑張ります!」
正妻とかそう言うのを決める気はないんだけど……まあ、何をするのか少し怖いが楽しみにしておこう。
「腕の良い錬金術師と知り合えて、今日は良き日ですな。もう少し魔道具なども見てみたいですが、これ以上の買い物は妻に怒られてしまいそうですからな……。ところでどうですかアマツクニは。色々と回って見たのでしょう?」
「素敵な所ですね。大変楽しませていただいてます」
「先日はカゲツ殿の所に行かれたのですよね? やはり、生産職としてはアマツクニの名木工師のカゲツ殿は見ておかねばというところでしょうか?」
「ああいえ、以前ユートポーラで知り合いまして、せっかくアマツクニに来たので顔を出しに行ったんですよ」
「なるほど……。なかなかの良縁の持ち主なのですね」
「良縁だけであれば良いのですけどねえ……。お館様は奇縁にも恵まれた方なので、今後が心配ですよ……」
「奇縁てお前な……」
一体誰の事を言っているのだろうか?
まあ、地龍であるレアガイアやカサンドラは含まれていそうだが、アイリスやシシリア、コレンなんかの王族三人も含まれていそうな気がするな。
「あ! 済みませぬ! お客人を招いたというのにお茶も出さずに……! 今某が淹れて参ります!」
「あ、お構いな――」
く……と言う前に、正座からあっという間に立ち上がっていなくなってしまうユウキさん。
流石は冒険者。ユウキさんもかなり強いよなあ。
「……ところでお客人。件の隼人というのはどのような男なのですか?」
「え? 隼人ですか? 男の俺から見ても良い男ですよ」
これは……ユウキさんがいなくなるタイミングを待っていたな……。
「ふむ……。英雄と聞いたのですが、それを鼻にかけたりした高慢ちきなどではないのでしょうか?」
「とんでもない。あいつは良い奴です。真っすぐで少し不器用ですけど、芯は通っていますし、なによりも大切な人を大事に出来る男ですよ」
「そうですか……」
「まあ……娘はいつか嫁に行ってしまうものですからね……。ですが、お孫さんが出来たら多分ゴウキさんは猫可愛がりしてトロトロになりそうですよね」
「む……孫……孫ですか……」
こういう強面お父さんは大体じじ馬鹿になると相場が決まっているからな。
赤ちゃん言葉とか話すんだろうな、と予想がついてしまったのだが、金剛力士像のようなゴウキさんが赤ちゃん言葉を使うのを想像するとギャップが凄いな。
「絶対可愛いですよ~?」
「……そうですな。娘が選んだ相手であり、貴方がそこまで良い男だというのであれば他にはない程に良い男なのでしょう。もしあちらから挨拶に来るというのであれば……すぅぅ……はぁぁ……認めずにはいられぬでしょう……。それにしても孫……孫ですか……ぬふ」
厳ついお顔がだらしなく緩んでしまい、恐らく想像上の孫を可愛がっている最中なのだろう。
「ユウキの子……目に入れても痛くないでしょうな!」
「……なっ……ななな! 何を世迷言をいっておられるのですか!? 某はまだ独身! 武を極めるまでは結婚など致しません!」
おう……ベストタイミングでやってきましたねユウキさん。
お茶……落としましたよ?
そしてシオンが二つだけなんとか零れるのを死守してくれて俺と自分の前に出しましたよ?
足……熱いのでは?
「そ、そんな! 私の孫が!」
「な、何が孫ですか! まず相手が……あいて……が……」
「隼人という男に懸想しているのだろう? 今度連れてくると良い……。お前が選んだ男ならば――」
「つ、連れて来るとか! 親への挨拶などそんな段階どころかまだ気持ちも伝えておりませぬ!」
「なんだと!? アマツクニ女子たるもの積極的に行かねばならぬ!」
「アマツクニ女子だからこそ一歩後ろに引いて男を立てるべきでしょう!」
うんうん。
あっという間に立場が逆転しましたね。
「お館様……どう収拾つける気ですか?」
「ん? 何もしないよ。お、お茶が美味しい。ユウキさんはお茶を入れるのも上手いんだねえ」
「お茶くらい私だってもっと上手く淹れられます……じゃなくて……」
「まあ、大丈夫だよ。だってそろそろ……」
ほらほら、戦闘音がしていないからそろそろ……ね。
「……貴方? ユウキ? お客様の前で何を大声で言い争いをしているのですか? 先ほどの反省はされていないので……?」
「……あーなるほど」
「うん。そろそろユズキさん達が戻ってくると思ったから、収拾をお願いしようかと」
「策士ですねぇ……」
ふっふっふ。
まあでもユウキさんの今後の障害になりえるゴウキ殿はなんとかしておいたので、後は自分で頑張りなさいな。
あとは最高級米を隼人と食べる際にさりげなく話題には出しておく程度かな。
馬に蹴られたくはないからねえ。
来週はちょっと書籍作業します!
投稿はあっても、短めかもしれません!




