13-20 和国アマツクニ 豪商ゴウキ
親方の所で櫛作りを終えて数日。
本日はお米の定期購入で大変お世話になっているユウキさんの父である、豪商のゴウキさんのお宅へと訪れる事にしたのだが……。
その道中で、真っ白な装束に身を包んだ怪しげな人がシオンへと話しかけていた。
「えへへー! お館様聞いてくださいよ! 今日ゴウキ殿のお宅に行くまでとその帰りのお館様の腕を抱きしめる権利を私が勝ち取りました!」
「……そんな勝負があったの?」
初耳……というか、普段外を歩く際は誰かしら腕を取ったり手を繋いだりとしてはきていたが、そんな事になっているとも思っていなかったんだけど、後ろにいる皆が視線を逸らしたところを見ると事実のようだ。
……実際問題、皆を愛してはいるものの一人一人を大事にする時間は限られてしまう。
そういった問題があってハーレムな生活というのは成り立たない事が多々あるのだと思うのだが、うちは大分秩序が取れていると思ったら、きちんと決めごとがあるからみたいだ。
まあ、今までを顧みるに俺の与り知らぬ所で何やらあるようだが、こういうのは俺は知らない方がうまくいくもんなんだろうな。
「んっふふー! 小さなことからこつこつと! 今日はほどよいシオンちゃんのぱいの感触を楽しんでくださいねー!」
「……アラヤシキ様」
「はい? ……ああ、カンナギの所の子ですか? タイミング悪いですね。あと、一応今は私シオンなんですけど……」
「ではシオン様。貴女様のお手紙を持った大男が現れたのですが……」
「大男……あーあの人ですか。その人は問題ないですよ。そっちで勝手にやっちゃってくださいな」
「はっ。かしこまりました」
それだけ言うと頭を下げて、すすすと人混みを避けて消えて行ってしまう。
あっという間に表情を変えてにぱっと笑うシオンにあれなに? と、目で聞くと……。
「あーっと、あれはカンナギ機関のものですよ。ちょっと公爵家との件で呪われた人がいたので、カンナギ機関を紹介したんですよ」
「呪い……」
そうだよな。この世界には呪いがあるんだもんな……。
ん? いやでも、元の世界にもあるのかな?
呪い自体は信じていないが、罰当たりな行動とかは控えていたのを考えると、心のどこかであると思っていたのか……な?
「公爵の呪いって……俺に来るもんじゃないのか?」
一番恨まれていそうだしな……。
「いいえ。呪いと言っても魔道具を使ったものですから、対象は自分を殺した者……。私がやろうとしたところを引き受けてくださった御仁がいたんですよ。だから呪いを解くならばアマツクニのカンナギがお勧めですよと紹介状を書いたんです」
って事は、シオンが言っていた筋肉老騎士さんが請け負ってくれたって事か……。
あの人が、か。
勝手にまだ恩がどうだのと言ってそうな気がするな。
「そうか……。呪いなんて怖いものを引き受けてくれたんなら、無事治してもらえるといいな」
「おお? お館様は呪いが怖いんですか? 大丈夫ですよー! お館様が呪われても、私がすぐに解呪しちゃいますから!」
「解呪……も、出来るのか?」
カンナギ機関って、そう言えば呪いの解呪や祈祷に特化した機関だって言ってたっけ?
解呪や祈祷……なんというか、清純で聖属性なイメージが強いんだが……。
ちらっとシオンを見てみる。
「?」
なんですか? と小首を傾げたものの、すぐにはっとして何をするのかと思ったら胸元を開いて谷間をがっつりと見せるようにしてから手を広げて、んーっと唇を突き出してきたのでチョップしておく。
「痛い! なんでですか!?」
「お前がなんでだよ。なんで今ここですると思ったの?」
清純とはかけ離れている気がする。
解呪……本当に出来るのだろうか?
「じっと見つめていたのでてっきりお外でしたいのかと……? せっかくのチャンスですしご都合的にすぐそこの暗い路地ならば人目にもギリギリ付かない可能性が高いですし……お外は経験値が高い気がします!」
一体何の経験値を上げるつもりなのだろうか?
どう考えても変態の経験値しか上がらない気がするのだが。
……だんだんオリゴールみたいになってないか?
いや、元々気質が似ているのか……。
「……ほら、いいから行こうぜ。ゴウキさんをお待たせしてるんだろう?」
「いいから! つまり、帰り道で……っ! キャーお館様のす・き・も・の!」
いや、普通にククリ様との約束でそういう事は暫くできないのは知っているだろうに……わざとだな。
もう一度正面からチョップしておこう。
「痛い! あ、あそこですよ! ゴウキ殿のお家です!」
チョップされた部分をさすりながら楽しそうに笑い、指さす先にあったのは庭園がありそうな立派な日本風の家屋?
真っ白で瓦屋根の付いた塀が広がりつつ、木製の立派な門がありその横には長い棒を持った番人の様な屈強な男が二人控えている。
「こんにちはー! 本日ゴウキ殿へお取次ぎをお願いしたシオンですー」
「はっ! 伺っております!」
「どうぞ! ゴウキ様は中でお待ちです!」
おお、耳にビリビリ響く大きな声ですね。
近い所にいるとヒュンってなるので、出来れば声は抑えた方が良いと思います!
そして二人が門を開けてくれたのだが、腕を抱きしめたままのシオンに急に後ろに引かれて――。
「チョイサアアアア!!!」
中から金剛力士像が薙刀を振りかぶりながら襲い掛かってきた!!!
その掛け声どこかで聞き覚えが……じゃなくて!
アイナがすっと前に出て受け止めてくれたのだが、奇襲が効かなかったとみるやすぐさま距離を取り、薙刀を低く構えた金剛力士……いや、像じゃなくて人だ。
まさかとは思うがこの人が……?
「ゴウキ殿!? いきなりなんですか! 危ないじゃないですか!」
「ええい黙れい! その男! 貴様が娘を誑かした流れ人であろう! 許さん! 許さんぞおおおおおおお! 久々に帰ってきたら隼人とか言う男と貴様と会った話をし、その顔が女のものになっておったのだぞ!」
……違う! それ原因は絶対に俺じゃない!
だからシオンは俺の方をええ……って顔で見るんじゃない!
皆は……はっ! あの時はそう言えば誰もいなかったから証人がいない!
という事は、自分の力で弁解をしなければならないという事かっ!
「あの、その、ち、違いますよ? それはきっと俺じゃなくて隼人の方で――」
「ああ!? そのように女を侍らかしている女誑しの癖に違うと申すのか!? そのようなハーレムを作り出すような男が都合よく娘の前に何人もいるものかっ!」
ぐうの音も出ない!
俺も逆の立場なら全く同じことを思う気がしますが、事実とは小説よりも奇なりと申しまして本当にもう一人いるんです!
その隼人君は立派なハーレム主人公英雄街道を爆走しているんです!
「豪商って聞いてたっすけど結構強いっすね。この人」
「まあ、商人だって襲われる事はあるしある程度鍛えていたんでしょ? まあでも、この程度の相手に主様に傷一つつけさせやしないわよ」
「うむ。主君は私達の後ろにいてくれ」
臨戦態勢'sお三方。
ありがたい。安心安全が確保されるのは嬉しいのだが、駄目だよ?
相手はアマツクニの豪商だからね?
「貴様ぁあああ! 守るべき女に守られて恥ずかしくないのか! アマツクニ男児ならば、堂々と前に出て戦い娘を攫っていくくらいの気概を――」
「……いい加減にしてください父上!」
ええ!? 俺アマツクニ男児ではないんですけどとか思っていたら、背後から突然現れたユウキさんが何かを思い切り振りかぶってゴチーーン……って、金槌……?
こういう時はハリセン……せめて木刀では?
「申し訳ございませぬ。お客人に対して何たる狼藉……。父上! 疾く謝罪を! 勿論アマツクニ式土下座でです!」
「なっ、ユ、ユウキちゃん? 違うんだよ! パパはユウキちゃんの為を思って!」
「客人に来て早々襲いかかる事のどこが某の為ですか。大体人違いです! 某が懸想しているのは……」
「ユウキちゃん!? 懸想しているって……!? まさか、もう一人の隼人とか言う男か! こうしちゃおれん。今すぐ私兵を王国に――」
「……あなた? いい加減にしてくださいな?」
……えっと、奥様でしょうか?
その大きな大きな大槌は一体……。
なんというか、お茶の先生かのように和服の似合う美人な奥様なのに、そんな大きな大槌を振りかぶれるんですね……。
「…………ハイ。大変申し訳ございませんでしたっ!」
そしてぴたりと止まった後、すぐさまこちらへと振り向き綺麗な綺麗な土下座を披露してくださる金剛力士像ことゴウキ殿。
その一連の動作には一切の淀みがない美しい所作でございました。
「はあ……大変失礼を致しました。本日は良くお越しくださいました。シオン様、そして貴方が……巫狐様を身に宿したお客様ですね。いつもお米を定期的にお買い上げくださってありがとうございます」
「あ、はい。いえ、こちらこそ。かなり距離もありますのに定期的にお米をありがとうございます。とても助かっています!」
凄いな。
大人の魅力と気品に溢れた和服美人に一瞬ドキっとしたが、肩に担いだままの大槌のせいで別の意味でもドキッとしてしまう。
「あら? 嫌ですね。昔の癖で……よいしょっと」
俺の視線に気づいたのか大槌をぽいっと地面に落として手を放す奥様。
……気のせいでなければ、地面が陥没した気がするんですけども一体それ何キロあるんでしょうか?
「昔のって、もしかして元冒険者っすか?」
「ええ。アマツクニではAランクの冒険者でした」
「なるほど……。確かに、強者の気を感じるな」
「まあ、それだけ大きな大槌を軽々と持っているんだから当然よね」
アイナ達もAランクの冒険者……。
つまり、アイナ達と同等レベルに強い御仁という訳か……。
「商人さんと元冒険者のご夫婦なのですね」
「ええ。先ほどはアマツクニ男児たるものとか言っていましたけれど、夫とは護衛依頼で出会いまして守られる側だったんですよ。そこで一目惚れされてしまったんです。『俺の全財産を渡すから嫁に来てくれ!』と言われましてね。『足りないわよ馬鹿』と返したものです」
おお……今の清楚な装いからは想像できない言葉遣いだが、大槌の説得力たるや……。
昔はやんちゃしてたタイプという事で納得しておこう。
「ユ、ユズキ!? そういう若き日の恥ずかしい事を客人の前で話さんでくれんか!?」
「あら? その後『資産を100倍、いや1000倍にしてみせる!』と言って豪商にまで上り詰めたあなたに惚れた私の話もする予定でしたのに」
「……っ。そ、そうか。いや、だがそれはそれで恥ずかしいのだが……」
「ふふ。可愛い人でしょう?」
「……ううっ」
……ああ、きっと完全に尻に敷かれているんですね。
そんな金剛力士像の様な立派な体とお顔を持っていても、やはり女性には敵わないと……。
とても親近感があります!
出来ればポンポンと肩を叩いて差し上げたいが、多分きっと怒られそうだからやめておきますね。
「父上、母上……。娘の前でそういう話はやめてください……。それと、いつまでお客人を外に立たせたままにするおつもりですか?」
「そ、そうだな。どうぞ中にお入りください」
「うーん……私はどうしようかしら? 少し闘気に当てられてしまったのよね……。ちょっと、久しぶりに体を動かしたいのだけど、良かったら付き合ってくださる?」
「我々で良いのならば構わないが……」
「全員ってのは不味いわよね。また襲ってこられても困るし」
「それは大丈夫よ。もし傷一つでもお客様に付けたら……ね?」
妖しげな笑みをゴウキ殿に向けるユズキさん。
そして、コクコクと頷き続けるゴウキさん。
やはり尻に……。
「某もおりますので、父上が暴走した際は真剣にて斬り伏せます」
ユウキさんが腰の刀に手をかけると、ゴウキさんは更に頷くスピードが上がったようだ。
……まあ普通に話をするだけの予定なのだが、警戒されるのは自業自得というものだろう。
八尾も何故かやる気満々のようなんだが、君に一体何が出来るのだろうか……。
「私は戦いには興味ないですし、お館様の護衛をしますね」
「じゃあ、お言葉に甘えるっすかね!」
「うふふ。流れ人で巫狐様を身に宿したお客様にも興味はあったのだけど、アインズヘイルで名高いAランク冒険者の『紅い戦線』の方が気になってたのよね。それじゃあ、お手柔らかによろしくお願いするわね」
「っす!」
「まあ、挑まれちゃあ仕方ないわね」
「うむ。お相手しよう」
という事で、ユウキさん、ゴウキ殿、シオンと俺で話をし、アイナ達三人とユズキさんは手合わせをすることになったのであった。
ちょいさああああああ!




